オーダーズギルドの新装備
Side・マナリース
お父様にも困ったものだわ。
私を褒賞の1つに含めることは、大和の功績を踏まえれば当然だから構わないし、私がそう進言したんだけど、まさかそれを利用してお兄様に譲位することを考えてたなんて。
数々の異常種や災害種の討伐、レティセンシア第一王女を含む工作員の捕縛、これだけでも十分な功績なのに、まさかさらに終焉種まで、それも単独で倒してたなんて思いもしなかったわ。
もっともこの功績のおかげでユーリが嫁ぐだけじゃ釣り合わなくなってしまったから、私が入り込む余地が生まれたんだけど。
Oランクオーダーへの登録もすることで、プリムが正式にアミスター所属のオーダーと結婚したという事実もできたし、獣王やレオナスが何を言ってきても正面から跳ね返せるようにもなったから、これはプリムへの褒賞にもなる。
獣王に見せ付けられた証拠は、プリムやハイドランシア公爵がするはずもない事ばかりだったし、何より雑だったから、急に用意したためにどうしても粗が目立ったってことだと思う。
ここまでしてプリムの死を捏造したんだから、獣王が何かを言ってくることはないと思うけど、女好きでプリムの体を狙っていたレオナスは、どんな手を使ってでもプリムを手に入れたかったはず。
プリムの生存は明日の式典で公表するけど、同時にOランクオーダーと結婚したことも広めるから、例えレオナスが何か言ってきたとしてもどうとでもできる。
そもそもプリムは、バリエンテの地はアミスターに返還すべきって考えてるから、バリエンテを支配したい獣王、仇討ちという名目で女を漁っているレオナスとは相容れないわ。
獣王は圧政を敷いていて暴君だと言われているけど、それでも中央府付近の治安はしっかりしていたし、評判は悪くないどころか良い物だった。
だけど王に匹敵しかねない王爵という地位を廃止したいっていう考えが根底にあるから、先代獣王や王太子を暗殺し、自らが王位に就いたと言われている。
プリムのお父様 ハイドランシア公爵とは政敵ではあったけど、レオナスと比べると、まだこちらの方が信じられるわ。
プリムにとっては仇であることに変わりはないから、手を組むことはないけどね。
「では明日の式典は、謁見の間で執り行う。ハンターであることを踏まえ、服装はそのままで構わぬ」
ウイング・クレストは、全員が似たようなコートを着用している。
装甲が個人個人で異なるから別物に見えるけど、基本デザインが同じだということは分かる。
着心地も良さそうだし、デザインとかも私の好みだわ。
「ありがとうございます。っと、忘れるところだった。陛下、少しよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
なんか大和がお父様に言いたいことがあるみたいだけど、何かしら?
「はい。合金は近い内にクラフターズギルドから広まると思いますが、そうなると当然、オーダーズギルドの装備を一新させることになりますよね?」
「うむ。特に国境付近のオーダーズギルドは、最優先となろう」
バリエンテとの国境を護るクリスタロス伯爵領、レティセンシアとの国境を有するベルンシュタイン伯爵領は、確かに優先度が高いわ。
バリエンテ側は先に内乱になるだろうけど、レティセンシアは王女の処刑は通達済みだから挙兵する可能性は高い。
今の装備でもレティセンシアより質は上だけど、ハイクラスにとっては物足りなさすぎるから、武器だけじゃなく防具も、急いで仕上げないといけない。
「それなんですけど、翡翠色銀で装備を一新する際は、こんな感じの鎧なんてどうかなと思いまして」
「どれどれ」
何かと思ってたら、まさかオーダーズギルドの鎧のデザインの上申なの?
いえ、確かに女性オーダーからは毎年のように嘆願が上がってきてるけど、実用性の高さを優先してあのデザインになってるんだから、例え翡翠色銀を使ったとしても、デザインは変えられないわよ?
「ほう、これは良いな。翡翠色銀製の胴鎧を先に身に着け、その上からコートを羽織ることでデザイン性も持たせようというのか」
「少し前までなら手間でしたが、今はイークイッピングがありますから、装着に手間もかかりませんからね」
奏上魔法イークイッピングか。
確かに一瞬で装備を整えられるから、凄く便利らしいわね。
私はしばらくは城に籠りっ切りだったけど、お兄様が絶賛してたわ。
一度身に着けなきゃいけないけど、それさえ済ませれば一瞬なんだし、ミラーバッグやストレージバッグの中にあっても使える。
同時に奏上されたステータリングを連動させれば装備一式をまとめておけるから、汎用性も高いわね。
「これはコモン・オーダー用で、これがロイヤル・オーダーやオーダーズマスター用、これが天騎士用ってことで、マリーナにデザインを頼んだんです」
「ほう、大和殿が案を出し、マリーナがデザインしたのか。トールマン、ディアノス、どうだ?」
実際に使うのはオーダーズギルドだし、ロイヤル・オーダーも興味津々感じだわ。
というか、ロイヤル・オーダーにもデザインを見せてるじゃないの。
「これはいいですな。元々男女兼用で武骨なデザインでしたから、女性オーダーからの改善要求や嘆願は毎年かなりの数がありまし。ですがこれならば、その要求を満たせるでしょう」
「ですな。普段ならばともかく、今回は翡翠色銀で装備を一新することになりますから、良い機会と言えます」
控えているロイヤル・オーダーの7割は女性だから、お父様にすごく期待の眼差しを向けてるわね。
コモン・オーダー、つまり一般オーダー用のデザインでさえハーフコート風だし見た目も良いんだけど、オーダーズマスターやロイヤル・オーダー用のデザインは膝上まであるコート風でマントまであるし、天騎士用なんて一目で分かる豪華さだわ。
これじゃロイヤル・オーダーが期待するのも無理ないわね。
「陛下、この圧力は並ではありませんぞ」
「そ、そのようだな。オーダーとして一目で分かる装備であり、実用性もあり、デザインも優れておる」
お父様がロイヤル・オーダーの圧力に屈しかけてるわ。
ロイヤル・オーダーからしたら嘆願してるデザインを改善してもらう良い機会だし、これを逃したら次はいつにかるか分からないんだからある意味じゃ当然なのかもしれないけど、一国の王が自分の近衛に圧力を掛けられるって、普通なら大問題よ?
「だが問題は、急ぎで仕立ててもらう必要があることか。グランド・クラフターズマスター、そなたの意見は?」
「そうですな。翡翠色銀は確定として、後はコートを仕立てる革が問題となります。オーダーズギルドは全ての支部を合わせると約1万人ですから、一斉に変更となると素材もかなりの数が必要ですし、時間もクラフターを総動員させたとしても、急いでも1ヶ月程は掛かりますな」
思ったより早く仕上がるみたいでビックリだけど、問題となるのはやっぱり革素材か。
「そういえば大和達のコートって、素材は何を使ってるの?」
「ウインガー・ドレイクですよ」
……うん、もうツッコまないわ。
終焉種を倒せるんだから、S-Rランクモンスターなんて片手間なんでしょうから。
「これが全て、ウインガー・ドレイクか……」
「ここまで来ると、呆れるしかありませんな……」
「ちなみに1匹は、陛下に献上するために持ってきてあります」
「感謝するぞ!」
お父様に献上する分まであるって、それを含めても5匹分じゃ利かないわよ?
ウインガー・ドレイクって希少種なんだから遭遇率だって高くないってのに、いったいどうやって狩ってたのかしら?
「それとフェザー・ドレイクでしたら、20匹近くありますよ」
……何て言ったらいいのかしらね?
聞けばエビル・ドレイクを討伐するために、たった2人でマイライト山脈に乗り込んで、そこで狩りまくったんだとか。
なんで生きてるのって言いたいけど、この2人だからってことを考えたら、別段不思議というワケでもないのかもしれないけど……。
「天騎士用はウインガー・ドレイクを使うとして、ロイヤル・オーダーは約200人、オーダーズマスターとサブ・オーダーズマスターは合わせて100人程だったか。さすがにフェザー・ドレイク20匹では足りんな」
ブツブツ言ってるけど、既にお父様の中じゃこのデザインで作ることは決定事項ってことじゃない。
「フェザー・ドレイクですか。確かイデアル連山にも、少数ながら生息していた気がしますが?」
「確かにいるが、マイライト程ではないぞ。しかもマイライトより広いから、探すのも骨だ」
そういえばいたわね。
イデアル連山は王都のすぐ東にある大連山で、標高こそマイライトより低いけど、広さはマイライトの3倍近くあるわ。
その広さもあって未だに中央付近は未踏破だし、世界樹があると言われているけど確認した者はワイバーンのような空を飛ぶ従魔を使役している者だけで、直接降り立った者はいない。
理由は世界樹付近が、Gランク以上の魔物の巣になっているから。
幸いにもその魔物が山を下りてくることはないけど、広いイデアル連山を移動することはあるから、狩りにでたハンターが遭遇して、大きな被害を受けることも珍しくない。
だからフェザー・ドレイクは、イデアル連山にいる魔物の中じゃ標準的な魔物になるんだけど、それでも群れで生活してるから普通のハンターからしたら手に負えないし、ウインガー・ドレイクも見たっていう噂があるから、普通のハンターは登ろうともしていないわ。
「ウインガー・ドレイクがいるのか」
「大和」
「ああ、近い内に狩りに行くか」
なのにこの2人は、狙ってた得物を見つけた狩人のように、目と目で会話してるじゃないの!
人の話聞いてた!?
「マナ、忘れてるかもしれないけど、あたし達はヒポグリフを従魔にしてるのよ?普通のハンターより行動範囲は広いし、何よりオーダーの新装備の案を持ち込んだのはあたし達よ?」
「そうそう。それに急がないといけない理由も分かってますから、近くにフェザー・ドレイクがいるなら、それぐらいは狩ってきますよ」
ウイング・クレストやその関係者達は盛大な溜息を吐き、オーダーは驚き、お兄様は固まってるけど、あなた達、自分が何を言ってるのか分かってるの?
「もちろん分かってるわよ。ただフェザー・ドレイクを狩りに行くだけじゃないの」
「他にもいるって話だけど、珍しい魔物もいるっぽいから、ついでに狩ってくるのも良いな」
ダメだわ、この2人。
どうあってもイデアル連山に行くつもりだわ。
「ちょっとミーナ。止めないの?」
「申し訳ありませんが無理です。そもそも終焉種を単独で倒せる人達なんですから、イデアル連山の中央がGランクモンスターの巣だとしても、お2人には障害にはなり得ませんし」
いや、それはそうなんだけどさ……。
「本当にフェザー・ドレイクを狩ってくることができるなら、是非ともお願いしたい。できればロイヤル・オーダー、オーダーズマスター用のコートには、フェザー・ドレイクを使いたいのでな」
「良いですな。それなら王家とクラフターズギルドの連名で、指名依頼でも出しますか?」
「それは良いな」
お父様とアルフレッドが悪ノリしてるけど、指名依頼まで出されたりなんかしたら、ますます止められないじゃない。
いえ、ロイヤル・オーダーの期待値が最高潮だから、どっちにしても止めるのは無理か。
「父上、依頼を出すのは構いませんが、まずはこの鎧で決定なのかどうか、そこからですよ」
「ん?おお、すまなんだ。天騎士用はウインガー・ドレイクで、オーダーズマスター、ロイヤル・オーダー用はフェザー・ドレイクを使うことも合わせて決定とする。コモン・オーダー用は従来通りワイバーン、グラントプス、プレシーザーを使いたいが、こちらは数に問題があるな」
特にワイバーンやグラントプスは、従魔としての人気も高いものね。
だけどプレシーザーも含めてCランクモンスターだから、同ランクの魔物で代用するって手もあるんじゃないかしら?
「マナリース殿下の仰る通りですな。となると、すぐに浮かぶのはフォレスト・パンサー、ロック・ボア、フレイム・バッファロー、エクレール・ドルフィンでしょうか」
「ヴァレイ・シープ、ガスト・ゴートなんてのもいますな」
トールマンとディアノスが上げた魔物は全てCランクモンスターで、アミスターじゃよく見かける魔物よ。
フォレスト・パンサーは森の中に生息してるから他の魔物より見る機会は減るけど、それでもよくハンターズギルドに持ち込まれているわ。
「ふむ、ライ、マナ。ハンターであるお前達に尋ねるが、これらの魔物は、頻繁に持ち込まれているのか?」
「私達は王都のハンターズギルドのことしか分かりませんよ?」
「分かっている。それでも参考にはなるだろうからな」
「なるほど。フォレスト・パンサーは数日に一度ぐらいですが、ロック・ボア、ヴァレイ・シープ、ガスト・ゴートは毎日必ず持ち込まれていますね。フレイム・バッファローは王都では滅多に見ませんが、場所によってはそれなりに持ち込まれると聞いた覚えがあります」
「エクレール・ドルフィンは海沿いの街で、数日おきに持ち込まれるって噂ね。海の中に生息してるから、狩りにくいって話じゃなかったかしら?」
噂程度だから正確にはわからないけど、エクレール・ドルフィンは海中に生息してるから、ハンターも積極的に狩ろうとはしないらしいわ。
だけど船を見ると襲ってくることが多いから、それなりの頻度で狩られてるって聞いてる。
「となると、ロック・ボア、ヴァレイ・シープ、ガスト・ゴートが候補か」
「いえ、ヴァレイ・シープは羊毛の方が需要がありますし、革はそこまで丈夫ではありませんから革鎧には向いていません。ガスト・ゴートの革は風を纏っていますから使い勝手は良いのですが、こちらは1人分の革鎧を作るのに丸々1匹使います。コモン・オーダー用の鎧だと、2匹分は必要になるでしょうな」
アルフレッド様がヴァレイ・シープとガスト・ゴートも向いてないって提言してくるけど、そうなると残るのはロック・ボアだけになるわね。
体長3メートルと大きく、土属性魔法を操ることができるロック・ボアは、山肌に多く生息している。
肉は硬いけど食べられないわけじゃないから、グラス・ボアと並んで一般的な食肉と言ってもいいかもしれない。
皮は革鎧の他にも色々な革製品に使われてるし、牙は剣の柄として使われることもあるから、買取額はCランクモンスターの中でも高い方ね。
だけど体が大きいし、土属性魔法で防御力を高めて鋭い牙で攻撃してくるから、倒しにくい魔物でもあるのよ。
ハイクラスなら問題なく狩れるんだけど、ノーマルクラスだと大怪我することもあるし、運が悪いと命を落とすこともある。
「それでも最有力候補だな。ところで、フレイム・バッファローはどうなのだ?」
「そっちは火属性魔法を常に纏っているようなものだから、近接戦は難しい。しかも角から火属性魔法を放ってくるから、Cランクの中じゃ最上位と言ってもいいんじゃないかな?」
お兄様の言う通り、フレイム・バッファローはCランクモンスターの中でも最上位と言っても過言じゃない魔物よ。
攻撃態勢をとると炎を纏ってくるのは勿論、角にまで炎を纏わせてからの突進はハイクラスにだって大きなダメージを与えることができるんだから、好んで狩るハンターは多くない。
だけど皮は炎への耐性が高いし、角は上手く加工すれば火属性魔法付与と同じ効果をもたらすから、需要に反して供給は高いのよ。
あと牛型の魔物ってことで、お肉も美味しいわ。
「炎への耐性は魅力だが、それほどの魔物となるとさすがに見送るしかないか」
「そうなるでしょうね。それにフレイム・バッファローは一部の地域にしかいないそうだから、コモン・オーダー用の装備には向かないと思うわよ?」
数を用意しなきゃいけないんだから、こればっかりはね。
「やむを得んか。ロック・ボアは、アミスター全域に生息しているのだな?」
「それは間違いありません。依頼を出せば、数日もあれば数が集まるでしょう」
でしょうね。
各地のハンターズギルドを通じて依頼を出せば、多分1週間もかからないんじゃないかしら?
もちろん、報酬次第ではあるけど。
「わかった。ではグランド・クラフターズマスター、コモン・オーダー用はロック・ボアを使うことにしよう」
「そうですな。ロック・ボアの革はグラントプスに近い性能ですから、翡翠色銀も使えば十分な性能になるでしょう」
これで鎧、というか、コートは本決まりね。
あとは剣と盾だけど、こっちこそ翡翠色銀を使わないといけないんだから、一新することは確定している。
多分だけど、こっちも大和とマリーナの案が通りそうだわ。
剣や盾も含めて装備が一新されるからロイヤル・オーダー、特に女性オーダーの喜びようったらなかったわね。
お父様も、近い内に装備を一新することだけは広めていいって許可を出してたから、すぐにでも王都中のオーダーに広まりそうだわ。




