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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第五章・アミスター王国王都にて
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トラレンシア女王

 翌日、俺達はイデアル連山の入口にやって来た。

 2日ぐらい前にマナの多節剣は受け取ってたんだが、ルクスのことがあって狩りには行けなかったから、今日は試し斬りも兼ねて狩りに来てみた訳だ。


「昨日の今日だってのに、よく狩りに行こうって思ったよねぇ」

「元々の予定じゃ、今頃はイデアル連山の中央に行ってたはずなんだから、これ以上遅らせたくないんだよ」

「まあフィールに帰るのも、それだけ遅れるしね」


 ルディアの疑問に答えるが、プリムも同意してくれたようで心強い。

 俺には関係ないどころか敵と断じてもいい奴だったとはいえ、マナの心情を考えれば強くは言えないんだが。


「ここ数日は狩りに行ってないし、これ以上は腕を鈍らせることになるものね」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、マナも狩りには賛成している。

 腕を鈍らせることは生死に直結するし、俺達は急激にレベルが上がったこともあって、実力的にも経験的にも他のハンター達には劣るから、これ以上間を空けるのは避けたい。


「それじゃ今日はロック・ボアを中心に、適当に狩りましょうか」

「だな」


 さて、頑張って狩りますか。


 3時間後、狩りに狩ったりその数100匹以上。

 ロック・ボアも30匹以上狩ったがストーム・ライガーも20匹近いし、運の良いことにフェザー・ドレイクも10匹ほど狩ることができた。

 さらにたまたまこっちの方まで来てたのか、(ゴールド)ランクモンスター スパイク・タートルも2匹ほど狩っている。

 あとはマウント・ビーとかイエロー・ウルフ、ゴブリンにオーク、ヴァレイ・シープやガスト・ゴートなんてのも狩れたな。


「マナ、その剣の使い勝手はどうだ?」

「凄く良いわね。しかも魔銀ミスリルの武器と同じ感覚で使えてるから、ハイエルフに進化した私にはすごくありがたいわ」


 瑠璃色銀ルリイロカネ製の多節剣ラピスウィップ・エッジを手にしたマナが、感想を述べる。


 多節剣は刃を持った鞭、といった印象だ。

 刀身をいくつもの節に分け、紐のような鞭で繋ぎ、魔力を流すことで直剣、刃鞭のどちらとしてでも使うことができる。

 刃を繋いでいる鞭の本体は、ウインガー・ドレイクの健を瑠璃色銀ルリイロカネに浸した物を使っているから、簡単に切れたりもしない。

 魔力で強化しているが、いくつもの節を重ねていることもあって普通の剣より強度は劣ってしまうため、マナは鞭としての使い方をメインにしているが、それでも瑠璃色銀ルリイロカネ製だし、ハイエルフの魔力があれば普通の片手直剣として使うことも可能だ。


 そんな扱いにくそうな多節剣ラピスウィップ・エッジを器用に使いこなし、マナは多くの魔物を狩っていた。

 鞭として使って決して自分に近寄らせなかったのはもちろん、中には普通に剣として使って近接戦で倒した魔物もいたから、腕も良いし思い切りも良い。


 さらにエド、マリーナ、フィーナが頑張ってくれたおかげで完成したアーマーコートも、今回から着用している。

 白菫色しろすみれいろのコートで、俺のより少し小さい肩甲、プリムのより大きいけど数は少ない腰甲、フラムみたいに肩甲と一体化して左右に分かれて腹部にまで伸びている胸甲、そして瑠璃色に染めた膝下丈のスカートと、ミーナよりは軽装だがそれでもオーダーに見えるデザインになっている。

 実際天樹城で試着した際、ロイヤル・オーダー達が羨ましそうにしてたからな。


 今回の狩りでも俺とプリム以外のみんなはレベルが上がったが、特にマナはレベル43になり、ハイエルフにも進化していた。

 俺達やみんなのレベルアップ速度を考えればマナが進化してもおかしくはないって言われてたが、それでも実際に進化できるとは、誰よりもマナ本人が思ってなかったみたいだから凄く驚いてたな。


 ヤマト・ハイドランシア・ミカミ

 17歳

 Lv.71

 人族・エンシェントヒューマン

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(ミスリル)

 オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド

 オーダーズランク:(オリハルコン)


 プリムローズ・ハイドランシア・ミカミ

 17歳

 Lv.67

 獣族・エンシェントフォクシー

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(プラチナ)


 マナリース・A・ミカミ

 18歳

 Lv.43

 人族・ハイエルフ

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:アミスター王国 フロート

 ハンターズランク:(シルバー)


 ミーナ・F・ミカミ

 17歳

 Lv.34

 人族・ヒューマン

 ユニオン:ウイング・クレスト

 オーダーズギルド:アミスター王国 フロート アウトサイド

 オーダーズランク:(ブロンズ)

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(ブロンズ)


 フラム・ミカミ

 18歳

 Lv.32

 妖族・ウンディーネ

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(ブロンズ)(カッパー)


 リディア・ハイウインド

 16歳

 Lv.40

 竜族・ドラゴニュート(氷竜)

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

 ハンターズランク:(ブロンズ)


 ルディア・ハイウインド

 16歳

 Lv.40

 竜族・ドラゴニュート(火竜)

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

 ハンターズランク:(ブロンズ)


 ラウス

 13歳

 Lv.36

 獣族・ウルフィー

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(ブロンズ)


 レベッカ

 13歳

 Lv.34

 妖族・ウンディーネ

 ユニオン:ウイング・クレスト

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

 ハンターズランク:(ブロンズ)


 みんなのライセンスはこんな感じだな。

 フラムも(ブロンズ)ランクに昇格できるようになったから、王都に戻ったら手続きしないといけない。

 リディアとルディアはもうちょっと頑張れば(シルバー)ランクに昇格だし、王都滞在中に進化できるかもしれないな。


「それにしても、本当に簡単にレベルを上げるわよねぇ」


 マナがボヤくが、別に簡単って訳じゃないし、何より俺とプリムのレベルは上がってないんだから、その呆れたような目を俺に向けるのはやめてくれませんかね?


「マナ様の気持ちもわかりますよ。私達のレベルがこんなに早く上がったのは、間違いなく大和さんが提案された魔法のおかげなんですから」


 全員がミーナに賛同する。

 確かに提案はしたが、それを実際に使って、しっかりとレベルを上げたのはみんなじゃね?


「確かにそうなんですが、それでもこんな簡単にレベルが上がるなんて、思ってもいませんでしたから」

「お姉ちゃんの言う通りですよぉ。そもそもレベルなんて数ヶ月に1つ、ハイクラスなんて数年に1つ上がるかどうかなんですからぁ」

「それは知ってるが、これからは違うんじゃないか?特にハイクラスのレベルが上がりにくいのは、武器のせいだったと思ってもいいだろうからな」


 実際、ホーリー・グレイブのハイクラスはアライアンスでレベルを上げたし、フィールのハイオーダー達だってそうだ。

 魔力による疲労や劣化で武器が持たないから、無意識レベルで魔力に制限をかけていたことが原因だと俺は思ってるし、この話をしたハイクラス達も納得、というか理解は示してくれている。

 だから翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネがハンターの間にも広まれば、遠からずレベルが上がったって話は耳にすると思う。

 実際トライアル・ハーツのハイハンターは、1つずつレベルが上がったって聞いてるからな。


「それも問題なんだけどね」


 苦笑するマナだが、確かにその通りだ。

 ハイクラスは一騎当千の猛者でもあるが、同じハイクラスでも実力には差がある。

 アミスターのハイクラスは実力はもちろん人格者が揃っているが、他国はそうとは限らない。

 ソレムネのハイクラスがどうかは知らないが、レティセンシアのハイクラスは武器の質の問題もあって他国よりワンランク劣ると見られているし、人格も低俗だ。

 だがその他の国にはアミスターにも勝るとも劣らない実力を持ったハイクラスもいるし、俺とプリム以外の(プラチナ)ランクハンターは他国に所属しているから、その人達の弟子って言われてるハンターは実力も高いらしい。


 だがハイクラスは、ここ数年は誰もレベルが上がってないという噂がある。

 ホーリー・グレイブにトライアル・ハーツ、ライオット・フラッグは実際にそうだったらしいし、リディアとルディアが知っているバレンティアの(プラチナ)ランクハンター、グランド・ハンターズマスターの弟子になるアレグリアの(プラチナ)ランクハンターもそうだ。

 おそらく、トラレンシアの(プラチナ)ランクハンターもだろうな。


 あれ?確かトラレンシアの(プラチナ)ランクハンターって、聞いたことある気がするな。


「プリム、トラレンシアの(プラチナ)ランクハンターって、前に話に出てたよな?」

「ええ、したわよ。だってトラレンシアの現女王のひいおばあ様だもの」


 あー、そんな話だったな。


 確かトラレンシア女王ヒルデガルド・ミナト・トラレンシアは、30年程前に亡くなった客人まれびとカズシ・ミナト・トラレンシアの子孫だ。

 プリム、マナとは年が近くけっこう親しいって聞いてるが、トラレンシアは遠いから、2人ほど頻繁に会ってた訳でもなかったらしい。

 それでもプリム、マナとは姉妹同然みたいな関係らしいから、俺と結婚したことはトラレンシア大使に直筆の書状を託してあるんだとか。


 その女王様が、トラレンシアの(プラチナ)ランクハンター セルティナ・セルシュタールの曾孫?


 確かトラレンシアは、代々女性が王位に就くって話だったはずなんだが、俺の記憶が確かならトラレンシア王家はヴァンパイアで、ヒルデガルド女王はハイヴァンパイア、セルティナさんはハイラミアだから、もしかしてセルティナさんの娘か孫娘がヒルデガルド女王の母親なのか?

 いや、それだと女王もラミアになるはずだから……あれ?


「簡単よ。セルティナ様のお孫さんの1人が、先代女王陛下と結婚されたの」


 ああ、その可能性を忘れてたな。


「トラレンシア王家は代々女王が王位に就くけど、長くても10年ぐらいで引退されるの。だけど先代陛下は、他に王位を継げる者がいなかったこともあって、20年近く女王を務められていたわ。だから2年前、ヒルデ姉様が成人すると同時に王位を譲られたのよ」


 ってことはそのトラレンシアの女王様は、近々結婚、もしくはシングル・マザーになるってことか。


「そうなるでしょうね。今のトラレンシア王家はヒルデ姉様以外は妹が1人しかいないから、後継ぎの問題も大きいし、その妹だってまだ成人してないから、早く子供を生まないとトラレンシア王家が途絶えることになってしまうわ」


 それはまた問題だな。

 トラレンシアは、カズシさんが初代女王になったヴァンパイアに協力して建国した国だ。

 それまでトラレンシアのあるアウラ島には3つの国が存在していたが、その内の1つがセリャド火山にいると言われている終焉種に滅ぼされてしまったため、島内の軍事バランスが崩れ、残った2つの国の間で戦争が勃発してしまった。

 不幸なことにどちらも男の王が治めていて、さらにアウラ島統一の野心を持っていたから、何年も戦いが続き、国民は疲弊していたそうだ。


 そこに立ち上がったのが初代女王になったヴァンパイアで、エンシェントヴァンパイアに進化していたはずだ。

 カズシ様もエンシェントヒューマンに進化していたから、2人で一騎当千、獅子奮迅の活躍を見せ、2つの王家を滅ぼし、その後アウラ島をまとめ、トラレンシア妖王国を建国したって言われている。


「つまりトラレンシア王家は、その初代女王陛下とカズシ様の血を引いていて、直系が女王位に就くことで、建国の正当性を主張してるってことですか?」

「そう考えても良いでしょうね。トラレンシアの王位を退いた女性は妖爵ようしゃくっていう爵位に就くことになってるけど、当代限りだから子供には受け継げないし、貴族としての権利もほとんどないって聞いてるから、女王に就いていた者っていう意味が強いかも」


 ラウスに応えるプリムだが、トラレンシアにも独自の爵位があるのかよ。

 しかも元女王を指す爵位って、普通に公爵より権力ありそうなもんだけどな。


「それを防ぐためよ。元女王として相談を受けることはあるみたいだけど、妖爵が強い権利を有してたりしたら、国のためにならないじゃない」

「国のためにならないって……もしかして女王陛下に不満がある場合、その妖爵になられた先代以前の女王陛下を支持する人が出てくる可能性があるから、最悪の場合は内戦になるかもしれない、ってことですか?」

「正解。実際、昔の妖爵は公爵並かそれ以上の権力があったそうだけど、フラムの考えた通りのことが起きかけたことがあるそうよ」


 なるほど、経験からそうなってるのか。

 当時もハイクラスは今と変わらない人数だったみたいが、エンシェントクラスは5人程いたらしい。

 内2人は客人まれびとのカズシさんとシンイチさんだから、初代女王は残り3人のうちの1人ってことか。

 残り2人はアミスターにいて、1人は(オリハルコン)ランクオーダー、もう1人が(オリハルコン)ランクハンターだったって聞いてるから、エンシェントクラス同士が戦うようなこともなかったらしいが。

 それにしてもエンシェントヒューマンとエンシェントヴァンパイアが同時にって、けっこう過剰戦力な気がするな。


「実際、過剰戦力だったって言われてるわよ。なにせ2つの王家が滅ぼされるまで、1年も掛からなかったって言われてるんだから」


 おおう、それは……。


「でもね、その2人に残り3人のエンシェントクラスを加えても、セリャド火山の終焉種を倒すことはできなかったのよ。撤退させることには成功したけど、こちら側も手傷を負わされたから追撃ができなかったって、ハンターズギルドには正式な記録が残っているわよ」


 げ、エンシェントクラス5人がかりでも、終焉種って倒せないのかよ。

 確かセリャド火山にいるって言われてる終焉種は、スリュム・ロードって名前の虎じゃなかったっけかな?


「それであってるわ。一説によればその時の傷が元で死んだとも言われてるけど、その時に負った傷を癒すために深い眠りについているとも言われているわね」


 できれば前者であってもらいたいが、死体の確認はされてないから、後者の可能性を考えておく必要はあるか。


「それは俺達が何を考えても、どうにかなる話じゃないよな」

「そうなんだけど、もし本当にスリュム・ロードが生きてるなら、あたしとしては倒しておきたいって考えてるわ」

「ヒルデ姉様の国だから私も同意なんだけど、それでもあなた達に頼ることになるし、それ以前に終焉種を倒そうなんて、普通は考えないわよ?」


 そう言われましてもねぇ。

 だけど俺としても、プリムやマナが姉と慕う人の国ってことなら、協力することも吝かじゃないな。


 そう思ってたんだが、天樹城に戻ると俺達宛に招待状が届いていた。

 差出人はヴァレンティア竜王。

 なんでも竜都ドラグニア近くのドラゴニアンの聖山ウィルネス山に住んでいる聖母竜マザー・ドラゴンが、俺に会いたいってことらしい。

 書状には伝えたいことがあるとも書かれていたが、ドラゴニアンの長が何を俺に伝えるってんだ?


 まあリディアとルディアの親父さんにご挨拶できる機会でもあるから、俺としては行ってもいいんだが、問題はリカさんだ。


 プリムの実母のアプリコットさんは俺達と一緒にフィールに戻ることになってるから、バレンティアに行くことは多分問題ない。

 エド達は、バレンティアに行けば格安で金剛鉄アダマンタイトを仕入れることができるから、喜んでついてくるだろう。


 だがリカさんはフィールの領代であり、アマティスタ侯爵領の領主でもあるから、国外に連れて行くのは難しい。


 そう思ってたんだが俺の婚約者も全員ってことらしいから、ラインハルト陛下も許可を出し、フィールにいるソフィア伯爵とアーキライト子爵に伝えた後、俺達と一緒にバレンティアに向かうことになった。


 明日直ぐにってのは無理だから出発は1週間後に決まり、バレンティアにもその旨は伝えることになっている。

 その間、俺達は狩りを続けると同時に、イデアル連山の中央にも行ってみようと思っている。


 今日狩ったスパイク・タートルは、防具の素材としては一級品って話だから、是非にとハンターズギルドに懇願されて売っちまったんだよ。

 1匹は残しておくべきだったから、失敗したと思う。

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