表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

第十二話 紅茶の味

 シルヴィア様がレオノーラ様に聞いた話を教えてくれた。

 どうやら先日出掛け、私達を送った帰り道。お城につく直前に事故があったらしい。言わずもがな、加害者がラファエル達の乗った車で被害者がラーナ様。

 幸い直撃はしなかったものの、車に驚いたラーナ様は倒れた時に右手足に怪我をしてしまった。

 命に別状はなく後遺症の心配もないらしいが、利き手利き脚だった事から生活に支障が出るので治るまでラファエルがサポートをする事になった。

 事故自体はラーナ様の前方不注意でもあったので両成敗、本来ならば医療費の負担程度で終わる所。しかし怪我の一因にはなったのは事実だというレオノーラ様からの厚意で、レオノーラ様の専属であるラファエルが貸し出されたのだという。


「まぁ、予想通りっちゃそうだけど……」


 普段なら簡単に導き出せた結論。実際食堂に現れた彼女は右手足に包帯を巻いていたし、少し足を引き摺っていた様にも思う。

 さすがに事故は想定外だが、ラファエルが女性に優しいなんていつもの事で。これまで何度となく、腕を絡める以上のアプローチだって見てきた。

 分かっているのに……あの時の私はどうしてあんなにも動揺したのだろう。


 二人が一緒にいた事が、あんなにも衝撃的だったのは何故だ。


「……ラファエルの、せいだ」


 あんな訳の分からない行動で人を混乱させて、こっちは自分の気持ちすらコントロール出来なくてもやもやするのに。

 そんな時に可愛い女の子と一緒にいたりするから、しかもそれがゲームのヒロインでもしかしたら敵になるかもしれない相手なんて。動揺するなという方が無理だろう。


「……考えるの止めよ」


 どうせしばらくラファエルはラーナ様についている。怪我のサポートだから授業にもお供するだろう。執事室にも、ほとんど顔を出さない。

 その間に私のこのよく分からない感情も落ち着いていると信じて、時間が解決してくれるとはよく言ったものだ。


「ニーア……」


「っ……ティアベル様、ごきげんよう」


「ん、こんにちは」


 誰もいないと思っていたから独り言バンバン言ってたのに、突然後ろから声をかけないで欲しい。

 聞かれて困る様な内容では……ちょっと微妙。私の羞恥心的に。

 勿論、ここは執事室ではなく裏庭の一角なのでいてはいけない事はない。むしろ公共の場ですが、授業中に人が来るなんて思ってなかった。


「珍しい所でお会いしますね。ここはあまり人は来ないのですが」


「うん、ニーアが行くのが見えたから……追いかけて来た」


「……何か、ご用ですか?」


 一瞬ストーカーを連想してしまったが、 さすがにそこまで暇じゃない……はず。最近よく声をかけられるからって警戒しすぎだな。


「あの……紅茶、好き?」


「えぇ、まぁ……」


 突然なんですか、脈絡どこよ。


「良かった。なら、これ」


 持っていた紙袋を手渡されて、思わず首を傾げる。とりあえず受け取ってはみたものの、これは開けるべきなのか。

 少し迷ったが、その場から動こうとしないティアベル様に開封すべきと判断した。


「これ……紅茶?」


 中に入っていたのは、可愛らしいデザインの紅茶缶。蓋がしっかりテープ留めしてある所を見ると、まだ封も切られていない新品で。

 銘柄も結構良いやつ、少なくとも私が知っているくらいには有名な。


「あの、何で……」


 紅茶が好きだとは言ったけど、貰う理由が分からない。というかこの人の行動が分かった事などない。

 ゲームの攻略対象である事は思い出したものの内容とかキャラ設定とかはさっぱりなんです。


「さっき、見かけた時……元気ないみたいだったから」

 

「え……」


「慰めるとか、下手だし……喜ぶかなって」


 説明が下手なのか、ただ口数が少ないタイプなのか、困った顔で必死に言葉を探している。

 私の翻訳が間違っていないなら……元気付けようとしてくれた、って事なのだろうか。やり方が思い付かなかったから、持ってた紅茶を使って。

 私が紅茶嫌いって答えてたらどうしたんだろう。


「えっと……よかったら、飲んで。貰い物で申し訳ないけど、結構良い所のだった言ってたから」


「…………」


「あの……じゃあ、俺はこれで」


 黙り込む私に、居心地が悪くなったのか。もしく自分が邪魔だと思ったのか……後者な気がする。私の困惑を無視して喋りかけてくる図太さがあるのだから。

 

「──待ってください」


 私の返答を待たずに背を向けた先生を呼び止める。

 一人で完結されるのは困るのだ。私はまだ何も言っていない。

 迷惑も邪魔も、感謝さえも伝えていない。


「……今から、お時間ありますか?」


「え……うん、授業はもうないし放課後まで暇だけど」


「では……一緒に、どうですか?食堂でティーセット一式を借りて参りますので」


「一緒……?」


「紅茶のお礼をさせて下さい……頂き物で申し訳ないですが」


「っ……うん、ありがとう」


「こちらの台詞です。紅茶……ありがとうございます」


 その後私達は食堂で借りたティーセットを持ち中庭で小さなお茶会を開いた。いつもならラファエルがいる私の隣にティアベル様がいるのは少し違和感があったけど、不思議と嫌ではなくて。

 可愛らしい赤い紅茶缶の中身は、甘く優しい味がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ