大畠 大輔
大畠 大輔
書庫のいつもの椅子に座る。
本棚から持ってきた本を開いて、その内容をノートに書き写す。そのページ一杯に文字を書き込むとそのページを破って食べた。
これがこの国の司教に命じられた仕事だった。
僕はこの世界に召喚された。
その時に一緒に召喚された友達が次々と有力なスキルを発現させるなか、俺が得たスキルはゴミ。
と言うのがとても合っていた。
僕のスキル名は『こいつは秀才ただしバカ』というスキル名で(このスキル名には人神の悪意を感じる!)、どうしようもない効果があった。
それは、文字の書かれた紙を食べると、その紙に書かれている内容を絶対に忘れないというものだった。
大体考えて欲しい。
書庫があるということはどういう事かと、
書庫には沢山の本がある。
それはもう沢山!山積みだ!
その本に書かれている内容というものは大体が普段必要の無い情報だ。
どうして?と言うなかれ!
それは必要無いからだ。
必要な情報は皆勉強して知っている。
勉強して知る必要の無い内容を此処、書庫にまとめてあるのだ。
『あれ?あれってどうなったんだっけ?』ってなって、此処に来て調べると。『あぁ、そうだった。こうなったんだよな!あぁ、すっきりした!』
それだけの物。
ここに有るのは、覚えるまでも無い。だけど、忘れちゃうと後々面倒かな?
そんな情報が置かれているのだ。
もちろん『禁呪』の書かれた魔法書なんて無い。
そんな情報を司祭の命令でひたすら覚えていた。
司祭曰く、『人神様の下さったものに無駄なものがあるはずがない』のだそうだ。
じゃあとりあえず書庫でも行って色々覚える?みたいな話になって現在に至っていた。
本当に、なんでこんなスキルが、、。
まぁ、何故?と言えば心当たりはある。
お父さんに勉強を教えてもらった時に、暗記できたページを食べると良い!と言われたのだ。
それで、試しに暗記したページを食べてみたのだが。確かにテストの点数が上がった。
まぁ、食べたから覚えたと言うよりも、そのページをもう読む事が出来ないという切迫感が暗記に繋がっているのだと思う。
それからはテスト前になるとちょくちょく食べてた。
それを人神はナンセンスに感じたんだろうな(俺も同感だけどさ)。嘲りの意味も含めてこんなスキルを俺に寄越したんだと思う。
でもそれは僕以外の人もそうだった。
『小判鮫』
ってスキル。
これは一緒にいるパーティーのメンバーが強ければ自分も強くなり、弱いと自分も弱くなるというものだ。
『弱者優戦』
自分より弱い奴と戦う時強くなる。
但し、自分より強い相手と戦う時は弱くなる。
これらのスキルを得たのはこのクラスの中でいつも偉そうにしていた三人組で、このスキルが分かったとき皆大爆笑した。
三人は顔を真っ赤にして怒ったけど誰も止まらなかった。
どのスキルもこんな感じで、スキルの持ち主に寄った物が多かった。
戦闘系の能力を授かった人は、やっぱり荒っぽい性格だし。
生産系のスキルを得た人はやはり手先が器用な人が多かった。
性格や、実体験に基づいたスキルを授かる。
その中で中村由依さんの授かったスキルは、
『売春ガール』
というスキルだった。
人のステータスを見ることが出来るという、涼子さんがそれ皆の前で暴露した。
その瞬間、
『黙っておけよ!』
って声がして。皆が俺を見た。
その中に居た小判鮫が俺に向かって、
『大輔!お前、由依の事が好きなんじゃねぇの?!』
と言われ、さっきの声は俺だったと察して。
『だったらなんだよ!』と俺は言った。
『じゃあ良いじゃん!良かったなー、金払ってやらせてもらえば?!』
カッとなって小判鮫に殴りかかるけどあえなく撃沈。
慣れない事はするもんじゃ無い。
それから俺は医療室へ、由依さんは部屋に引き込もってそこから出なくなったらしい。
俺も傷が治ってからは自室と書庫をひたすら往復する毎日だ、クラスメイトの顔を見る気になれない。
俺のスキル名だつたり、小判鮫ってスキル名だったり、弱者優戦ってスキル名は良い。
十分ギャグになる。
でも、由依さんのスキル名は駄目だろう。
不必要に人を傷付ける必要が何処に有る?
俺には分からない。
最近は、こんな事態を招いた人神に何とか一矢報いたい。そんな事を考ばかりを考えていた。
しかし、俺のスキルじゃあな。
暗記という能力はこの世界で活かせる要素がまるで無い。




