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狂乱の檻

こんにちは、『世にも奇妙な物語』が楽しみな遊月です! 今回もまだまだカイルとカルロの戦いですが、恐らく次回でそちらは決着するかと……!


本編スタートです!

「守りたい人、傍にいてほしい人、そんなの、俺にだっていたんだ……、いたんだ……、いたんだ……!」

 うわ言のように繰り返される、暗い怨嗟の声。

 それはそのまま、カイルが中央収容所に囚われ、リリアが殺されてからカルロが味わってきた絶望の深さを表しているようにも思えた。

 大切なものを守れなかった無力感。

 時間などでは埋めようのない孤独。

 それが、彼を変えてしまったのか。


「あの日……お前がここに入れられて、そしてリリアさんが死んだという報せを人づてに聞いたあの日、俺の世界は終わったんだ。温かくて優しい大切な人、可愛げがあっていつも一緒につるんでる弟分、俺にとってお前たちは、たぶん全てだったんだ」

 押し殺した暗い声は、奈落から響くようにも聞こえて。

「知ってるか? リリアさんが死んだことについて、ほとんど調べられることはなかったんだ。ただ事故らしい、とだけ。普段行かないような場所で、普段高い所なんか上がらない人が、注意深い人なのに……!

 でもな、納得いかないって調べ始めて、すぐ後悔したよ。その場を見てたって市民にすぐ出会っちまったからな」


 その市民が語ったリリアの最期。

 数人の収容所職員が乗る乗用車で運ばれてきたリリア。抵抗したからか、両手首きつく巻かれた縄の跡が赤い痣になったその姿のまま、彼らの欲望の捌け口にされ、そしてそのまま殴られ続け、最後に頸椎を折られて絶命したのだという。

 最後まで、「あの子には」「あの子だけは」とかれた声で懇願しながら。


 カイルを押さえつける腕に力が込められる。

「痛っ――――!?」

「何もできなくて、苦しくて、そんな時にな、ある人に言われたんだ。愛する者を奪われた悲しみは、より強い感情でなければ埋められない、ってな。なら、俺は恨もうと思ったんだ。この都市も、ここがでかい顔してるような世界も……!」

 その結果掴んだのは、憎悪の感情……。

 カルロは、リリアの命、そしてカイルを自分から奪ったエデンと、それを黙認してしまっている世界に復讐するのだと語った。

「その先の世界で、今度こそリリアさんには幸せに生きていて欲しいんだ、今度こそ、今度こそ……!」

 うわ言のように繰り返すカルロ。

 その後、椅子に座らされた顔だけがない継ぎ接ぎだらけの「女性」を見やって「待っててくださいね、リリアさん」と呟いた一瞬の隙をついて、カイルはカルロの拘束から逃れる。


「――――、カイル?」

 自分を探しながらも焦点の定まらないような瞳に、一瞬怖気を感じながら。

 カイルは、「僕は君を絶対に止める」と決意に満ちた言葉を発した。


 そして、足元に落ちていたそれを拾い上げる。


 血と肉片が付着した、鈍い輝き。

 カルロがここで殺した女性たちの「解体」で使っていたのだろう得物だった。細かく切断することを目的にしていたのか小さい刃をしたナイフは、しかし血にまみれながらも錆び付いてはおらず、人間に比べれば強靭である魔族の皮膚であっても切ることはできる。得物として優秀と言えた。

 そのナイフを両手で握り締め、カイルはカルロに切っ先を向ける。

「もうやめよう? ねぇ、カルロ……!」


「くどいぞ、カイル」

 返答はそんな、底冷えするほど冷たい暗い声。


 次にカイルがしたことは、条件反射と言うほかない。

 カルロが襲ってくるのを見て、すぐさま足下に転がる犠牲者の持っていたスプレー缶を投げつける。

「!? ちっ!」

 邪魔だと言わんばかりに、恐らくカイルを殺したあとで顔を剥ぎ取る為に持っていたのだろう、逆手に持ったナイフで缶を除けるカルロ。

 そして、それが一時的とはいえカイルの身を守ることになる。

 炸裂した缶から噴き出した粉が一瞬、カルロの視界を奪う。降り下ろされようとした注射器の狙いが逸れて、体勢も崩れる。その間に距離をとろうとしたカイルだが。


 ヒュ、


 軽い音がしたのを感じるよりの前に、カイルの足から全身に痛みと熱が広がる。

「ぁ、っ…………!?」

 痛みに呻きながら、太股を見ると、そこには短剣が刺さっていた。

 あまりにも正確な投擲。

 足を運ぶときに行使される神経を的確に射抜き、歩こうとする足を止める。

「うっ、く……!」

 痛みに動きを止めるカイル。そのすぐ傍に、もうカルロはいた。


「カイル、諦めろ。お前はリリアさんの顔になるんだ」


 優しげな顔で、注射器を怯えるカイルの首筋に当てるカルロ。このままでは……!!

 薬を打たれたら、死んでしまう。

 カルロから説明されている薬の成分。

 即効性の死に至る毒薬。

 躊躇してはいられなかった。


「カルロ、ごめん!」

 ずっ、

 

 慣れない手で突き刺したナイフは、傷付けるだけという目的を逸した深さまで達した。皮膚や肉を呆気なく通り抜け、何か硬い感触に突き当たる。


 ガリィィッ


 鼓膜を(こす)りつけてくすぐるような不快な音と、衝撃で手首に鈍く響く痛み。思わず呻くカイル。呻き声をあげてしゃがみ込むカルロ。一瞬その姿に戸惑うカイルだったが、今のうちに距離をとらなくては、と気を取り直す。

「カイルくん!」

 駆け寄って来たセラピア医師の肩を借りて、どうにかカルロから距離をとる。

「どうにかしてカルロを止めないと……!」

「その前に傷を治さないと。時間は少しかかるけど、痛みにくいように治すこともできるから……」

 言うや否や、彼女の手が淡い青色に光る。確かにその言葉通り、微かな痛みはあるものの、ロドリーゴに踏み砕かれた右足の甲を治癒したときのような激痛はない。


 そのとき、1つの作戦を思いついた。

 というより、リアリティを持った映像のようにはっきりと。


『先生、僕がカルロを止めているうちに、お願いします……!』

『わかった! すぐ終わらせるから……』

 思い浮かんでしまえば、もうそれ以外の手段など浮かばず。

成功する。その確信がある。むしろ彼の中には、何故そんな考えがこれほどハッキリ浮かんでくるのか、という疑問の方が強かった。


 カイルは自分の腿に集中している彼女に向かって、口を開く。


「先生、たぶんカルロを止められる作戦を思い付きました」

前書きに続いて、遊月です♪

さぁ、カイルが思い付いた作戦とは……? 次回をお楽しみに!

ではではっ!!

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