さてと。
さてと。
王宮から逃げてきたマリちゃんは身分を隠す為に子供の姿に変身することになった。
どんな生き物に変身出来るスキルも、さすがに服までは用意出来ないみたいで、ヘンリエッタの服を借りている。
それで、マリちゃんがヘンリエッタの服に合うサイズへと自分の体を変えていた。
そうすると俺は当然四人の幼女に囲まれるという意味不明な状態に。
全然嬉しくねぇ。
まぁ、いいや。
それよりも、忘れちゃあいけない。
俺は犬だったマリちゃんが精神魔法に掛かっていた事を。
「本当にアニエスは覚えがない?」
と聞くと。ちょっと怒った感じで、
「そんな事!絶対にしないわ!」
と言った。
俺はこの世界に来た時に精神魔法をかけられた。
どんな精神魔法をかけようとしたのかは分からないが、良いもののはずがない。
そして、それがマリちゃんにかかっていたのだ。
「じゃあ、誰?俺に誰かがかけたのも間違いないし、マリちゃんに誰かが掛けたのも間違いない。だろ?」
ヘンリエッタは沈黙した。
イリスも下を向いている。
「じゃあ、誰?」
「疑わしいのは」イリスがゆっくりと口を開いた。「アニエス様のお兄様。イーサン様。もしくは神官のミディ様かと」
マリちゃんを見ると首を傾げている。
「イーサンのキモ野郎は多分無いかな?」
と言った。
キモいんだ。
「じゃあミディって奴?」
「そうかも」アニエスが言った。「ミディは、秋人の言ってた『人神』の使徒にあたるの。召喚者達を早く強くして魔族と戦わせるために『戦意上昇』の魔法を使ったのかも。義明もそうだけど、わりと皆温厚だしね」
そりゃあ争いの無い国から来ましたからね。
「でも、そんな事しちゃあ、絶対にダメだよ!」マリちゃんが怒った。「人の心を魔法で変えるなんて!」
「申し訳ないわ」とアニエスが謝った。
「でも、どうする?」
問題はこれからだ。
クラスメイトの精神魔法を解除するのは問題ない。
俺が戻れば良いだけだ。
しかし、それからだろう。
俺はこの世界の人間じゃあ無いし、特別争いたくはない。国のゴタゴタに巻き込まれるのは御免だった。
「義明君?」小さくなったマリちゃんが俺を見る。「皆このままじゃあ可哀想だよ」
そうなんだよな。
「助けてあげよ?」
俺は腹をくくった。




