風穴の起点
こんばんは、遊月です!
なんと今年に入って初めての更新だったようです……!
テラニグラで次々と始まる戦い、局面は少しずつ、けれど確実に進んでいく……!
本編スタートです!
「な……っ、どうして----、が、」
あまりの速度に当惑したエスタだったが、その声を上げる前にイストの体重を込めた拳がエスタの鳩尾に食い込む。込み上げる嘔吐感に腹を折って屈み込んだところに、イストの膝が躊躇なく鼻柱に叩きつけられる!
「がっ……、ごほっ、」
当然、魔族の身体は人間よりも数倍――個人差によるが稀に数十倍――丈夫に出来ている。だから、今のイストの攻撃も、通常ならばなんのことはないはすだった。
そう、通常の場合なら。
だが――――。
――あぁ、くそ、どういうわけだ? これは、折れている……。
エスタの鼻骨は、今のイストの一撃で折れてしまったようだった。しかしそれも無理はない。魔族の自分でも反応できないようなスピードというのは、人間の限界を超えて魔族と同じスピードで動いているということ。
想定外のことに一瞬たじろいだエスタだったが、【解析】によってその原因はすぐにわかった。
イストの身体には、一時的に魔族と同等の耐久力とスピードが宿っていた。それが何によるものであるかは、問うまでもない。
『疑似能力』。
これを使った魔族の青年がそう呼んだそれは、イストの身体を変質させて、魔族のスピードでの移動や攻撃が可能なほどの耐久性を付与していた。
「イスト……、お前……っ!」
「まさかあなたと対峙するのに用意していなかったとでも? あなたの脅威はその能力よりも明晰な頭脳と神がかり的な直感力だ、きっと私のことにも気付くのでは?といつもヒヤヒヤしておりましたよ」
あくまで慇懃な態度で、しかし圧倒的なまでの優位を確信した不遜さを滲ませた態度で、イストはエスタを嗤う。
その間にも、エスタが防戦一方にならざるをえない猛攻が続く。先程食らった不意打ちのように骨が折れるところまではいかないものの、時々人体における急所にきまってくる打撃に思わず呻き声が上がってしまう。
「しかし、あなたは大変人がよろしかったようですね、グラディウス? ここまで無防備に頼られるとは思っていませんでしたよ、家族まで私に預けて」
「ぐっ……、」
くつくつと笑いながら、イストは攻撃を続ける。躊躇がなかったのは元々だったが、どうやら少しずつ魔族と同等の耐久性というものにも慣れてきたらしい、その力の込め方が、更に無遠慮になっていく。
「はははっ、どうしました、グラディウス!? 若い頃はさんざん私のことを守るとかぬかしてくれていたじゃないですか! それともなんですか、私が魔族と同等になったら、あなたでは及ばないと、そういうことなんですか!? はは、ははははっ!!」
いったい、何が彼をここまでさせたのだろうか、イストは旧友――本人はそう思っていなかったと言うが――であるエスタを、むしろ因縁深い仇敵であるかのように嘲弄し、罵倒し、打ちのめさんと攻撃を繰り返す。そして、力任せにその命を殴り潰してしまおうというような勢いで、ありったけの力を込めて殴りかかってくる!
恐らく、クロスさせてガードしている腕すらも突き抜けて、心臓すらも打ち破りかねない勢い。しかし、エスタは彼の前から動こうとしない。静かな声で「あぁ、力では及ばないやも知れないな」と返す。
次の瞬間、イストの身体は空中で一回転して地面に激突する!
「ぇ……?」
イストは、何が起こったかわからないという顔をして執務室の天井を眺めている。彼の頭のなかでは、心臓破裂によって斃れたエスタを見下ろして悦に浸る未来しか予測してなかった。それほどまでに圧倒していたはずだ、それが、何故……!?
「お前は魔族と同等になってその力を振るうことで悦に浸っていたようだがな、イスト」
起き上がろうと床に突いた左手の甲を渾身の力で踏みつけるエスタ。さすがに全力で踏みつけられた衝撃には耐えられずに、イストの手根骨が砕ける――それを魔族化したことで鋭敏になった痛覚で感じたことで、イストの喉から身の毛もよだつような声が上がる。
「オレは、むしろ人間の使っていた格闘技とやらの方がよほど強いと思うぞ。……なんて、昔お前が言っていたことの繰り返しになるがな」
そう呟く声は、少し悲しげに。
「聞かせてもらうぞ、お前たち――お前と、エデンの中枢にいるやつらの目的を……!」
そう静かな声で呟いて、エスタはイストを見下ろした。
前書きに引き続き、遊月です!
5ヶ月ほどお待たせしたわりに、だいぶ短めになってしまいましたが……
エスタさん、反撃です!




