第1話 茜がきた!
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昔、強大な力をもった獣がいた。
獣は人を襲い、人々はその力になすすべもなかった。
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私の名前は篠宮真里。生まれて15年と3日になりました。
親友の亮太に「もう四捨五入したら20歳なんだよ!」というと「おばさんへの一歩だな」なんて言われたのはまだ記憶に新しい。ちなみにあいつから誕生日プレゼントはもらっていない。
両親からは二番目に欲しがっていたスマホをプレゼントしてもらった。
高校生になるまではだめかなーと思ってたけど、すっごい嬉しかった。
「あは、このゲームおもしろっ」
おかげで受験生なのにスマホゲームにはまる毎日。
女子高生の平均使用時間とか最近騒がれてるけど、うん。女子中学生だって負けてないぞ。
ゲームも終盤にさしかかり、もう少しでクリア。
慎重に選択肢を選ぼうとしたそのとき。
裏庭から何か、大きなものが落ちたような音がした。
「!?…っ!あー!!?」
物音に驚いて押してしまった選択肢。
ゲームオーバーという文字が無慈悲に表示された。
思わずスマホをぶんなげたい衝動にかられるーーー狙う先はクッションだけどーーーそんなこと絶対しないけどーーー
く、くそう。このラウンドクリアするまで一体何分かけてると思ってるんだ!
「ま、まじ許さない…泥棒かな?」
今は家に一人だ。
親は両方共働き。ペットもいない。いるのは私とスマホだ。
ガサガサと物音が聞こえる。どうやら裏庭を徘徊しているようだ。
急に怖くなってきた。
スマホを握りしめゆっくりと部屋をでる。
いきなりの非日常に心臓が高鳴る。階段を下りながらあらかじめ110と打ち込んでおく。
裏庭からはまだ音がする。
あーもー。もうすぐ親が帰ってくるのに!帰ってきてからきてよ!!
「だ、だれっ!?」
裏庭にでる。
なぜか水戸◯門のようにスマホをかざしながら。
「…」
そこには、私と同年代くらいの男の子がいた。
黒い髪に黒い目、全身黒い服を着ている。
肌が真っ白だから黒が際立つ。
そして怖いくらい無表情だ。
な、なんだろう…格好とかは完璧不審者なのに、幽霊のような不気味さを感じる。
「誰なんですかあなた!ここは私の家ですよ!」
年齢が同級生くらいに見えるので、ちょっと強気に出てみた。
それでも相手はなにもしゃべらないし表情に変化もない。
ただその真っ黒な瞳でこちらを見るだけだった。
「け、警察呼びま」
「真里?なに一人で叫んでるの?」
後ろから母親の声がする。
よかった、帰って来た。
振り返ると、お父さんも一緒だった。
「お母さん!なんか変な子が」
「…ああ、なんだ。ここにいたのか」
「え、お父さん知り合い?」
お父さんもお母さんもちょっとびっくりした様子だった。
「ああ…古い、親戚さ。そのうちうちに来る予定だったんだ」
「あ、そうだったの?」
いきなりスマホ突きつけて叫んでしまった。
その事実をさっさとなかったことにしようと、その子の元に駆け寄る。
「私、篠宮真里っていいます。あなたは?」
「…?」
「え、と…?名前、教えてくれませんか?」
「真里!その子は…」
「真里、その子は記憶喪失なんだ」
「え?ええっ!?ほんと!?」
漫画やテレビでしか知らなかった非日常に思わず興奮してしまう。
そうです。非日常に飢えてるんです。
「名前とかも忘れちゃったの?」
「あ、ああ…そうなんだ」
「へぇ、じゃあ、あの子の名前は?」
「な、名前かい?えーとたしか」
「…茜。茜くんよ」
「茜?へぇ、なんか女の子みたいな名前だね」
茜くんの方をみると「茜…茜…?」と、どこか心当たりのありそうな顔でぶつぶつとつぶやいている。
その様子に、わあ、本物だ…とちょっと感動してしまう。
「しばらく、一緒に住むんだよ。部屋が余ってるから、そこにな」
「えっ!そうなの?」
「…そう。だから真里、あんまり刺激しちゃだめよ?」
お母さんはそう言って、私の頭を撫でた。
正直、あんまり頭を撫でられるのは好きじゃない。子供扱いだから。
でも、その時のお母さんの顔がほんとに心配そうだったから、何も言わないといた。
そっかー…そんなに茜ってやばいんだ。
「茜!あんまり年離れてなさそうだから呼び捨てね!あたしのことも、真里って呼んでいいよ!」
私は一番欲しがってた弟をプレゼントされた気になって、ついつい上から目線になってしまった。
後ろで「真里!」とお母さんの怒った声が聞こえてくる。
茜は、ずっとこちらを見ていたけど、ちょっとだけ視線を外して、
「…真里」
と私にしか聞こえない声で言ってきた。
わ、わー!!なにコイツめっちゃかわいいじゃん!!