Exhaust Notes
そして翌日の朝。いつも通り戒斗と琴音の二人は眠気を抑えつつ、通学路としている道を歩いていた。
「にしても、結局生徒会って何なんだろうね?」
「さあな。俺に訊かれたって困らぁ」
「でもさぁ戒斗。やっぱ気にならない? ましてや、あんなことがあった後だし」
「どのみち、後数時間で全部ハッキリすることじゃねえの。今気にしても仕方ないっての」
他愛のない会話を交わしつつ歩く二人が交差点に差し掛かった時、目の前の角から同じ神代学園の制服を身に纏った、背の低い見知った顔の女子生徒と出くわした。
「おっ、遥じゃねえか」
「……あ、戒斗。おはようございます」
短く切り揃えたショートカットの黒い髪を翻し、ペコリと戒斗にお辞儀をする彼女は勿論、長月 遥だった。
「にしても遥。この時間に学校向かうってのは珍しいな」
そう戒斗が話を切り出してみると、彼女はいつも通り、抑揚の薄い声で言う。
「……今朝の鍛錬は、存外早く終わりましたので」
「鍛錬? なんじゃそれ」
「ええ。日々の鍛錬です。折角立派な道場もあるので。屋敷に居る間は毎朝晩、欠かさず行っていますよ」
彼女のこういうところで、戒斗はやはり、長月 遥という少女が忍者の末裔だということを思い知らされる。見た目こそ可愛らしい、言い方はアレだが、所謂ロリ系の美少女である彼女。体つきも細く、傍目には戒斗以上に強い忍者の少女だと分からないが、その戦闘力を支えているのは日々のこうした弛まぬ努力、ということなのだろう。誰も、決して最初からアクション映画の主人公のようなコマンドーでも何でもないのだから。
「その鍛錬が、今日は早く終わったってことなの?」
そう訊いたのは琴音だった。思考の海に堕ちかけていた戒斗の精神が、彼女の一言によって引き戻される。
「ええ。偶々、朝早く目覚めたもので。相対的に鍛錬も早く終わったということです。あのまま屋敷に居ても特にすることは無いですし、折角ですから学園に行こうと。そうしたら戒斗達にばったり出会えたってわけです。なんだか、運命的ですね」
その『鍛錬』とやらを終えた直後だからか、いつもより数割増しで饒舌な遥。こんなに喋る奴だったっけ? そんなことを思いつつも、彼女が多く喋る姿もまた良いものだと納得し、その話題に戒斗は付き合ってやることにする。
「――あっ、そうだ琴音。鍛錬で思い出したわ」
唐突に話題を切り出す戒斗と、「えっ、どうしたの突然」と若干驚く琴音。
「夏にニムラバス渡しただろ、確か」
「え? ああ、うん。確かに貰ったけど。それがどうかした?」
「ぶっちゃけ、イザという時にどう使ったらいいか分からんだろ」
戒斗の問いかけに、数秒間押し黙った後「……そうね。よく考えたら全く分かんないわ、私」と苦い顔で琴音は言った。
「そこで、だ。遥、屋敷の道場、借りてもいいか?」
「……構いませんが、一体何をするつもりで?」
「簡単な話さ。琴音にナイフ格闘を叩き込む」
「はい!?」
当たり前だが、唐突過ぎる戒斗の提案に琴音はひっくり返りそうな勢いで驚いていた。まあ無理ない。通学中に突然そんなことを言われてしまえば、誰だって驚く。
「いやさ、この間みたいな事態が起こって、俺がまた琴音から離れることになる可能性も、無きにしも非ずだろ? そんな時にまた都合よく香華のとこの部隊が送れるとも限らねえし、琴音には極力、自分の身は自分で護れるようになって欲しいんだ」
「あ、はあ……まあ一理あるけど」
「だろ? 狙撃一辺倒じゃ戦えねえのが現実さ。訓練には安全な、樹脂のトレーニング・ナイフを使うつもりだ。週末ぐらいから始めようぜ?」
「まあ、良いけどさ。どっちみち、このまま私達が”方舟”と戦っていくなら、遅かれ早かれ覚えなきゃいけないことだっただろうし」
そんな話題を交わしている内に、気づけば神代学園が見えてきた。横断歩道を二回ほど渡り、校門まで続く長い坂へ。
すると、遠くから徐々に近寄ってくる、高音域のエグゾースト・ノートが戒斗の耳に聞こえてきた。
「ヨーロッパ系か?」
そう呟いて振り向けば、こちらに向かって走ってくる、確かにヨーロッパ系のスポーツカーが一台。誰もが知るイタリアの名門メーカー、フェラーリの送り出す新型フラッグシップ・スーパーカーであるF12ベルリネッタ。後部に搭載した6.3LのV型十二気筒エンジンの強烈なサウンドを撒き散らし迫り来るスーパーカーの車体は、朝日を反射し黄色く輝く――
「オイオイオイ……冗談だろ!?」
そのベルリネッタは戒斗達の真横をパスし、ウィンカーを出したかと思えば、若干ケツを滑らせつつ、野球場の横を通る駐車場入り口へと突っ込んでいく。後輪タイヤから盛大にスモークとスキール音を響かせるその車体を駆るドライバー……まさか。
「ちょ、ちょっと戒斗!?」
気付けば、戒斗はそのベルリネッタを追い、走り出していた。間違いない。勘が正しければ、あのマヌケた黄色のベルリネッタを乗り回す奴は、一人しか居ない……!!
その、戒斗の追う黄色いベルリネッタはテールランプから赤い閃光を尾引きつつ、職員用駐車スペースの更に奥へと坂を下っていく。確かあっちは、基本的に非常勤講師用で、実際は一台分ぐらいしか使われていない余剰スペースのはずだ……!!
「はぁ……はぁっ……!!」
息を切らし、戒斗が追い付いた頃には既にベルリネッタはバックで駐車を終えており、エンジンを停止し、中からドライバーが降りてきたところだった。
「――ってめぇ香華ァ! なんちゅうモンで乗り付けてんだァッ!!??」
戒斗がそう叫んだ相手。神代学園の夏制服に身を包んだドライバーこと西園寺 香華は助手席から自らのスクールバッグを取ると、自分に向かって叫んでいた戒斗へと手を振ってきた。
「おー、おはよー戒斗ー」
「おはよー、じゃねえよッ!! どこの世界に学園に朝からフェラーリで乗り付ける馬鹿が居るんだッ!?」
「ん? なんでそんな朝から元気なわけ?」
「だあああああ!!!」
どうやら、彼女には自覚症状が無いようだった。学園に生徒がフェラーリ・F12ベルリネッタなんて正真正銘のモンスター・マシンで乗り付けることの異常さが。
「それより折角だから、見てよ見てよ! ホラ! V12エンジン!!」
妙にハイテンションな香華はそう言うとボンネットのロックを解除し、黄色のボンネットを上方へと跳ね上げる。そこには確かに、真紅のエンジンカバーの被せられた、七百十二馬力を誇る最強のV12エンジンが鎮座していた。今の今まで稼働していたソレは、仄かに熱気を纏っている。
「おお、すげえ……ってそうじゃねえ! なんでお前、平気で乗り付ける!?」
その夢のエンジンに一瞬見惚れた戒斗だったが、首を振り正気に戻ると香華に詰め寄る。困惑しつつも、「いや別に、なんか許可取れちゃったしさ」と香華は言う。
「取れるのか!?」
今度は一転、目を輝かせて戒斗は訊く。その態度の豹変ぶりに半分引くが、一応香華は答えてやる。
「え、ええ。取れるみたいよ。一般生徒はアレみたいだけど、”傭兵”の戒斗なら特例でイケるんじゃない?」
「やったぜ! これでタルい徒歩通学とはおさらばだ!!」
「ちょ、ちょっと戒斗早い……って香華!?」
全力のガッツポーズを決めて戒斗が歓喜したところで、やっと追い付いた琴音が香華と、彼女のすぐ傍に駐車されているベルリネッタを交互に見て驚く。
「ああもう、よく分かんないけど……戒斗、状況説明お願い。出来る限り短く」
「香華がベルリネッタで乗り付ける。俺気付く。追いかけて話を聞いてみれば俺でも車でブッ飛ばして通学出来そう。以上ッ!!」
「うん、実に分かりやすいわね――ってアホかぁっ!!」
頷く琴音に頭を叩かれる戒斗。「いやいやいや。車で通学ってちょっとそれ非常識というか色々通り越してますよねぇ!?」と琴音。
「いや、だって香華が俺なら許可取れそうだって言うから」
「はぁ!?」
「琴音もそんなにヒートアップしないで、ね? 戒斗なら多分取れると思うわよ? とにかく今は教室に行きましょう。ここで長話していても遅れちゃうわ」
そう言った香華はボンネットを閉じ、キーロックをして車から離れた。「……はぁ。まあいいわ。ツッコむのも疲れた」と呆れ返ったように琴音は呟く。
「……何の騒ぎか理解しかねますが。今は香華の言う通り、急ぎましょう」
いつの間にか追い付いていたらしい遥に促され、戒斗、琴音、香華の三人は校舎へと歩いていく。その道すがら、「今度から戒斗も乗ってくるわけね。何で来るの?」と話題を切り出したのは香華。
「二人だし、そりゃ決まってんだろ。親父のZでブッ飛ばして来るぜ」
「ああ。いつものZ33? 戒斗のお父さんのことだから、相当弄ってあるんでしょう」
「勿論。VQ35DEエンジン自体はまだバラしてないが、HKSの遠心タービン式スーパーチャージャーが付いてる。サスはNismoで、ブレーキはENDLESSの強化ディスクブレーキさ。LSDは機械式の1.5way。IMPULのスポーツマフラーに、RAYZの金色ホイールやら、その他かなり弄ってあんな。エンブレムは全部金のカスタムだぜ?」
「凄い弄り様ね……でも、私のベルリネッタに敵うかしら」
「お、試してみるかい?」
「……なら、私もエリーゼで参戦しましょうか」
本来話をぶった切るポジションにあった遥まで話に乗ってきたのだから、もう収拾がつかなくなった。ただ一人話に付いていけない琴音は溜息を吐きつつ、彼ら三人の後ろを追って歩く。
「失礼します」
そして時間は過ぎ、時刻は既に、太陽が西に傾き始めた夕方の放課後。戒斗は例によって琴音、そして遥を連れ、たった今生徒会室の扉をノックしたところだった。
「どうぞ。空いてるわよ」
中から聞こえる、どうやら女子生徒らしい声。「失礼します」と一応改まって、戒斗は握ったドアノブを捻り、中へと入っていく。独立した生徒会室という一つの部屋となっていると聞き、さぞ豪勢な内装なのだろうと想像していたのだが、意外にも質素というか、普通だった。囲むように四角に配置された幾つかの長テーブルと、その周りにある椅子。壁際には事務棚と、幾多もの書類が挟まっているであろうファイルが並んでいる。そして、開け放たれた窓を背に、出入り口と真っ正面から正対する形で置かれている、少し大きめな机には『生徒会長』の文字が掛かれたネーム・プレートが。そして、薄型ディスプレイに繋がれたデスクトップPCの置かれたその机の前の事務椅子に、一人の女子生徒が大仰な姿勢で座っていた。
「――時間ピッタリね。貴方が噂の”黒の執行者”さん?」
その、椅子に座る彼女は、入室してきた戒斗の姿を見るなり、脚を組み頬杖を突く格好を崩さないままで冷ややかにそう言った。朱色で、暖色系で艶やかな髪を長々と腰まで垂れ流したストレートヘアの彼女は、膝の上で組んだ、一対の黒のオーバー・ニーソックスに包まれた脚を崩すと、ふわりと柔らかい動作で立ち上がる。一連の動作はどこか羽毛を想像させるようで、流れるような仕草だった。
「アンタが、俺をお呼びの生徒会長様かい?」
戒斗が問うと、彼女は片手で背中の髪を翻し「ええ。そうよ」と肯定する。立ち上がったその姿は意外にも長身で、165cmぐらいはあるだろう。細すぎず、かといって太すぎず。出るところはしっかりと出て、締めるところはキュッと引き締まっている。絶妙なボディーラインだった。
「”黒の執行者”こと二年E組の戦部 戒斗くんに、折鶴 琴音さん。それと長月 遥さんで良かったかしら?」
「人の名前を訊きたきゃ、まずは自分からだろ?」
少し挑発的な態度で、戒斗は切り返す。後ろで琴音が、若干慌てたように小声で制してくるが、戒斗はそれを止めさせる。相手の目的が分からない以上、警戒せざるを得ない。
「あら、意外と荒っぽい? まあいいわ。確かに人に訊いておいて、自分が名乗らないってのはおかしな話だものね――私は真田 亜里沙。お察しの通り、ここの生徒会長をやらせて貰ってるわ」
飄々とした態度で、彼女――真田 亜里沙と名乗った彼女は左手を腰に置き、そう言った。
「成程ね。アンタ、もしかしてハーフかい?」
生徒会室の壁にもたれかかった戒斗が問うと、「残念。イギリスの、ハーフじゃなくてクォーターよ」と亜里沙は言う。彼女の顔に、どこか西洋風なモノを感じ試しに訊いてみたが……やはりそうだったか。確かに西洋の血を引いているだけあると、戒斗は納得した。
「で? 俺達に一体何の用だ」
「立ち話もなんでしょう。そこに座って頂戴」
亜里沙が指差すのは、並ぶ長机と事務椅子。とりあえず戒斗は両隣に琴音と遥を挟む形で、目の前の椅子に言われた通り座った。丁度、生徒会長机の亜里沙と正対する形だ。
「座ったぞ。さっさと要件を言え」
若干イラつき気味に急かす戒斗と、「そうそう慌てないの。せっかちな男は嫌われるわよ?」と切り返す亜里沙。
「大丈夫よ。早速本題に入りましょう。そもそも貴方達を――」
そうやって亜里沙が言いかけた瞬間、まるでタイミングを見計らったかのように、戒斗達の背後の扉がガチャリと音を立てて開いた。
「――会長。部費の申請書類の件でお聞きしたいことが……」
そう言いながら入ってきたのは、片手に書類の束を抱えた、背の低い水色ショートカットの、上半分だけフレームの無い赤枠の眼鏡を掛けた女子生徒だった。その後ろからもう一人、戒斗と同じか、少し低いぐらいの、吊り目で、こちらも黒いフレームの眼鏡を掛けた男子生徒。
「む、貴方達、生徒会に何の用で」
部外者たる戒斗達に気付いてか、妙に敵意の籠った声色でそう言う女子生徒と、「この間会長が言っていた件でしょう」と冷静極まりない口調でそう言うのは男子生徒の方だった。
「丁度良かった。紹介するわ。こっちの胸にまな板抱えてる女の子が副会長の速水 智花。そっちの万年仏頂面が私の補佐をしてくれてる桐谷 一成。どちらも二年生よ」
「会長。まな板とはどういうことかご説明を」
「誰が仏頂面ですか、誰が」
若干頬を紅潮させつつ、どう見ても無い胸を気にしつつ亜里沙を睨み付ける、水色ショートカットの、速水 智花という名の女子生徒と、言われた通りの『仏頂面』のまま、溜息交じりに言うのは桐谷 一成。そんな二人の姿を、戒斗達三人の部外者は、どういう反応をしたらいいのか分からず困惑気味でそれを眺めていた。
「……で、その副会長と補佐殿はいいとして。結局本題は何なんだ」
やっとのことで口を開くのは戒斗。それに対し、亜里沙は今思い出したかのような仕草で向き直ると、ある意味唐突、そしてまたある意味では予測出来ていた言葉を口にする。
「――貴方達、生徒会に入りなさい!!」
高らかに彼女が宣言した後、一時の静寂。遠く、窓の向こうから、部活に勤しむ生徒達の掛け声が聞こえる。遠くには街の喧騒。なんとも穏やかな放課後の――
「……なぁ生徒会長殿。気は確かか?」
その沈黙を破って言葉を発したのは、当人たる戒斗であった。「大真面目に言ってんのよ」と亜里沙。
「冗談だろ?」
「まさか。冗談で生徒会室にわざわざご足労願うほど、酔狂じゃないわ」
「ヤクでもやってんじゃねえのかこの女」
「何ですって!?」
「まあまあ、戒斗も一回落ち着いて……話は分かりました。でも何故、よりにもよって私達なんかを?」
ヒートアップしかけていた戒斗と亜里沙を宥め、脱線しかけていた話を元に戻すべく琴音はそう言った。「簡単な話よ」と亜里沙は言って、続ける。
「貴方が、いや正確言えば、戒斗くん。貴方の力が欲しい」
「何となく察したが、一応説明して貰おうか。生徒会長?」
「この間の事件で素性が知れた結果、貴方はほぼ全校生徒に”傭兵”稼業を営んでいることが知れた。つまりはプロよ。そんな人間、学校側が放っておくとでも思う?」
再び椅子に座った亜里沙の一言に、「……いや」と頷く戒斗。
「だから、よ。他に取られない内に、生徒会に貴方が欲しかったの。どのみち、人数は足りなかったしね」
「成程。そういうわけね」
「遅かれ早かれ、次は生活指導部からスカウト来るわよ? 今ここで生徒会に入っちゃうか、後で生活指導部に入るか。どっちが良いかしら?」
亜里沙の言葉に、戒斗は生活指導部長の教師の顔を思い浮かべる。体格がやたらデカくて浅黒い肌の、幾多の非行生徒達を震え上がらせる指導部の悪魔、熊田 練蔵こと通称クマさん。
「ああ……生活指導部でクマと毎日顔合わせんのは勘弁だ」
引きつった顔で戒斗は呟く。正直彼とて、熊田という教師はあまり好印象では無かった。というか、あんなのを好む奴なんてこの学園に存在するのか?
「まあ入るのは構わねえがよ。仕事の関係で居ないことの方が多くなるぜ?」
そう戒斗が問いかけると、「構わないわよ。それは最初から織り込み済みだから」と亜里沙。
「なら構わんが。お前らは良いのか?」
他の二人を一度見回すと、琴音、遥双方共、何も言わず、ただ首を縦に振って頷く。了承、と見て良いのだろう。亜里沙もそれは見ていたらしく、横に立っていた一成に早速入会書類を戒斗達の前へと出させた。
それをササッと書きつつ、ふと思い出し、戒斗は訊いてみる。「そういえば、仕事内容はどんな感じなんだ?」
「そうね。智花達にやって貰ってるような普通の生徒会業務に加えて……何と言ったらいいのかしら。ま、用心棒的な感じよ」
「……ハァ。まあ読めてたさ」
仮にも”傭兵”である戒斗を引き込もうとした時点で、察しはついていた。大方、生活指導部の紛い物みたいなことだろう。一応この私立神代学園とて、ある一定数の、所謂『不良』のレッテルを張られた連中も存在している。彼らをどうこうするのは戒斗とて忍びないが、まあ生活指導部で毎日クマの顔を拝まされるよりは数百倍マシだろう。
そんなことを考えている内に、書類は一通り書き上がった。立ち上がり、琴音、遥の分もまとめて亜里沙に突き出す。それを受理した彼女は実ににこやかな表情で「はい。それじゃあ今日から貴方達は生徒会の一員。よろしくね?」と告げた。
「はいはい。よろしくどうぞ」
どうやら、昨日感じていた予感は概ね正しいらしい。そんなことを胸の内で今更に思い返しつつ、戒斗の新たな生活はこうして幕を開けたのだった。




