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空ろな箱庭で

こんばんは、先々月に2話立て続けに投稿したとは思えないペースになっている遊月です!

もう冬になってしまいましたね~(寒いです)


カルロを無力化する作戦とは……!?


本編スタートです!

 カイルが思いついた作戦は、まさに必勝ともいえるものだった。

 しかし、それを実行に移すのにはかなりのリスクが伴う。


 先程思い浮かんだ予想――脳裡にある種のビジョンのようにして映し出された自分たち――でも、それなりに傷付かなくては成功しないことは窺えた。


 当然である、それを実行するには半狂乱になってカイルの顔を削ぎ落とそうとしているカルロを止めなくてはならないのだから。今も、視界も不明瞭な中で、恐らくはその執念のみによってカイルの位置を探り出し、近づこうとしている。


「うまくいけば、たぶん今なら確実に彼を止められるけど……危険だよ? それに、私が能力ちからを使えなくなったら破綻する」


 セラピア医師の指摘は、もっともだ。

 この計画には、彼女の傷を癒す能力が必要不可欠だ。それを封じられてしまえば、体格差・身体能力差のあるカイル1人ではカルロを止めることなどできなくなってしまうだろう。

 自分は敢無く殺されてしまう。

 彼に凶行を重ねさせてしまう。

 それだけは、避けなくてはいけない。カイルは、姉の恋人であったこの大切な幼馴染に、これ以上罪を重ねてほしくはないのだから。


 だから、成功させる。

 脳裏に浮かんだビジョンなど関係なく、カルロを絶対に止めてみせる。決意と共に、カイルはセラピアを見つめて、念を押す。

「セラピアさん、僕が止めている間にカルロをお願いします」

「……わかった」

 その声で、後には退けない、と覚悟が決まった。


 カイルは、脇目も振らずにカルロのもとへ走り出す! その音で大体の当たりをつけたのだろう、涙が溢れ出し続ける瞳を閉じたまま、カルロもカイルに向かって猛然と走ってくる。その姿に恐怖を覚えながらも、カイルはカルロがナイフを持つ方の腕に飛びついた!


「くっ――!?」

 自分を直接攻撃してくると踏んでいたのか、それともカイルの命を奪うことのみに思考が向いていたのか、カイルの行動に一瞬驚いた様子のカルロ。そして、得物もこれでは役には立たない。


 しかし。


「だけどな、カイル?」

 カルロはすぐに余裕の表情を浮かべ、空いた方の手でカイルの頭を鷲掴みにする。どこかから聞こえるミシッ、という音が鼓膜を伝わり、全身を冷えた指で撫ぜられるような悪寒が走る。

「俺がほしいのは、お前の顔なんだよ? だったら、お前を生かしておく必要なんてない。頭が多少潰れてても、顔さえ無事ならね」

 穏やかな笑顔のまま、カルロは頭を掴む手に力を込める。あまりの痛みに、意識を手放しそうになる。

 涙が滲む。

 吐き気もしてくる。

 視界が赤くなる。

 それでも、確信している。


「カルロ、もう終わりにしよう」


 その言葉と同時に、カルロが「がっ――――!!???」と苦悶とも疑問ともとれない声を上げて倒れる。その背後からは、無表情でその姿を見下ろすセラピア医師。


 カイルの作戦には、彼女の能力が不可欠だった。

 傷を癒す――傷が治るまでの時間(・・・・・・・・・)を強引に短縮させる(・・・・・・・・・)能力が。それによってもたらされる痛みは想像を絶する。深手を負っていれば、その痛みによって気絶してしまうこともある。


 彼女がカルロに触れる隙を作ることが、カイルの狙いだった。

 そして、その能力による痛みで気絶してしまう程度の傷をカルロに負わせること。


 その両方によって、カルロは気を失い、カイルを拘束していた手も離れる。

「――――――」

 途端に蘇る痛み。立っていられないくらいの揺らぎを感じながら、カイルはセラピア医師の腕に抱きとめられる。

「彼を止めてくれてありがとう、カイルくん。お疲れ様」

 その言葉を最後に、カイルは完全に意識を失った。


 * * * * * *


 一方、エデンから遥か西に位置する独立都市、テラニグラ。

 その外れの医院は、凄惨たる状況になっていた。

 入り口に程近いベッドには首を切り裂かれた女性――エデンの研究員ミゼリア=ピウスの遺体。壁には無数の弾痕が突き刺さり、床には窓の用途を果たさなくなったガラスが散らばっている。


 そして、目を覚ましたルキウスが見たのは、自分を捕らえようとその手を伸ばしていたらしい男が全身に銃弾を受け、血を流しながら倒れる姿だった。

「――――っ!? お、おいおっさん、これは一体、」

「落ち着け、ヒューゴ(・・・・)! 大丈夫だ、もう安全になったから……!」

 テラニグラに滞在するに当たって使っている偽名――ヒューゴという名前にも反応が遅れそうになったルキウスだったが、どうにか意識を持ち直す。


 そして。

「皆さん、ご無事ですか!?」

 窓の外から声を発しながら慌てた様子で現れたのは、イスト=シュベート。テラニグラに留まってエスタの企業を支えているテラニグラの有力者である。頼りなさげな印象は変わらないが、それでもこんなものを手配できるんならやっぱり凄いやつなんだな――まだはっきりしない頭でルキウスは思った。


「この男は我々の方で拘束します。どのような狙いで皆さんを追って来たのか聞き出さなくてはいけませんし、場合によっては――――」

 そこで1度言葉を切って、ルキウスに向き直る。

 優しげな微笑を浮かべ、ルキウスの目線に合わせるように膝を屈めながら、そっと慰撫の声をかける。


「大丈夫でしたか、ヒューゴ(・・・・)くん? 恐らくこの街ではもう君が脅威に曝されることはないでしょう。傷が治ってもしばらくはここに留まってはいかがですか? ここならば、エデンの追っ手からも君を護ってあげられます」

「あ、あぁ……」


 ルキウスがそう返したことで安心したような笑顔を浮かべてから、地面に倒れた男を見遣り「連れていけ」と引き連れている狙撃部隊らしき集団に指示する。それから、また穏やかな笑みを浮かべて、医院を立ち去っていく。

 ヨーゼフを振り返って「この度は失礼いたしました、この補償は必ずさせていただきますので」と言い置くのも忘れない。その後ろ姿が医院から完全に見えなくなったとき、エスタがルキウスに囁いた。

 彼以外の誰にも聞こえない声で。


「ルキウス、すぐにここを離れろ」

「……はっ?」


 その言葉を、信じがたい気持ちで聞くルキウス。

 エスタは、真剣な顔で続ける。


「色々と不便だろうし、不安も多いだろうから事情を話してジークを付ける。だから、なるべく早くここを離れろ。すぐにここは地獄に変わる」

前書きに引き続き、遊月です!

引っ張った割にありきたりな方法になってしまったかもしれませんが、これにてカルロ戦は決着です!

そして、エスタの言葉の真意は一体……!?


次回以降をお楽しみに!(今年中に更新できればいいなぁ)

ではではっ!!

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