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狂気の坩堝

こんばんは、遊月です。

すっかり久しぶりとなりましたが、ようやく『最果ての景色』を更新することができました!!

色々と書きたい作品が多くなってしまい、かなり寄り道する形になってしまいました……(カイル、ルキウス、そして読者の皆様に陳謝です~)


ということで、その期間に対しては短いですが本編スタートです!!

 突如開け放たれた医院のフロントドア。真昼の白い陽光を背にして立っていたのは、エデン中央収容所の制服を着た若い男だった。

「へぇ、そいつが例の少年か……! カイルに首ったけなはずの看守長が妙に執着してると思ったらそうか、こいつあの時にカイルの脱走を手伝ったっていうやつか……。でも、まさかアリスとリデルが捕まえに行って助かってるなんてな。俺の出番なんてないくらいだと思ってたのに」

 身構えるエスタたちの存在を無視するように独り言を言いながらヘラヘラと軽薄そうに笑う青年は、恐らく年格好は未だ奥のベッドの上で眠っているルキウス、そして今は中央収容所に囚われているカイルよりも少し年上くらいだろうか。

 細身の優男といった風体の男は、「へぇ、色々あんだなぁ、ここ」と物珍しげに見回しながら医院内に入ってくる。

 そして、入口にほど近いベッドで昏睡しているミゼリアを一瞥する。


「あっ、こいつ研究棟のやつか」

 そう呟き、事もなげにその首にナイフを突き立てた。


 皮膚や筋肉をいとも容易く貫通して、生存に不可欠な神経や頚動脈を切り裂くナイフ。

 白い病室が血しぶきの赤に染められてゆく。

 出血のショックからか痛みで目を覚ましたのか、それまで閉じていた目を、眼窩から零れてしまいそうなほど見開き、刺された首や開きっぱなしになった口から止めどなく血液を噴き出しながら、ミゼリアは絶命した。慌てて駆けつけた院長ヨーゼフやエスタが処置を施す間すらなく。

「くそ……っ!」

 悔しげに呻くエスタ。

 今、闖入者(ちんにゅうしゃ)の手によって絶命したミゼリア=ピウスは、元々は独立した自治権を持つ都市テラニグラをエデンの傘下に敷くために派遣されていた、エデンの研究棟職員――つまりはエデンの中枢に近い場所に位置する者の1人だ。

 テラニグラにおけるルキウスの捕縛計画では、フランツの難民申請の為に訪れた管理局でエスタたちを足止めして、その間に別のグループがルキウスを連れ去る手筈になっていたらしい。

 そして追い詰めたときに、口走ったのだ。このテラニグラの有力者と繋がりを得た、と。

 新たな疑似能力を服用した結果、吐血して昏睡したミゼリアから何か聞き出すことができれば、その「有力者」からエデンの中枢部に打撃を与えることができたかも知れない。意識さえ戻れば、話させる方法はいくらでもあったというのに……!

 エスタの眉間に、深い皺が刻まれる。目の前の青年を凝視して、【解析】の能力によってその情報を探る。

 そして見えたのは、彼が能力を使用しない一般的な人間であること。若いながら、収容所内でもロドリーゴに次ぐ実力者であるらしい。


 そして、そんな男が事もなさげに告げる。

「まぁ、いいや。とりあえずそこの子ども、こっちに貰いますよ。じゃなきゃ俺が殺されかねないし」


「伏せろ!!」


 瞬間、フランツの依頼でルキウスの警護に当たっていた魔族、ジークが張りつめた声を発する。

 伏せた一行のすぐ上……立っていればまっすぐに心臓を射抜いていたであろう位置を、高速で投擲ナイフが飛び去る。

 壁に当たったナイフはそのまま突き刺さり、そのまま壁に走る亀裂が投擲の威力を物語る。


 しかし、それは単なる囮に過ぎない。

 それと同時に駆け出した男の手は床で眠るルキウスに向かって伸ばされる!

「ちっ!!」

 焦り混じりの舌打ちと共に、ジークはルキウスを寝台ごと男の手から遠ざける。

 そのまま、空を切った男の右手を能力で霧と化した自身の体で拘束する。圧力を高めた状態なのだろう、男が足掻こうとするたびにミシミシ、と右腕が鈍い音を立てる。

「…………! へぇ、こんな能力ちからもあるんだなぁ。俺らが見るのってチップ埋め込まれたやつらばっかだから新鮮って感じ?」

 それでもまだ余裕の笑みを浮かべる男。


「まぁ、手ぐらい問題ねぇけどな!」

 

 その言葉と同時に、男の右腕が湿った音を立てて奇妙な方向に捻じ曲がる!

「…………っ!!」

 顔を歪めながらも男は体勢を変えて、ルキウスに向かって左手を伸ばす。

 しまった、とジークは固唾を呑む。

 慌てて引いただけだったため、その距離は実はあまり離れていない。

 そしてエスタとフランツ、院長のヨーゼフは彼らの戦いに加勢できる距離にはいない。辛うじて持っている小銃の撃鉄を起こして男に向かって構えてはいるが、先程男が見せた動きからして、音速を辛うじて超える程度の速度しかない弾丸くらいなら避けることも不可能ではないだろう。


 そして、その左手がもう少しで届こうというところまで近付いたとき。

「皆さん、伏せてください!」

 そんな声が響き。

 医院の窓の外から無数の銃弾が飛び込んできた!!


 * * * * *


「やっとこっちに来てくれたな。待ってたんだよ、カイル」


 エデンの中央収容所、地下1階。

 そこで幼馴染であり収容所の新しい医務員でもある魔族の青年、カルロ=コンキーリャの凶行を目撃してしまったカイルは、彼を能力である【閉鎖された空間】の中まで彼を追ってきた。


 そこで見たものは、無数の死骸。

 彼が攫ってきたと語る女性たちの無残な亡骸は、そのどれもが体の一部を欠損していて。それらの部位は空間に存在する椅子に座らされた『女性』を形作るために継ぎ接ぎされていた。

 カルロの目的は、無数の死体から作られて血液も通わされた『女性』……かつて彼の恋人であったカイルの姉、リリア=エヴァーリヴの復活。


「何回作っても! 何人分作っても! 何人殺しても! どうしても、リリアさんの顔にはなってくれないんだ!!」


 そう涙すら零しそうな怨嗟の叫びを上げたカルロを、それほどの狂気に冒されて尚、やはり自分にとっては頼り甲斐のある「兄」代わりだった彼を、止めたいと思った。

 手遅れだとしても、それ以上罪を重ねさせるわけにはいかない、と。

 そして、一緒に【空間】に巻き込まれたセラピア医師を庇う形でカルロの前に立ちはだかったカイルを見て、カルロは優しげに微笑んだ。


「なぁ、カイル。さっき話したよな? ここにある死体どもじゃ、リリアさんの顔は作れないって」


 ぞっとするほど冷たく、しかし絡み付いてくるような優しさをも秘めた声。

 思わず身構えるカイルに、カルロはあくまで穏やかな口調で言葉を続ける。

「でもさ、リリアさんによく似た顔をしたやつを使えばいいと、そう思わないか?」

「え……?」


 嬉しそうな声。

 それは昔カイルたちの明るい日常が当たり前に続いていたあの頃を思わせる響きで、思わずカイルは戸惑う。

 その一瞬の隙に、幼馴染の言葉はあまりにも恐ろしいものだった。


「カイル、お前の顔をリリアさんにあげてくれよ。そうすれば、きっとリリアさんはあの頃みたく俺に微笑んでくれるからさ」

前書きに引き続き、遊月です!

アリスとリデルについて語る青年の登場であったり、カルロの狙いが明らかになったり、波乱続き(自分で言うのか)なお話となりました!

次回はあまり間を空けずに投稿したいと思いますので、よろしくお願いいたします!


ではではっ!!

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