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果てなき夢

こんばんは、仕事が忙しくなってきたことで時間よりも体力が辛いところで「あぁ、年取ったのかしら」と悲しくなる遊月奈喩多です(まだ若いはずなんですが……)!

長らくお待たせしました! ようやく更新できます。

間がかなり空いたので、近日中に間章としてこれまでのお話のあらすじをまとめたものを上げる予定です。(´Д`;)ヾ ドウモスミマセン


ということで、本編スタートです!!

 テラニグラ市街地は、いつものように賑わっている。

 通りの両端には様々な地方の特産品を扱う商店が立ち並び、飲食店からも様々な味を感じさせる香りが漂う。

 今の時期は例年通り、この都市のすぐ南に広がる広大なトルッペン砂漠を越えた更に南の地方でよく食べられている、香辛料をふんだんに使った穀物料理を扱う飲食店が人気を博している。

 商店の方はというと、北の未踏の地から採取されたという虹のような色合いの鉱石をあしらった様々な装飾品を扱う商店や月明かりを美しく映すと評判の西の山村で作られる織物を扱う商店に人だかりができており、また裏通りでは北東の地域で多くの住民を虜にして依存させたという香草が密かに売買されている。

 また、通りに面した一際大きな建物では演劇が催されており、時折場外にまで漏れてくる歓声は、劇場がいかに盛況であるかを物語っていると言えよう。

 最新の演目が外壁で表示され、通りかかった観光客は透過鏡――透視・投影の能力を持ったスタッフによって考案された、1回に5~8分程度、リアルタイムで場内の様子を映し出す仕組みのモニターの前で足を止め、そのうち何組かが外壁の公演スケジュールを確認してから建物の中に入っていく。


 それが、自由と独立をうたう商業都市テラニグラの日常である。


 市街の中心である巨大市場から外れた場所にある、小さな医院。

 エスタは半ば詰め寄るようにして院長ヨーゼフに尋ねていた。

「で、どうだ? 何とかなりそうか?」

 医院のベッドに寝かせられているのは、ミゼリア=ピウスというエデンの研究員だ。エデンからこのテラニグラに派遣されて来たと語る彼女は、人間でありながら、エデンによる魔族の研究過程で作られた「擬似能力」という薬剤によってエスタたちを翻弄した。

 しかし、エスタたちに追い詰められたときに彼女曰く「テラニグラに滞在する者の大半を巻き込むかも知れない」能力を使おうと薬剤を服用したと同時に、ミゼリアは全身から血を流して倒れてしまった。

 突然の事態に唖然としながらも、彼女が言った言葉――――この都市においても有力者とのパイプを築いたという勝ち誇ったような言葉の真意を探るために、すぐさまこの医院にかつぎ込んだのである。

 擬似能力についてエスタたちが知っていることは、多くないが重要なことではある。

 服用すれば本来は能力を使うことにできない人間でも、魔族と同等に近い能力を行使することができるようになること。

 そもそもは魔族の能力の源である神経細胞「能力核」の研究の過程で生まれた副産物であること。

 そして擬似能力は、このテラニグラで量産されているらしいこと。


 ミゼリアの言う「有力者」がその製造に関わっていることは疑いようがないだろう。そして突き止めることができれば、逆に「有力者」から辿ってエデンの中枢部分に辿り着くことができるかも知れない。目前に迫ったその予感に、エスタの焦燥に拍車がかかる。

 が、院長ヨーゼフは「少し落ち着け、グラディウスの小坊主」と彼をいなす。

「まずは俺に説明することはないか?」

 そう呟いて指差したのは、床に倒れている大男。頑丈な繊維で編まれた衣服をまとっており、頬についた痣は紛れもなく魔族である証。恐らく、ミゼリアが管理局でエスタたちを足止めしている間に、この医院で体を癒しているルキウスを連れ戻す役を担っていたエデンからの追っ手だったのだろう。どうやら全身の血液が失われているらしく、当然絶命している。

「くっ、思ったよりも早く来ていたか」

 ミゼリアが陽動役であることを看破してすぐに、テラニグラ本社内の監視班にこの医院の警備システムの強化を要請してはいたが、どうやら間に合わず敵が到着してしまっていたらしい。

「すまんなおやっさん。ところで、こいつはあんたが……?」

「そんなわけあるか! あいつが何とかしてくれたんだ、ほれ、ヒューゴ(、、、、)の小僧の傍に立ってるやつだ」

 言われてルキウスの眠っている病室を覗くと、傍には足元の大男と同じくらいに大柄な体をした魔族の男が壁にもたれていた。彼は、エスタに気付くと軽く片手を上げ、傷跡だらけの顔をニッと歪めた。

「お、お前はジークか!」

「久しぶりだな、エスタ。いつも澄まし顔のあんたが驚く顔なんて、こいつぁいいもん見た。ありがとよ、フランツ」

 ジークと呼ばれた男は、エスタの肩を通り越してヨーゼフと話しているフランツに言葉を投げかける。その言葉に、フランツも軽く片手を上げて応じる。


 ジークは、フランツの友人で、かつて傭兵だった過去をもっている。フランツの仲介でエスタも彼と知り合っており、以前は砂漠を越えたり内戦が激しい地域を経由しなくてはならない場合などに護衛を頼むこともあった。

 もっとも、傭兵になる前はエデンに程近い山村で教師のような仕事をしていたらしい。

 しかしエデンで提唱された「共存」が果たして本当の意味での共存となるのだろうか――一部の人間に都合の良い方便なのではないか――という疑問を口にしたがために職を追われ、危うくエデンに捕らわれてしまう寸前のところまで追い詰められてしまったのだということをフランツから聞いている。

 現在はこのテラニグラで永住権を得ており、それまでの世界中を逃げ回っていた時期に武器商人だったフランツと知り合って意気投合したのだという。

 そして、彼が持っているのは【全身を霧状にすることができる】能力である。

 霧になっている間はもちろん相手からの攻撃を受けることはないし、そもそも逃げているときにこの能力を使用すれば見つかる確率は激減する。また、視界を塞ぐこともできる。弱点としては、強風が吹いていると体が霧散してしまって復元が困難になることと、霧状になっている間は自分自身も相手に攻撃することができないことが挙がる。

 しかし、ジークの能力の真価はその霧にする部位を選択することができるところである。

 たとえば、どうやらこの医院内でもそうやって戦ったようだが、体のほぼ全体を霧にして室内全体に届くくらい自身の面積を広げ、手元だけを残しておいて相手の死角から攻撃する……という戦法を採ることができるのである。


「フランツから連絡を受けててな、念の為にここに張っててくれってさ。なかなか探せずに苦労はしたが、とりあえず敵さんが来る前に着いてよかったよ」

「姿を見せないまま声だけ聞こえたから、何かと思ったがな」

 ヨーゼフが苦々しい表情で呟く。あぁ、悪かったよ……と頭を掻くジークだが、そのとき見えた真新しい傷で、とりあえず何があったのかを察したエスタであった。

「その腕の傷は、おやっさんにやられたのか」

「驚かせちまったみたいでな……」

 平穏を取り戻した医院内で、ゆっくりとした空気が流れる。そして、ジークの釈明に「うるせぇ」と返しつつヨーゼフがエスタに向き直って口を開く。

「なぁ、グラディウス。訊いていいか」

 真剣な面持ちでエスタを、そしてルキウスを見る。

「この木偶の棒が戦ってる間、ここは決して静かとは言えない状態だったぞ。それなのに、この小僧は全く目を覚ます気配がなかった。魔族の感覚は……聴覚だって人間よりもずっと鋭敏なはずなのにだ。まぁ、体中の骨が折れるくらいのことがあったんだから、疲労やショックだってもちろん相当なもんだろうが、それにしても……」

 そこから先を言い淀むヨーゼフ。

 その先は、エスタも幾度となく思っていたことである。


 恐らく、ルキウスに残された時間はあまり長くない。


 確証はないが、中央収容所に連れ戻されてしまったカイルが言っていたことも含めて考えるなら、ルキウスは物心着いた頃から約10年間にわたって、エデンの中央収容所「テラ」の地下研究棟で何らかの調整を受け続けていた。

 気丈に振舞って、そして好奇心やその勝気な性格で覆い隠していたものの、ルキウスの体は自身の能力を使うことにすら耐えられないほど衰弱している。本来ならばそのような体で過ごせていたのが奇跡的と言ってもいい。

 それが、行く先々で狙ってくるエデンからの刺客との戦いや、トルッペン砂漠で略奪を繰り返していた者たちとの戦いで、気を失うまで能力を使ってきたのだ。それらの疲労……というよりも負担が体に重くのしかかっているのだろう。今のところは計器に表示されている脈拍も正常だし、時間はかかるだろうが、目を覚ませばきっと何の支障なく旅を続けることはできるだろう。

 だが、この先も今のように続けられる保証はない。

 それは、ヨーゼフに告げられるまでもなくエスタたちにも薄々わかっていたことだ。

「………………」

 痛いほどの沈黙が、白い室内を満たしていく。

 いつもならこういう空気を変えようと努力するフランツも、このときばかりは何も言うことができずにいた。

 もちろん、彼らは全員身近な人間や魔族の死を全く目の当たりにしなかったわけではない。エスタは最愛の妹をエデンで喪っているし、フランツも武器商人時代に数多くの死を見ており、そして今では、トルッペン砂漠で身を置いていた遺跡での最後の生き残りである。

 そんな彼らをして――いや、そんな、数々の死を救えなかった彼らだからこそ、救おうと尽力している少年の命が残り短いという事実と、その原因となっただろう企ての存在に口を噤まずにはいられなかった。


「そう、だからこそ我々はその少年をすぐに連れ戻したいんですよ」

 突如開かれた医院のドア。

 その外には、カイルが囚われているエデン中央収容所「テラ」の看守が着用する制服を着た長身の青年が不真面目そうな笑みを浮かべて立っていた。

こんばんは、前書きに引き続いて遊月です! 心強い助っ人が現れるや否や、更なる追っ手が姿を現しましたね。そして、カイルの方はどうなっているのか……?

色々なことを残したまま、物語は次回に行きます。

それなりに早めの更新になると思われますので、よろしくお願いします!

ではではっ!!

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