火蓋は静かに
こんばんは、久方ぶりの更新となりました、遊月です!
今回はエスタさん回です! いよいよ、テラニグラ編も佳境に入りそうです~
本編スタートです!
独立した自治を保ってきた商業都市テラニグラ。その歴史は思いの外長い。元々はトルッペン砂漠に移住した住民たちが集まった集落を起源に持ち、そのほとんど当初から四方を取り囲む市門は築かれていたと聞く。
この門は、これまでどれほどの者を見てきたのだろう。
人間も魔族も、かつての大戦によって崩壊し、ある一部の人間たちの思惑の下に塗り固められた新たな――一見すれば人間と魔族の共存という画期的で理想的な――秩序に順応できず、純化されなかった者たちが数多く訪れたことだろう。
ここは、エデンの支配から逃れられるオアシスなのだから。
いや、正確にはだった、と形容するべきかもしれない。もはやここは安息の地などではないのだから。
市門から、エスタの持つ機械馬の中では1番の駿馬――IR-0025GNを駆って遠ざかっていくふたりを見つめながら、決意を新たにする。
お前さんたちのことはオレが守るぞ、ルキウス。
恐らく当面は、エスタの思い当たる限り最も心強い用心棒であるジークの助けの下、彼の旅はそう険しいものではないかも知れない。
それでも。
エデンの中枢で全てを支配している、顔も名前も知らない人物の影が気にかかる。ルキウスやカイルの話を聞く限り、その人物は手段を選びそうにない。その側近らしき黒衣の青年の様子からもそれは窺えた。
エデンからの脱出を瞬時に嗅ぎ付け、いや、およそ事前に知っていたとしか思えないタイミングで砂漠の花街デゼールロジエまで現れ、ルキウスとカイルを連れ戻そうとした。慌てたようなカイルの言葉を信じるなら、2人をあと少しのところまで追い詰めていたという。
更には、レジスタンスと称される組織と対峙した直後にも現れ、率いた部隊と共に集落を滅ぼしてルキウスをもさらおうとした。そのどれをもすんでのところで凌ぎ、特に砂漠での攻防ではフランツの御する機械馬に撥ねられて砂漠のいずこかに投げ出されたのだから、恐らく再起不可能となっているだろう。少なくとも、長距離にわたってルキウスを追うことはできない体になっているに違いない。
しかし、それはあくまで脅威のひとつが遠ざかったということに過ぎない。トルッペン砂漠でカイルを連れ戻していった看守長ロドリーゴは、ふたりの脱走以来完全にエデンの意向に従う行動を見せているという。
そもそもエデンの目的はあくまでルキウスの能力核だ。恐らくまだ、多くの刺客を差し向けてくるに違いない。
現に、この街に着いてからもアリスとリデル、また元々は中枢の一角にいたというミゼリアたちに襲われている。そのようにして、ルキウスを捕らえる為の刺客はまだ差し向けられてくることは想像できる。
もし、助けを得られないような状況になっていたら? 考えると恐ろしい。この世界では、たもえ圧倒的といえる能力を持っていようが、個の力ではあまりに脆く、弱いものなのだから。
「ジーク、ルキウスを頼んだ。ルキウス、カイル。いつかお前さんたちが揃って会える日を祈っているぞ」
そこに自分がいることができれば僥倖だが、きっとそれは望めないだろう。
何故なら、このテラニグラにもいるのだから。
エデンの中枢に位置する者たちの一角――少なくとも、中枢部と浅からぬ繋がりを持つ者が。
そして、今から自分はその人物と対峙するのだから。
ふと、カイルやルキウスの顔が脳裏に浮かぶ。恐らく、今後自分が彼らと出会うことはほぼないだろう。自分が持つ能力が使えるとすれば、精々相手の能力・経歴などを看破することのみ。余程うまく立ち回り、かなりの運を味方につけられたら或いは勝てるかもしれない……その程度の勝算しかない。
加えて想定される相手は……。
「あいつには、オレのことを知られ過ぎている、か――――」
娘の誕生を機にしばらくやめていた煙草を一口吸ってから、エスタは向かう。
恐らくルキウスの脱出を察知して、自分を待ち構えているであろう敵と対峙すべく、自身のオフィスビルへ。
辺りから聞こえる、日常を謳歌する街の賑わい。
歴史のある大きな劇場から満足げな笑顔とともに出てくる観客たちを一瞥して薄く微笑んだあと、執務室へ向けて歩みを進めた。
いよいよ、エデンの協力者と対峙することになるエスタ。彼に勝機はあるのでしょうか……!?
次回をお楽しみくださいませ!
ではではっ!




