査察官からの依頼
ギルドに入ってカミナさんのとこに戻ると、それぞれカードを手渡された。
大きさは免許証ぐらいだな。
「これに血を垂らしていただきましたら、ライブラリーにもハンターズライセンスと同じ内容が表示されるようになります。また、このライセンスも身分証としてご利用いただけますので、いちいちライブラリーを出す手間も省けます」
それはいいな。
ライブラリーには名前や年齢どころか、称号まであるからな。
間違って閲覧許可しちまったら、面倒なことになりかねん。
「ライセンスは他人が使用することはできませんが、紛失した場合は、すぐにギルドで再発行の手続きを行ってください。その場合は、手数料として3,000エルが必要となります」
なるほど、ならストレージにつっこんどけばいいな。
その前に確認しておくか。
ヤマト・ミカミ
17歳
Lv.57
人族・ハイヒューマン
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:G―T
レイド:ウイング・クレスト
こうなるのか。
わかりにくいとは思うが、運転免許証をイメージしてもらえると近いと思う。
顔写真の所がランクになってて、デカデカと表示されてるぞ。
まあ、登録したばりだからG―Tっていう表示だが。
というか、最初はTランクからのはずだが、この表示は何なんだろう?
ちなみに下が、プリムのライセンスだ。
プリムローズ・ハイドランシア
17歳
Lv.51
獣族・翼族・ハイフォクシー
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ハンターズランク:G―T
レイド:ウイング・クレスト
「以上で、ライセンスの発行は終了となります。これからサブ・ハンターズマスターのお部屋にご案内しますので、こちらへどうぞ」
カミナさんに促されて、俺とプリムはギルドの奥にある階段を上った。
2階にはいくつか部屋があって、一番奥がハンターズマスターの部屋になっている。
その隣がサブ・ハンターズマスターの部屋だそうだ。
「よく来たな。俺はハンターズギルド・フィール支部のサブ・ハンターズマスター、ライナス・マクレガーという。ここから見てたが、登録早々やってくれたな」
サブ・ハンターズマスターの部屋に入ると、アプリコットさんとミーナ、そしていかついおっさんがいて、開口一番文句を言ってきた。
笑ってる所を見るに、おっさんも腹に据えかねてたっぽいが。
「ケンカ売ってきたのは向こうだけどね。というか、あんな盗賊紛いの連中がハンターなんて、ギルドとしても大問題なんじゃないの?」
「面目次第もねえが、その通りだ。ここ最近、緊急事態ってのが多くてな。ハンターズマスターが直々に、ハンターの問題行動を容認しやがったんだよ」
おいおい、問題どころじゃないだろ、それは。
さすがにオーダーズギルドだって動くぞ。
「その通りで、既に何人かは捕まっている。ハンターズマスターはそのことを抗議するために、王都に行ってるんだよ」
ハンターズマスターってバカなのか?
どこの国だって、そんなこと認めるわけがないだろうに。
「それって、アミスターとハンターズギルドの信頼関係が崩れるんじゃないの?」
「崩れるだろうよ。だがあいつは、俺の忠告も聞きゃしねえ。そもそも俺がフィールに来たのだって、あいつの行動が問題になってるからだからな。ったく、まだまだ厄介事はいくつもあるってのに、いらん仕事ばかり増やしてくれるよ」
なんだってそんなのが、ハンターズマスターやってんだよ?
というか、よく首にならずにすんでるな。
「よくそれで、ハンターズマスターやってられるわね。アレグリアの総本部は、何も言ってこないの?」
ハンターズギルドはアレグリア公国に総本部があって、そこにはグランド・ハンターズマスターもいる。
ハンターはもちろんギルド職員の元締めでもあるから、アレグリア総本部が動けばフィールのハンターズマスターなんてすぐに首、どころか処分されてもおかしくはないぞ。
「言ってきてるんだが、急ぎで総本部に報告するためにはワイバーンを使わなけりゃならねえ。だけどワイバーンは、ハンターズマスターの許可がなければ使えないんだよ。一応別ルートで報告してはいるんだが、ブラック・フェンリルにグリーン・ファング、さらにはデカい盗賊団までいたもんだから、無事に届いてるかはわからねえ」
デカい盗賊団って、それはまた厄介だろ。
さすがにここしばらくは、鳴りを潜めてただろうが。
「王都とか他の町から、報告は行ってないの?」
「どうだろうな。一番近いのはエモシオンだが、あそこだってグリーン・ファングの噂があるって話だし、その件だってあいつが半ば握りつぶしてたんだから、動くにしてもまだ時間はかかる気がする」
エモシオンでの噂が信じられてなかったのって、フィールのハンターズマスターのせいだったのかよ。
なんでも、最初にフィールで目撃報告があったらしいんだが、目撃したハンターに対して、ハンターズマスターが緘口令を強いたそうだ。
そのハンターどもはハンターズマスターの腰巾着みたいな連中だから、多額の金と引き換えにそれを了承し、誰にも喋らなかった。
しかも他の町にも、ハンターズマスターの名前で虚偽の報告を行ったために、次々と犠牲者が出てしまった。
そのためレックスさんが、オーダーズギルドの精鋭を率いて調査に向かい、そこでグリーン・ファングの姿を確認したもんだから大変だ。
それが数日前の話で、ハンターズマスターは逃げるように王都へ経ったというのが真相らしい。
「そんな訳だから鳥を使って王都に報告して、そこからワイバーンを回してもらう予定になってる。無事に到着したかはわからねえが」
鳥って、伝書鳩みたいなもんか。
確かに空を飛ぶ魔物だって少なくないし、道に迷うことだってありえるだろうな。
「あたし達が、王都かアレグリアの総本部まで護衛するってのはダメなの?」
「最終的には頼むことになると思う。だからお前らは、査察官付きのハンターってことにしておきたい」
「査察官付き?どういうことなんだよ?」
そもそも、査察官って何だよ。
「査察官ってのは俺のことだ。ギルドに問題があった場合、総本部から派遣されることになっている。だが単独で来るのは自殺行為になりかねんから、護衛として高ランクのハンターが付くんだよ。当然俺にも護衛はいたんだが、残念ながら、な」
死んだのか。
理由ははわからないが、というか十中八九ハンターズマスターの差し金だろうが、純粋に事故や魔物に殺されたっていう可能性だってあるんだから、犯人を捜すのは不可能に近い。
ライナスのおっさんもレベル44のハイヒューマンだそうだが、それでも1人じゃできることは限られるから、査察官付きになれるハンターを探してたっていうのはわかる。
だけど俺達は登録したばかりだし、レベルはともかくランクの問題があるから、無理だと思うんだが?
「ランクに関しては心配するな。グラス・ウルフやグリーン・ウルフの討伐依頼なんて山ほどあるし、ブラック・フェンリルやグリーン・ファングまで倒してるんだから、そうだな、Sランクまではすぐに上げられる。俺の護衛をしてくれてたのもSランクハンターだったし、俺が護衛を探してるってのはハンターズマスターも知ってることだから大丈夫だ。そもそもこれは、俺の査察官としての権限だから、ハンターズマスターの権限じゃどうすることもできんよ」
部分的には、ハンターズマスター以上の権限を持ってるってことか。
まあ、査察官なんだから当然だが。
その査察官に何かあれば、それが事故であったとしても、ハンターズマスターの責任は免れない。
ライナスのおっさんが、今まで生きてこれた理由はそれか。
サブ・ハンターズマスターとして紹介されたライナスのおっさんだが、この役職はハンターズマスターの部下じゃなく、総本部から派遣されるハンターズマスターのお目付け役であり、査察官でもあるからだそうだ。
時にはハンターズマスターの代理を務めることもあるから混同されがちだから、ハンターズギルドのナンバー2ってことに違いはなく、だからこそハンターズマスターが仕事をしていない現状だと、ライナスのおっさんに負担が集中することになるため後手に回ることが多く、それが今という状況に繋がってしまったってことらしい。
「俺は構わないけど、プリムやアプリコットさんとしては?」
「あたしも構わないわ。だけど母様のこともあるから、もし遠出をするなら一緒についてきてもらうか、オーダーズギルドに護衛をお願いするかね」
「私としてはついていきたいけど、足手まといになりそうだから、フィールに残るべきなんでしょうね」
今フィールにいるハンターは信用できないから、俺としては一緒に来てもらいたいんだけどな。
まあ、状況次第か。
「すまねえな。これは正式に、指名依頼として処理させてもらう。条件としては、期間は未定だが、少なくともアレグリア総本部に報告できるまでとさせてもらう。報酬は1日につき5,000エルで、成功報酬としてさらに10万エルってことでどうだ?」
護衛依頼を受けたことがない、どころか登録したばかりだから詳しくはわからんが、期間が未定ってのは納得できる。
だけど報酬が高すぎないか?
「Gランクハンターを雇うことになるんだから、こんなもんだ。それに護衛といっても、俺がフィールを離れる時についてもらうことになるだけだから、普段は好きにしててもらって構わんしな」
「つまりライナスさんがフィールを出る時は、ライナスさんの都合を優先しろってことね?」
「そういうことだ。だが普段は好きにしてもいいって言ったが、泊りがけはやめといてくれ。もちろん不測の事態は十分考えられるから、絶対って訳じゃないが」
なるほど、そういうことなら普段は、アプリコットさんの護衛を優先できるか。
どっちにしても、町の外に出るのは難しいが。
「ところで、先程プリムと大和君が相手をしていたハンターですけど、彼らはどうするのですか?」
あ、忘れてた。
俺はプリムと顔を見合わせると、慌てて窓から外を見下ろした。
「オーダーが来てるわね。なんか縄を打ったりしてるけど、大丈夫なの?」
「スネーク・バイトだろ?構わねえよ。というか、あいつらが街の人に迷惑をかけてたのは事実だからな。あいつらだけじゃなく、今フィールにいるハンターは、ここしばらく狩りにも行きやがらねえから依頼も滞りまくりだ。そのくせ街での迷惑行為に、さっきのお前さん達への一言だ。叩けばホコリが出る身だから丁度いい。だろ?」
「はい。スネーク・バイトに限らず、いくつかのレイドは不法奴隷との関係を疑われていますし、実際に捕縛しているということは、先程の騒ぎもオーダーズギルドの誰かが見ていたということになります。ですから嫌疑ありということで、オーダーズギルドが動いたんだと思います」
本気でどうしようもねえな。
ヘリオスオーブには奴隷制度があるが、基本的に無理やり奴隷にする行為は違法となっている。
つまり、相手の身ぐるみを剥いで奴隷商に売りつける、っていう行為は立派な犯罪なわけだ。
未遂どころか返り討ちにあったとはいえ、俺達にそんなことを言い切ったわけだから、過去に何件かやらかしてるのは間違いない。
それどころか周りにいた奴らだって、多かれ少なかれ関与してるんじゃないかっていう疑惑がある。
というか、ほぼ間違いなく関与しているだろう。
正直、ハンターどもが敵になるとは思ってもいなかったが、俺達もこれからフィールに住むことになるわけだから、そんなバカどもを排除することは大賛成だ。
そんなわけだから、少しでも町の浄化を手伝うとしますかね。




