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黒の執行者-Black Executer-(旧版)  作者: 黒陽 光
第六章:Gunmetal Color's Fate
75/110

ミッドナイト・ファントム -Phase.1-

「――よし。これで全部か」

 呟き、戒斗は自室の床に置いた大きめな黒いボストンバッグのファスナーを閉める。ジーンズに黒いTシャツ、そして袖をロールアップした上着と比較的ラフな格好の彼はそのボストンバッグを肩に担ぐと、自室の電気を消して出た。

「んえっ!? どうしたの戒斗、こんな時間に」

 そんな恰好でリビングへと出たもんだから、風呂上がりにソファでくつろいでいた琴音がひっくり返りそうな勢いで驚き、怪訝そうに彼へと問いかけた。

「仕事だ、仕事」

「この間の関連?」

「いや、アレとは別件の楽な仕事さ。つっても時間が掛かる。下手すりゃ朝まで帰れない可能性だってあるな。その時は悪いが、鍵だけ頼むわ」

 半ば口から出まかせに近い言葉を紡ぐと、琴音は未だ納得のいかないような表情を浮かべつつも「……わかったわ。気を付けてね」と言って彼を送り出す。

「ああ、行ってくる」

 後ろ手にそう言いつつ、戒斗はリビングを出て、廊下を通り玄関へ。ナイフポケット付きの履き慣れたブーツを履き、両足首付近のナイフポケットへと細身の投擲用ダガーを一本ずつ差し込む。そして重苦しい玄関扉を開けて外に出、締めてから施錠した。

 階段を下り、駐車場……ではなく、路肩に停めておいた幅の広いバンへと向かう。白い車体のコイツは、トヨタ・ハイエース。今回の作戦用にと、先程レンタカー屋で借りておいた車だ。

 戒斗は借り物のハイエースのやたら重苦しい後部横開きドアを開け、肩に掛けたボストンバッグを広いキャビンへと適当に投げ込む。そうして再びドアを閉め、自分は運転席へ。キーを用い、イグニッション・スタート。シートベルトを締め、一度確認するとインパネから生えるシフトノブを押し下げ、D(ドライブ)レンジへと合わせる。そしてアクセルペダルを踏み、やたらと図体の大きい車体を夜の街に走らせた。現在時刻、午後十一時十五分前後。

 時間帯も時間帯で、普段の日中と比べ道がかなり空いていた為、到着までに要した時間は十分少々だった。ハザードランプを点灯させ、遥と待ち合わせている武家屋敷の正門前の路肩へとハイエースを停める。シフトをP(パーキング)に入れ、とりあえずは一息といったところだ。

「ちょっと予定外に早すぎたか」

 腕に巻いたG-SHOCKを見てみれば、待ち合わせの時間より十分ぐらい早く到着してしまったようだった。待ち時間が暇なので、と戒斗が持ち込んだCDをオーディオ・ユニットに突っ込もうとした矢先、運転席側の扉がコンコン、と叩かれる。

「お待たせしました」

 開いたパワーウィンドウの向こう、立っていたのはやはり、遥だった。見慣れた和服風の戦闘服、要は忍者装束を身に纏った彼女を招き入れる。

「んにゃ、俺が早すぎただけさ。乗りな」

 遥は持ち込んだ日本刀型高周波ブレード『一二式超振動刀”陽炎”』と、どうやら彼女自ら調達したらしい、恐らくは自動小銃入りのガンケースを後部座席に乗せ、自分は戒斗の隣、即ち助手席へと座った。

「出すぜ」

 彼女が乗り込み、シートベルトを締めたのを確認した戒斗はシフトノブを再びD(ドライブ)へ。アクセルペダルを軽く踏み、ハイエースを発車した。

「……こんな狭いところに来させてしまって、申し訳ないです」

 若干俯き気味にそう呟いた遥の頭に戒斗は空いた左手を置き、「気にするこたねーよ」と戒斗は言う。

「ま、コイツにゃ些か狭っ苦しい道なのは確かだがな」

 武家屋敷が面している道路は幅が比較的狭く、歩道どころか中央線すらない入り組んだ場所にある、所謂生活道路という奴だった。それ故、大柄なハイエースの車体ではどうしても入りづらいのである。

「それはいいさ。あーそうだ、ちょっと待っててくれ」

 戒斗は思い出したかのように車を一度止め、遥に無線機と繋がったインカムを手渡すと共に、自分も同じモノを左耳に嵌めた。

「あーあー、テステス。聞こえるか?」

≪――オーケー。バッチリ聞こえるわ≫

 インカムのイヤホン部分から聞こえてきた少女の声は勿論、”ラビス・シエル”の名を持つ天才スーパーハッカーにして、戦部傭兵事務所の数少ない社員の一人、あおい 瑠梨るりの声である。今回も戒斗達を衛星通信越しにサポートする役目を担っていた。

≪遥、そっちはどう?≫

「……感度良好。問題ないです」

「瑠梨、センチュリーの現在地は?」

≪そうね……今はアンタの言ってた、その『エクシード』とやらの本社に向かってるっぽいわね。ビンゴよ、戒斗。アンタの予測がバッチリ当たったじゃない≫

「当たってくれなけりゃ困る。そのまま監視を続行してくれ。俺達はこれから倉庫に向かう」

≪了解。それと、戒斗――本当に、琴音には言わなくて良いわけ?≫

 瑠梨のそんな一言に、戒斗は一瞬逡巡し言葉が詰まるが、「……ああ。何も言わないでくれ」と告げた。

≪はいはい。分かったわよ。アンタの言い分も尤もだし。今回は黙っててあげるわ≫

「恩に着る」

≪あら、そう? だったら給料アップも視野に入るのかしらね?」

「ぐっ……か、考えておく」

≪冗談よ、冗談。今でも十分すぎるぐらい貰ってるし。それにアンタへの借りは結構大きいしね。別に構いやしないわよ。こうして社員で居させてくれるだけで、ね≫

「……ヘッ、そうかい。そいじゃあ今から向かう。何かあったら連絡してくれ」

 戒斗は若干口元を吊り上げつつそう告げると、通信を終える。一時停車したハイエースを再び走らせ、一路向かうはこの間と同じ埠頭にある十五番倉庫。





 戒斗達が武家屋敷を発ってから数時間後。都市部某所にあるビルの地下駐車場に立つ数人の男の姿があった。皆壮年といったような風貌で、確実に会社内にて重役の立場に就いているのだろうという印象を否応なく抱かせる容姿であった。

 そんな彼ら三人の前に、ゆっくりとした速度でやってきては停車する、全身黒塗りのボディが厳つい印象を放つ高級セダン、トヨタ・センチュリー。それが確実に停車するのを確認すると、男達の内の一人――専務の役職に就く彼が先んじて、その車へと歩み寄る。

「――社長。こちらへ」

 そうして後部座席のドアを開け、腰を折って礼をし招き入れるスーツ姿の専務に「うむ」と頷き、新進気鋭のIT系ベンチャー企業『エクシード』の社長、谷岡たにおか 誠二せいじは目の前に停められた黒塗りの高級車、トヨタ・センチュリーの格調高い後部座席へと腰を落とした。

 彼の隣にはもう一人の専務が座り、前の助手席には先程後部座席のドアを開けた専務が腰かけた。

「出してくれ」

 助手席の専務が告げると、白髪の目立つ壮年の運転手はステアリング近くのコラム式シフトレバーを動かし、ゆっくりとセンチュリーを発車させる。

「社長。この後の予定ですが」

「分かっている。連中がやっとこさ”取引”に来るんだろう」

 隣に座った専務の言葉を遮って谷岡が言うと、専務は「はい」と頷く。

荷物(パッケージ)を引き渡し次第、我々は早々に立ち去るとしよう」

「はあ。しかし社長。取引を確認されなくても、宜しいので?」

「構うものか。私が見ていた所で何の意味もない。寧ろ居ない方が好都合だろう……。後は部下に任せておけばいい。それよりも」

「それよりも?」

 谷岡は右肘をドアへと掛け、流れる景色を眺めつつ、どこか憂いの混じった表情で言う。

「どうやら今日は、雨らしい」





「そろそろか」

≪ええ。そろそろね≫

 完全にエンジンを停止したハイエースの車内、後部座席で気怠げに座っていた戒斗は、インカムから聞こえた瑠梨の声に反応し、座席から離れた。

 そして自分のすぐ近く、後部座席フロアに投げ込んでおいたボストンバッグのファスナーを勢いよく開ける。案の定というか、パンパンに膨れ上がったその中に詰められていたのは戒斗の装備類。物騒な物々たちであった。

 まずは黒色に染められた、前掛け式の弾倉収納帯――チェストリグを取り出し、肩掛けに腕を通してから胴体に巻き付けるようにして装備する。深夜という時間帯、暗闇の中での視認性を考慮した色の選択であった。

 次に太腿用のレッグ・プラットフォームに取り付けられた樹脂製のシェルパ・ホルスターを取り出し、右の太腿に巻き付ける。上方へと延びる二本のマジックテープ式保持具を、ジーンズのベルトループに通した革製ベルトに巻き付け固定。ホルスターへと愛銃ミネベア・シグを差し込む。そして左の腰に吊るした愛刀、オンタリオ・Mk3NAVYファイティング・ナイフの感触を確かめる。

「さてさて、本日の目玉をだね」

 呟き笑いながら、戒斗はボストンバッグの中より一挺の散弾銃ショットガンを取り出す。銃床が存在せずピストルグリップのみで、その上銃身の極端に短いその銃の名は、サーブ・スーパーショーティ。彼にとっても慣れ親しんだベストセラーの散弾銃ショットガン、レミントンM870をベースに製造されたコンパクト・タイプの散弾銃ショットガンだった。

 戒斗はスーパーショーティを片手に持ち、空いた左手でボストンバッグを探り、散弾の詰まった紙箱を取り出す。その中から赤いプラスチック製の弾を二発取り出し、機関部底面からチューブ式弾倉へと、12ゲージのダブルオー・バックショット弾を装填した。弾の入ったソレを、チェストリグの背中、右肩甲骨の中央寄り付け根辺りに取り付けたナイロン製のホルスターへと納めた。銃口を下に向けて背負ったその見た目は、一見すると大太刀を背負う形と似ていた。

 そして予備弾倉類をチェストリグのマガジンポーチに突っ込んだ後、最後に戒斗がボストンバッグの中から取り出したのは、銃床の折り畳まれた砂色の突撃銃アサルト・ライフルであった。ダークアースと呼ばれる砂色で塗装されたそのライフルの名は、レミントン・ACR。その昔はMAGPUL社から『MASADA』の名で発表されていた突撃銃アサルト・ライフルだ。余談だが、彼が手にしているモノは民間用セミオート・オンリーの『ブッシュマスター・ACR』ではなく、セミ/フルオート切り替え可能な正真正銘軍用の『レミントン・ACR』である。

 戒斗はそんなACRの折り畳んだ銃床を展開し調整した後、その銃口先端、フラッシュハイダーへと黒い円筒状の筒を被せる。それは米国AAC社製の、ワンタッチ式減音器(サプレッサー)だ。

 一度軽く構え、銃床に頬を付けて覗き込むのは、レシーバー上部に据えられた20mmレイルにバックアップ用のMBUSアイアン・サイトと共に取り付けられた、ACRと同様のダークアース色に塗装されたEOTech社のレーザー投影式の等倍率光学照準器、552ホロサイト。赤色の照準表示がガラス面上に映し出されたのを確認すると、戒斗は構えを解き、最後に床に置いておいた5.56mm減装仕様亜音速(サブソニック)弾がフルに装填されたP-MAG弾倉を樹脂製のロア・レシーバーに叩き込み、最後にコッキング・ハンドルを引いて初弾を装填。これで戦闘準備、完了だ。

「お、遥お前、珍しいの持ってきたな」

「……ええ。今回の作戦に、丁度良いかと思いまして」

 同じく後部座席で準備を整えていた遥が両手に持っていたのは、旧ソ連製の消音突撃銃アサルト・ライフル、AS-VALだった。根本としては雪山の時に琴音へと支給したVSSヴィントレス消音狙撃銃と全く変わらず、精々違いといえばグリップがピストルグリップ、銃床が折り畳み式となったことぐらいなモノだ。弾薬もヴィントレスと同じ、特殊なシーリング加工が施された亜音速域のSP-5特殊弾である。どうやら接近戦を想定しているらしく、ロシア製特有のサイドマウント・レールに20mmレール・アタッチメントを取り付け、その上に西側のオープン式ドットサイトを乗せていた。

「他はいつも通りか。やっぱ遥はこの姿が一番見なれてて落ち着く」

「そういえば。戒斗と会う時はいつもいつも、この格好でしたものね」

 そう言う遥が身に纏っているのは、彼女の戦闘服にも等しい、和服調な忍者装束。手にAS-VALを持っている以外はいつも通りの出で立ちで、左腰には日本刀型高周波ブレード『一二式超振動刀”陽炎”』、後ろ腰には右方向、横向きで短刀型の『十二式超振動刀・甲”不知火”』。右腰のシェルパ・ホルスターには.40口径のスプリングフィールドXDM-40自動拳銃が刺さっており、左足付け根付近の前側にはXDM-40の二連予備弾倉ポーチが。どうやら右脚太腿には三本のクナイが装備されていた。左側にはAS-VALの弾薬ポーチと、発煙手榴弾スモーク・グレネードが一つ、ぶら下がっている。

 目の前に居る遥の姿は、忍者と言うには些か重装備で、そして近代的な出で立ちではあるものの、それがある意味では彼女の強みでもある。古来より受け継いだ伝統の技術と、現代の兵器を組み合わせた独特な戦闘スタイル。正面切って本気でり合えば、恐らく自分でも敵わないだろうな、と戒斗はふと、遥のそんな姿を見て思った。

≪そろそろ準備出来たかしら。後十五分ぐらいで社長ご一行様、そっちにご到着みたいだけど≫

 催促するように入った瑠梨からの通信に、戒斗は「今丁度、終わったところだ」と短く答えると、遥に先んじてハイエースの横開き式ドアを開け、外界へと踏み出した。

 瞬間、潮風が戒斗の身体を吹き抜け、相も変わらずボサボサに吹っ飛んだ黒髪を揺らす。九月とはいえ未だ残暑が残り、夜中になっても未だ蒸し暑い気温であったが、この潮風のお陰で幾分か軽減されるような感覚を覚える。

「クソ暑い装備着込んでんだ。多少は涼しくして貰わねぇと、割に会わねぇさ」

 呟きながら左腕に巻いたCASIOの高耐久腕時計G-SHOCKをチラリと見れば、時刻は日付も変わり、午前二時二十分。草木も眠る丑三つ時と言われる時間帯だ。確かに周辺は見事なまでに静まり返っており、車一台通る音すら聞こえない。正に、草木までもが寝静まった静寂の夜といったところか。幽霊や化け物の類がいきなり出てきそうな雰囲気だ。

「ま、奴らにとっての幽霊(Phantom)は俺達だろうがな」

 横開きドアを閉じる、背後に立つ遥へと軽く首を向け一度頷くと、彼女も応答するようにコクリ、と頷き返す。最早、言葉なぞ不用。

「さて、行こうか――草木も眠る丑三つ時。こんな夜更けにまで夜更かしをして悪巧みをしやがるような悪いお子様達にゃ、俺達、文字通りの化け物が化けて出て、キツーいお灸を据えてやるとしましょうかね」

 ロックン・ロール。最後にそう呟いた戒斗は擦り減ったブーツのゴム底でアスファルトの地面に足音を立て、歩き出す。その後ろに続く遥と、たった二人の幽霊(Phantom)は徐々にその影を闇夜の中へと同化させ、そして跡形も無く消えていった。

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