蛇の瞳
こんにちは、遊月です!
早いもので、2018年ももう終わりますね。皆様はいかがお過ごしですか? 私は相も変わらず執筆中です!
今回は久しぶりなあのお方も登場?
本編スタートです♪
「力は絶対的……? かつてのお前ならそんなことは言わなかったな、イスト」
テラニグラの商社ビル。
その実質的な中枢に当たる一室で、向かい合ったまま話をするエスタとイスト。まさに一触即発の雰囲気の中、互いに言葉を選んで思惑を探り合う。しかし、その中で見えてくるのはイストの変化ばかりだった。
エスタが出会った頃――若かりし頃のイストは、この世界の平和を愛し、人々の幸福を願いながら生きている青年だった。既に地方では紛争が起こり始め、決して理想通りとは言えない情勢の中でもそうあり続けていた彼の心に半ば惚れたような形で、エスタの方から言ったのだ、『オレと一緒に組まないか?』と。
あの頃の自分たちには、【解析】を使わなくてはいけないような嘘なんてなかったはずだ。それが、何故…………。
「いくら崇高なものであれ、力なき理想はただの空論。そうは思いませんか、グラディウス?」
「なに……?」
唐突に投げ掛けられた問いに思わず尋ね返そうとして、エスタは気付いた。
「フルーレのことか」
「大切な妹御を亡くされて、あなたも思い知ったのではないですか? エデンはやはり人間と魔族の架け橋などではなかった、むしろ魔族を滅ぼしかねない強大な人間至上都市なのだと……!」
フルーレ・グラディウス。
エスタのたったひとりの妹であり、エデンの収容所で殺害された魔族の女性だ。エスタが後で知ったのは、エデンで教師をしていた彼女がエデンの成り立ちに疑問を持ってしまったこと、それによって捕らえられ、更に狂化薬によって理性を奪われて“殺処分”されたこと。
「彼女の件で、私たちの人生は大きく変わったでしょう……。それまで本拠地など設けなかったあなたがこのテラニグラに永住権を獲得して私を常駐させ、そしてご自身は商品の仕入れと同時進行でエデンへの復讐を企て始めた。
私だってそれは同じなのです、何の罪もなかったフルーレを無慈悲に殺したやつらには天誅が下るべきだ! それこそ、人間の伝説で語られる大神の雷槍でも降ればいい……! しかし、」
イストは、イタズラを見破られた子どものようなばつの悪そうな表情を見せる。そして、エスタに伝えていなかった本心を告げた。
「しかし、同時に私はそれほどまでの権勢と威力を誇る機関というものに、魅入られた……! 更にあなた方のもたらす情報からも窺える、圧倒的な技術力に圧倒的な知識、あの機関は、まさに宝庫なのですよ、グラディウス! そしてあそこを掌握すれば、私はこの世界で神に近しい存在にまでなれる!」
心底からエデンの持つ力に魅了されてしまったかつての親友の姿を、エスタは悲しげに見つめる。
「それでも、やはりお前はそんなことを言うやつじゃなかったよ。たとえ、オレがお前を見誤っていたのだとして……、やっぱり、変わっちまったんだ」
「止めますか、私を?」
「あぁ。力に溺れた支配者なんて、その行く先に破滅しかないからな」
静かに告げて、躊躇なく拳銃を抜くエスタ。
「――遅い」
「…………っ!?」
しかし、イストは人間離れしたスピードでエスタの背後に回り込んでいた!!
* * * * * * *
エデンの中枢、研究棟の主任研究員室。
ここに常駐する主任研究員であり、エデンの支配者とも言える存在であるニュイ・サンブルは、形のよい脚を組みながらオフィスチェアに座って休息をとっていた。
早く、早く……!
焦りがちになるのをなんとか抑えるように、机に置いたカップのコーヒーを口に含む。程よい苦味が頭の中に染み渡り、ぼんやりしていた意識が少しはっきりするような気分になる。
「何をしているの、ノックスは……。早く彼を連れ戻さなくてはいけないって、わかっているはずなのに……」
今ではエデンの中で誰よりも長い付き合いになった腹心の部下の飄々(ひょうひょう)とした笑みを思い返し、我知らず苛立ってしまう。散々他のものを嘲弄した態度を見せてはいるが、ニュイにとってはノックスもその相手たち同様、わかっていない。
火急速やかにルキウスを奪還しろと命じているのに、彼と一緒に逃げたという人間の少年を殺すことにも執心しているし、危機感も足りない。
「もし彼を失ってしまったら、私の今までの苦労は全部無駄になる……、無駄になっちゃうのに……!」
忙しなく動く指先。
手の甲に突き立てられた爪が、その白い皮膚に容赦なく食い込んでいくのにも構わず、彼女はうわ言のように「早くしないと……」と繰り返していた。
前書きに引き続き、遊月です!
ニュイさん、実はわりと悲劇の人という設定なのですよね……とだけ今はお伝えしますのです。
ということで、次回以降をお楽しみに!
ではではっ!!




