眺望は遥かに
おはようございます、遊月です!
かなり久しぶりに更新することができました。テラニグラ編、とうとう敵の正体がわかります……!
本編スタートです!
自社オフィスビルの構造については、理解しすぎているくらい理解している。
エスタは、自身が築き上げた大企業の、まるで迷宮のように入り組んだ通路を迷うことなく歩いていく。元々【解析】の能力を持っているため、正しい道筋を導き出せる彼が、目的地に向かうときに迷うことはない。
しかし、ここではそれを使うまでもなかった。
エスタは、従業員ひとりひとりの体調管理を徹底したり、定期的に面談を行うなどしてコンディション把握に努めていたこともあり、社内での信頼は厚い。それはもちろん、彼と共にここを起業したパートナーも同じこと。
イスト=シュベート。
偶然出会った、人間の青年。
彼はその柔和な口ぶりで、そしてその裏にある冷静な判断力でエスタの商売、起業、発展に貢献してきてくれた。彼がいなければ、きっとこの安住の地にも住めなかったことだろう。
今では、テラニグラのネットワークやインフラ、そして人間と魔族双方に開かれた雇用への貢献など、様々な範囲に手広く関与するに至った。
それを、公私様々な用事で外に出がちな自分に代わって支えてくれていたのも、彼だった。
オフィスビルの連絡通路から見える、平和な街の景色。
かつて世界中を旅して、当時から他都市に対して強い権限を有していたエデンの提唱する【人間と魔族の完全なる共存】がまたまだ――というより到底――実現しえないものなのではないか、という疑念を持ったエスタにとって、エデンの影響圏外にあった独立自治都市テラニグラでの日常は、まさに本物の楽園と言えるものであった。
治安も、良いわけではないが決して無法地帯ではない。
特定の意思を持った者による独裁的な統治が為されているわけでもない。
そんな暮らしが、密やかに侵食されようとしている。恐らくそれは、ルキウスがここに逃げ込んだこととは関係なく、もっと前から始まっていたに違いない。
物思いに耽りながらも、辿り着いたのは、敵の待つ場所。
重々しい空気のなかで開いた扉のなかでは、たぶんいつもの通りに彼が待っているに違いない。
「……グラディウスさん? 彼の様子はどうですか?」
気安い表情で話しかけてくる、長年の友人。
エスタたちが管理局に出払っている間、医院にいるルキウスを見舞ってくれていた。エデンの追手に深傷を負わされていたときにも、ルキウスを救ってくれていたのだという。
だからこそ、心苦しかった。
それでも、言わなければなるまい。
「イスト、どこで道を違えた?」
悲痛な思いで口をした言葉に、目の前の敵――イストは、穏やかな口調で応じる。
「きっと違えてなどいませんよ、グラディウスさん。そもそもの初めから、私たちの道は交わってなどいなかったのです」
* * * * * * *
テラニグラから遠く離れた都市、エデン。
その中央に位置する収容所地下で、カルロの話を聞きながら、カイルは焦っていた。
エスタから聞いていたテラニグラという場所は、エデンの影響を受けない数少ない都市ということだった。商業で栄え、独立した自治権を獲得し、トルッペン砂漠の地方に暮らす民にとっての希望とも言える立ち位置を確立している、と聞いていた。
だから、そこまで行けば安全だと。
エスタはそう信じていたはずだ。だからこそ、カイルたちを連れていこうとしていたのだから。
けれど、それが崩れたとしたら……?
以前聞いていたはずなのに、ルキウスたちの無事を信じたい一心で忘れていた、意図的に記憶から消してしまっていた。
そんな存在を、今改めて意識させられてしまったのだ。
「ねぇ、カルロ! 他には、何か覚えてない?」
何とか知らなくては。
伝える手段は今のところないとはわかっているが、それてまも、知っておきたかった。エスタと、何よりルキウスを待ち受ける敵のことを。
そして、直接は何もできないとしても、何かしらの助けに繋がるかもしれない。その一縷の望みにかけて。
「たぶんのあいつ人間だったとは思うんだよな……」
「え?」
どうしてか自信なさそうに言うカルロ。
思わず訊き返したカイルに、カルロは続けた。
「いや、人間だけど何か能力を持ってるっていうか、でも魔族じゃないからなぁ……」
その言葉にカイルは、ここに連れ戻される少し前に遺跡で出会った青年たちのことを思い出した。
前書きに引き続いて、遊月です!
この展開は、イストを出す前から決めていたものでした。この後、果たしてどういった戦いになるのか……
次回以降をお待ちくださいませ!
ではではっ!




