戦火に潜んだ
おはようございます、遊月です!
最新話の公開です♪ それに当たって過去話を見返したりしましたが、わりかし重めですね……と改めて再認識したりしてました。
トルッペン砂漠編から少し仄めかしていた事柄も、出てくるかも知れません。
本編スタートです!
人間のはずなのに持っていた――持っているはずのない能力。
その言葉を聞いてカイルが思い出したのは、旅の途中で出会った青年だった。
トルッペン砂漠をエスタの機械馬で旅していたときに立ち寄った、廃墟と化した遺跡群のひとつ。そこで暮らしていたエスタの知人たちを襲った悲劇。
砂漠の至るところで略奪と殺戮を繰り返している『レジスタンス』と呼ばれる組織によって家族を奪われた魔族の青年ガルゲンは、自分の暮らしていたコミュニティの主である《遺跡の民》エーデ卿を殺害し、同じ境遇にあった少女ファーネと共に『レジスタンス』と闘う計画を立てていた。
もっとも、カイルとルキウスを追って遺跡を急襲したロドリーゴたちの部隊の前に敢えなく倒れてしまったが。
あの後、ルキウスたちはちゃんと逃げ切れただろうか……。
ふと、そんな心配をしてしまう。
そして思い出したのは、もうひとつ。
彼らが使っていた、本来の能力以外のあるはずのない能力。エーデ卿を惨たらしく殺し、その亡骸をいたぶるガルゲンに腹を立てたルキウスが彼に掴みかかろうとしたときに、ファーネが使った能力。
本来彼女の能力は、千里眼のようなもので、主に遺跡に近付いてくる外敵の察知が役割でもあった。
しかし、ファーネがルキウスに対して使った能力はそれではなく、まるで映像端末の再生を止めるような要領で、その身体だけを一時停止する能力だった。
ありえない能力に戸惑っているカイルたちに、ガルゲンが語ったのは、エデンで――――今まさに自分がいる中央収容所医務室の真下で行われているだろうおぞましい研究の副産物。
『これを飲むとね、一時的に他の能力を使えるようになるんだよ』
魔族の生命線とも言える、彼らの能力の源――能力核。
それを切除して研究するという、魔族の住民を蔑ろにする非人道的な研究の中で生まれた、服用すると能力を持っていない者でも一時的に能力を使えるようになる薬剤。
それを敵が持っているのだとすれば……?
「今思い出すと不思議なんだが、あいつを目の前にすると……いろんな感情が抑えきれなくなったんだ。必死に抑えてたものを簡単に解きほぐされるっていうか……。人間ではあったけど、たぶんあれは、何かしらの能力だったと思うんだ」
それで俺の罪が消えるわけじゃないけどさ……そう自嘲気味に続けたカルロの声は、カイルの胸を激しくざわつかせた。
* * * * * * *
テラニグラの商社ビル。その一角に位置する、商品開発部門の責任者執務室。
滅多なことではその部屋の主、イスト以外が立ち入ることの少ない場所に、ふたりの男が立っている。
「それにしても、よくおわかりになられましたね。エデンとの繋がりについては、なるべく隠していたのですが」
「お前自身は、隠せていたと思うよ。ただ、お前の痕跡はかなり残っていた」
「ふむ……」
「そもそも『レジスタンス』の総帥をやるだなんて、お前には荷が重かったんじゃないか?」
「あぁ、あれは私にも想定外の動きでして……」
エスタの睨み付けるような視線に、余裕を保った微笑みで返すイスト。
トルッペン砂漠でカイルが連れ戻された後、図らずも『レジスタンス』と対峙することになった一行。だが、エスタはその影にある、外側の何かを見つけていた。
「そもそもな、長らく『レジスタンス』の総帥として手配されていたフン=クアンは既に死んでいる。秘密裏に処理されていたから、知らない者も多かったがな」
「えぇ」
「あのヴァイデ集落を襲っていた分隊は、明らかに資金があり過ぎた。あれなら、もう独立した国家だって築けるくらいの資金だ。設備にしたって、ここでしか作れないようなものがいくつもあった」
「てっきりガイストから漏れたものと思いましたよ、口を封じるつもりで手は打っていましたが、彼は本当におしゃべりでいけない」
「あいつに狂化薬を持たせたのはお前か?」
「えぇ、あれであなたの心も少しは揺さぶれたかと」
エスタは、口の中で砕けんばかりに歯を食い縛る。
投与した相手の脳神経を破壊して、高次の機能をほぼ完全になくしてしまう、悪魔のような薬。
因縁の深い薬剤を、よりによって誰よりも近しいと思っていた――妹を亡くした直後の自分を見ていたはずの――この男が使うとは……! 怒りが芽生えて、抑えられなくなりそうになる。
どうにか抑えられたのは、まだしなければならないことがあったから。
そしてそんなエスタをせせら笑うように、イストは言葉を続けた。
「そういえばグラディウス、ここに帰ってからご家族とは会いましたか?」
前書きに引き続いて、遊月です!
エデンの研究の副産物、疑似能力。しばらく話の鍵を握ることになりそうです。
次回以降をご期待ください。
ではではっ!




