魔翼強化
第7階層の探索を始めて6時間程経った。
俺達は砂の島でサンド・ドラグーン2匹やグラン・デスワーム3匹、火山の島でフレイム・ドラグーン3匹にイグニス・バード1匹、森と沼の島でポイズン・ドラグーン2匹とブルーリーフ・エント4匹、橋を渡ってる最中に襲ってきたレイク・ドラグーン2匹にアクア・ドラグーン1匹、フォートレス・ホエール2匹を狩ることができた。
魔物についてだが、グラン・デスワームはサンド・ワームの異常種で、M-Iランクになる。
だが50メートル近い巨体に、口から吐く毒液が厄介な魔物だ。
生息地は砂漠だが、ヘリオスオーブの砂漠はソレムネにしかなく、通常種のサンド・ワームはGランクモンスターだから、討伐されることは皆無に近い。
イグニス・バードは炎を纏った巨鳥だが、こいつは災害種だからM-Cランクモンスターだったりする。
元はファイア・ロックっていう、マナの召喚獣シリウスの亜種になるBランクモンスターらしいが、ファイア・ロックはアミスターにも生息してるそうだ。
ブルーリーフ・エントは青い葉を茂らせた木の巨人で、M-Rランクモンスターになっている。
トレントと違って人型をしているが同じ樹木系の魔物ってことに違いはないから、火属性魔法にすごく弱い。
弱いと言ってもMランクモンスターだから、ハイクラスの火属性魔法でも燃やすのは容易じゃない。
まあプリムの極炎の翼で、あっさりと燃えてたんだが。
フォートレス・ホエールはM-Iランクモンスターで、全長100メートルを超える化け物じみた巨体を持ち、俺達の攻撃でさえ容易に傷を付けることはできなかった。
小さな傷ぐらいなら問題なく付けられたんだが、巨体すぎて掠り傷程度にしかならなかったんだよ。
それでもプリムのフレア・ペネトレイターや、俺の水性A級広域干渉系術式ネプチューンで何とかしたが。
俺の固有魔法アイスエッジ・ジャベリンは、ブラッド・シェイキングやミスト・ソリューションを発動させてても、体がデカすぎて効果が薄かった。
改良というか、別の固有魔法の開発をしなきゃと思ったね。
そしてポイズン・ドラグーンは毒のブレスを吐くドラグーンだが、驚いたことにこいつが闇属性のドラグーンだったから、思わぬ所で手に入ったと歓喜したよ。
「ポイズン・ドラグーンがいたのは驚いたけど、ここで闇属性のドラグーンが狩れたのはありがたいわね」
「ええ。闇属性魔法に適正を持ってるのはマリサだけだけど、だからこそ逆に用途もあるわ」
森と沼の島から次の草原の島に架かっている橋を渡っている最中、プリムとマナがポイズン・ドラグーンについて話している。
闇属性魔法に適正があるのは、マナの従者でもあるヴァンパイアのマリサさんしかいない。
だけど闇属性魔法や光属性魔法には精神干渉系の魔法も含まれていたりするから、闇系のポイズン・ドラグーンの革を使うことができれば、そういった精神干渉系魔法に対する耐性も得られるはずだ。
不法奴隷にするための禁忌の魔導具も、闇属性魔法の精神干渉系魔法って噂があるしな。
今回は、橋を渡ってる最中に襲われることもなかったな。
無事に草原の島に辿り着いたが、確かこの島に守護者の間があるはずだ。
どの島にもセーフ・エリアがある感じだし、実際に砂の島、火山の島、森と沼の島にもあったんだから、多分この島のセーフ・エリアは守護者の間に隣接していると思う。
島はそんなに広くなく、1時間もあれば周り切れるぐらいだから、守護者の間もすぐに確認できるだろう。
「プリム、来たぞ」
「みたいね。あれは……鱗の色からすると、ウインド・ドラグーンかしら?」
「いや、ガスト・ドラグーンみたいだ」
狩人魔法クエスティングで確認したから、間違いない。
クエスティングは討伐した魔物や数だけじゃなく、未知の魔物に使えば魔物名やモンスターズランクを確認できるから、使用頻度は高い。
草原の島だから土属性ドラグーンが出てくると思ってたんだが、ここで風属性ドラグーンが出てくるとはな。
都合が良いから、文句を言うつもりはないが。
そのガスト・ドラグーンが、2匹も空から襲い掛かってきている。
「大和、ボクも攻撃してもいい?」
「それは構わないが、レベルは上がってるだろ?」
「うん。だけどまだ進化できてないから、もうちょっと戦っておきたいんだ」
アテナも参戦を希望してきたか。
第7階層に降りてきてから、アテナはドラグーン相手に何度か援護攻撃を行っており、レベルも43になっている。
まだ進化はできていないんだが、アテナとしては早く進化しておきたいと考えているみたいだから、援護とはいえできる限りの攻撃を繰り返していたわけだ。
「わかった。援護はするが、無理だけはするなよ?」
「うん!」
ニッコリ笑って頷くアテナだが、無理はさせないようにしないとな。
「よし。それじゃ、やるとするか」
空から襲い掛かろうとするガスト・ドラグーンに対して、俺はニブルヘイムを発動させ、翼を氷らせることで地面に叩き落とす。
翼幕も使えるから、後で解凍しないとな。
「プリム、先に左側のやつを潰すぞ」
「オッケーよ」
俺の言葉に従って、プリムは左側のガスト・ドラグーンにフレア・ニードルを放ち、さらに俺がアイスエッジ・ジャベリンを直撃させることで命を奪う。
もう1匹はジェイドが氷の槍を放ち、フロライトがファイア・ブレスを吐いて牽制しているが、翼を氷らされてることもあって、苛立たし気なツラしてやがる。
そんなことを気にせず、俺は水性D級支援系拘束術式ウォーター・チェーンを発動させ、ガスト・ドラグーンを縛り付けた。
「アテナ、いいぞ」
「うん!」
俺はさらにアレスティングをウォーター・チェーンに重ね、完全にガスト・ドラグーンの動きを封じた。
これでアテナは、ゆっくりと魔力を込めて魔法を放てる。
そのアテナは、竜精魔法エーテル・ブレスを使うために光と土の魔力を高めている。
アテナの竜精魔法は、リディアと同じエーテル・ブレスだ。
リディアは氷属性魔法に適正を持つ氷竜のドラゴニュートだから氷のブレスだが、火竜だと炎のブレス、雷竜だと雷のブレスになる。
同じ竜精魔法ってことで、俺と婚約してからリディアが使い方を教えてたんだが、昨日まではまだコツを掴めてなかったから、今回が初使用ってことになる。
「すううう・・・はああああああっ!」
アテナは大きく息を吸って、エーテル・ブレスを吐いた。
そのブレスは、驚いたことに光によって収束された熱でドロドロに溶けた土だった。
マグマ・ブレス、ってとこなんだろうが、これを固有魔法に組み込むのは難しいし、すぐに案は浮かばないな。
そのマグマ・ブレスはガスト・ドラグーンの鱗を焼き焦がしているが、焼いているのは一部だけか。
だけどマグマ・ブレスは、徐々に勢いを増してきている。
というか、威力も上がって、鱗どころか皮膚まで焼いてるぞ。
「アテナも進化できた感じね」
「っぽいな。アテナ、感覚はどうだ?」
「進化できたと思う。さっきから魔力が溢れてきてるから」
魔力が溢れて、か。
そう感じるってことは、進化したのは間違いないな。
アテナがガスト・ドラグーンとの戦いを希望したのは、ハイドラゴニアンに進化するためだ。
だから進化できた以上、無理に戦い続ける必要はない。
「プリム、やるぞ」
「オッケーよ」
極炎の翼を広げたプリム、魔力で翼を作り出した俺はそれぞれ武器を構え、同時に突っ込んだ。
今まで俺は、マナリングを全力で使った時のみ、余剰魔力が翼を成していた。
だがそれでは魔力の消耗が激しいし、常に全力状態を維持しておかなければならない。
だから俺は、発想を変えることにした。
先にイメージして魔力で翼を作り、そこにマナリングを使うことにしたんだが、その考えは正しかったらしく、全力状態を維持する必要はなくなった。
実戦で使うのはこれが初めてだが、今の俺は生成した翼にマナリングを重ねているから、今までより使い勝手も良く、魔力の消耗も少ない。
その状態で、俺は瑠璃銀刀・薄緑で、プリムはスカーレット・ウイングで同時に斬り付けた。
薄緑もスカーレット・ウイングもマナリングで強化されているが、アイス・アームズとファイア・アームズも使ってるから、ガスト・ドラグーンの首がいとも簡単に落ちていく。
「その翼、ホントにすごいわね。普通に翼族と変わらないわよ?」
「プリムの翼をイメージしてはいるが、結局は魔力で作り出した物だからな。そんなことはないと思うぞ」
ガスト・ドラグーンの首を落とした後で、プリムにそんなことを言われた。
オークの終焉種を倒した後、ホーリー・グレイブのファリスさんが魔力を食い過ぎるってことで断念していたが、俺はそこまで魔力を使ってる訳じゃないから、単純にこれはハイクラスとエンシェントクラスの差なんだと思う。
それに翼は気を抜いたりすればすぐに消えるから、さすがに翼族とは違うだろう。
俺からしたら魔力強化をさらに強化する、一種の自己強化法だと思ってるしな。
「自己強化か。魔法、とは違うんだろうけど、それも分類すれば固有魔法になると思うわよ?」
「固有魔法?」
「ええ。あたしの極炎の翼だって、羽纏魔法であると同時に固有魔法でもあるんだから。翼に関係した強化ってことなら、大和のそれも同じじゃない?」
言われて気が付いたが、確かにそうとも言えるな。
プリムの極炎の翼は、灼熱の翼と爆風の翼を重ねることで、それらを単独で使うより大幅に強化される魔法だが、灼熱の翼と爆風の翼は羽纏魔法で、その2つを使った極炎の翼も羽纏魔法になる。
だけどプリムが開発した魔法ということも間違いないから、固有魔法ってことにもなっている。
それにフィジカリングやマナリングだって、魔法として完成されてはいるが、自分の魔力だけでも似たようなことはできるから、俺の翼も固有魔法ってことになるか。
「なるほどな。なら……そうだな、『ウイング・バースト』って名称にしておくよ」
ルディアが使う竜精魔法エーテル・バーストも自己強化系の魔法だから、それを使わせてもらおう。
「竜精魔法のエーテル・バーストと似た名前だけど、同じ強化系の魔法だし、変に捻るよりその方がいいわね」
「まあな。さて、回収も終わったし、行くとするか」
これで残りは雷属性と光属性のドラグーンになったが、明日も1日探索するんだし、何とか手に入るだろう。
素材集めも目的の1つだが、主目的は攻略だから、守護者の間を確認しておかないといけない。
だけどその前にっと。
「アテナ、進化おめでとう」
「ありがとう、大和!」
ハイドラゴニアンに進化したアテナは、竜名もシルバー・ドラゴニアンに変わっていた。
ハイドラゴニアンに進化すると、竜名はそれぞれの属性の色に統合されることになる。
属性の色は火系が赤、水系が青、風系が緑、土系が黄、雷系が紫、氷系が白、闇系が黒、そして光系が銀だ。
その竜名が名前にも反映されているから、アテナの名前もアテナ・ウィルネス・シルバー・トマリに変わっている。
「天賜魔法は何を授かったの?」
「念動魔法だった。ドラゴニアンが授かることは滅多にないそうなんだけど、ボクは大和と竜響契約を結んでるからじゃないかってエオスが言ってた」
天賜魔法は俺が奏上した固有情報魔法ステータリングで確認できるから、進化した際に新たに授かった天賜魔法もすぐに調べることができる。
アテナが新たに授かったのは俺と同じ念動魔法だったようだが、確かに俺と竜響契約を結んでるから、アテナも俺が使える天賜魔法が使えるようになるんじゃないかっていう予想はあった。
もっとも念動魔法は、人族のヒューマンとオーガが授かることが多い魔法で、それ以外の種族は滅多にないって聞いてたから、付与魔法か魔眼魔法だと思ってたんだが。
他に念動魔法を使えるのは、俺と同じヒューマンのミーナ、あとはラウスぐらいか。
「念動魔法だったのね。それならミーナはアテナと同じハイクラスだから、説明もしやすいんじゃないかしら?」
「私もそう思います。大和さんの念動魔法なんて普通に魔物を狩れるんですから、参考にはし辛いですし」
リカさんとミーナが耳の痛いことを言ってくるが、俺には反論ができない。
普通の念動魔法は、自分と同じぐらいの重さの物でも手を使わずに動かすことができるし、作業の際に物を押さえることもできる。
魔力で見えない手を作って、それを使ってるっていう説明が一番分かりやすいか。
だけど言ってしまえばそれだけしかできないから、念動魔法を使っても魔物を狩ることはできない。
人相手に使っても、普通に殴る方がダメージが大きかったりする。
ハイクラスになると射程距離が伸びて、自分の10倍以上重い物でも動かせるようになるし、Cランクモンスター辺りならなんとか狩れなくもないそうだが、そんなことに魔力を使うぐらいなら普通に武器を使って攻撃した方が早いし確実だ。
だけどその念動魔法を俺が使うと、Gランクモンスターでも普通に倒せてしまうし、10トン以上もあるであろうPランクモンスターのマクロナリアですら、何匹も纏めて動かすことができてしまってるから、とてもじゃないが参考にはならない。
だから念動魔法に関して教えるのは、同じハイクラスのミーナが一番適していると言える。
ラウスはこないだ使えるようになったばかりだから、俺やミーナに使い方を聞いてきてるぐらいだからな。
「あとは属性魔法だけど、これは何だったの?」
「風属性魔法だった。これも大和の適正属性だし、おかしくはないと思う」
風属性魔法か。
確かに俺も適正あるから、不思議って訳でもないな。
刻印術だと風と土って相性が良くないんだが、これも使い方次第ってことか。
『水は火を消し、火は風を食らい、風は土を崩し、土は水を堰き止める』、あるいは『水は土を流し、土は風を防ぎ、風は火を止め、火は水を消す』っていうのが刻印術の相克関係なんだが、力量によっては相克関係を覆せるし、雷系や氷系は含まれないっていう考えもあるし、相応関係や例外術式なんかもあるから、けっこう複雑なんだよな。
ともかくアテナがハイドラゴニアンに進化したことで、ウイング・クレストのハンターは全員がハイクラスに進化できたことになる。
あとはオーダーのリカさん、ヒーラーのユーリとキャロル、バトラーのマリサさん、ヴィオラ、ユリア、そしてクラフターのエド、マリーナ、フィーナだが、できればみんなも進化はさせておきたいもんだ。
とはいえ、さすがに今日明日で進化は無理だけどな。




