表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の執行者-Black Executer-(旧版)  作者: 黒陽 光
第六章:Gunmetal Color's Fate
77/110

ミッドナイト・ファントム -Phase.3-

 少し時間は前後し、十数分前。丁度戒斗が十五番倉庫裏口の警備員を始末する少し前、遥は彼とは別の経路からの潜入を試みていた。

「さて、と……」

 いつも通りの忍者装束に身を包む彼女が今居る場所は、目的地の十五番倉庫から少しだけ離れた所。隣接した第十六番倉庫との間に積み上げられたコンテナ群であった。

 遥は手持ちのソ連製の消音突撃銃アサルト・ライフル、AS-VALを取り付けたスリングで首に引っ掛けて両手をフリーにすると、右脚太腿にクナイ三本と共に取り付けてあった小さなポーチから、小型の拳銃のようなモノを取り出す。そして遥は、その後端のカバーを開き、弾頭部の付いていない.22口径の空砲弾を装填した。

 彼女が構えた、先端に鉤爪が付いている拳銃型のソレの名は、グラップリングフック・ガン。頑丈なパラコードが後端に取り付けられたカーボン製の鉤爪を火薬の力で打ち出し、高所に引っ掛け足場とするモノだ。ちなみに引き戻しには巻き取り式のメジャーと同じようなゼンマイバネを用いる。発砲音自体も、グラップリングフック・ガン自体に減音処理がなされている為、ロシアのPSS消音拳銃と同等ほどの音しか出さない設計となっている。

 遥はそんなグラップリングフック・ガンの狙いを頭上、三段に積み上げられたコンテナの端に合わせ、発砲。小さな撃発音と共に打ち上げられた炭素繊維の鉤爪は狙い通り、コンテナの端へと引っかかって固定された。

「……大丈夫そう」

 二、三度ほど軽く引っ張っても鉤爪が落ちてこないことを確認し、遥はグラップリングフック・ガンを腰部ベルトの正面バックルに予め装備しておいた対応コネクタに装着。パラコードの根元を引っ張って巻き戻し動作を開始させてから、指先だけ露出した籠手に包まれた両手でパラコードを掴み、両足はコンテナに垂直に接地させ、登り始めた。

 彼女が一歩登る度にゼンマイバネがキリキリと小刻みな音を立てて稼働し、少しずつだがパラコードをグラップリングフック・ガンの中へと戻していく。

 そうして積み上げられたコンテナの上まで登り、最後に軽くコンテナの側面を蹴って飛び、目標であった上面へと着地した。

「さて。とりあえずは登れましたが」

 鉤爪を回収し、グラップリングフック・ガンを元のポーチに戻しつつ、遥はコンテナの頂上から辺りの様子を見回し窺う。

「どうやら、後はすんなり行けそうみたいですね」

 見た感じ、目的地である十五番倉庫の屋根へはこのままコンテナ伝いに向かえそうな様子であった。遥は首に掛けていたAS-VALを両手に持ち直し、ある程度の警戒を行いつつ、音も無く走り出した。

 数mの間が空いたコンテナ間を一飛びで飛び越し、それを何回か繰り返して十五番倉庫の屋根へと飛び移った。周囲は暗く闇に包まれており、見上げた空の上、雲の切れ目から微かに見える月の明かり以外は、少数が立っている街灯の明かりのみがこの空間における光源であった。彼女ら忍者にとって、暗闇とは何物にも代えがたい最大の味方。今回のような、敵に気取られずに陣の奥深くへと潜り込む任務にはうってつけの環境である。

「――悪鬼悪霊、魑魅魍魎。蔓延る浮世の闇を祓いしはわれ、宗賀のしのびなり……なんてね」

 雲の切れ目から覗く月影を見上げながら遥がそう呟くと、遠くで何かが弾ける音が、微かに彼女の耳に聞こえた。

「動き出したようですね、戒斗」

 自らのあるじの名をそっと呟き、遥は手に持つAS-VALのボルトハンドルを素早く前後させ、初弾を装填。屋根の端にある一段高い場所。丁度裏口が見渡せる位置に立つ。

≪――こっちは今から潜入する。遥、状況は?≫

「こちらは現在屋上。戒斗。貴方の姿も見えますよ」

 耳に差したインカムから聞こえる戒斗の声にそう返しつつ、遥は眼下の彼の姿を見据え、眺める。

≪ああ。こっちからもバッチリだ。引き続き上から、潜入を続行してくれ。俺は下から攻める≫

「御意。お気を付けて」

≪お前もな、遥≫

 こちらへと向き、親指を立てる戒斗に頷き返すと、遥は段差から飛び降り、予め侵入経路と目測を立てていた小さな天窓の前に立つ。窓から見る限り、どうやらその下は物置らしい。大小さまざまなダンボールが、小さな部屋に詰め込まれている。見るからに埃が堆積している辺り、かなりの間使用されていないのだろう。ということは裏を返せば、敵が入ってくる可能性も限りなくゼロに近いということだ。正にうってつけの侵入経路だろう。

「……参りましょう」

 遥は一度AS-VALを置き、後ろ腰の鞘から短刀型の高周波ブレード『十二式超振動刀・甲”不知火”』を右手で逆手に抜刀。万が一にも窓ガラスを粉砕してしまわないよう、慎重に窓枠の端へと切っ先をあてがい、ゆっくりと突き刺した。

 超微細振動を繰り返す刃はいとも簡単に錆びた鉄の窓枠を貫き通す。そのままゆっくりと刃を引き、少しずつ、極力音を立てないようにして窓枠を切断していく。

 一辺を完全に切断し、一度刃を抜いて向きを変えてから、再度突き刺す。それを三度繰り返し、窓枠を完全に切り落とした。

 下へと落としてしまわないように空いた左手で窓枠を支えつつ、短刀を鞘に戻した後、それを慎重に取り外す。堆積した埃がダンボールの上に舞い落ちた以外、特に目立った物音も立てずに侵入経路を確保できた。

 遥は首に巻いたマフラーのような長い布で鼻から下を覆い隠し、再びAS-VALを手に取ると、一分の迷いも無く切断した窓枠の下へと飛び降りた。音も無く床へと着地し、堆積していた少量の埃が雪のように舞い踊る。

「……状況開始」

≪りょーかい。さっさと制圧しちゃいなさいな≫

 遥の告げた報告に、気怠そうに答えたのは瑠梨。今回も彼女はサポート役を快く引き受けてくれた。雪山での一件から数えて、瑠梨の管制の元動くのはこれで三度目だが……的確な判断を下す存在があることがどれほど心強いかというのを、遥はこれまでで身を以て体感し、そして今回もまた、彼女の支援を信頼している。

「無論です」

≪戒斗も一階に行ったみたいだし。見取り図が無いのが痛いけど、多分二階部分は比較的数も少ないとは思うから。パパッとやっちゃって≫

「了解。行動、開始します」

 それだけ言って、遥は通信を終えた。

 倉庫の出口であるドアノブに手を掛けほんの少し捻ってみれば、どうやら鍵は施錠されていないみたいだ。わざわざ高周波ブレードを使って切断する手間が省けたというもの。遥は片手でAS-VALの銃口を向けたまま、左手で慎重にドアノブを開けていく。

 その向こうは廊下のような左右に分かれた狭い通路で、今彼女が居る倉庫はそのどん詰まり。つまりは右側一本道になっているのだ。遥は最大限警戒を払いつつそっと廊下に足を踏み入れ、音を立てないようにドアを閉める。AS-VALを再び両の手で構え直し、音も無く、しかし素早く前進を始めた。

「――ぅい~」

 ふと、人の声が聞こえた。全身が粟立つような緊張を覚えつつも、動じることは無く足を停め、音のした方を探る。どうやらこの先、半開きになった扉の向こうは事務室のような場所になっているようで、そこに貼られた窓ガラスからは、天井の枠組み構造と、微かだが開かれた倉庫正面の大きな扉が見える。どうやら、吹き抜けフロアが近いらしい。しかし、問題はそこではなく――室内に、男が一人居るということだった。

「数は……一人ですか」

 幸いなことに、数は一人。こちらに背を向けパイプ椅子に座り、ウィスキーを飲んだくれている、如何にもダメ男っぽい雰囲気の中年男性警備員だけだった。その傍らには一挺の短機関銃サブマシンガンが立てかけられている。それはそれは骨董品で、遡ること半世紀以上前の第二次世界大戦においてナチス・ドイツ軍が用いたエルマベレケ・シュマイザーMP40。マニアや愛好家、当時の装備を再現し、集団で再現するリエナクトメント・ゲームのプレイヤーなんかには高値で取引されている代物だ。

 しかしどうやらこの男、その類の酔狂な人間ではなさそうだ。何せ立て掛けられたMP40は全身に赤錆が走りに走りまくっており、正直マトモに使えるのかも怪しいレベルなのだから。雇い主が超格安で仕入れたモノを、飾り程度に支給されているのだろうと遥は推測する。まあ何にしても、この男は大した脅威にならなさそうだ。

 AS-VALに初弾が装填されているのを確認し、少しずつ、身長に扉を開けていく。どうやら相当酔っぱらっているらしく、気付く素振りどころか、真面目に職務を遂行しようという意思すら感じられない。そんな男の背後へとにじり寄り、太いAS-VALの銃口を彼の後頭部へと押し付けた。

「何だぁ――」

「喋らないで。床に味噌を撒き散らしたくないのなら」

 冷酷なまでの口調で小さく告げると、男は押し黙ったまま、ゆっくりと両手を上げた。

「素直ね。長生きするタイプですよ、貴方」

「テメェ、何者だ」

「黙りなさい。言われたことにだけ答えて。とりあえずは机に額を押し付けて、両手をゆっくり頭の後ろへ」

 男は言われた通りに机に突っ伏し、両手を頭の後ろで組む。

「まず一つ。貴方達は日雇い? それとも正規社員?」

「日雇いさ。皆浮浪者やその類ばっかりだ、ここに居る連中は皆、俺含めて」

「成程。それで次は――」

≪――遥、二階だ。二階に牢屋があるらしい≫

 次の質問を問おうとした直後、インカムから聞こえる戒斗の声。どうやら彼の方が一歩早く尋問を行い、目標の位置を聞きだしたらしい。

「質問を変える。二階の牢屋は何処?」

 銃口を後頭部に押し付けると、男は渋々と言った感じで「……向こうだよ、向こう。道なりに進みゃ分かる」と答えた。

≪そっちは任せた。ただしまだ解放するな。確認だけでいい≫

「――お任せを。丁度近くのようです」

 戒斗に対し短くそう答えると、遥は狙いを合わせたまま、一歩後ろへと下がる。

「何だ、もう質問は終わりか」

 男のそんな一言に、遥は静かに、冷え切った声色で告げる。

「――ええ。予定変更です。貴方はもう、用済み」

 そして言い切ると、彼女は迷うことなく引き金(トリガー)を引いた。

 トリガーアセンブリが動作し、解放された撃針(ファイアリング・ピン)が薬莢底部の雷管(プライマー)を叩いて電気発火し、装薬が爆発。コルダイト火薬の爆発力が薬莢内部のピストンを高速で動かし、SP-5特殊弾の弾頭が銃身に刻まれた旋条のライフリングへと食い込んでいく。無縁火薬の爆発によって発生した撃発音はそのままピストンによってシーリングされ、薬莢の外へと音が漏れることは無かった。ボルトが後退する間に弾は銃口から飛び出し、そして――伏せった男の後頭部へと斜めに侵入。頭蓋を叩き割り、そしてそのまま詰まった味噌を机へとブチ撒けた。

 カラン、と小さな音を立てて転がる空薬莢と共に、少量の血しぶきが飛ぶ。返り血の一部が遥の左頬に付着し、細い一本の赤い線を描いた。遥はそれを無表情のまま指先で拭い、動かぬ肉塊と化した男に見向きもせず、聞きだした牢屋の方へと向かう。





「――ガ、ハッ」

 牢屋のあるという区画は、先程の事務室のような区画よりほんの僅かに離れただけの場所にあった。首尾良く潜り込み、遥は丁度たった今、独りだけで居た見張り番の男の後頭部をAS-VALで撃ち抜き無力化したところである。

「随分と、ザルな警備の様子で」

 そんなことを呟きつつ、遥は周囲を見回し、近くに敵の気配が無いことを再確認。邪魔な死体を蹴っ飛ばしつつAS-VALの安全装置セフティを掛け、牢になっているであろう扉の前へと立つ。そしてドアノブへと手を掛け、その扉を開けた。

「……やはり」

 ガチャリ、と軋む扉を開けた先に広がっていた光景に、遥は思わず顔を嫌悪の表情へと歪める。電灯の一つすらも灯されていない、薄暗い小さな小部屋。広さは先程潜入ルートに用いた倉庫と同じか、少し広いぐらいだろう。床、壁面共にコンクリート打ちっ放しの無骨な部屋の中に――居た。彼らの商品。つまりは何処からかより攫われた若い女達。

 室内に五、六人は居るだろうか。皆が皆、憔悴し切った虚ろな顔色で、その身体の一切は一糸纏わぬ状態。つまりは素っ裸か、それに近い状態にまでひん剥かれていて、手出しされた様子こそ辛うじて皆無なものの、足首にはチェーン式の足枷が、手首にも同様のモノが嵌め込まれていた。年齢層は大体二十代前後。中には明らかに十代と見える外見も居た。

 そんな室内へと足を踏み入れ、再び遥は部屋の中を見渡す。どこにも監視カメラの類は見当たらない。窓は一か所、扉と対面にあるものの、脱走防止措置か窓枠には鉄製の金網が溶接されており、とてもじゃないが素手の彼女達が突破できそうには見えなかった。床に散らばる液体と、鼻腔をくすぐる刺激臭が、この牢獄の酷い衛生環境を伺わせる。辛うじて生きるのは可能なレベルだが、確実に長居はしたくない環境だった。

「……だ、れなの……?」

 消え入るように枯れ果てた声で、遥を見上げつつそう言うのは囚われていた女の一人。彼女は遥にどうやら敵意が無いことを悟ると、「助けて……たすけて……!!」と、彼女の足元に縋り付き救いを乞う。他の女達も同様に、遥の姿をまるで天から舞い降りた聖母マリアを見るような視線で見つめてくる。

 足元に縋り付く手をそっと解き、遥は這いつくばる女の目線の高さに合わせてしゃがむと、今まで自分の足を握っていた、栄養失調でやせ細ったボロボロの手を、籠手に包まれた自分の手で包み込み、諭すように言う。

「貴女達を解放する為に来た。呼びかけるか、警察が来るまではここに留まっていて欲しい」

「い、嫌だ、嫌だ……私達を助けに来たんでしょ。なら、なら早くここから出してよ!!」

「静かに、大きな声を出さないで――私だって一刻も早く、解放してあげたい。でもまだ、ここには敵が沢山いる。今出ていけば、貴女達は良くて人質。運が悪ければその場で死ぬ」

「じゃあ、どうしろって言うのよ……」

「簡単です。さっき言った通り、私が呼びかけるか、警察が来るまでこの部屋から絶対に動かないで。もうすぐこの倉庫は、戦場になる。被害者である貴女達を、巻き込むわけにはいかない」

 遥の諭すような言葉に女は逡巡を浮かべるが、やがてその瞳に辛うじて残っていた涙を浮かべつつも、「……必ず、助けに来て」と言って、了承した。どうやら他の女達も同様のようで、遥の姿を期待と一抹の不安が入り混じった視線で見つめている。

「では、私はこれで。大丈夫。必ず迎えに来るから」

 最後に柔らかな微笑を浮かべ、遥は牢獄を後にしていく。扉を後ろ手に閉めると、もたれ掛かって左耳のインカムに手を当てる。

「戒斗。二階の牢獄へ到着。見張りの無力化と、目標の生存を確認。鍵は開錠済み。彼女らには戦闘が終わるまで部屋から出ないように伝えておきました」

≪――了解。よくやったぜ遥。後で胸焼けするほど甘いアイスでも奢ってやろう≫

「……もうっ、からかわないでくださいっ」

 イヤホンから聞こえてくる戒斗の冗談交じりな声に、少し頬を紅く染めて言い返す遥。

≪別にからかったつもりは無ぇさ。それに――」

「――誰だお前!?」

「ッ――!?」

 戒斗の声を遮って響く、彼とは違う野太く品の無い声。条件反射に近い速度で遥はそちらへと視線を移し、その声を上げた人物を敵と認識。距離はたかだか数m。だが刀を抜刀して踏み込むには少し遠い。首から掛けたAS-VALを彼女が握る暇も無く、目の前に立っている男は腰に吊るしたホルスターから回転式拳銃リボルバー、コルト・ディテクティヴスペシャルを抜き、親指で撃鉄ハンマーを起こそうと動く。

 しかし遥は振り向きざまに、腰のシェルパ・ホルスターからXDM-40を抜いた。既に薬室チャンバーに弾が装填され、撃鉄ハンマーの起きた状態のXDMはグリップ・セイフティを握り込むだけで発砲が可能になる。その利点によるコンマ数秒にも満たない発砲速度の違いが、二人の生死を分かった。

 伸ばした右腕の先、XDMを握る手の人差し指を引き金(トリガー)に掛け、遥は指先に力を籠め一気に引き絞る。

 内臓ハンマー式の機構が作動し、薬莢内に充填されたコルダイト無煙火薬が爆ぜる。反動と発砲音を伴い放たれた.40S&Wのフルメタル・ジャケット弾は銃身のライフリングに食い込み前進。銃口から放たれ、ジャイロ回転しつつ音を超えた速さで空気を切り裂く。

 対する男はディテクティヴスペシャルの撃鉄ハンマーを起こしきったものの、引き金(トリガー)に指を掛けることなく、その眉間に.40口径の風穴を開け仰向けに倒れ伏す。彼の手から滑り落ちたディテクティヴスペシャルが床に落ち、誤って動作した引き金(トリガー)によって.38スペシャル弾が発射されてしまった――暴発。

 それは遥の遠く斜め前方を抜け、張られていたガラス窓をブチ破り、一階と吹き抜けになった正面フロア、その天井枠組みへと激突し、小さな弾痕を穿った。

「――んだ!?」

「侵入者か!? 侵入者だ!!」

 その二重の発砲音を皮切りに、一気に空気感が張り詰めてくる倉庫内。遥はカウンターの抜き撃ちに用いたXDM-40をホルスターに戻し、緊迫した表情で再度、インカムに左手を掛けた。

「……戒斗。申し訳ない。敵に気付かれてしまった。完全に私の……判断ミス」





「……いや、そうでも無ぇさ。遅かれ早かれ、気付かれてた」

 その頃、戒斗はインカムより聞こえてくる遥のひどく落ち込んだ声に、焦燥の張り付いた苦笑いを浮かべつつそう返していた。

 彼の手には、持ち込んだダークアース色の突撃銃アサルト・ライフル、レミントン・ACR。そして彼が今居る場所は、一階倉庫区画の広いフロア。現状において最も問題なのが、戒斗の構えるACRの銃口の先に立つ、一人の人物の存在。

「――ここで会ったが百年目ですね。”黒の執行者”」

「うるせぇぞ、クソガキ。その名で俺を呼ぶな」

 気色の悪い薄笑いを浮かべ、ねっとりとした声色で話す少年。この場に居るはずの無い彼、”方舟”の造り出したサイバネティクス兵士――麻生あそう 隆二りゅうじの存在がそこにあったことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ