プロローグ
「なぁ相棒。タバコ一本くれよ」
「なんだ、またかよ。俺はお前の友達じゃないんだぞ?」
「そう言うな。長い付き合いじゃねーかよ」
「全く。ほらよっ」
そう言うと相棒と呼ばれていた男は胸ポケットからタバコの入った箱を取り出し、器用に片手で一本取り出し男に投げた。
それを受け取った男は、ライターで火をつけるジェスチャーをする。
それに、チッと舌打ちをしながら相棒と呼ばれる男は、鉄格子の間から手を伸ばし火をつけてやる。
「毎度毎度火をつけてくれるなんて優しいよなぁ。流石、名看守ドンさんだな」
「自分の立場わかってんのか?それともずっとこんなところに閉じ込められて脳みそ沸いたのか?囚人に火器渡す看守なんているかよ」
ドンはふーっと長く、溜息のようにタバコの煙を吐き出し悪態をつく。
それに男もふーっと煙を吐き「そうだな」と返す。
「それにしても哀れな奴だな」
タバコの灰をトントンと、落としながらドンは呟く。
「それはお互い様だろ?俺だって好きに捕まってんじゃないよ」
「お互い様か……そうだな。免罪で独房行きのお前と、厄介払いでその監視役の俺だもんな」
そう言ってドンはタバコを地面に押し付ける。
男は最後までタバコを吸い同じ様に火を消して苦笑いした。
「まぁ、いいじゃないの。似た者同士仲良くなれたんだし」
「バカ。一緒にするな。俺は仕事が出来すぎて腫れ物扱いなんだよ。その点お前はただ不運だよ」
「不運って言う点では同じじゃんか」
「うっせ。で、捕まえたやつとか恨んだりしないのかよ?」
ドンは立ちながら、檻の中で座っている男に聞いた。
それを聞いた男は、溜息をつきながら両の手の平を上に向け、首を振った。
「仕事が出来すぎるエリートのドンさんは軽い冗談も言い合えないのかよ……」
「はぁ、真面目に聞いている」
ドンは小さな声でそう言って、下を向く。
しばらくの沈黙があり、男は「わかったよ」と、また首を振る。
「恨んでないと言ったら嘘になるが、それより何故って言う疑問の方が大きいよ」
ドンは答えが返ってくると思ってなかったのか、びっくりした様子で独房の方に視線を向ける。
「捕まった理由がわからないから恨めないと……」
「そう言う事。別に俺が優しいとかじゃないよ」
「そうか」
ドンは地面から天井へと視線を向ける。
この男が捕まった経緯は知っている。それが全くの免罪で、誰かの陰謀で捕まっていることも。
全部知っていると言うだけに、この男が何故こうにも余裕というかあっさりしているのか疑問に思うのだ。
数年この男の看守を勤めているがそれだけは未だに理解できていない。
「なぁ」
独房の中の男がドンに声をかけると、ポイっとタバコが投げられる。
それを、当然の様に取り咥える。ドンはそれに慣れた手つきで火をつける。
「悪いな。話してるだけだと手持ち無沙汰でね」
「ふーっ……。お前のそういうとこは分かるんだか、どうにもその奥がわからんな」
「あー……しみったれた話は苦手でな。そんなことより」
と、指で上を指す。
「なんか上の方騒がしいが、なにかあるのか?」
「ん?あぁ。なんでも、どこかの社長さんがくるらしい」
ドンは首を傾げながら答える。
男も「社長?!」と首を傾げた。
「こんなところにご苦労なことで。余程趣味のいいやつだな」
「独房にぶち込まれて何も言わないお前よりはな」
男は小さく笑いながら「仰る通りで……」と言いながら、タバコを地面に押し付けた。