チョコ痕
大人の世界は権力社会。
子どもの世界も一緒で、彼女が雨の降る廃虚で一人雨宿りしていた理由もそれだ。うちひしがれ、力無い。
「オゥ!」
廃虚に誰か来た。進駐軍だ。用を足すつもりだったが手を止めた。少女の様子を心配し声を掛けたが、英語では通じない。仕方なくチョコを置いて廃虚を出た。焦土の街は冷たい。遠くでジープの音だけ響いた。
「ギブミーチョコレート!」
子どもたちの知っている唯一の英語だ。用法は、進駐軍に向かって。運が良ければチョコにありつける。
子どもの世界は力の世界。
小さな彼女に、力はない。たとえもらっても取り上げられる。隠し持っていることがばれるとひどい目にあい、いつかのように廃虚で一人うずくまるしかない。
それでも勇気を出して口を開いた。いつかの兵隊がいたからだ。
彼は思いやりに満ちた瞳で首を振る。手にしたチョコを渡すことはない。ジープは走り去る。少女は肩を落とすが、あの時とは包装紙が違うことに果たして気付いたか。
やがて街は復興し経済成長した。あのチョコを食べた者たちの手による復興だ。かつてと違うまちの雰囲気に、果たして気付いているか。
もちろんいつかの少女の姿は、そこにはない。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトのタイトル企画に出展した旧作品です。やや改稿しています。
バレンタインまで約一か月なのでチョコレート作品を。