プロローグ
鈴木 義明
「おい!ブタ!」
ブタとは俺の事だ。
「何だよ」
「呼んだだけだ。いや、お前がブタとかブタに失礼だよな」
一人の男がそう言うと、他の奴もそれに同調した。
「何だろ?人間に見えねぇんだよな」
別の男がそう言う。
「こいつが日本語を喋ってるとたまに焦るよな!」
また別の男がそう言うと、教室が笑いに包まれた。
まぁな。自分でも寝起きの自分の顔を見るとたまに卒倒しそうになる。
不愉快だが皆がそう言うのも仕方がないような気がした。
「まぁまぁ、やめなさい。気持ちも分からなくも無いが良くないぞ!」
オイオイ!
これは先生のコメントだ。何だか『世も末だな』なんて、思ってもいないけど。そんな事を思いたくなる。
俺はどうやら世界一のブサメンらしい。
俺の顔の写真を勝手に撮ってそういうサイトに投稿したら文句なしのブッチギリで一位だったらしい。
ちなみにこれが物事で一位になった唯一の経験だから涙が出そうになる。
「おい!ブタ!」
そう言って俺にゴミが投げつけられる。
全くいつもの事とはいえ、面倒な人達だ。気にしないで机に座った。
先生も授業をさっさと始めたいだろうに。
『バキィィィ!!』
突然大きな耳鳴りがした。思わぬ痛みに目を細める。
耳鳴りが収まると目の前の異常に気が付く。
色が無い?
全てがモノトーンでしか物が見えない。
緑色だったノート、茶色だった机、先生のピンクのネクタイ。全て白黒でしか認識出来ない。
もう一つおかしな事を見つけた。
俺に投げつけられたゴミが宙に浮かんでる。
もしかして時間が止まってる?
『よう!クソガキ供!』頭の中に声が響く。『お前らはこれから異世界に召喚される事になった!良かったな!そこでお前らは俺様!人神の使徒となって、魔族供と戦って貰う!』
皆が少しずつ動き出す。異常事態に気付いたようだ。
「どういうことだよ!」とか口々に色々言っている。
『まぁ、せいぜい頑張ってくれよ?まぁ、全員なんかしらのスキルをサービスしてやったからよ!』
「ふざけんな!」とか、「チート寄越せ!」とか口々に色々言っている。
『あれ?何でオークが此処にいる?』
頭に響く声の調子が狂う。
『あれ?おかしいな?』
その瞬間に全員が笑いだした。誰の事か判ったのだろう。
もちろん俺もだ。俺も思わず笑ってしまう。
「オイオイ!人間、人間!俺人間だから!」
全力で突っ込んでしまった。俺の声がさらに大きな笑い声を誘う。
『マジか?』
頭に響く声が驚いている様だ。
『だって、醜いにも程があるだろう?』
オイオイ、言い過ぎじゃね?
『だってヤバイじゃん?その見ため、絶対にロリコンだよね?』
いや、それは無い。全力で首を振る。
クラスメイトは、「えぇ!本当に?」とか、「ヤバイな、やっぱりそうか」とか、「神様が言うぐらいだからな本当だろう、キモい奴だとか、思ってたけどロリコンだったんだな」
とか好き勝手皆言っている。
『その見た目じゃあなそりゃあ性格も歪むよ。だって気持ち悪すぎだぜ?』
「いい加減にして!」一際大きな声がした。「義明君はそんな人じゃない!すっごい心の綺麗な人なんだから!」
メチャメチャ嬉しいな!この声はマリちゃんだ。
『いや、それは無いだろう?絶対にこいつはそんなお前のパンツを十枚は盗んでるぞ?』
いやいや!ちょっと待て!
「そんなこと無い!絶対無い!命かけても良い!ふざけないで!」
マリちゃんが怒ってくれる。そう。すっごい良い子なんだよ。優しくってさ可愛くってさ!
ちょっとブッ飛んでる所が有るけど。
『ナイナイ!じゃあさ、面白い事しようぜ!
お前は転生しろ!
全員には能力をやるけど、コイツには能力を与えない、
替わりに心と体を一致させてやる!
お前の言う通り心が綺麗なら、お前の見た目も綺麗になる。心が汚ければ見た目はそのまま。
心と年齢はそのままだが、体は一新だ。どうする?!』
「いいよ!全然いいよ!そうして、今すぐそうして!」
マリちゃんが叫んだ!
えー!
俺に断りも無く承諾した?!!
「マジかよ!変態のロリコン野郎なんてどんな顔になんだ?!」
そうクラスメイトが言う。酷い言われようだな。
あぁ、そもそも俺の意見も聞いて欲しいがまぁ良いか。優しいマリちゃんの言う通りにしてみよう。でも、俺の心はそんなに綺麗じゃあ無いよ?
こんな顔してるけど、女の人とはキスをしたいし、エッチな事だって興味がある。楽もしたいし。好きな食べ物は肉だ。生き物を殺してでもその肉を食べたいと思う、自分の心が綺麗とはとても思えなかった。
『じゃあ、いってらっしゃい!』
その言葉と供に意識を失った。
(人神視点)
全員を異世界に送ってから。
『ふぅ』
と一息付く。あのオークに似た男を追うように魂が追うように飛んで行ったような気がしたが、、。まぁ気のせいだろう。
俺もガキ共の後を追う事にした。