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第8話 記憶

茜に血を拭かせ、首に包帯を巻いてもらい、冷蔵庫からプリンをとってきてもらい、部屋の片付けをさせる。

私の指示全てに茜は従った。

そうだ、これも全て茜のせいだからしかたないのだ。


「で、茜…あんたって一体なんなの?」


私は自分でも怖いくらい冷静だった。

あれだね、人間本当に混乱すると開き直りはじめるのね。

茜は掃除の手をとめた。こちらは見ない。


「…分からない」


「私の見間違いじゃなきゃ、あんたの目が赤くなって、口からは牙生えてたわよ」


「…」


「ねぇ、ほんとに記憶ないの?」


「…思い出そうとすると、頭が痛い」


「…お父さんが、あんたは外国から来たって言うけど、それって本当?」


「…よく、分からない。ただ、すごく歩いて…ここまで来たっていうことは覚えてる」


「歩いて…ねぇ」


お父さんは外国からきた、なんて言っていたけどやっぱりそれは嘘なんじゃないか、と真里は思った。

両親が話していた化け物、というのはやはり茜のことなのではないだろうか。

それじゃあ覚醒とは、あの赤くなった目や牙のことなんだろう。

じゃあ手遅れとは一体…?


「真里」


「ん、ちょっとまって今考え事中」


「…俺が怖くないのか」


考え込んでいた顔を上げて、茜を見る。

茜は相変わらず無表情だったが、その目は細められ、床をじっと見つめていた。


「うん。牙が生えたときはすっごい怖かった」


「…」


茜は目をさらに細めた。


「でも…でもね…」


真里は顔を手で隠した。

どんどん顔に血が昇るのを感じる。

だめだ、言わなきゃ。ちゃんと言わなきゃ。


「茜のこと…好きだから。嫌じゃなかった」


「…え」


珍しく茜の表情が変化してる気配を感じるが、それを見れるほど真里に余裕はなかった。

なんせ人生初めての告白なのだ。

心臓の鼓動がうるさくて、首の傷がさらに痛くなった。


「好きって…恋仲になるってことか?」


「え!?…そ、そう、なるのかな?」


恋仲、という古風な響きにちょっとびっくりしたが、前にもそんなこと聞かれたな…と思った。

そんなことを思っていると、茜の様子がおかしいことに気づいた。

茜は頭をおさえていた。


「っ…森」


「森?」


「ここに来る前、歩いていたのは森だ」


「森、ねぇ」


この近くに森なんてあったかな。

すぐに思いついたのは、あの悪夢のことだ。

思い出したくもないが、鮮明に覚えている。

私は着物をきて、暗い森の中を走っていた。


「うーん…」


毒を飲んだときのことを思い出してしまい、どうも落ち込む。

どうして毒ってわかっててあの人はのんだんだろう。

あの時思いついた考えってなんだったんだろう。

どうしてあんなに泣いていたんだろう。


再び考え込んでしまった私に、茜はただじっとこちらを見てるだけだった。

ちょっとは茜も考えてよね…と思ったりしたが、なんだか茜が楽しそうな感じがしたので、言うのはやめた。

森…森…この近くの森…。


「茜、他にもっと思い出せないの?」


「…一回、水に落ちた覚えがある」


「ぶっ」


思わず想像してしまい吹き出してしまった。

茜はちょっと嫌そうに眉間にしわをよせた。

それも面白かったが、なんとかこらえた。


「水ってことは…川かな」


「…変な魚がいた」


「変?」


「色がとても鮮やかなんだ」


鮮やかな…魚…水…あっ。

真里は思わず口元を押さえた。

なんていうんだっけこれ…灯台下暗しだっけ。


「茜、わかった…わかっちゃった」


「それ実家だ、私の」


どうして気づかなかったんだろう。

森なら家にあったじゃないか!

いやー…でもなあ、うちかぁ。

親戚のみんなちょっと怖いんだよなぁ。


「真里…俺行きたい。自分が何者なのか、知りたい」


茜が手を伸ばしてきた。

反射的にちょっと身を固くしてしまった。

茜は一旦それを見て手をひっこめようとしたが、意を決したように手を伸ばした。

私の傷口の近くをさする。


「もう、真里を…傷つけなくない」


「わわわわわわかった!わかった協力する!」


ずささささっとベットの端に移動する私。

どうやら私は茜のこういった接触に弱いようだ。

顔が熱い。ああ顔が熱い。心臓がうるさい。


「真里…?大丈夫か?」


茜が覗き込んでくる。

その端正な顔が、近くに。


「っあああ…もうだめ」


どうやら知恵熱だか照れ熱か、頭がぼーっとしてしまった。

私はそのままベットに倒れてしまった。


「真里?」


「ごめ…明日に、しよ。明日なら、平日だし人少ないははずだから」


とりあえず、早く治そう。

茜がそばいにいる。

それだけで、この熱が心地よいものに感じる。


「真里、今度は俺が、そばにいる」


目を固くつぶる。

とにかく寝よう。これ以上茜のそばにいると心臓がもたない。

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