グランド・クラフターズマスター
Side・エドワード
天樹城の庭園でラインハルト殿下達と談笑していると、いきなり親父達が来たって告げられて、思いっきり驚いた。
クラフターズギルド総本部には明後日行く予定だったんだが、待ちきれなくなりやがったな。
気持ちは分からなくもないが。
「殿下、グランド・クラフターズマスターと奥様方をお連れ致しました」
「ありがとう」
バトラーに案内されてやってきたのはドワーフとフェアリー、そしてラミアの3人だ。
「ご無沙汰しております、ラインハルト殿下、エリス殿下、マルカ殿下、マナリース殿下」
「こちらこそ。本日はどうされたのですか?」
「息子が嫁を連れて、重大な報告のために王都に来ているとグランド・ハンターズマスター、グランド・オーダーズマスターから聞きましてな。居ても立ってもいられず、こうして天樹城に押しかけさせていただいた次第です」
やっぱりかよ。
おとなしく待ってるとは思わなかったが、だからっていきなり城に押しかけてくるとは思わなかったぞ。
「だからって天樹城に押しかけてくるこたぁないだろ?」
「何を言う。お前が結婚したこともだが、お前が開発したという新技術は、1日でも早く広めなければならないんだぞ?」
「そうよね。同じ王都にいるんだから、無理やりでも時間を作って欲しかったわよ」
「2人とも落ち着きな。エドだって悪気があるわけじゃないんだから」
まくし立ててくるドワーフが俺の親父 アルベルト・アルフレッド、フェアリーが俺のおふくろ エアリス・アルフレッド、そしてラミアがキャサリン・アルフレッドだ。
キャサリン母さんにも娘がいたんだが、10年前の流行病で、ばあちゃんともども死んじまったんだよ。
マリーナにすげえ懐いてたから、あん時マリーナは思いっきり泣いてたな。
「わーったよ。陛下にも説明するつもりはあったんだから、先に話しとくよ。だけどその前に、こいつらを紹介させてくれ」
特に大和とフィーナのことは必須だ。
なにせ大和のアイデアがなかったら試そうとも思わなかったし、フィーナは俺の嫁さんなんだからな。
ってわけで、ウイング・クレストの面々を紹介していく。
大和とプリムがエンシェントクラスだってことにすげえ驚いてたが、大和が客人、プリムがバリエンテの元公爵令嬢だって続けると、さらに驚いてやがったな。
「な、なるほど、客人か」
「どうりでそんな発想が……」
「さすが、というべきなんだろうかねぇ」
俺達がウイング・クレストに加入したことも伝えたが、こっちは特には驚かれなかったな。
クラフターがユニオンに参加するのって、けっこう珍しいんだぜ?
「で、これがその合金だ。名前は右から翡翠色銀、青鈍色鉄、そして瑠璃色銀だ。つっても、瑠璃色銀は公表しないが」
「何故だ?」
「メジャーリングを使ってみて、それでも公表しろって言えるんなら構わないけどな」
「そこまで言うか。いいだろう」
「やるんなら、翡翠色銀からにしてくださいね。そっちのがいいと思うから」
「興味があるな。グランド・クラフターズマスター、申し訳ないがお願いします」
ラインハルト殿下もだが、マナリース殿下も興味津々だな。
特にラインハルト殿下はハイエルフだから、新しい金属ってのは気になるのも仕方ねえ。
「わかりました。エアリス、キャシー、2人も頼む」
「そうした方が良さそうだ」
「そうね。『メジャーリング』。えっ!?」
最初にメジャーリングを使ったおふくろが驚いて固まる。
「な、なんだと……?」
「これはまた……とんでもないね……」
親父とキャサリン母さんも驚いてるな。
その顔が見たかったんだよ。
「ど、どうしたんですか?」
「マナリース殿下も、金属の魔力強度、硬度、魔力伝達率を表す数値はご存知ですよね?」
「それはもちろん。鉄がオール5で、魔銀が6,5,8、だったかしら?」
金属の数値なんて、クラフターでもないと知らなくても不思議じゃないんだけどな。
って、陛下がクラフターだから、そっちの関係で知ってたか。
「そうです。ですがこの翡翠色銀という金属は、驚いたことに7,7,8という数値なんですよ」
「えっ!?」
「そ、それは、金剛鉄並なのでは?」
「魔力伝達率を考えると、金剛鉄以上と言っても差し支えありませんね」
マナリース殿下もラインハルト殿下も、思ってもなかった数値にすげえ驚いてる。
まだ2つ残ってるんだから、驚くのはそれからの方がいいと思うぞ?
「ということは、もしかして他の2つも?」
「順番ということは、次はこの真ん中の青鈍色鉄とやらか。『メジャーリング』。っ!?」
「この青鈍色鉄は、7,8,6って……」
「魔力強度が少し落ちるけど、完全に金剛鉄の上位互換ね。そう考えると、さっきの翡翠色銀は魔銀の上位互換になるかしら?」
「俺達やフィールのクラフターズギルドもそう考えてる。親父達は計ってなかったから教えるが、重さは翡翠色銀が600、青鈍色鉄が2200だぞ」
「それはまた……確かに上位互換と言っても差し支えないな……」
互換性があるってことは、重さも重要になるからな。
「使い勝手も、既に大和達やホーリー・グレイブ、フィールのハイオーダーが確かめてあるが、それは瑠璃色銀を見た後で教えてやるよ」
「瑠璃色銀……最後のインゴットね」
「翡翠色銀や青鈍色鉄の性能を考えると、見るのが怖いね……」
「だが見ないわけにもいくまい。『メジャーリング』。……はあぁ~っ」
見た瞬間、深い溜息を吐いた親父。
いや、その反応はどうなんだよ?
「ど、どうしたんですか?」
「殿下、この瑠璃色銀という金属、とんでもありませんよ」
「そ、そんなになんですか?」
「はい。なにせこの瑠璃色銀、8,8,7と、神金と変わらない数値なんですから」
「はいっ!?」
「オ、神金!?」
「マジ、なの?」
おふくろもキャサリン母さんも、驚きを通り越したのか冷静になっちまってるな。
「本当です。エド、これはどういうことなんだ?」
「合金ってのは、別の金属を混ぜ合わせる異世界の技術なんだと。大和とプリムがまだハイクラスだった頃に頼まれたんだが、それを作れば神金とはいかずとも、近い性能の合金ができるんじゃないかって考えて、色々とやってみたんだよ」
「俺としても、ここまでの性能になるとは思ってませんでしたが」
大和の奴は、翡翠色銀辺りの性能になるんじゃないかって思ってたらしいからな。
俺もまさか、本当に神金並の合金ができるとは思わなかったから、そう考える大和の気持ちも分からんでもなかったが。
「作り方はこれに詳しく書いてあるが、簡単に言えば魔銀や金剛鉄に、晶銀を混ぜたんだ。親父、これでも瑠璃色銀を公表するか?」
「できるか、こんなもの!」
一瞬の間すら置かずに答える親父。
瑠璃色銀がどれだけヤバい物かは理解できたみたいだが、さすがはグランド・クラフターズマスターってとこか。
「というか、この翡翠色銀や青鈍色鉄も、一斉に公表して導入しないと、かなりマズいことになるわよ?」
「それについても、フィールのクラフターズマスターから言伝を預かってる。だけどどうするかは、親父達が決めてくれ」
「貸せ」
親父はラベルナさんからの意見書を俺からひったくると、すぐに読み始めた。
「……なるほど、あの魔導具を使って、アミスターのクラフターズギルドに一斉に公表し、最優先で翡翠色銀を用意し、オーダーズギルドの装備を一新か。レティセンシアと開戦する可能性がある以上、確かにこれは最優先だな」
「確かにそれが最善って感じね」
「だな。だがその前に、陛下にもお教えしてからになるんだろう?」
「それはこの後陛下に謁見することになってるから、そこで報告するつもりだよ。ああ、ついでって訳じゃないが、それは土産だ」
鑑定させたインゴットを、そのまま親父達に押し付ける。
瑠璃色銀はどうしようかと思ったが、グランド・クラフターズマスターも1つぐらいは持ってた方がいいだろうって大和達も言うし、せっかくだから甘えさせてもらった。
「助かるわ。現物があった方が、説明はしやすいから」
「瑠璃色銀だけは、厳重に保管させてもらうけどね」
「だな。っと、忘れるところだった。エド、使い勝手はどうなんだ?」
俺も忘れるところだった。
ある意味じゃ、これが一番重要だからな。
ラインハルト殿下も興味津々で、しかも期待の眼差しを向けてきてるしな。
「青鈍色鉄はホーリー・グレイブしか使ってないが、何も問題なかったらしい。翡翠色銀はこいつらが少し前まで使ってたが、これも同じく普通に使えてたぞ。瑠璃色銀は言わずもがな、だな」
「つ、つまりエンシェントクラスが問題なく使えていたということは、ハイクラスでも使えるということだな?」
ラインハルト殿下が凄まじく食いついてくるが、ハイエルフだってことを考えると仕方ない。
実際、何度も武器を変えてるだろうからな。
「エンシェントクラスが普段使いしても問題ないとなると、これは本当に凄いことになるわよ」
「ああ。ただでさえハイクラスはよく武器を買い替えているし、普段でさえ魔力を抑えていると聞いている。だがこの翡翠色銀、青鈍色鉄を使えば、武器を買い替える必要がなくなるのはもちろん、魔力を抑える必要もなくなる」
「実際オーク・クイーンは、ホーリー・グレイブのハイクラスとハイオーダーの13人で討伐に成功していますから、戦力アップは間違いないかと」
「さ、災害種をたった13人で!?」
驚くエリス様だが、こいつらはさらにその斜め上を行ってますよ。
「し、しかもオーク・クイーンといえば、P-Cランクモンスターだ。アミスターでも最上級と言えるランクだが……それをその程度の人数で倒せるということは、間違いなくハンターやオーダーの戦力、生存率は上がる……」
それはフィールでも言われてたな。
実際にはホーリー・グレイブやハイオーダーが連携したからってのもあるんだが、それでも従来より少ない人数で災害種を倒せたわけだし、異常種はさらに少ない人数で相手できるって考えられてるから、オーダーはもちろんハンターへも早めに回したいってハンターズギルドからも言われてるとか。
幸いフィールのハイクラスはハンターズマスターとホーリー・グレイブだけだから、しばらくはせっつかれることはないんだが。
「それと、大和」
「ああ。実はユーリアナ殿下と婚約できたら、これをラインハルト殿下にお渡ししようと思ってたんです」
「私に?」
「ええ。ハイエルフだから武器に困ってたでしょうし、義兄になる方なので、これぐらいはと思いまして」
そう言って大和は、ストレージからラインハルト殿下用に打たれた瑠璃色銀製の剣を取り出した。
じいちゃんが打ってる時から思ってたが、すげえ派手だよな。
「こ、これは!」
「すごい……豪華な剣ね」
「装飾だけじゃなく、色も派手ね。これをライに?」
ラインハルト殿下、エリス殿下、マルカ殿下が見とれている。
じいちゃん入魂の一振りだから、性能的には大和の刀やプリムの槍と大差ないと思う。
「はい。これは瑠璃色銀を、リチャードさんに頼んで打ってもらった剣です。幸いにもリチャードさんは、ラインハルト殿下のクセや好みをご存知でしたから、良い物ができたと言っていました」
「リチャード師が?しかも瑠璃色銀を使ってなど……本当に私が使っても良いのか?」
「そのために頼んだ剣ですから」
震える手で受け取って、鞘から抜き放つラインハルト殿下。
「美しい……。父上が打った剣も素晴らしいが、さすがリチャード師の作だ」
「陛下には申し訳ありませんが、さすがは陛下のお師匠様ですね」
「だね。あたしも一振り欲しいぐらいだよ」
余裕があったらマナリース殿下、エリス殿下、マルカ殿下のも打ったんだが、時間的にも金剛鉄的にも足りなかったからな。
それに3人はハイクラスに進化してないから、急ぐ必要もなかったってのもある。
「ありがとう。最高の贈り物だよ」
「羨ましいわね」
「申し訳ありません。金剛鉄が足りなくなってきたこともありますけど、何より時間がなかったので、お三方の武器は用意できなかったんです」
ラインハルト殿下に贈られた剣を見て、本当に羨ましそうにしているマナリース殿下、エリス殿下、マルカ殿下の3人。
エリス殿下は細剣、マルカ殿下は手斧2丁、そしてマナリース殿下は多節剣を使ってるってのもあるからな。
細剣ぐらいならなんとかならなくもなかったが、それはそれで問題だってことで、今回は見送ってるんだよ。
「ふむ。それならエド、材料さえあれば瑠璃色銀は作れるんだろう?」
「そりゃ出来るが、けっこう魔力を食うぞ?1日に5本が限界だからな」
「あなたでもそんなに魔力を食うの?エド、翡翠色銀や青鈍色鉄は?」
「そっちは20本以上はいけるぞ」
瑠璃色銀を公表できない理由の1つが、魔力効率の悪さだからな。
フェアリーのおふくろやラミアのキャサリン母さんならともかく、ドワーフの親父じゃかなり辛い。
「エリス殿下は細剣、マルカ殿下は手斧、マナリース殿下は多節剣か。ということは、最低でも10本は欲しいな」
何やら考えてる親父だが、まさか俺に瑠璃色銀を用意させて、自分が作ろうって考えてやがるのか?
だけど、その考えは甘いんだよ!
「悪いな、親父。瑠璃色銀のインゴットは10本ぐらい用意してあるんだが、これは陛下に献上予定だ。だから多分、陛下が打ってくれると思うぞ?」
「な、なんだと!?」
これで予備も無くなるし、フィールにも金剛鉄はほとんど残ってないから、帰る際に王都はもちろん、他の街にもよって金剛鉄を買わないといけないんだけどな。
「お、おのれエド!父には使わせないつもりか!?」
「1本は渡してあるんだから、それで何か打てばいいだろ?」
「短剣ぐらいしかできんわ!」
うるせえ親父だな。
公表できないんだから、いい加減諦めろよな。




