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第十七話 愛すべき悪

 自分が世界の中心だったなら、そう望まない者はいないだろう。愛する人の心が丸ごと自分の物になったならと。

 そんな夢を疑似体験させてくれる、乙女ゲームの世界が大好きだった。

 沢山の美しい男達が自分を愛し慈しんでくれる、なんて幸せな時間だろう。多種多様な世界で、色んなタイプのイケメンと恋をしてきた。

 そんな中で、私は一人の運命の人を見つけたの。


 ラファエル・ガードナー。


 身分差をテーマにした乙女ゲーム『運命が君色に染まる』の隠しキャラ。メインヒーローである王子様の専属執事なのだが、ロックが解除されるまでは他の人のルートでも絵がないモブの様な扱いで。

 他三人をクリアした私が初めて彼を見た時から、私の世界は彼一色。正しく、世界を染め上げられたのだ。

 白銀の髪も鮮やかな碧い瞳も、片方だけ見えた耳の形まで全てが美しい人。誰にでも優しく紳士的なのにヒロインに……私にだけ見せる嫉妬心は特別の証。

 現実逃避だなんて馬鹿にする声もあるけれど、そんなのどうだっていい。私にとって、ラファエルこそが世界の全てなのだから。


 そんな私の愛が神様に通じたのだろう。

 気が付けば私はゲームのヒロインであるラーナになっていた。


 歓喜とは、こういう時に使う言葉なのだろう。

 幸福に心が浸る感覚は夢の様だったけど、確かに現実だった。

 ラファエルと同じ世界にいる、同じ空気が吸える幸せ。ラーナというポジションは、もう神様のお告げとしか思えない。


 私に、ラファエルと結ばれろと言っている。

 

 隠しキャラである彼だが、何度も何度も台詞を丸暗記するまでプレイした私に死角はない。どうやって出会い、どういう選択肢をすればいいのかまで完璧。

 表情や行動も、文字でならば覚えている。スチルも何度となく繰り返し見てきた。


 完璧だ。やっと、私の恋は報われる。

 ラファエルと幸せになる未来はすぐそこだ。


 そう、思っていた。



× × × ×



「何で……何で、何で何で!!」


 学園から帰宅した私は、自室のベッドで枕を力任せに殴り付けry。柔らかな感触は発散するどころかさらにストレスを倍増させた。


「ちゃんとしてるのに、完璧なのに!出会いイベントもちゃんと起こしてサポートだって!シルヴィアから庇ったしフラグだってちゃんと立ててるはずなのに!!」


 出会いイベントの日付がずれたから?でもサポートにはついて貰えたし、距離だって少し強引だけど縮めてる。フラグもイベントも全部ちゃんとしてきた、シルヴィアが全然出てこないのは誤算だったけど、元々ラファエルルートでは他よりも出番が少ない。重要な食堂でのイベントではちゃんと好感度を上げる選択肢を選んだ。


 完璧だった、私の行動は正しくラファエルに愛されるはずの物。

 今日のキスで、後はハッピーエンドの幸福を待つだけになるはずなのに。


「何なのよ、あの女……!!」


 思い出す、私達の神聖なキスを邪魔した女の後ろ姿。

 ニーア・ハニーナ。シルヴィアの専属執事だという、一見男性の様にも見えるが性別は女性だと聞いた。その美しい外見から男装の麗人などと持て囃されているが、私は彼女の事を全く知らない。

 シルヴィアの専属は、地味で何の特徴もないモブメイドだったはず。


「あんな女、ゲームにはいなかった」


 正直、ラファエルを知ってからは他のキャラなんてどうでも良かったから忘れているだけとも考えられるけど、少なくともラファエルと関わる人物の中にはいない。

 私はラファエルの全てを覚えているのだから、彼に関わる人物を、それも女を忘れる訳がないのだ。


 そして何よりおぞましいのは、ラファエルにとってあの女が一定以上の割合を占めている事だった。


 恋愛ではない。ラファエルが愛せるのも愛していいのも愛するべきなのも全て私ただ一人なのだから。

 でも、それでも、現時点であの女がラファエルの心を乱している事は事実。だからラファエルは、私への気持ちを自覚し素直になる事が出来ないのだ。


「……あぁ、何だ。そういう事なのね」


 現実はゲームとは違うと、知っていたのに失念していた。先入観とは恐ろしい、すっかり騙されていた。

 本来あるべき悪がいないからラファエルは私を愛していると気付けない。私もシルヴィアを悪だと決めつけていたから上手くいかなかった。

 あぁ、どうして気付けなかったのだろう。


「あの女なのね」


 ニーア・ハニーナ。

 あの女こそが、私達の運命の恋を後押ししてくれる、素晴らしい踏み台だったのだ。

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