竜化魔法
Side・プリム
エオスに飛んでもらって30分程すると、第4階層への入り口が見えた。
途中でデザート・ドレイク3匹とスカイ・スコーピオン5匹が襲ってきたけど、大和が固有魔法アイスエッジ・ジャベリンで、あっさりと狩ってたわね。
「誰もいないようですので、このまま着地します」
「ええ、お願いね」
幸いにも第4階層への入り口には誰もいない。
エオスはそのまま第4階層の入り口近くに着陸して、竜化魔法を解除した。
「ありがとう、エオス」
「恐れ入ります」
エオスにお礼を言って、オネストを獣車に繋ぐ。
時間的にも第4階層に降りてすぐのセーフ・エリアで野営することになるから、臆病なオネストでも大丈夫でしょう。
そのまま第4階層に降りたあたし達だけど、事前に入手していた情報通り、第4階層は広大な森だった。
バリエンテのハウラ大森林を彷彿とさせるけど、所々空き地が見えるから、マイライトの山林って言った方がいいかしら?
「ここにも先客は無しですね」
「ですね。ほとんどのハンターは第1階層、ハイハンターでも第2階層までって聞いていますし、第4階層にはレッサー・ドラグーンが出ることもありますから、余程のことがなければここまで来るハンターはいないってことなんでしょうね」
フラムとミーナも言ってるように、多くのハンターは第2階層までしか降りない。
第4階層にはレッサー・ドラグーンが出るから、いくつかのレイドが協力しあって討伐に乗り出すことはあるけど、事前にしっかりと準備をしてってことらしいし、何より第3階層が砂漠だから、下手したら数年に一度ぐらいしか、ここまで来るハンターはいないって聞いてるわ。
だけどあたし達としては、そっちの方が助かる。
なにせウイング・クレストにはハンターだけじゃなく、非戦闘員のクラフターやヒーラーまでいるんだからね。
もちろん夜番はするけど、ここはセーフ・エリアだから魔物が襲ってくることはない。
だからセーフ・エリアで最も警戒しなきゃならないのは、実は同業者だったりする。
とはいえそんなことしてくるハンターなんて、滅多にいないって話もあるけどね。
「今日はここで野営だけど、明日はどうするの?」
「第7階層で少し狩りをするから、できれば第7階層までは進んでおきたいな」
ルディアと大和が、明日の予定を話し合っている。
第7階層はMランクモンスターの巣窟らしいけど、そこにはドラグーンも多いらしいから、素材、特に皮を手に入れるために、それなりの数を狩るつもりでいるの。
なにせあたしと大和のクレスト・アーマーコートは、エンシェントクラスの魔力強化に耐え切れなくなってきてるから、遠くない内に使えなくなってしまうのよ。
だけど大和が下賜された、グリフォンの革を使っているアーク・オーダーズコートはエンシェントクラスの魔力にも耐えられるようだから、それならってことで全員のクレスト・アーマーコートも、属性ドラグーンの革を使って仕立て直すことにしているのよ。
「ということは、明日は第7階層での狩りと、守護者の討伐ということになるんですね」
「そうなるな」
とはいえ、ソルプレッサ迷宮はそんなに広くないから、森が広がっている第4階層も3時間程、湿地帯の第5階層は2時間弱、雪原地帯の第6階層でも3時間かからないそうだけど。
だけど雪原地帯で野営なんてしたくないから、明日の夜は湖に浮かぶ多数の島っていう第7階層に降りた辺りで野営っていうのがベストかしらね。
「時間的に少し余裕もがあるから、明日は狩りもしながらってことですかぁ?」
「そうなるでしょうね。だけど第4階層からはGランクモンスターのみで稀にレッサー・ドラグーンが出るそうだし、第5階層はPランクモンスターがそれなりに増えて、第6階層なんてPランクモンスターしかいないって話だから、狩りをしながらだと、第7階層に着く頃には日が暮れてるかもしれないわ」
レベッカに答えるマナだけど、あたしもそう思う。
あたしや大和はPランクモンスターが相手でも何とか出来るけど、他のみんなは苦戦するだろうから、あたし達がしっかりとフォローしなきゃいけない。
その分時間もかかるだろうから、マナの予想通り、第7階層に着く頃には丁度良い時間になってるかもしれないわ。
でもみんなのレベルも上がるだろうし、ミーナ、フラム、レベッカ、頑張ればアテナも進化できるかもしれないから、最悪の場合は第6階層で野営も止む無しね。
あ、みんなのレベルはこんな感じよ。
ヤマト・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.73
人族・エンシェントヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:M
オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド
オーダーズランク:O
プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ
17歳
Lv.68
獣族・エンシェントフォクシー
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:P
マナリース・A・ミカミ
18歳
Lv.52
人族・ハイエルフ
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ハンターズランク:G-S
ユーリアナ・レイナ・アミスター
14歳
Lv.25
人族・ヒューマンハーフ・エルフ
ヒーラーズギルド:アミスター王国 フロート
ヒーラーズランク:G
フレデリカ・アマティスタ
19歳
Lv.32
人族・エルフ
ユニオン:ウイング・クレスト
オーダーズギルド:アミスター王国 メモリア アウトサイド
オーダーズランク:B-C
ミーナ・F・ミカミ
17歳
Lv.43
人族・ヒューマン
ユニオン:ウイング・クレスト
オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド
オーダーズランク:B
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:S
フラム・ミカミ
18歳
Lv.41
妖族・ウンディーネ
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:S-B
リディア・ハイウインド
16歳
Lv.50
竜族・ハイドラゴニュート(氷竜)
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ハンターズランク:S
ルディア・ハイウインド
16歳
Lv.50
竜族・ハイドラゴニュート(火竜)
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ハンターズランク:S
アテナ・ウィルネス・アースライト・トマリ
84歳
Lv.39
竜族・ドラゴニアン
竜名:アースライトドラゴニアン
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ハンターズランク:B-I
ラウス
13歳
Lv.47
獣族・ハイウルフィー
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:S
レベッカ
13歳
Lv.42
妖族・ウンディーネ
ユニオン:ウイング・クレスト
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:S-B
キャロル・ベルンシュタイン
15歳
Lv.27
人族・エルフ
ユニオン:ウイング・クレスト
ヒーラーズギルド:アミスター王国 フィエリテ
ヒーラーズランク:S
エドワード・アルベルト
19歳
Lv.25
人族・フェアリーハーフ・ドワーフ
ユニオン:ウイング・クレスト
クラフターズギルド:アミスター王国 フィール
クラフターズランク:P-G
マリーナ・アルベルト
19歳
Lv.26
竜族・フェアリーハーフ・ドラゴニュート
ユニオン:ウイング・クレスト
クラフターズギルド:アミスター王国 フィール
クラフターズランク:S
トレーダーズギルド:アミスター王国 フィール
トレーダーズランク:B
フィーナ・アルベルト
17歳
Lv.23
妖族・ハーピー
ユニオン:ウイング・クレスト
クラフターズギルド:アミスター王国 フィール
クラフターズランク:S
マリサ
20歳
Lv.30
妖族・ヴァンパイア
ユニオン:ウイング・クレスト
バトラーズギルド:アミスター王国 フロート
バトラーズランク:S
ヴィオラ
15歳
Lv.26
獣族・タイガリー
ユニオン:ウイング・クレスト
バトラーズギルド:アミスター王国 フロート
バトラーズランク:B
ユリア
14歳
Lv.23
獣族・ラビトリー
ユニオン:ウイング・クレスト
バトラーズギルド:アミスター王国 フロート
バトラーズランク:C
エオス・ウィルネス・グリーン
117歳
Lv.52
竜族・ハイドラゴニアン
竜名:グリーンドラゴニアン
ユニオン:ウイング・クレスト
バトラーズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
バトラーズランク:G
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ハンターズランク:G
アプリコット・ハイドランシア
36歳
Lv.34
獣族・フォクシー
ヒーラーズギルド:アミスター王国 フィール
ヒーラーズランク:G
あたしとエオスはみんなのフォローに回ってたからレベルは上がってないけど、他のみんなはしっかりとレベルが上がっている。
大和も1つだけど、久しぶりにレベルを上げてるわ。
何人かは手続きをすればランクアップ出来るけど、それはドラグニアに戻ってからね。
リカさんだけは、アミスターに戻ってからになるけど。
「それじゃあ、やってみるね」
「無理しないでね、アテナ」
「うん!」
っと、アテナが完全竜化を試すみたいだわ。
大和と竜響契約を結んだこともあって、短時間だけなら完全竜化できるようになったって話だけど、エンシェントクラスと竜響契約を結んだドラゴニアンはアテナが初めてだから、どんな影響があるか分からない。
大和は急性魔力変動症みたいな症状が出るんじゃないかって予想してるけど、確かに否定できないのよね。
竜響契約は契約者とドラゴニアンの魔力を共鳴させて互いの魔力を強化させるそうだから、エンシェントクラスの魔力の影響を受けたアテナが竜化した場合、どうなるかはガイア様でも分からなかったし。
「アテナ、どうだ?」
『思ってたより魔力には余裕あるよ』
心配する大和に答えるアテナだけど、確かに大丈夫そうだわ。
完全竜化したアテナの姿は、エオスより一回り小さかった。
だけど少し黄色がかった銀色の体は、すごく綺麗だわ。
「エオス、どう思う?」
「竜化した際に問題が無いだろうことは、ガイア様も予想されていました。問題なのは竜化を解いた後ですね。竜化の際や竜化中に消耗した魔力、体力、受けたダメージなどが、竜化魔法を解くことで一気に疲労と共に襲ってきますから」
なるほど、竜化した姿で消耗した魔力と体力、さらにダメージまでが竜化魔法を解くと同時に襲ってくるから、完全竜化はドラゴニアンの切り札であり、最後の手段なのね。
特にダメージは、竜化状態では軽傷でも、元に戻ってみると重傷だっていうことも稀にあるみたいだわ。
魔力が残っていれば、ある程度の傷なら元に戻る際に治せるそうだけど、ノーマルドラゴニアンの完全竜化は魔力をほとんど使い切ることが前提だから、ドラゴニアンは滅多に竜化しないってことなんだそうよ。
「今回はダメージなんか負ってないし、俺と契約したってこともあるから、そこまで消耗はしないって予想されてたよな?」
「はい。誰と竜響契約を結んでも、ダメージさえ負わなければ、魔力の消耗は抑えられます。アテナ様の場合ですと、大和様と契約したことで以前より魔力量が増えていますから、そちらは大丈夫かと。問題があるとすれば体力の方ですね」
そっちか。
確かにアテナは、大和と竜響契約を結んだことで、かなり魔力が増えたって聞いている。
だけどまだ進化してないし、ウィルネス山から下りたこともないから、体力面では不安が残る。
エオスの場合は、こちらもマナと契約したことで魔力が増えてるけど、バトラー兼ハンターでもあるから、体力面での不安はない。
実際今日は2度も飛んでもらったけど、少し疲れたってぐらいの感じしかしてないように思えるわね。
『それじゃ、元に戻るね』
「分かった」
あたし達の心配をよそに、アテナが竜化魔法を解いた。
「アテナ!」
「ご、ごめん、大和……」
フラついたアテナを、大和が慌てて抱きかかえたけど、けっこう体力を消耗してる感じだわ。
「魔力、体力とも、思ったより消耗していませんね。アテナ様、狩人魔法リジェネレイティングを使って下さい。それで少し楽になるはずです」
「うん、わかった。『リジェネレイティング』。あ、ホントだ」
持続性体力回復魔法リジェネレイティングか。
狩人魔法の1つだけど、体力を回復させるだけじゃなく消耗も抑えてくれるから、ハンターにとっては必須の魔法よ。
今回の場合だと体力を回復させる効果の方が、有効に作用してるってことなんでしょうね。
「体力回復魔法は狩人魔法と騎士魔法にしかありませんから、ヒーラーとしてはお手伝いできないのが歯痒いですね」
ユーリがそんなことを言って、母様とキャロルが同意するように頷く。
騎士魔法に体力回復魔法なんてあったっけ?
「リフレッシングのことね。こちらは一気に体力を回復させる魔法だけど、自分だけにしか使えないリジェネレイティングと違って、他者に使うこともできたはずよ」
「お、そうなのか。なら早速。『リフレッシング』。どうだ、アテナ?」
「すっごく楽になったよ!ありがとう、大和!」
リカさんに教えてもらって、早速大和が体力回復魔法リフレッシングを使い、アテナが抱き着いた。
「これなら大丈夫ね」
「はい。ですがアテナさん、リフレッシングは体力を回復してくれますが疲労はそのままですから、今日はゆっくり休んで下さいね」
「うん、わかった」
よくよく考えてみたらこのユニオンって、大和、リカさん、ミーナの3人がオーダーなのよね。
普通のオーダーはユニオンに加入することはできないんだけど、3人とも外部協力者扱いのアウトサイド・オーダーだから問題はない。
そもそもこのユニオン ウイング・クレストは大和がリーダーなんだから、ダメって言われたらあたし達も困ることになってたわ。
それはともかく、アテナも大丈夫そうだから一安心だわ。
だけど無理はさせられないから、アテナは夜番をさせずに、今晩はゆっくりと休ませてあげた方がいいわね。




