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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第二章・フィールの暗雲
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ハンターズギルドの諍い

「ハンターズギルドは中央通りの広場にあって、そこに武具屋や道具屋も、多くが軒を連ねています。魔銀ミスリルの産地ということもあって、一流の鍛冶師も多いんですよ」


 俺達はミーナに案内されながら、フィールの街を進んでいる。


「へえ、それはありがたいわね」

「だな。後で見に行こう」

「でしたら知り合いのお店がありますので、後でご紹介しますね」


 ほう、ミーナの知り合いの鍛冶師か。

 一流が多いって話だし、俺としても興味があるからありがたいな。


「ありがとう。それよりミーナ、同い年なんだし、敬語なんて使わないでいいわよ?」

「それについては、俺も同意だ」

「ですがこれは、オーダーとしての職務ですから」


 同い年の女の子に、敬語使われるのも落ち着かないんだけどな。

 他のオーダーだって、もっとフランクな人はいるだろうに。

 まあ初対面だし、それはおいおい何とかすればいいか。


「それじゃギルドに行こうぜ。そういや登録するのに、何か条件ってあるのか?」


 ミーナに案内してもらいながら、俺は登録についての必要事項を聞いてみた。

 実力が必要なのはもちろんだが、他にも条件があるかもしれないしな。


「実力があれば、特には問題なかったはずです。お2人はブラック・フェンリルにグリーン・ファングを討伐されていますから、その点は心配していただかなくても大丈夫だと思いますよ」


 レベルのこともあるから、それは俺も心配していない。


 だがしかし!

 ここは異世界だ。

 ギルドに登録するとなれば、何かしらのイベントが待ち受けている可能性がある。

 最も可能性が高いのは、先輩ハンターによる洗礼だ。

 無用な騒ぎを起こすつもりはないから、細心の注意を払わなければ!


「注意点はやはり、気の荒い人が多い、ということでしょうか」

「私達を見て、絡んでくるバカがいるかもしれないってことね」


 プリムが面倒くさそうな顔をしている。

 気持ちはわかるぞ。


「あ、ここで止めてください。着きましたよ。ここがハンターズギルドです」


 おっと、着いたか。

 案内されたのは、剣と弓矢の意匠を掲げた大きな建物だった。

 かなり大きな施設も併設されており、フィールでは一番大きな建物らしい。

 聞けば、ハンターの訓練所や、魔物の鑑定や査定用に、どうしても広い場所が必要とのことなので、これは納得だ。


「詳しくはギルドの職員から説明があると思います。では参りましょう」


 ミーナに先導され、俺達はハンターズギルドに足を踏み入れた。


「あら、ミーナさん。本日はどうしたんですか?」


 おお、受付嬢さんにネコミミがある。

 ということは猫の獣族、リクシーか。


「こんにちわ、カミナさん。今日はこの方達がハンター登録をされるということなので、案内してきました」

「承りました。それでは先に、こちらをご記入下さい。終わりましたら、登録と説明をさせていただきます」

「わかりました」

「カミナさん、連絡があったと思いますが、実はこの方達が……」

「!?す、すぐにサブ・ハンターズマスターに伝えます!」

「待ってください。私も説明しますから。アプリコット様もよろしいですか?」

「もちろんです」


 そういうとミーナは、アプリコットさん、カミナと呼ばれた受付嬢さんと一緒に、奥の階段を上がっていった。


「それじゃ、さっさと記入しますかね」

「そうね。それにしても、名前や年齢はいいとして、レイド名どうする?」

「だよなぁ。確か他のとこと被ったりしたら、登録できないんだったよな?」


 ハンターはレイドを組む際、レイド名も決めなければならない。

 それによって、どのレイドに誰がいるのかを把握しているため、離脱や加入があった場合は、すぐギルドに届けることになっている。

 これには同名の人が間違われないように、という配慮もある。

 写真なんかもないこの世界だと、名前だけで勘違いされることは珍しくないそうだから、個人名とレイド名で確認できれば人違いかどうかもわかりやすい。

 そのためレイド名は、絶対に同じ名称で登録することができなくなっている。


「理由は納得できるけど、考えてなかったわよね」

「だな。また手続きも面倒だし、何とか考えるとするか」

「そうねぇ……それなら『ウイング・クレスト』っていうのはどう?」


 ウイング・クレスト、翼の紋章か。

 刻印術は外国じゃ紋章術とも呼ばれてるし、知り合いにクレスト・ナイトやクレスト・ハンターもいるからいいかもしれない。


「いいな、それにしよう」


 レイド名も決まったし、あとは得物だが、これは当然のごとく剣だ。

 父さんや伯父さん達に、叩き込まれてるからな。


「それじゃ、登録しましょう。って言ってもさっきの人はいないし、ミーナも戻ってきてないし、少し待つべきかしらね」

「その方がいいかもしれないな。って、戻ってきたみたいだぞ」


 用紙の記入を終えて、どうしたものかと悩んでいると、カミナさんが戻ってきた。

 ミーナやアプリコットさんはまだみたいだが、サブハンターズマスターとやらに報告してる最中なんだろうな。


「記入終わったので、お願いします」

「は、はい!ヤマト・ミカミさんとプリムローズ・ハイドランシアさん。レイド名はウイング・クレストですね。こちらは問題ありません。それでは、ライブラリーを確認させていただきます」


 ハンターズギルドに登録したことやレイド名は、ライブラリーにも登録されるから、ギルドから確認があるのは当然の話だ。

 俺もプリムもすぐにライブラリーを確認してもらった。

 まあ、カミナさんの目が丸くなっていたが。


「……ミーナさんの言う通りだったんですね。失礼しました。それでは、登録を始めさせていただきます。続いて、ギルドの説明に移らせていただきますね」

「お願いします」


 ハンターズギルドは魔物を狩ることを生業としているが、犯罪行為を働いた場合、登録抹消の上で警備隊へ、アミスターの場合だとオーダーズギルドへ引き渡される。

 盗賊になった場合は賞金首となり、世界中のハンターから狙われることになるが、これは当然のことだ。


 また、ハンターの身の安全について、ギルドは一切関与しないし、命の保証もしない。

 ハンター同士の諍いにも介入しないが、こちらについては近年、ハンターの素行の悪さが問題になっており、ギルドとしても口を出すことが多くなっているそうだ。


 魔物素材の買い取りは、供給量が多ければ値崩れする場合があり、逆に需要が多ければ値上がりする可能性もあるとのこと。


 受付では、魔物の討伐依頼の他にも、素材収集依頼や護衛依頼なんかを受けることができる。

 依頼書は依頼掲示板に貼られているため、それを受付に持っていけばいいんだが、ランクによっては受けることができないため、自分のレベルとランクを過信しないようにと釘を刺された。


 ランクは(ティン)(アイアン)(カッパー)(ブロンズ)(シルバー)(ゴールド)(プラチナ)(ミスリル)(アダマン)(オリハルコン)で、俺達は(ゴールド)(ティン)っていうランクでスタートになるそうだ。


 これはレベルがどれだけ高かろうが経験豊富だろうが、登録時は必ず(ティン)ランクから始まるからだ。

 昇格はレベルが大きく関係しているため、意味的には(ゴールド)ランク相当のレベルがあるが登録したばかり、ということになるらしい。


 レベルが基準になってることもあって、魔物を狩ってれば、依頼を受けなくても(ブロンズ)ランクぐらいまでは上がるそうだが、(シルバー)ランク以上は必ず依頼を成功させなければならず、あと品性とか人格とかも加味する必要があるって考えられ始めているそうだ。

 チンピラなんかが高ランクにならないような処置だと軽く毒づいていたが、そんなバカどももそれなりにいるってことか。


 ちなみに俺達が登録された(ゴールド)ランクは、世界でも数十人しかいないランクで、その上の(プラチナ)ランクは数人、(ミスリル)ランクは1人しかいない。

 (アダマン)ランクと(オリハルコン)ランクは今は誰もいないが、昔はいたことがあったようだ。


「大まかにはこのようになっています。詳細はこちらをご覧下さい」


 そう言うとカミナさんは、羊皮紙を2枚差し出してきた。

 ハンター規約みたいなもんか。


「以上で、説明を終わらせていただきます。本来であればここで登録料をいただくのですが、先程ミーナさんから、お2人は買い取りの査定もあると伺っています。ですので買取額から、登録料をお引きさせていただくことになりました。何かご質問はありますか?」


 1枚目は規約とかだが、2枚目はハンターだけが使えるっていう狩人魔法ハンターズマジックの説明みたいだな。

 どんな魔法なのか興味あるし、後でしっかり目を通しておくか。


「いえ、大丈夫です」

「あたしも特には」

「わかりました。では登録作業に入ります。それと、登録が終わりましたら、サブ・ハンターズマスターのお部屋へご案内しますので、申し訳ありませんがしばらくお待ち下さい」

「わかりました」


 思ったより簡単だったな。

 後はミーナとアプリコットさんと一緒に、サブ・ハンターズマスターに報告するだけだ。


「話は聞いたぜ。おめえら、新人のくせにけっこう稼いだみてえじゃねえかよ?」


 だが席を立った瞬間、モヒカンにスキンヘッドの集団が俺達を取り囲んだ。

 まさに危惧していた事態だ。


「待て待て。せっかくの新人だ。俺達がしっかりと、ハンターの心得について教えてやろうじゃねえかよ」

「そっちの姉ちゃんは、俺達がしっかりと可愛がってやるぜ?もちろん夜もな。へっへっへっ」


 全部で8人か。

 全員が、とてもとても品の悪い笑みを浮かべている。

 つまりあれか、新人から金を巻き上げ、さらにプリムに夜の相手をさせようって魂胆か。

 この分じゃ、街の人にも多大な迷惑をかけてるな。

 つかこんなバカどもに、ハンターの心得なんてもんがあるとは思えねえ。


「つまりあんたらが品の悪い、街の人達とも問題を起こすバカってわけね」


 プリムの声が一段低くなった。

 怖いです、プリムさん!


「おいプリム、いくら本当のことだからって、本人達に言っちゃ気の毒だろ」


 なんて思いつつも、俺としてもすげえ気分が悪い。


「ああ?素人の分際で、俺達スネーク・バイトにケンカ売ろうってのか!?」

「知ってるか?」

「知ってるわけないじゃない、こんなどこにでもいるようなチンピラなんて。どうせ、大したランクでもないでしょうし」

「それもそうか」

「なめた口利くんじゃねえよ!俺達は(ブロンズ)ランクだぞ!フィールでも、トップクラスのレイドなんだよ!」


 (ブロンズ)ランクか。

 いわゆるベテランとされるランクだが、言ってしまえばヘリオスオーブの平均レベルのハンターでしかない。

 下の(カッパー)ランクより人数は多いが、その理由は、(カッパー)ランクが一番死亡率の高いランクだからってことも関係してるだろう。

 最近は(カッパー)ランクの死亡率も下がってきてるから、人数的には逆転するんじゃないかって話だが。


「はいはい。自称トップなんてどうでもいいのよ。で、カミナさん。この場合、正当防衛は成立するのかしら?」

「問題ありません。ですが、やるなら外でお願いします」


 プリムが登録作業を終えて戻ってきたカミナさんに声をかけたが、そのカミナさんも、かなり鬱陶しそうにしている。

 こいつら、本当に問題ばっか起こしてたんだろうな。


「だってよ。やるなら相手になるが?」

「ガキが調子に乗るな!上等だ、表に出ろ!」


 おーおー、青筋浮かべちゃってまあ。

 この時点で、大したことない連中だとわかるな。


「プリム、俺が片付けようか?」

「夜の相手をしろって言われて、黙ってられるとでも?」

「ごもっとも。んじゃ、半分ずつってことで」

「それでいいわ」


 表に出るとさらに人数が増えていた。

 全部で18人か。

 全員頭悪そうだよなぁ。


「おい、スネーク・バイトの連中がお冠みてえだが、何かあったのか?」

「新人にコケにされたのよ」

「あちゃあ。その新人、終わったな」

「って、スネーク・バイトにケンカ売ったの、あいつらなのかよ!?」

「あいつら、本気で終わったな……」

「ええ。男の子は再起不能か奴隷にされて、女の子はあいつらの慰み者ね。本当に気の毒だわ……」


 外野が勝手なこと言ってるが、会話の内容から判断するに、トップレイドってのは自称じゃなかったのかもしれんな。

 別にどうでもいいが。


「今更謝っても遅いぜ?身ぐるみ剥いで、奴隷商に売りつけてやるよ!」

「うん、思いっきり盗賊行為だな。こんな公衆の面前でそんなこと言うとは、どうやら頭も悪いらしい」

「本当に盗賊だったりしてね」

「う、うるせえ!てめえら、やっちまえっ!」


 わかりやすいぐらい動揺してるな。

 口上が盗賊みたいだったから言ってみただけなんだが、本当に盗賊と繋がりがあるのかもしれないな。

 まあ、後のことはレックスさんに任せるとして、今はこいつらを排除しますかね。


「な、なんだっ!?」

「こ、氷だと!?」


 俺は得意としているコールド・プリズンを発動させ、連中を氷の檻に閉じ込めた。

 強度もあるし、生半可な力じゃ脱出はできない。

 防御陣としても優秀だからな。


「やるじゃない、大和。私ももうちょっと、魔法を効率よく使えるようにしないとねっ!」


 プリムはフィジカリングで強化された身体能力を使い、華麗に蹴りを見舞っている。

 当たり前だが連中はプリムの動きについていけず、一ヶ所に蹴りまとめられ、プリムが起こした竜巻によって宙に飛ばされ、一斉に落ちて気を失った。

 俺もコールド・プリズンの強度を上げ、連中を氷漬けにすると同時に術式を解除した。


「口ほどにもないわね。トップなんて自称してるようじゃ、こんなもんなんだろうけど」

「だな。まあ、盗賊って言ったら動揺してたし、余罪もゴロゴロしてるだろう。フィールにとっては良かったんじゃないか?」

「でしょうね。それより、中に入りましょう。母様やミーナも戻ってるかもしれないし」

「そうするか」


 俺達はスネーク・バイトの連中に視線を向けることなく、ギルドの中へ戻っていった。


「な、なんだ、あいつら……」

「ウソ、でしょ……」

「あのスネーク・バイトが……あんな簡単に……」


 外野のみなさんも驚いてるし、これで俺達にちょっかいかけてくる馬鹿はいなくなるだろう。

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