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秘された楽園

こんばんは、またしても夜の投稿になってしまった遊月奈喩多です!!

最近また働き始めたので、夜の方が時間取りやすいんですよね~と言い訳させてくださいね☆

ということで、今回は15話「秘された楽園」です。

優しくカイルを包み込んでくれていたはずの幼馴染、カルロの隠された姿とは……?


本編スタートです!

 ――――カルロを止めないと。

 その声に背中を押されるようにカルロを探していたカイルが見たのは、暗い廊下の奥で返り血にまみれながら看守を見下ろしているカルロの姿だった。

 ずっと頼ってきた、兄のような幼馴染。

 いたずら好きで、強引で、時に周囲を勝手に巻き込んでしまうような行動もするところだってあるが、値はとても真面目で、正義感に溢れていたカルロ。眩しく屈託のない笑顔が、幾度も自分を引っ張ってくれていた。

 そんな彼のことが、大好きだった。

 しかし。

「カイル、お前にはまだ知られたくなかった……っ」

 今、その幼馴染は静かに涙を流しながらカイルに向かって微笑んでいる。

「リリアさんが復活するかも知れないなんてこと、実際に成功させられるまでお前の耳に入れたくなかったんだ。だってそうだろ? 万が一失敗したら、期待だけさせてその期待を裏切るなんてことになるじゃないか。

 そんな残酷なこと、できるわけがない。だってお前は、どんなに俺たちの周りが変わっていったって、俺にとっては大事な弟分なんだから。それに……」

その後呟いた一言が聞き取れず、カイルは思わず聞き返した。

 暗い廊下の中に、沈黙が充満していく。

 カルロが1歩だけ、カイルに近寄る。セラピア医師が怯えたような声を出し、カイルは自分の背にするように彼女の前に立った。その姿を見て、カルロは少し笑った。

「そっか、お前もそんな風に誰かを守ろうって思うような年齢としになったんだな。もしかして、一緒にここを出たっていうルキウス……だっけか? そいつのおかげかな」

 嬉しそうな微笑でカイルを見つめる姿からは、それでも奇妙なほどの威圧感がある。

 言うなら、大きな波が来る前の海原が異様なほど静かになるように。台風の前に1度風が止むように。

 そんな、どことなく不安になるほどの穏やかさが、カルロにはあった。

 そして、また1歩、また1歩とカルロはカイルに近付いてくる。

 その歩みの遅さから、どこか躊躇しているような雰囲気を感じたが、それでも確実に1歩ずつ、カイルのいるところに近付いてくる。

 カルロは、何を躊躇している?

 何をするつもりなのか、まったくわからない。

 見なかったことにしてくれと言うつもりなのか、それとも口封じに殺そうとするのか、人質にして目的を遂げようとするのか……自分たちの関係性を無視すればいくらでも浮かんでくる選択肢に惑いながら、カイルはカルロがしようとしていることを考える。

 そのうちにカルロは2人のすぐ目の前に来て、カイルの肩に、生ぬるい血液の付いた手を置く。

 次の瞬間、少しだけ地面が揺れたように感じた。


 ふと左手に何かの温もりを感じたあと。

 目を開けたとき、周囲にあったのは薄暗い廊下などではなかった。


 * * * * *


 テラニグラの外れに位置する小さな医院。

 院長を務める医師ヨーゼフは、ホットココアを飲んで一息ついていた。

 どんなに暑い季節でも、一息つくときはホットココアを飲むのが彼の決め事であった。常に緊張状態にあるといってもいい彼の仕事において、飲み物を飲む時くらいはリラックスしたいというのが彼の気持ちである。

 その日も、気持ちをほぐしたくなるようなことばかりであった。

 急に運ばれてきた傷だらけの少年。

 テラニグラを代表する大企業の役員が運び込み、そしてその経営者が慌てて駆け込んでくるほどの少年。そんな存在をこの医院で診ることになるとは……。ヨーゼフ医師はふぅ、と息をつく。

 院長の口が堅く、立地的に訪ねる者もそう多くない。

 だからこの少年のような、いわゆる「ワケあり」の患者を診ることには慣れているが、それでもそういう期間は危険になることに変わりはない。以前にも似たような状況で診ていた患者を追ってきたと思しき者から傷を受けたことがある。

 そのときの傷はまだ額に深々と残っており、そのおかげで近所の子どもたちから「おっちゃんギャング」と呼ばれて怖がられてしまうことを、気にせずにはいられない。

「ったくよぉ……」

 特に言う内容も浮かばないままに独り言を始めるくせがついたのはいつからだったか。

 そんなことよりも、今は隣の部屋で眠っている少年だ。

 イスト=シェベートが担ぎ込んで来た時には全身の骨がまるで上から踏み潰されたかのように砕けていたが、そこはさすが魔族の治癒力、術後は順調に回復しているように見受けられ、たった数時間で体内組織の回復がある程度進んでいるようだった。

 ヨーゼフ医師は大きく伸びをして、治療室で眠っている少年ヒューゴ(、、、、)に次の治療を施すために隣室へ向かおうとした。


 ――――ちっ、ここにいやがったのかぁ!


 ふと、そんな声が聞こえたような気がして……。


 * * * * *


 テラニグラ、管理局エントランス。

 エスタたちを襲撃してきた少年エタンセルは、気絶したまま動かない。瞳はただのガラス玉同然になって意識の存在を感じさせないその姿を見るに、もしかしたら気絶どころではなく仮死状態にでもなっている可能性だってある。

 それをしたのは、エスタたちの目の前で不敵に笑っている係員の女。

 正確には、彼女の体に憑依した、また別の刺客である。

「ちょ、ちょっと、ティア? ど、どうし、」

「危ねぇから離れてろ! 今は別人だ!」

 ティアというのが敵に憑依された係員の名前なのだろう、彼女の名前を呼んで震えている同僚の係員をフランツが引き離す。

 その様子を無関心に見ている敵の姿を、エスタは見つめる。

 どうやら対象の精神に何らかの方法で干渉をするというのが、この敵の能力なのだろう。

 しかし、きっとその能力には何かしらの制限というか、条件がある。例えば無条件に精神を操れるなら、わざわざこのように無関係の人間を巻き込むような、そしてエスタたちに敵と認識されるような方法を採らなくても、もっと他に――エタンセルに憑依して「自分」自身の口を永久に閉ざすといった手段だってあったはずだ。

 それでも、こうして露骨に敵として現れたのには、きっと何らかの制限があるからなのだろう。

 そして、もう1つ。

 エタンセルは気を失う前に言ったのだ。

『何故お前がここに……!?』

 そう、エタンセルには今目の前にいる係員が自分と同じく、ルキウスを連れ戻すべく派遣された者であることがわかっていたのだ。

 どこかにヒントがあるはず。

 エスタは、注意深く目の前の敵――敵に憑依された係員を観察する。

 目の前で託児係員の姿をしてこちらに微笑む敵。他人の体をここまで自在に動かしているのだから、ある程度の近距離にいる可能性が高い。

 そもそも、このような能力にはいくつかの種類がある。


 まずは対象を遠隔操作する《傀儡使い(マリオネティオン)》。外側から、いわば間接的に操作しているという能力の性質上、対象の操作性については能力者の熟練度に委ねられるし、よほど慣れた使い手でもあまり複雑な動きをさせることはできない。また能力者から見えない物――対象がポケットなどに入れている所有物――を使うことはできない。

 加えて対象やその周囲の状況を見なくてはならないため、能力者は対象――操作している肉体――の傍にいる必要がある。その代わり、感覚を共有しているわけではないため、対象が受けた傷などが能力者に影響することはない。

 そして、恐らく目の前の敵が使っているであろう種類――対象の肉体に自分の意識を乗り移らせて自分の肉体として動かす《所有(ポゼッション)》。自らの意識が対象に入り込んでおり、感覚も共有するため、《傀儡使い》に比べて格段に精密な動作をすることができる。しかし、その間能力者の本体は動けないまま無防備であり、更に肉体が受けたダメージは能力者自身の感覚にフィードバックされる。

 

 この敵は、係員がポケットの中に所持していた腕輪型の制御装置を使った。恐らくは後者の能力を持っているのだろう。

 ならば、どこかで眠っているように動かないでいる本体がいるはずだ。

 エスタは、周囲を観察する。今見るべきは、目の前で笑っている係員ではないのだ。倒すべきは、どこかにいるであろう本体だ。何とかして無力化しなくてはならない。それにはどうするべきか。

 しかし、目の前の係員は嗤う。

 エスタの思惑など全て見通しているとでも言わんばかりに、余裕に満ちた微笑みを向けてくる。

「ふふふっ。無駄ですよ、エスタ=グラディウス。あなたがわたしのことを探ろうとしたらすぐに逃げてしまえばいいんですからね。あなたごときにわたしを捕まえさせたりはしない……」

 敵は、含み笑いを止めない。

 そしてその姿を見ているうちに、エスタの頭にはある疑問が浮かび上がる。

 目の前にいる敵は、何を目的として自分たちに接触してきた?

 まず、敵が精神を取り付かせた係員は、魔族であることを示す痣がないこと、そしてエスタが能力で視たときに何も能力を見出せなかったことから、恐らく何も能力を持っていない人間なのだろう。魔族である自分と戦うつもりなら、何らかの制約によって魔族に憑依できないとしても、およそ武具の気配などない一般人になるだろうか。

 しかも、あからさまに敵であることを示し、身体能力が遥かに高い魔族の前に姿を現すだろうか。目の前で笑っているものの本体が魔族であるのか、擬似能力を使用している人間なのかはわからない。しかし、今こうしてエスタと相対している状況は、よほど発動が早く強力な能力を持っていない限り圧倒的に不利と言えるのである。

 たとえばエスタが敵の手を掴んで(操作の速度にも差があるため、手を掴もうと思えば容易だろう)、少し力を込めたりすれば、骨にひびが入るのは確実である。ルキウスが追っ手との戦闘で負った傷ほどでなくとも、しばらくの間使い物にならなくすることだって可能である。

 それは恐らく、相手だってわかっているはずのことだ。

 しかしそれでも、こうして自分たちの前に姿を現している。

 もしかすると、今のように姿を現して自分たちの意識を向けておくこと自体が目的なのだとしたら……? それならば、この余裕の笑みも理解できる。

 エスタはある答えに辿り着く。

「お前は、足止め役か」

 その言葉に、敵は「へぇ~、この娘からは何も読み取れないはずなのに」と本気で感心したように朗らかな笑みを作って答える。

「でも、それがわかったところでどうするんです? あなたもわたしを逃がすつもりはなかったでしょうが、わたしだってあなたたちを易々と逃がすつもりはないんですよ?」

 その言葉と同時に、目の前の係員から放たれる気迫が増したように感じる。

 恐らく、狙いを悟られたことによって本格的に自分たちを捕らえに掛かるつもりなのだろう。憑依能力を使う者の中には、同時に複数人を操ることができるものも僅かながらいるという。目の前の敵がそれに該当する可能性もある。

「おい、旦那! ルキウスが……!」

 もはや決めておいた「ヒューゴ」という偽名で呼ぶことすら忘れてフランツが叫ぶ。

 ルキウスどころではない、恐らくこうなれば自分たちの身だって危ないだろう。この敵はもう、今までのようにこちらからルキウスの居場所の情報を探ったりするような、いわば「ついで」の任務はしないだろう。

 しかし。

 エスタは微笑わらう。

 そして、周囲にこの騒ぎが漏れる前にお前を倒す、とでも言うかのように囁いた。


「オレが、何の準備もせずにここに来ると思うか?」


 * * * * *


 カイルが目を開いたのは、上も下もない空間だった。

 どこかに足は付いている。だから、頭が向いているのが上、足がついているのが下……そう考えていいのだろう。しかし、その空間は――カイルも知っている、カルロ=コンキーリャの能力によって生み出される亜空間の中には、地面と呼べるようなものは見えず、言うならただ浮いているような感覚に陥った。

 ここが……カルロの空間?

 カイルは思わず戦慄した。

 幼い頃、カルロに頼めば何でも持ってくれていた。

『重そうだな~、じゃあさ、「ここ」に入れとくよ』

 カルロ自身も、大事にしている物を失くさないようにしまっておくことがあった。

『えっ、リリアさんのプレゼント? もちろん「ここ」に取ってあるよ。あ、やべ。にやけてきた!』

 カルロが作り出す亜空間にはそんな、在りし日の日常を思わせる記憶がたくさんある。

 だけど、その中に自分が入るようなことは、1度もなかった。

 だから空間の中がこんな風に、本当に「ただの空間」でしかないということは知らなかった。空虚にして不安定。およそ意識を持った生命体が入っていい場所ではない。

 幼い頃から知っていたものがそんな場所だったのだと、改めて戦慄した。

 そして、何よりも。

 一瞬思い出した幼い頃の記憶を吹き飛ばしてしまうような光景が、カイルの足下に広がっていた。カイルは、萎縮した喉から震える声を絞り出す。

 目の前で自分を見つめている幼馴染に向かって、声を出す。

「カルロ……、これ(、、)――――ううん、『この人たち』は……っ! どうしたの!?」

 足元に横たわっている、無数の死体。

 どれくらいの人数になるのか、見ただけではわからない。しかし、わかることはそこにあるのはほとんどが女性の死体であり、そして意図的に切除された部位があるらしいこと。

 そして、カルロの傍らにある椅子に座らされているもの。

 座らされている、というよりはまだ『置かれている』と表現する方が正しいのか――――豪華でいて洗練された優しげなデザインの、恐らく座る者に対して無限の愛情を注ぎ込んだのだろうと容易に想像できる椅子に置かれている、顔のない『女性』。

グッタリと鎮座するその『女性』の体中には電極が突き刺さっており、絶えず電気を流されているのだろう、命が宿っていないはずのその体は時々痙攣している。「ずっとこうやって、筋肉をほぐしてるんだ。じゃないと動きにくいもんな」というカルロの優しげな声も、耳を通ってすぐに抜けていく。

 何故なら。

 継ぎ接ぎされて出来ているらしいその体の輪郭は。

 電気痙攣で揺れる、ココア色の髪は。


 カルロが優しく囁く。

「あとは顔を付けて目を覚ましてもらうだけなんだ。待ってて、リリアさん。もうちょっとで、またあなたに会うことができるから……」


 顔がないその『女性』は、姉のリリアに瓜二つだった。

こんばんは、ニコニコ動画で吉良ココアシリーズを見続けている遊月です。

※ リリアさんの髪の色と彼女(彼?)は関係ありませんよ? 色の名前事典から参照しています。

カルロさんにしてもイストさんにしても、当初の予定以上の出番があるものよのぉ……としみじみ思っております(イストさんは今回出番ないけれども)。

ということで、色々と変化に富んだ世界ですが、健康に生きてゆきましょうぞ(何が言いたいのやら)!

ではではっ!!

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