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7話 戦火

こんばんは、3週間ぶりの更新となってしまいました。遊月奈喩多です!

第7話、「戦火」です。

タイトルの通り、戦いのお話ですよ。それでもアクション回として見て頂いていいのか判断が難しいことにはなっていると思いますけれども……(-_-;)

日々、勉強あるのみ! ですね。

蛇足な文章はここまでにして……本編スタートです!

 トルッペン砂漠の周縁部に位置するヴァイデ集落の入口。

「何だよ、これ……」

 目の前に広がる惨状を前に、ルキウスはそれ以外の言葉を口にできなかった。

 灰塵が舞い、所々から火の手が上がっている。耳には悲鳴と慟哭が、鼻には血と硝煙の臭いが絶え間なく入り込んでくる。

 集落の入口まで逃げてきた女性が、後ろから男たちに捕らえられ、地面に引き倒されて喉を切りつけられる。顔面が崩壊した父の亡骸の上に乗せられ、強引に体を上下させられる幼子。両手首を杭で刺し貫いて壁に固定され、少しずつ肉を削ぎ落とされて泣き叫ぶ青年。

 集落の入口だけで、そのような光景がいくつも目に入った。

 残酷で醜悪なその光景に、ルキウスは思わず目を背ける。しかし、次に聞こえた声がルキウスの視線を正面に戻した。


「はっははぁ……っ! こいつぁ楽しいや! 食糧だの金品だの奪うだけじゃ味気ねぇものなあ!!」

「この泣き顔がたまらねぇんだよなぁ~、ほら、どうした! もっと動けや!」


 この景色に似つかわしくない、楽しげな笑い声。


「お前らはなぁ、俺たちの栄養源なんだよぉぅヒヒヒヒヒ……」

「優れた者は劣る者を食って生きる。な? 当たり前の道理だろうがよ!」


 何故この惨状の中で笑っていられるのか。笑う男たちの様子は、ルキウスの理解を超えていた。馬車の中からの様子を見ていたフランツは胃の内容物を嘔吐し、エスタも静かに、しかし確かに怒っている様子だった。そして、馬車の進路を変えてこの集落を訪れたファーネは。

「……あいつ」

 能力によって集落の中まで見ていたファーネは、その千里眼で「その人物」を見つけた。

 かつて、自分の家族を奪った張本人。

 集落を荒らしている「レジスタンス」の指揮をしているわけでもなければ本部で控えているわけでもない、ただの一般兵である。しかし、忘れもしない左頬の十字傷。その姿に復讐する為だけに、ファーネは生きてきたのだから。

 復讐心に駆られるファーネと、怒りに駆られるルキウスがほぼ同時に前に進み始める。

「待て、ルキウス! ファーネ!」

 と、馬車から鋭い声が響き、エスタが2人を引き止める。

「!?」

「何だよ、おっさん!」

 振り返る2人の批難がましい――ファーネに至っては、エスタをも殺してしまいそうな――視線を真正面から受け止めて、「お前たち、今どうするつもりだった?」と尋ねる。

「………………」

「決まってんだろ、あいつらを止めに、」

「あの人数を相手にか?」

 エスタに促されて、ルキウスは再び集落に目を向ける。惨状自体に目が行くのを堪えて、それを引き起こしている「レジスタンス」が何人いるのかを確認するために。視界に入るだけで、その人数は10人程度。その奥に見える集落の様子から、略奪と殺戮を楽しんでいる者は、全体としてもっといるようだ……というのが、ルキウスにわかる精一杯だった。

 ルキウスの能力は1度使うと本人に大きな負担がかかる空間移動。エスタの能力は見たものの性質を見抜く解析。ファーネの能力は千里眼。武装した数十人(その中には人間だけでなく何らかの能力を持った魔族もいる可能性がある)と戦うことに向いているとは言えない。それでも、ルキウスはそれを理由に退くことなどできそうになかった。


 あの子も、そういうやつだったな。


 エスタは今ここにはいない――自分たちを守るために敵の手に落ちた――人間の少年を思い出す。

 カイルとの出会いは、恐らく彼の真正面から物事に向き合い、そして時には災いするくらいに優しい性格がなければなかったものだろう。

 ルキウスが自分を見つめる視線は、カイルが確かに自分たちといた事実を思わせて。ここにいなくとも、確かに影響を残すことで自分たちの旅は終わっていないのだと訴えかけられているようで。

 そして、話をしながらも考えを巡らせることで現状を把握して。

 エスタは、千里眼で集落を見つめながら今にも後先考えず飛びかかっていきそうな敵意を迸らせているファーネに声をかける。

「ファーネ、どこに何人いるか、確認できるか?」

 そう声をかけたエスタに一瞬驚いた様子のルキウスだったが、すぐに前を向く。

「前にいるのはあの10人だけ。すぐ近くの小さいおうちの中に1人。この先にある十字路の右側に2人。それからずっと先のお店の中にも10人くらいいて……、――――――――っ!?」

 集落内を見回していたファーネの顔に、怯えと嫌悪が色濃く浮かぶ。

「あいつ……笑ってる」

 また、「あの日」みたいに、笑っている……!

 少女の脳裏に、家族を喪った日の記憶がまざまざと蘇る。


 肉が焦げる臭い。粘っこい血液が喉に絡んだような悲鳴と泣き声。燃え広がる炎。触れているだけで肌を焦がしていく熱い空気。

 それを背景に、あいつは笑っていた。

 わたしたちを守ろうとしてくれたお父さんを縛り付けて、笑いながら、お姉ちゃんに酷いことをして焼いた。それからお父さんも、足から順番に燃やされた。泣きながら、煙のせいで咳をしながら、悲鳴を上げて、お父さんは真っ黒になった。

 お母さんがわたしをどこかに閉じ込めて守ってくれたけど、たぶんその後すぐに燃やされた。わたしが完全におうちからいなくなる前に、お母さんの叫び声とあいつの笑い声が聞こえたから。

 それで、言ったんだ。

『あ~、楽し』

 お母さんの能力が切れてわたしがおうちに戻ってきたとき、わたしの暮らしていた村は、真っ黒になっていた。


「まだ、笑ってる…………!」

 ファーネの声に、強い怒気が混ざる。

 その気配を察したエスタが、ファーネが具体的な行動を起こす前に制する。

「今は見ることに専念しろ。それがお前の考えていることの近道になるはずだ」

 その言葉にファーネは1度エスタを強く睨みつけたが、しかしガルゲンを喪った今、彼女にとって頼ることができるのはエスタくらいのものだった。故に、ファーネはまた視線を集落の中に戻し、「……それで全部」と小さく告げた。

「なら、何とかなるかも知れないな」

 エスタは小さく呟き、集落を荒らしている「レジスタンス」から見えないような物陰に集まるように声をかけ、声を潜めて自分の考えた作戦を話し始めた。遠くに見える廃ビルを指差し、「あそこが見えるな?」と囁く。

「極力戦闘を避け、あのビルに強襲をかける。どうにかして屋上を取れば、あとはオレの薬で何とかできる。これさえ使えれば、恐らくやつらを全員眠らせることだってできるはずだ」

「そんな簡単にいくのかよ?」

 怪訝そうに尋ねるルキウス。

 確かに、エスタの薬の効力は信頼できるものだろう。所定の場所さえ押さえられればきっとエスタの言う通りの結果になるのだろう。

 しかし、相手は武装した集団だ。

 中には能力を持った魔族だっているかも知れない。

 もしも見つかりでもしたら、間違いなく不利だ。

 そんな状況で、どうやって……?

 ルキウスの問いに、エスタは「そのために、オレの能力がある」と力強く答える。

「直接相手を見ることさえできれば、相手が能力を持っているか、それがどんなものか、特定することができる。この能力は、そういうものなんだ。そして……」

 言いながら、エスタは隠れている物陰――1軒の住宅の中を指し示す。ルキウスが覗き込むと、中では1人の男が家屋内の棚を物色しているようだった。近くでは、この家の家人だろう、縛られたまま恐怖の表情で視線を泳がせている。

「あの中にいるのは人間だ。擬似能力の類いも持ってはいなさそうだ。しかも、恐らくかなり油断して武装も甘いみたいだ」

 だから――と言いかけたエスタの言葉が終わる前に、窓ガラスの割れる音がした。そして次の瞬間には、覗き込んだ家屋の中に、無表情で立つファーネと、彼女の足元に倒れている男の姿があった。そして何事もなかったのように自分たちを見るその姿に、ルキウスは頼もしさと同時にファーネのような幼い少女がそれほどの戦闘技術を得るに至るまでの過程を思わずにはいられなかった。エスタも同じことを考えていたのだろう、その姿を見つめる視線が少し苦々しげだった。

 この顛末を悟られないためにも、ルキウスたちは急いで家屋の中に入り、状況を見る。

 と、フランツが小さく呟いた。

「これ、えらく性能のいい武器だな。こんな砂漠じゃ手に入らんくらいだ」

 軽く驚いたように呟く彼が言うには、ファーネが気絶させた――入った直後、エスタが呼吸の確認をした――男の持っていた銃は、開発に携わった魔族の増殖能力を結晶化させたものを材料と併用することによって装填の必要がないといった小銃であり、フランツのような一介の武器商人ではとても仕入れることのできないほど高価な品物なのだという。

「こんなの、仕入れたらそれこそ世界有数の富豪だとかに高値で売りつけてやりたい代物だ。こんな砂漠の片隅で活動してる小規模な組織なんかに売るなんざ勿体ねぇ」

 武器商人を営んでいた者の性か、興奮気味に話すフランツ。

「まさかこんなところでお目にかかれるとはなぁ……」

 しかし、近くの窓のすぐ外で銃声と断末魔が聞こえたことでフランツは「ひっ!?」と情けない悲鳴を上げ、頭を抱えてしゃがみこんだ。足を怪我してから長い間武器の商売から離れていたせいで武器の発する音が突然聞こえると驚いてしまうのだというフランツの必死の弁明は、その場において必要なものではなかったため黙殺される。

 能力で外を視たファーネが小さく「死んでる」と呟く。

 それを示すように、外から湿った肉の塊を踏みつける音と、感触を愉しむような下卑た笑い声が聞こえてくる。それを聞くうちにルキウスの胸にはまた怒りがこみ上げてくる。理不尽に命を奪われる――奪われるかも知れない恐怖を味わってきた日々が、脳裏をよぎる。

「落ち着け、ルキウス。もう少しでチャンスが来る」

 しかし、エスタの声が耳から脳神経にまで届くより先に、ルキウスの体は窓の外へ飛び出していた。背後からエスタの慌てた声が聞こえたような気がしたが、もはやそれでは止まれないくらいに、彼の体は加速していた。

 能力など使わなくても、そして幼い頃から幾度も「調整」を施されてきたとはいえ、ルキウスは魔族である。相手が人間であれば、身体能力で後れを取ることはほぼない。

 事実、ある程度の武装をしていたその相手は、ルキウスの出現で動揺し、その間にエスタの説明を受けているとき一摘み持っていた睡眠剤を投げつけたらあっさりと眠りに就いた。

「な、なんだこれ……。随分簡単に、」

「早くそこから離れろ、ルキウス! 気付かれたぞ!」

 自分が飛び出していたことに対して僅かながら動揺していたルキウスが、気持ちを落ち着かせようと独り言を言う間もなく、エスタの潜めた怒鳴り声が背後から飛んでくる。

「は!?」

 その言葉の通り、ルキウスを見て「おい! 何だ、お前は!?」と近づいてくる影が1人。その手には先程ファーネが気絶させた男と同じような銃が握られている。

 ――――まずい!

 思わず身構えるルキウス。

 しかし、その人物は予想に反してルキウスの前で立ち止まり、手を差し伸べてきた。

「どうして外にいる!? ここは危険だから、早くシェルター内に入りなさい!」

 ガスマスクで顔を覆った姿からわかるのは、細身であるらしいことと、中性的な声だけだった。

 そのまま戸惑うルキウスの手を引き、近くの地面を手探りでまさぐる。そして何かのノブらしきものを見つけたらしく、「さぁ、早く入るんだ!」と言ってルキウスを地面の下に引き込む。抵抗する時間もなく引きずり込まれ、そのまま地面のドアを閉められる。

『ルキウス!』

『あぶねぇよ、エスタの旦那! 引っ込んどけ!』

 ドアが閉まる瞬間に、そんなやりとりが聞こえたような気がしたが、ルキウスにはどうすることもできそうになかった。何故なら、ドアを閉めた後も武装したその人物はルキウスの手を引き、どんどん奥まで誘っていく。

「ちょっと、何だよお前! 離せっ、離せって!」

「何を言ってるんだ! あんなところにいたら死ぬ事になるぞ!」

 そう言ったその人物は、またしばらく進んだ所でようやく装着していたガスマスクを外す。

 マスクの下から現れたのは、強い意志を感じさせる表情をした女だった。少しウェーブのかかった赤い髪の所々には土や煤が付着しており、彼女がある程度の期間地下に潜っているらしいことが窺えた。

「遅かったじゃねぇか、アンネ。あとはお前だけだったんだぞ?」

「すまない。では、始めよう」

 粗野な印象を受ける声が奥から聞こえて振り向くと、そこには数人の――アンネと呼ばれた女と同じような武装をした――人物がいた。声をかけてきたのはその中のマスクを取っている壮年の男だったようだ。中途半端に禿げ上がったのをどうにか誤魔化そうとしているかのような頭と見上げずにはいられない巨躯が特徴的である。男は、眼光鋭くルキウスを見とがめ、「何だそいつは?」とアンネに尋ねる。

「今しがた地上で見つけた子どもだ。恐らくたまたま通りかかった旅の者だろう。こんな年端もいかない子どもまで巻き込むわけにはいかないだろう」

 男は、またか……と言いたげに溜息を吐き、「まぁいいがな」と呆れ気味に呟く。それからルキウスに視線を合わせるようにしゃがみ込む。

「おい小僧。お前はこの集落の者じゃないからここに避難させておくが、本来ならここを見られた時点で口を封じるくらいのことは必要なんだからな」

「おいゲオルグ! 無闇に怯えさせるようなことを言うな!」

「別に、それくらいのことじゃどうともねぇよ」

 先程から過度に自分を甘やかすようなアンネの物言いがなんとなく気に入らず、知らず強めの口調で言い返すルキウス。と、2人の発言の端々に見え隠れする不穏な気配に気付く。

「なぁ、あんたら……何するつもりなんだ?」

 そのルキウスの言葉に、2人は顔を見合わせる。

 小さく「ほらな、言わんこっちゃない」「しかし、みすみす死なせるわけには……!」という会話が聞こえる。死なせるわけには……その言葉には、あのまま外にいたら死ぬ可能性があるらしいことが示されているように感じた。

 それを悟ってしまった以上、ルキウスにできることは限られていた。

「なぁ、ちょっと待ってくれよ! 外には俺と旅してきた仲間がいるんだ、危険なんだったらあいつらもここに呼ばないと……!」

 どちらかというと取り付く島のなさそうなゲオルグよりもまだ話の通じそうな印象のアンネに訴えるルキウスだったが、意外なことに、アンネからも「もう駄目だ」と短い言葉が返ってくるのみだった。

「な、何で……!」

「ここでの用事が終わった以上、いたずらに事を長引かせないために、我々は一刻も早くこの集落を制圧しなくてはならない。その準備も済ませてある。時間がない」

 静かだが、強い意志を感じさせる声音。

 集落を制圧する。

 その言葉に、ルキウスは血の気が引く思いだった。それと同時に、恐怖をかき消すように湧いてくる怒りが、彼自身にも感じられた。

 だから、複雑な表情で自分を見つめるアンネを、逆にキッと睨み返す。

「君の仲間には申し訳ないが、――――?」

「お前、レジスタンスなのか?」

 低い声で尋ねるルキウスの様子から敵意を悟ったのだろう、アンネに代わってゲオルグが「あぁ。この女だけじゃなく、ここにいる俺たち全員がな」と応じ、ルキウスの小さな体を威圧的に見下ろす。その巨躯から放たれるような敵意に気圧されないよう、ルキウスも更に強く睨み返す。

「てめぇ、俺たちを潰しに来たってところか?」

「お前ら……自分たちがしてることわかってんのか?」

 訊き返しながらも、ルキウスは地上で見た惨状を思い返していた。

 泣き叫ぶ人々を見てさも愉快そうに嗤い、凶行をエスカレートさせていく武装集団の姿を思い出すに連れて、ルキウスの中で怒りが膨れ上がっていく。

「あんなことしておいて、よくも言えたもんだな……!」

「それは……!!」

「あんなのは、ただの暴走だ。そういうのが過ぎるやつらの粛清だって兼ねてんだよ、これは。……それにな」

 感情を露にして口を開いたアンネを遮るようにゲオルグが口を開く。

 その声音に暗い響きがあったのを感じたルキウスは、僅かに気圧される。

「そんなのは、ここにいるやつら全員が経験してきたことなんだよ」

 暗い瞳を向けて、ルキウスに詰め寄るゲオルグ。

「ここにいるやつらはな、俺もそうだが、全員が同じような略奪――――いや、ただの村同士の奪い合いで住む場所を失くした者なんだ」

 暗い表情で発せられたその声に触発されるように、地下空洞内の空気が動く。

 より暗く、より深く、より淀む。

 怨嗟の声が地鳴りのように響き、ルキウスの体中を震わせるように包む。

 しかし、だからこそ、それを受けて立つと言わんばかりにルキウスは、「だからって! それがこんなことをしてもいい理由になるのかよ!?」と声を張り上げる。

 全員を威嚇するように、ルキウスは周囲を睨みつける。

「ここがレジスタンスの本拠地だってんなら丁度いい! お前ら全員ここでぶっ倒して、残りの奴らだって止めてやるからなっ!!」

 そう言って、ルキウスは懐に手を差し入れた。



 灰塵の舞う集落の中を、3人は移動する。

「くそ……っ、まさかルキウスが連れて行かれるとは!」

「落ち着け旦那! 早いところアンタの作戦を完了させれば、あの小僧だって助けられるさ!」

 後悔を滲ませた表情を浮かべるエスタを宥めながら、フランツが武器を駆使して、そしてファーネが能力によって、物陰から物陰へと移動するタイミングを作る。そのタイミングを窺って移動を繰り返す。

 エスタが少し遅れて物陰に入った直後、1秒前までエスタがいた空間を縦断が通り過ぎる。

 途中途中で、凶行の果てに命を絶たれた住民たちの亡骸が目に入るたびに、エスタは胸の痛みを感じ、フランツはその残虐さに震え上がり、ファーネは自らの過去を思い起こして憎悪に燃えた。


 ――――早く、この凶行を止めなくては!

 

 3人はその思いを共通して抱き、その為に一刻も早く目的地に辿り着く決意を新たにした。

「それにしても……! この攻撃を何とかしないことにはあのビルの上になんか行けねぇぞ!」

 フランツが自動増殖結晶の使用された小銃で応戦しているものの、その小銃は恐らく相手方全員が所持している物だ。単純に数量差で彼らは押されているし、更には他の装備も持っていることは間違いなく、それも織り交ぜて攻撃してくるレジスタンスへの対抗は、容易ではなかった。

「ファーネ! お前あのアレ……、ガルゲンの野郎が言ってたとかいう薬はもうないのかよ!?」

「……ない」

「そうかよ!」

 だったら……と付け加えるフランツ。懐からいくつかの小さな袋を取り出し、ファーネに手渡す。白い紙に透けて見える中身は黒い粉の塊のようだった。

「これは……?」

「前に教えたよな、鳥の獲り方! これ使え」

 そう言って、小型のスリングショットをファーネに手渡す。

「よく狙えよ? 弾数そんなにないからな」

 ファーネはその言葉に力強く頷き、早速1人に狙いをつけて撃ち放つ。そして丸い袋が相手に着弾した瞬間、小さな爆発が起こり、呻き声とともに倒れたのである!

「よしっ!」

「そんな物があるのか。なら、これも使ってくれ!」

 エスタはファーネに薬袋からいくつかの袋を取り出す。途中で解けないようにきつく縛った袋を手渡し、「ファーネ、頼めるか?」と尋ねる。

 事実、ファーネによるスリングショットでの射撃は精密そのものだった。

 かつて遺跡での生活の中で見張り役として見張り台にいる間の手慰みとしてフランツから教わっていたスリングショットに慣れ親しんでいたこともあったし、そして何よりもその精密さを支えていたのは、ファーネが持つ千里眼の能力だった。

 フランツが手渡した小規模な爆薬を主に使い、そして弾数不足はエスタがその場で神経毒を調合することによって補うことによって、防戦一方だったのが一転、圧倒的な攻勢の中で3人は目的にしていたビルに辿り着くことができた。

 そして薄暗く視界の利きにくいビルの中もエスタの解析能力とファーネの千里眼で難なく通り抜け、遂にビルの屋上に到着した3人の前に、その男は立ちはだかった。

「お前は……!!」

「あん、どっかで会ったことあったっけか? まぁいい。あんまり邪魔ばっかりされるとこっちも困るからさ。お前らここで死ねよ」

 ファーネの放つ殺気を難なく受け止め、炎のように赤い髪を風に靡かせながら、男は軽薄そうな顔で笑った。

こんばんは、遊月奈喩多です!

第7話「戦火」はいかがでしたか? トルッペン砂漠のお話が思っていた以上に長くなってしまっている感がありますが、恐らく次回で終わるかも……?と思っています。

ファーネの因縁の相手が現れましたね。そして、ルキウスもレジスタンスに捕らわれ……!?


わりと早めに更新できると思いますので、次回をお楽しみに!

ではではっ!

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