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第7話 熱

ピピッピピッ

脇にさした温度計が鳴った。

とろうと思ったが、それすらも億劫に感じて、お母さんに目線で訴える。


「とるわね」


お母さんが温度計をとる。

昨日の夜のことが嘘かのようにお母さんは普段通りだった。

しかし、よく注意してみれば、腫れた目を化粧で隠しているのがわかった。


「38.5度…ひどいわ、風邪かしら」


お母さんの手がおでこに伸びる。

が、咄嗟に顔を避けてしまう。やっぱり昨日のことが頭から離れない。


「あっ…今汗やばいから。触んないほうがいいよ」

「そう…そうね。今おしぼり持ってくるわね」


お母さんが部屋から出て行った。

真里は寝返りを打ち、扉に背を向けた。


体が重い。頭がぼうっとする。

昨日いろいろなことが起こりすぎたからかもしれない。

亮太のこと、茜のこと、両親のこと。

ぐるぐるぐると頭を駆け巡る。ああ、これが頭痛の原因かもしれない。


もう、どうすればいいのよっ!!

布団をかぶって、とりあえず亮太に会ったら一発お見舞いしてやる!と改めて心に誓うと、部屋ががちゃりと開く音がした。

お母さんがおしぼりをもってきてくれたのかな?

今はお母さんの顔見るだけで辛いよ。


「…真里、おしぼり持ってきた」


茜の声がしたので、布団から出た。

すっかり血色よくなった茜が、おしぼりと桶を片手に持って立っていた。


「ありがと茜、そこ、おいてくれる?」


茜の顔を見るとほっとしてしまう。

そんな自分に気づいて、思わず真里はにやけてしまった。


「…なに?」

「いや、なんでも」


最初はあんなに嫌がってたのに、今じゃすっかり癒しだなんて不思議。

茜は桶を机に置いて、おしぼりを絞ってくれた。

その手つきはぎこちない。

なぜかそれすらも愛おしく思えてしまう真里は、自分は茜に惹かれ始めているのかもしれないな、とボーッとする頭で思った。


「はい」


ちょっと遠い距離でおしぼりを手渡してくれる茜。

私はなんだか甘えてみたくなって、それを受け取るのをやめた。


「おでこ、乗っけて」


「やだ」


コケッ

予想外の即答で断られたので、思わずそういう擬音語が似合うリアクションをしてしまった。


「え、な、なんで?」


「それ以上真里に近づきたくない」


ズルッ

予想外の返事にまたリアクションをとってしまった。

な、なんで!?昨日は腕掴んで引き止めたくせに!

浮かれていたのは自分だけなのか…。

真里はちょっと恥ずかしくなって、うつむいて、おしぼりを受け取ろうと手を伸ばした。


が、予想外におしぼりが遠くて、今度は本当にベットからずっこけた。


「いたたた…」


見ると、半歩下がった茜がいた。

なんだ、なんだお前!一体私が何したって言うんだ!!

この仕打ちはないだろ!!と憤慨した真里は何か言おうとした。

しかし、茜の様子が何かおかしかった。

手で顔と口を押さえ、珍しく眉間にしわを寄せていた。


「お前…においやばい」

「は………はあ!?!?」


さすがにきれた真里は茜に掴みかかろうと、立ち上がった。

が、熱のある体で、急にそんなことをしたせいで、体がぐらついた。


「ちょ、ちょわっ!?」

「っ!?」


もつれた体は思いっきり茜に体当たりをかまし、茜は倒れ、真里は茜の上に倒れこんだ。

それは、ちょうど首筋が茜の口元にあたる体勢だった。


自分がそんな体勢の発端を作ってしまった真里は、急いで顔を起こした。


「ご、ごめん茜!!大丈夫!?」


さすがに怒っただろうか、心配になって茜の顔を覗き込んだ。

意外なことに、茜は無表情だった。

ただ、その瞳が赤みをもち、歯の犬歯が口からはみ出ているのを真里は見てしまった。

自分が見ているものが信じられなくて、真里は硬直してしまった。


「あ、茜…それ…!」


茜は真里を見た。

いつもの深淵の黒とは違い、燃えるような赤い瞳。

真里は恐怖した。

この目は真里を見ていない。

まるで捕食者が獲物を見ているような感覚だった。


「あ…かね…」


気づくと背中に腕を回されていた。

真里は体が動かなかった。

ただ泣きそうになった。


茜は真里の首筋に口を這わせた。

肌が二つの鋭い牙の存在を感じる。確かに感じる。


「あかねっ!?あっあああっっ!!」


ゆっくりと、牙が肌に食い込むのを感じた。

噛まれているところがマグマのように熱い。そして鋭い痛みが襲ってきた。


「茜っ!!!」


たまらず髪の毛をぐっと引っ張った。

茜はそれで正気を取り戻したようで、真里を突き放すように離れた。


真里は自分の首筋を押さえた。

血がとめどなくあふれ出いる。鋭い痛みでうずくまる。


「俺は、何を…!?」


茜は自分のしたことを理解できていない様子で、自分の口元についた血を手にとって眺めていた。

真里は痛みを耐えて顔を上げ、茜を見ると、黒い瞳に戻っており、犬歯も見て取れなかった。

ひとまず安全だ。

真里はほっとすると、とりあえず茜をなんとかしなきゃと思った。


「茜?大丈夫?」

「…ほんとにごめん」

「うん。とりあえず…血、血をなんとかしよう」


とりあえず両親にばれることは避けよう。

首はものすごく痛いが、幸いそれほど深い傷ではないようだ。


「とりあえず、おしぼり。おしぼり頂戴」


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