争乱は再び
こんばんは、遊月です!
なんだかんだ間が空きましたが、更新できました~。まだまだテラニグラ編は続きますが、先の展開も考えつつ執筆中です、いえい!(少しおかしいテンション)
本編スタートです!
ドシャッ
破壊の音は、想定したものより遥かに軽く。
突然止んだ重圧は、ルキウスを含むその場の全員の体内に急激に空気を送ることになった。
ルキウスやジーク、それから辺りで露店を営む魔族の者であれば、まだ恐らく肋骨や胸骨がどこかに刺さったであろう激痛とともに呼吸困難によって噎せかえるだけで済んだ。もちろん、それでも彼らの命に大きな影を落とし、早い処置が求められる傷である。
しかし、ただの人間である住人たちには、その余地すらも与えられなかったのだ。それを物語るのは、赤黒く充血した瞳と口許から血液を流して絶命している者たち。
急激に入り込んだ空気により体内の器官が膨張を通り越して破裂までしてしまい、心臓もその機能を止めてしまったのだ。その惨状を目にしてから、ルキウスは改めてアリスの方を見やる。といっても、目にも大きなダメージを負っていたため、視界はかなりぼやけてしまっていたが。
直立したまま、アリスは動かない。どうにか目を凝らして、ようやくその姿が像を結んだとき、ルキウスは戦慄した。
「ア、リ…………」
「なんだ、――――っ、」
ルキウスの視線に釣られてそちらを見たジークも、思わず目を逸らしてしまう。その先に立っていたのは、ひとりの少女。しかし、その頭部は無惨に潰されていた。
恐らく原因は、近くに落ちている小さな石の欠片。ありふれた、その辺りの道の隅に転がっているような石ころだ。通常なら、もちろんそんな石が頭に当たったくらいで死ぬものはいない。ひどくて極めて軽い裂傷ができる可能性がある……というくらいのものだろう。
しかし、アリスが怒りに任せて自らも押し潰す覚悟で重圧を無制限にかけていたあの状況ならば、たとえ小さな石であっても当たり所によっては死に至るだろう。
といっても、それが偶然頭頂部に当たる確率なんて……?
何度となくエデンの刺客と相対してきたルキウスは、どうしても警戒してしまう。もしかしたら、誰かがアリスを始末したのではないか、と。
「まったく、これだから看守側の者に任せるのは反対だったんだ。目的の本質も、その重要性も理解できていないんだよね、もちろんスミス看守長も含めて。危ない危ない、もう少しでキミの目を潰されてしまうところだったよ」
聞きようによっては甘くも聞こえる酷薄な声とともに現れたのは、黒衣をまとった魔族の青年――ノックスだった。
* * * * * * *
「オレの家族……だと?」
「えぇ、グラディウス。あなたはこちらに戻ってから、家族にお会いしていないでしょう? どうして安全に暮らせているなどと思い込めたのです、既に敵の手にあるこの街で?」
テラニグラの中央部に位置する商社ビルの商品開発責任者――イストの使う執務室。イストと対峙したエスタは、不意に家族のことを話題に出されて思わず困惑した。そんな彼の様子を面白がるように忍び笑いを漏らしながら、イストは言葉を続ける。
「私は、エデンとの繋がりで数多くの副産物を手に入れている。そして、幸いなことにあなたの奥方やお嬢さんからの信頼も並みのものではない。何もしないとお思いで、」
「ハッタリは通じないぞ、イスト。お前が何か特殊な技術で思い込んでいるならともかく、意識してついた嘘ならオレには通じない。今まで警戒もしていなかったが、そうか……。お前がエデンと通じているのはそんなに昔からだったのか」
エスタの能力、【解析】。
目にしたものの真価、想定されうる用途などを見出だす、商いをするものであるなら1度は憧れるであろう神がかりの目利き。本来なら戦闘で使うようなものではなかったが、エスタはその対象を生物にも拡大して、その相手の思惑、弱点などを視ることもできる。
そうして見えたのは、イストとエデンの予想以上に長い繋がり。
娘が生まれるよりも前――10年近く前から、彼はエデンの中枢との繋がりを持っていたのだ。エスタが一般の看守たちを依存性の高い品物で懐柔していたように、彼もまた、エデンの内部――恐らくはルキウスが囚われていた場所の職員たちと繋がりを持って、資金や技術の提供をしていたのだ。
「お前、そこまでして何をほしかったんだ……? 何故、お前自身も『非人道的だ』と憤っていたエデンと……!」
「グラディウス、それでも力というのは絶対的なのですよ」
そう語ったイストの顔には、もう隠す気すら感じられないほどに陶酔の色が滲んでいた。
前書きに引き続き、遊月です!
皆様、彼のことを覚えてくれていましたか……?とか思いつつ。
次回以降もお楽しみに!
ではではっ!!




