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第二話 そう簡単に物事は運ばない

 昼食の時間は、忙しい様でそうでもない。料理のセッティングさえしてしまえば後はご主人様の補佐、脇に控えて呼ばれるまで棒立ちが常だ。

 食堂はそんな人がちらほら、専属がいない者は各々で好きに食べている。


 家でも毎日している事だから今さら準備に手間取る訳もなく、あっという間にセッティングは終了した。シルヴィア様が食堂に到着されるよりも早く、飲み物のお代わりまで完璧に用意している。


「シルヴィア様、こちらへ」


「……ニア、これは」


「本日はランチセットのBがよろしいと……変更なさいますか?」


「そうではないわ!この、席……っ」


「シルヴィア様、大きい声を出してはレオノーラ様に失礼ですよ」


 シルヴィア様の食事を用意したのは、レオノーラ様の目の前。机は広く、正直向かい合っていてもそれなりに距離があるのだ意味があるのか微妙だか、シルヴィア様の反応を見る限り恋する乙女には充分近すぎる距離だったらしい。

 ラファエルと共謀したものの、まずはシルヴィア様がレオノーラ様との距離に慣れなければ何とも出来ない。席が近いだけでこれだから、話し掛けるとか夢のまた夢な気がしてきた。


「あ……も、申し訳ありません、レオノーラ様」


「いや、構わない」


 本当に気にした様子もなく、むしろシルヴィア様の声が耳に入っているのかも疑わしい程に軽い返事だった。シルヴィア様には充分過ぎるほどだったらしいけど、言葉を交わしただけで顔真っ赤。


「さぁ、どうぞ」


「……いただくわ」


 渋々……いや、内心は喜んでいるんだろうけど、恋する乙女は面倒だ。近くにいられて嬉しいくせに、恥ずかしい。見て欲しいけど見られたくない、会いたいけど会いたくない。矛盾だらけで私には理解しにくいが、恋愛には積極性が大事……らしい。

 とりあえずシルヴィア様の挙動不審には目を瞑り、少しでもレオノーラ様と関わる理由を見つけねば。


 食事中は最低限の言葉しか話さないので、機会は食後のティータイム。


「そういえばシルヴィニア様、先日はご挨拶が出来ず申し訳ありませんでした」


「え……?」


「ラファエルです、覚えてらっしゃいますか?」


「ラファ……えぇ、覚えていてよ。昔からレオノーラ様の専属をしてましたわね」


「はい、お久しぶりです」


 いきなりレオノーラ様に話しかけろといってもシルヴィア様には難しい。だからといってレオノーラ様から話しかけてくれる訳もないし、私が取り持つにも話題がない。

 なので、早速ラファエルに一肌脱いでもらった。


「お姿を拝見しない内に一段とお美しくなられましたね」


「まぁ、相変わらず口が上手いのね」


「いえいえ、本心ですよ。社交界でも男性が放っておかないのではないですか?」


 おい、本気で口説きにかかってないか?シルヴィア様も煽てに弱いから、その気も無いのに顔を赤らめて満更でもないって顔しないで下さい。

 

「レオ様もそう思いませんか?」


「俺……?」


 少々強引だが、本来の目的は忘れていなかったらしい。私が笑顔でガン見したのもあるだろうけど。だってこいつ、女好きで守備範囲(ストライクゾーン)に限りないから。博愛といえば聞こえはいいけどただ節操なく優しいだけ。

 とはいえ、レオノーラ様の名前にシルヴィア様の意識から一瞬にしてラファエルの存在が消えた。


「……」


  ジッとシルヴィア様を見つめるレオノーラ様に、何だかこちらまでドキドキしてくる。シルヴィア様の緊張が移ったか。

 別に告白したわけでもないし、ただ綺麗ですよねって聞いただけ。余程の事がない限り社交辞令の肯定が返って来るだろう。実際シルヴィア様はとてもお美しい方ですし。


「……さぁな、俺にはよく分からない」


 バッサリ、一刀両断。社交辞令とか王子様には関係ないんですかね、むしろ一番いるだろ。社交界ってあなたを中心に回りますからね?

 一見すると答えたくない、否定したいけど濁した、みたいなマイナスに聞こえる反応。勿論単純なシルヴィア様もその通りに受け取ったらしい。さっきまで緊張と少しの期待で赤くなっていた頬から色が抜けて、真っ青とはいかずとも血の気な引いた白い肌は体調不良を疑えるレベル。

 なまじ自分の容姿に自信のあるタイプだから、私もシルヴィア様の見目は綺麗だと思っていた分ちょっと驚いてる。


「ラファエル、俺は教室へ戻る……それでは、失礼」


「あ、はい。失礼致しました」


 立ち上がって、固まっているシルヴィア様に関しては特に気にした様子もなく、去っていく後ろ姿には取り付く島もない。

 私に目配せしたラファエルとは後で話すとして、問題は固まったまま動かない我がお嬢様。

 大丈夫?息してる?


「……シルヴィア様?」


「……ッ」


「ああああ、泣かないで下さい」


「ない、泣いてないわ……っ」


 どんな嘘ですか。目の縁に涙が一杯で瞬きしたら落ちそうですけど。

 私の稚拙な作戦が失敗に終わったのは、言わずもがな確定といった所か。シルヴィア様を傷付ける結果に終わった事への罪悪感は計り知れない。 

 とりあえず……後でラファエル殴ろう、八つ当たりとか知るか。

 

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