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黒の執行者-Black Executer-(旧版)  作者: 黒陽 光
第六章:Gunmetal Color's Fate
68/110

Deep Venom

「……何が起こったってんだ」

 十二番倉庫の阿鼻叫喚の様子は、離れた位置に停車してある覆面パトカー内で待機する高岩にも感じられていた。彼の視線の向こう。フロントガラス越しに、微かだが発砲炎マズル・フラッシュの幾つもの瞬きが見える。

「予想外の事態というのは、得てして起こるものですよ」

 助手席シートのリクライニングを倒し、そこに半ば寝転がった状態の相棒刑事、ひいらぎ 雅人まさとは相変わらずの冷静な口調で高岩にそう言う。

「まさか、連中の増援か?」

「可能性は無きにしも非ず、でしょうね。かといって、組対の連中がその程度に圧倒されるとも思えない。情報だと、結構な殉職も出てるようですよ」

「一体、中で何が……」

「そこまでは分かりかねます。しかしまあ、ここで僕ら二人が出て行ったところで、犬死して終わりでしょうよ。ここはあの傭兵に任せる他、選択肢はなさそうです」

 ペットボトルに入った緑茶を啜る柊の様子は、酷く落ち着いていた。しかし、それが逆に、高岩に微かな安心感と理性を与える。考えるより先に行動を優先しがちな高岩にとって、柊という相棒の存在はストッパーに近かった。仮に彼が居なければ、今頃高岩も拳銃片手に倉庫へと突っ込んでいっている頃だろう。そういう意味で、柊が頼れる相棒であることには間違いなかった。

「任せる他、無いか……」

 一応、念の為に持ってきていた、米国S&W社製の回転式拳銃リボルバー、M37エアウェイトを取り出し、シリンダーを開いて残弾を確認する。警察から支給されて以降、年数回の射撃訓練以外、全くと言っていいほど触っていないこの銃であるが、そんな高岩とてある程度の使い方は心得ていた。

 シリンダーの中には五発の.38スペシャル弾が、確かに入っている。願掛けのように一度シリンダーを回転させ、元に戻すと高岩は再びホルスターに戻した。見れば、隣で柊も、自身の私物であるオーストリア製の自動拳銃、グロック26を取り出して確認している。

「頼んだぜ、傭兵坊主」

 高岩に残された事といえば、彼が信頼を置く腕利きの若き傭兵が、この事態をなんとか収束することを祈る他、無かった。





「チッ――!」

 倉庫の中を駆け抜ける戒斗は、積み上げられたコンテナの間に身を滑り込ませ、降り注ぐ鉛弾の雨から身を守る。腕だけを出し、握り締めた機関拳銃マシン・ピストル、キャリコM950Aを当てずっぽうに乱射して制圧射撃。一瞬敵兵が怯んだ隙に飛び出し、横っ飛びに床を転がりつつ、今度は狙いを定めた一撃で、彼らの儚き命を刈り取っていく。

「どこだ、どこにいる! 麻生ォッ!」

 叫び、戒斗は疾る。残弾幾ばくも無いキャリコの五十連弾倉を捨て、右腰にぶら下げていた虎の子の百連発弾倉をセット。少々重量バランスが気になるが、手数が多くなった分、致し方ない。

 敵のヘッドたる”方舟”のサイバネティクス兵士、麻生あそう 隆二りゅうじの姿は、いつの間にやら戒斗の視界から掻き消えていた。今はその麻生を探し、倉庫中を駆け巡りつつ、目に付いた敵兵を屠っていくことの繰り返しでしかない。今ので確か、八人目だったはずだ。

「琴音、麻生の姿は見えるか!?」

<――へ? 麻生?>

 インカムの向こうで、素っ頓狂な声を上げるのは、狙撃支援に当たっている琴音。そういえば、彼女は麻生の姿を見たことがないのだった。

「このクソ暑い時期にロングコートなんぞ着やがってるクソガキのことだ!!」

<あ、ああ。えーとね……って戒斗、後ろッ!!>

「――ッ!?」

 琴音の一言で後ろを振り返ると同時に、戒斗は動物的な第六感で首を捻らせる。数瞬後、彼の頭が一瞬前まであった場所を、背後から放たれた.500S&W弾が切り裂いた。

「――おやおや。完全なる不意打ちだったのですが……流石に今のを躱されるとは思いませんでしたよ。”黒の執行者”」

「テメェ、麻生ッ……!」

 戒斗の視線の先に立っていたのは、相変わらずの季節外れなロングコートを身に纏った少年。サイバネティクス兵士の麻生あそう 隆二りゅうじだった。彼が両手に持つ大口径の回転式拳銃リボルバー、タウラス・レイジングブルの内、掲げた右手の一挺からは微かに白煙が漂っている。

「僕が用のあるのは、他でもない。”黒の執行者”、貴方だけなんですよ」

「ほざけッ」

「折角の機会です。この間の雪辱もありますし……ここは漢らしく、一騎打ちと洒落込みましょう――お前達! この男には手を出すな!! 僕の手で始末するッ!!」

 麻生がそう叫ぶと、今まさに戒斗へと各々の銃口を向けようとしていた”方舟”の兵士達が、一斉にその動作を躊躇する。この男、本気でり合うつもりらしい。

 レイジングブルを黒いガンベルトへと納め、麻生はその印象的なロングコートを脱ぎ捨てた。黒いタンクトップ一枚になった彼は、一言、「――解放」と呟く。

 すると、彼の両腕、つまり義手の表面に施された肌色の人工皮膚が弾け飛んだ。その下から現れたのは、砲金つつがね色。またはガンメタリックと呼ばれる、いぶし銀ともまた違う色合いの、金属光沢を放つ義手の本体だった。表面と関節部から、僅かに蒸気が噴き出している。

「クソッタレ……」

 背筋を走る悪寒と共に悪態を吐き捨てた戒斗は、手の中にある機関拳銃マシン・ピストル、キャリコM950Aをチラリと見た――残り段数こそ豊富なものの、装填された弾は、ホルスターに納められたミネベア・シグ同様、9mmルガーのフルメタル・ジャケット弾。とてもじゃないが、奴の、麻生の戦闘用義手に施された装甲を破ることは出来ないだろう。

 他の装備はナイフ二本のみ。残念ながら、奴に有効な大口径の火器は所持していなかった。

 チッ、と軽く舌打ちをし、周囲を見渡す。攻撃こそしてこないものの、彼の周りには”方舟”の兵士達が取り囲み、睨みを利かせている。本来なら麻生を闇討ちする腹づもりであったが……この状況下では、どうやら無理そうだ。警察隊の反撃も、次第に弱くなってきていた。

「どうしました? 早くかかってきてくださいよ」

「ほざけッ」

 とはいえ、ここで我武者羅がむしゃらに突っ込んで行ったところで、敗色濃厚であることは、火を見るよりも明らかだ。

 こんな時遥が居てくれれば、と戒斗はふと思うが、それは無いものねだりというものだろう。少なくとも、今は彼女の無事を祈ることしか出来ない。

 何か……何か、打開策を見つけ出さねば。奴のクソッタレな義手を食い破れる、何かを。

「そっちが来ないというのでしたら――僕からいきましょうかァ!!」

「――ッ!!」

 腰のガンベルトから再び、一対の大口径回転式拳銃(リボルバー)、タウラス・レイジングブルを抜き放った麻生は、両の親指で撃鉄ハンマーを起こしつつ、戒斗へと突進してくる。

 それに対し、戒斗は右手のキャリコをバラ撒きつつ、後ろへ、後ろへと走る。

「甘い! 甘いですよぉ、”黒の執行者”ァ!!」

 向かい来る幾多もの9mm弾を、左手のレイジングブルを素早くホルスターに戻した麻生は、両眼の義眼を起動。虹彩を象ったカバーが開かれたソレを全力稼働させ、体感時間が極度に遅くなった世界にて弾道を観測。身を捩じらせ躱しつつ、逃げきれないものは彼の左義手、その腕甲に施された装甲板で、フルメタル・ジャケット弾を弾き飛ばしていく。

「だろうな……ッ!」

 しかし、その程度のこと、戒斗に予想できない筈もない。少しでも、奴の足を遅く出来るのなら……と、小刻みにタップ撃ちしつつ、どんどん後退。終いには、警官達の隠れるパトカーのボンネットを転がって乗り越えた。

「確か……この辺に……」

 怯え竦む制服警官達を遠ざけ、パトカーの後ろに身を隠した戒斗は、焦る内心で、周囲を見渡す――あった。倉庫の端。コンテナの陰に倒れ伏した”方舟”兵士の死骸。先程戒斗の背後に回り込もうとし、気づいた彼に返り討ちにされた奴だった。

 その死体の傍に落ちている、オーストリア製の突撃銃アサルト・ライフル。撃発機構や弾倉装填部が銃の後方、銃床に配されたブルパップ式と呼ばれるその銃は、シュタイアー・AUG。標準搭載のスコープが廃され、代わりに国際基準のビカティニー・レールが搭載されたこれは、恐らくA3と呼ばれるタイプだろう。そのレール上には、倍率四倍のACOGスコープが搭載されていた。

「ほぉら、逃げないでくださいよぉ!」

 二発続けて麻生から撃ち込まれた.500S&W弾が屋根の上の赤色灯を粉砕し、もう一発はボンネットに大穴を穿ち、内部のエンジンを滅茶苦茶に引っ掻き回す。漏れ出るオイルの臭いが、パトカーの廃車宣言を物語っていた。

「逃げもするさッ」

 隠れたパトカーから飛び出し、走り出した戒斗は後ろ手にキャリコを向け、百連発のヘリカル・マガジンに残された残弾全てを叩き込みつつ、先程見つけたむくろの元へと駆ける。

「無駄だってんのが分からないんですかぁ。意外と学習能力に欠けてるのですねぇ」

 それをやはり、義手で弾き飛ばしつつ、麻生は戒斗との距離を詰めていく。それを聞いた戒斗は、ニヤリ、と口元を綻ばせ、言った。

「そりゃあ、テメェのことだ」

 残弾の切れたキャリコを投げ捨てると同時に、地を蹴って前方へと飛ぶ。床へ着地した勢いを背中で殺し、大きく前転した戒斗は、腕を大きく伸ばす――掴んだ。

 起き上がって体勢を立て直し、膝立ちになった戒斗。手にしたモノのボルトハンドルを一度引いて、排莢。そして構えた。

 未使用の5.56mm弾が床に落ちると同時に、麻生の顔には冷や汗が浮かび、そして、戒斗は――嗤っていた。

「くたばれ、クソガキ」

 そして、引き金(トリガー)を引き絞る。彼が構えたブルパップ式の突撃銃アサルト・ライフル、シュタイアー・AUGから分間六百五十発の速度で5.56mmのフルメタル・ジャケット弾が次々と吐き出される。

「この――ッ、小癪なッ!!」

 迫り来る幾多ものライフル弾を、麻生は義眼をフル稼働させギリギリの所で回避していく。だが、全速力の走りによって生じた勢いは、そう簡単に殺せない。その上、ライフル弾と拳銃弾の速度は、比較できないほどに前者は早いのだ。幾ら彼の義眼が優秀だとして、物理的要因が回避の邪魔をする。

 避け切れず、腕を使って弾き飛ばす間もなかった数発が太腿を掠め、未だ生身の部分の肩口を薄く引き裂き、脇腹を抉る。そして――

「ぬふぅッ!?」

 偶然にも、下げていた右腕に握っていたレイジングブルに着弾。その勢いのまま麻生の手を離れ、後方遠くへと弾き飛ばされていく。その一瞬を目の当たりにした戒斗は、棚から牡丹餅と言っても過言でない僥倖に、思わず笑みが零れてしまう。

「この――ッ、このおおおお!!!」

 顔を茹でダコの如く真っ赤にし、怒り狂った麻生が、残ったもう一挺のレイジングブルを抜き放ち突進してくる。それと同じくして、戒斗の構えるAUGの弾倉から、残弾が尽きてしまった。

「クソッ」

 死体の身に着けるプレートキャリアに括りつけられたポーチに、予備弾倉はある。あるが……どう見ても、再装填している余裕はない。

 仕方なしに戒斗は手に持ったAUGを投げつけ、ミネベア・シグを抜き撃ちしつつ、麻生へと向け走り出す。

「楽には殺してやりませんよぉ!!」

 怒り狂った麻生は右腕で戒斗の放つ9mm弾を弾きつつ、残ったもう片方のレイジングブルを左手で抜き放つ。が――

「そう簡単に得物を抜けると思うかッ!」

 麻生に向け走る戒斗は、目測で残弾が一発程になったミネベア・シグのグリップ底部、クリップのようなコンチネンタル・マガジンキャッチと呼ばれる保持器を、左手に予め握らせておいた予備弾倉の角で弾き解除。少し下方へと飛び出した弾倉の、バンパー部へと左手のソレを引っ掛け、勢いよく下方へ引っ張る。完全に飛び出した弾倉が床へ落ち、その間に戒斗は新しい弾倉をグリップ底部から叩き込む。

 そしてそのまま、麻生の左手へと狙いを付け、三発続けて発砲。その内一発が、麻生の手の中にあったレイジングブルを弾き飛ばした。

「な、に……!?」

「ヘッ、手元が狂ったか?」

 そして、二人の間は約4.5m。至近も至近。戒斗は斜め前方へと転がりつつ、ブーツに仕込んだダガーを抜き、左手に保持したそれを起き上がりざまに麻生へと投げつける。

「そんなオモチャなど!」

 向かい来るナイフの軌道を、麻生は義眼を使い予測。腕にて弾き飛ばす。しかしそこに、僅かな隙が出来た。戒斗は膝立ちのまま、ミネベア・シグの弾倉を撃ち尽くすまで、片手で発砲。

「チッ――」

 その内数発を太腿と肩口に受けつつ、すんでのところで反応が間に合った麻生はなんとか弾を逸らす。千載一遇のチャンスを逃した戒斗は、舌打ちを交えつつ、素早く弾倉交換。残る残弾は、残り八発。

「それで終わりですかぁぁぁ!!??」

 叫び、怒り狂う麻生が、地を蹴り全速力で戒斗へと迫る。彼は距離を取ろうとするものの、今自分が、膝立ちになっていることに気付く。

 しまった、間に合わない――!

「――戒斗、目を伏せて!!」

 瞬間、彼の耳に届いたのは、聞きなれた少女の声。咄嗟に戒斗は床へと前のめりに飛び込み、両手で耳を塞ぐ。

「何――ッ」

 後方で何かが落下する音と、麻生の狼狽える一言が聞こえた次の瞬間には、辺りは閃光と、甲高い爆音に包まれていた。

 ――閃光音響手榴弾(フラッシュ・バン)

 戒斗が立ち上がって麻生へと振り返ってみれば、そこには「クソッ、見えない……! 見えない……ッ!!」と、まるで夢遊病患者の如く覚束ない足取りで、フラフラと彷徨う、牙を抜かれたサイバネティクス兵士の哀れな姿があった。

「これをッ!!」

 そう叫んだ、戒斗の窮地を救いし声の主――長月ながつき はるかは、屋根の上、天窓の隙間から顔を出したかと思えば、何かを戒斗の近くへと投げてきた。床へと鋭く突き刺さったそれは――日本刀。いや、日本刀の形をした、高周波ブレード。彼女の愛刀たる『一二式超振動刀”陽炎”』だった。

「ホント、美味しいとこばっか持ってきやがる奴だこと――助かったぜ、遥!!」

 戒斗は周囲の”方舟”兵士へ向けてミネベア・シグの残弾を全て放った後、愛銃を投げ捨て、床に突き刺さった刀を引き抜く。

 軽く構え、踏み出して刀を振るう。振り下ろす一撃と、斬り返しの二撃。鋼鉄すら断ち切る高周波振動の刃は、麻生の両腕、高性能にして頑丈な戦闘用義手を、肩口の接合部から、まるで木綿豆腐でも斬るかの如くスッパリと、簡単に斬り落とした。

「何!? 僕の、僕の腕が……!! クソッ、クソッ、クソッッッッッ!!! どこだぁ! どこにいる!! ”黒の執行者”ァァァッッッ!!!」

 怒り狂い咆哮する麻生。戒斗はその胸を蹴り飛ばし、仰向けに床に転がったその胸板を踏みつけ、上がる息を整えつつ拘束。手に持った『一二式超振動刀”陽炎”』の高周波振動モードを切り、その鋭く研ぎ澄まされた鍛造鋼の切っ先を、ゆっくりと、麻生の首元に添えた。

「聞けッ、クソッタレ共!! 大将の首が惜しけりゃ、今すぐに兵を退けッ!!」

 戒斗の叫びが、倉庫中に木霊する。周囲に展開していた”方舟”兵士達は動揺し戒斗に銃口を向けるものの、今、彼らのヘッドたる麻生の首は戒斗の手中にある。なればこそ、彼らには目の前に立つ傭兵を撃てなかった。

「どうした、聞こえなかったのか!」

 右手に少し力を籠め、刃を麻生の首へと押し付ける。薄皮が裂け、微量の血がそこから伝い、床へと流れ落ちた。

 動揺を隠せない”方舟”の兵士達は、止む無く後方へと退いていく。

「殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやる……」

「黙ってろ」

 胸を抑えつけたブーツの爪先で顎を小突くものの、呪詛のような麻生の呟きは止まらない。思わず戒斗の口からは、溜息が漏れる。

「はぁ……まあいい。洗いざらい吐いて貰うからな」

 呟き、麻生の首根っこを戒斗が乱雑に引っ掴んだ時だった。十二番倉庫の裏側。丁度先程、”方舟”の連中が現れた方向から、一つの足音がコツ、コツと響き、こちらへと近づいてきているのに気付いた。

<ちょ、ちょっと、戒斗……>

 狼狽えた琴音の声が、インカムから聞こえる。

「どうした琴音。一体、何が――」

 その足音の正体の姿が、戒斗の視界に入る。男だった。十二番倉庫の開け放たれている裏側出入り口に立つ、足音を立てていた人物は。

 恐らくは天然モノであろう金髪をゆらゆらと揺らすその男の身長は高く、ゆうに185cmは超えているであろう。戒斗の愛用するものとよく似た、黒い革のフィンガーレス・グローブを手に嵌め、黒いジーンズを履いた彼は上半身に、虎柄のジャケットを羽織っている。何とも言えない趣味な虎柄ジャケットの、大きく空いた胸元から覗く素肌を見る限り、半裸の身体から直接、羽織っているのか。

 その男の名を、戒斗は知っていた。いや、忘れたくても、忘れようにも、忘れられない。男の名を。奴の異名――”人喰い蛇”を。

「――よォ、随分とご無沙汰だなァ、戦部のガキ。いやァ、”黒の執行者”だったか……ハハハハハハハァ!!!!」

「テメェ、この野郎……随分と探したぜ。ここで会ったが百年目だ――浅倉ァァァァッッッッ!!!!」

 気付けば戒斗は、両腕の無い麻生を何処いずこかへと投げ飛ばし、遥から借り受けた日本刀型高周波ブレード『一二式超振動刀”陽炎”』を手に、駆け出していた。目の前に立ち、口元を歪ませ、犬歯を露わにしつつ凶悪な嗤いを浮かべる奴へと向けて。探し求めていた宿敵、自らの手で復讐すべき男――浅倉あさくら 悟史さとしへと。

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