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第四話 お嬢様の幸い

 うん、やっぱりこのお嬢様には深窓の令嬢なんて無理だったか。分かっていたけど、思った以上にぶっ壊れるの早かったな。やっぱり、無理は体に悪い。

 

 現実逃避はこの辺にしたとして、この状況をどうすべきか。

 王子様に逆ギレってどうよ、いやダメだよヤベェよ。でも内容は一緒にいたいって訳分からん。告白か、半分正解。


 私が内心で騒いでいる内に正気を取り戻したシルヴィア様はさっきまで赤くしていた顔が真っ青、血の気が引ききっていて倒れないか心配になる。

 口をはくはくさせているが、声が出ないらしく空気が音もなく落ちていくだけ。


「……レオノーラ様、申し訳──」


「ふ……っ」


「……?」


 死にそうになっているシルヴィア様の代わりに、とりあえず謝罪だけでもと頭を下げた……が、頭頂部に届いたのは圧し殺した様な声。

 場面的には怒りを内包していると思うべきなのだが、何だがちょっと震えて聞こえたのは気のせいか。

 

「ふ、くく……っ」


「……あの、レオノーラ様?」


 様子を伺う為に少し顔を上げると、両手を上げ肩を竦めたラファエルと……何故か口に手を当てて肩を震わせながらも笑い声を抑えきれていない、レオノーラ様。


 ……え、ここ笑うとこ?


「くく……、あぁ、すまん」


「いえ、こちらこそ……」


 謝罪はしているけど、まだ声が笑ってますよ?いや

良いんですけども。

 予想外の反応に私も、さっきまで息の根が止まりそうだったシルヴィア様もぽかーんだ。間抜けだが、仕方がない。下手したら怒鳴られて、紅茶ぶっかけられても文句は言えない事しましたけど……シルヴィア様は全力で庇う気でしたが。


「やはり、シルヴィアは変わっていないのだな」


「え……ぁ、レオノーラ、様」


「レオで良い。今さら取り繕っても遅いぞ」


「で、でも……」


「昔もそう呼んでいたろう」


 幼い頃からの知り合い、むしろ幼少期は仲良く遊んでいた友達だった二人。それが名ばかりの幼馴染みとなったのは、しばらくの間音信不通期間があったから。

 勿論お互いがどこに住み、社交界では顔も会わせていたけれど、友達と呼べる交流は皆無。交流頻度と心の距離がイコールしてしまう幼い頃は、あったはずの気安さが消えるのも仕方がない事だろう。


「でも、レオノーラ様は王子様で……」


「その王子に訳の分からん理由で怒鳴ったのは誰だ」


「あ……ぅ」


「俺もシルヴィアと呼ぼう……幼馴染みなのだから」


 元々、シルヴィアと呼び始めたのはレオノーラ様らしい。

 私が専属となる前の話で旦那様達に聞いた事なのだが、ご両親はシルヴィと呼ぶのにレオノーラ様の呼び方を気に入ったシルヴィア様は、しばらく自分の事を『シルヴィア』と呼んでいた。私がシルヴィア様とお呼びするのもそれが理由。


「レオ、様……」


「それでいい」


 さっきまでの冷たい風が吹き抜ける雰囲気はどこへやら。 再び赤くなったシルヴィア様を見るレオノーラ様は穏やかな空気感をまとい、微笑みまで浮かべている。

 これは……どういう展開?一見ピンクな感じだが、幼馴染み特有の関係性とも考えられる。そして確実に後者。


 色々と釈然としない様な気もしなくもないが、良い方向に展開したのは確かなので突っ込まない事にした。

 談笑する二人を微笑ましく思いながらも、私は執事として物言わぬ空気に徹しながら仕事をこなした。物音を立てないのは執事の必須技術です、忍者ではありません。



× × × ×



 お茶会を終え、自宅へと帰ってからもシルヴィア様は夢心地から帰ってこれない様だった。幸せそうで何より。


「シルヴィア様、お着替えの用意が出来ました」


「えぇ……」


「……シルヴィア様、制服が皺になってしまいますよ」


「えぇ……」


「……良かったですね」


 何と声を掛けてもソファのに座ってボーッとしている。一応返答はあるが、肯定しかせず動かないなら同じだ。今ならお金とか騙し取れそう。

 さすがお嬢様、姿勢は美しいままだがスカートをくしゃっと踏む形で座っているせいで確実に皺が出来ている。明日の分は勿論他に用意しているので問題はないが、着替えてもらわないと洗濯が出来ない。

 しかし今はどれだけ話しかけようと上の空から帰還すろとは思えないので、洗濯は明日に回そう。幸い予備の制服は無駄にある。

 嬉しそうなシルヴィア様の姿を見る事は私にとっても幸いな事なのだから。



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