Shall we break?
それから一時間ほど早苗の与太話に付き合わされ、三人が帰宅の途に着いた頃には、既に太陽が直上から若干西に傾いていた。始業式ということもあり、昼前には生徒達は解放されている。他校の学生や小学生の群れと時折すれ違いつつ、戒斗、琴音、そして遥の三人は制服で郊外の町を歩いていた。
「ま、朋絵ちゃんが上手いこと言ってくれて良かったじゃないの」
隣を並んで歩く琴音が言った。
「まあな……ああ琴音、この後予定あるのか?」
「ん? いや、別に何もないけど。戒斗、どこか行くの?」
「ま、ちょっとな。この間調達した諸々の金と、新しく発注した奴の受け取りでレニアスのトコに行く用事があってな。暇なら荷物持ちでも手伝ってくれ」
戒斗の提案に、「なんだ、荷物持ちか……」と、琴音は若干の落胆を見せる。
「まあそう落ち込みなさんな。折角だし琴音にも何かしら新しい奴見繕ってやるからよ。それに、駄賃と言っちゃなんだが、帰りに適当に買い物でも行ってから、珈琲でも飲みに行こうや」
「ほんと!?」
言ってみれば、琴音は一気に目を輝かせ上機嫌に。こういうところが単純というか、なんというか。まあ、琴音のその妙に単純なところも、戒斗自身そう嫌いではない。
「……あの、戒斗」
割って入るように話しかけてきた遥に、「なんだ?」と返してやる戒斗。
「私も、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「ん? あ、ああ。構わねえが」
意外だった。遥のことだからてっきり何も言わずにそのまま帰宅するもんだと思っていたのだが。ちょっと予想の斜め上だったもので、戒斗は少しだけ声色が引きつる。
「そいじゃあ、屋敷まで迎えに行くわ。多分一時間も掛かんねえと思うけど」
「分かりました」
帰宅し、制服を脱ぎ捨てて私服に着替える。ジーンズに巻いたベルトの背中側にはいつも通りSOBホルスターと、キャリコM950A機関拳銃を突っ込み、薄手の濃い赤色の上着の下、ショルダーホルスターにはミネベア・シグ。最後にジーンズの左後ろポケットにカランビット・ナイフを突っ込む。そして戒斗は車のキーを持ち、そそくさと再び家を出る。
「もう、おっそいわよー」
「悪りい悪りい。キーをどこに置いたか忘れちまっててな」
玄関先には既に着替えた琴音が立っていた。ドアを開け、施錠しマンションの階段を下る。
駐車場まで降り、停まっている二台の戒斗所有の車。その内一台、眩しいライトニングレッドのボディカラーの四輪駆動・スポーツセダンであるスバル・WRX S4の施錠をイモビライザー式のキーで解除する。
ドアを開け、戒斗は運転席へ乗り込む。背中に当たって邪魔になるキャリコを、黒い本革シートの直下、フロアマットの上へと置くと、シートベルトを締めつつ、インパネにあるプッシュエンジンスイッチを押し込む。タコメーターとスピードメーターの両方が起動動作で大きく動くと同時に、車体前面、大きくグリルの穿たれたボンネットの下、BRZ用のFA20エンジンをベースに直噴ターボへと最適化すべく再設計された、2.0L、水平対向四気筒FA20DITエンジンが躍動を開始する。
「なんかまだ、新車っぽさがかなり残ってるわよね」
隣の助手席に座った琴音が呟く。「そりゃあまあ、エミリアの一件で乗る暇無かったからな」と戒斗。
「今更だけど、なんでわざわざ新車なんて買ったの? あの車あれば十分じゃない」
WRXの横に駐車されているサンセットオレンジの2シータースポーツカー、日産・フェアレディZ・Z33前期型のVersion STを指差し、不思議そう言う。
「ありゃ親父がこっちで乗ってたお古みてぇなもんだ。そりゃあ凄まじいモンスター・マシンだけどよ……やっぱ自分の車ってのが欲しかったんだよ。それに、2シーターだと何かと不便だしな。特に今とか」
「あー、そりゃ言えてる。二人しか乗れないもんねアレ」
そんな会話を交わしている内にいつの間にか数分間が過ぎ、暖気の済んだエンジンは十分温まっていた。
「それじゃ行くぜ。あっそうだ、シートベルト締めてくれ。こんなことで点数引かれたかねぇからよ」
「ああ、はいはい」
気付いてなかったのか、戒斗に促された琴音は慌ててシートベルトを締める。それを確認し、戒斗はアクセルペダルを踏んで数回空吹かしをすると、黒い本革のフィンガーレスグローブに包まれた左手を置いたシフトノブをDに。ハンドルのボタンを操作し、燃費重視のインテリジェント・モードから、パフォーマンス最重視の全開走行のスポーツ・シャープ・モードへ切り替える。
「久々だ。ブッ飛ばして行くぜ……!」
ひとりごち、アクセルペダルを踏み込む戒斗。自動でサイドブレーキが解除され、タコメーターの示すエンジン回転数と、インパネ上部のマルチファンクション・ディスプレイに表示された直噴ターボチャージャーのブースト圧を示すメーターが跳ね上がる。ボクサー・エンジンから伝わる動力がベルト式の無段階変速トランスミッション、スポーツリニアトロニック・8速CVTミッションへと流れ、スバル独特のシンメトリカル・AWDシステムによって四輪全てへと動力が伝わる。タイヤがゆっくりと回り始め、WRXは駐車場を離れる。公道へ出、軽快なエグゾースト・ノートを奏でつつ、武家屋敷へと疾走を始めた。
十数分少々運転した後、戒斗の駆るWRXは遥の住む、彼にとっても見慣れた武家屋敷の前へと辿り着く。やはり大仰な門の前で車を停め、助手席から琴音を降ろしインターホンを押させる。
「……お待たせしました」
数分後、私服姿の遥が門の向こうから駆けてきた。短いショートカットの前髪を小さな髪留めで軽く纏め、半袖で薄手の上着をTシャツの上から羽織り、少し短めな白いスカートに膝ぐらいの黒いニーソックスで強調した細身な脚に、茶色のブーツを履く彼女の姿は色々と目に毒……もとい、目の保養になる可愛らしさなのだが、戦闘時の忍者装束を身に纏った姿ばかり見ている戒斗にとって、私服の彼女は、やはり何度見てもやはり違和感というか、妙に慣れない。
「遠慮せず後ろ、乗りな」
「それじゃあ、お邪魔します」
ドアを開け、助手席シートの左側、つまり助手席の背後へと遥がちょこんと座る。バックミラーに映る彼女の姿は……うーん、やはり目の保養になる。そんなことを表情に出さないよう気を付けつつ考えていると、琴音も助手席へと戻ってきた。彼女がシートベルトを装着したのを確認し、戒斗は再びWRXを発進させる。
「ところで戒斗」
「んー?」
早速、後ろの遥から話しかけられた。視線は前に向けたまま、戒斗は反応してやる。
「新車、ですよね。この車」
「勿論。WRX S4 2.0GT-Sアイサイト。ビルシュタイン製ダンパー付きの最新モデルさ」
「そういえば戒斗、前から疑問に思ってたんだけどさ。車ポンポン買っちゃうぐらいのお金、どこから湧いて出てきてんのよ?」
隣の琴音からも話が降ってきた。「そりゃあまあ。傭兵ってのは命張った仕事だからよ。その分金は溢れるほど手に入るのさ」と戒斗。
「あー、だから渡される『バイト代』、あんなに多いのね」
「そういうことだ」
右折のウィンカーを出しつつ、戒斗は肯定する。一応、幾ら護衛上の成り行きとはいえ琴音に手伝わせることに引け目を感じていた戒斗は、これまで依頼が終わる度、彼女には『バイト代』として結構な額の給料は出していた。茶封筒が結構盛り上がるぐらいには。そのことを思うと、琴音もなんとなく納得がいったようだ。
「って言っても、経費がバカにならねぇけどなぁ……特に弾代とか」
「あー……意外と高いもんね、銃弾って」
まあ、今回はそのバカにならない弾を補充しに行く意味もあるのだが。だがやはり、戒斗は溜息を隠すことは出来なかった。
ハンドルを右へと切り、片側二車線の大通りから一本入る。更にそこから1kmちょっと行ってからもう一度曲がれば、そこには行きつけの銃砲店『ストラーフ・アーモリー』の店舗が見えてきた。駐車場の敷地へと入り、ギアを入れてバックで駐車。スイッチ式の電動サイドブレーキを掛け、エンジンを停止させた。
「さて、到着いたしましたよ。お嬢様方」
そんな軽口を叩きつつ、彼女らに先行して戒斗は店舗の中へ。いつ見ても圧倒される量の展示品を視界に入れつつ、店の奥へと声を掛ける。「おーい。レニアス居るんだろー?」
「今いくぞいー。ちょっと待っとれ」
遠くから返答が帰ってきたかと思えば、カウンターの向こうから、燃えるような紅いツインテールを揺らして駆けてくる、背の低い幼女じみた店主、レニアス・ストラーフという、最早恒例となった光景が目の前で繰り広げられる。
「待たせたの、戒斗」
少しだけ息を切らして目の前まで駆けてきたレニアスはそう言う。「いつものことさ」と戒斗。
「そうじゃそうじゃ。まずは無罪証明、おめでとうじゃな」
「そりゃどうも。ったく大変だったぜ、ホントによ……あっそうだ。まずはこの間のツケを清算だ」
そう言って戒斗は、ウォレットチェーン付きの長財布から取り出した黒いキャッシュカードをレニアスに手渡す。「ほいほい。まいどありー」と言って、彼女は一度カウンターへと戻っていく。その間に、店の中を見渡す戒斗。
「ちょっと戒斗ー? 私達置いて先に行かないでよー」
そんな文句を垂れつつ、やっと琴音は遥を連れて入店してきた。
「はいはい。悪うございましたね」
「むっ、それ絶対反省してないでしょ?」
「いいえ、してますとも」
「わざとらし……」
阿呆な問答を琴音と交わしていると、清算の終わったレニアスが戒斗のカードと、クリップボードに留めたレシートのようなモノを持って戻ってきた。
「終わったぞい。一応サインだけ頼むぞ」
「ほいほい……っと」
先にクリップボードとボールペンを受け取り、サラサラっと走り書きでサインをしてレニアスに突き返す。キャッシュカードを財布に戻しつつ、戒斗は言った。
「そういえば、この間頼んでた奴、入ったか?」
「おお、入ったぞ。ちょっと待っておれ」
そそくさと戻って行ったレニアスは数分後、カウンターの上に大量の銃器と弾薬、そしてガンケースを床に並べていく。これが戒斗の言っていた『頼んでいた奴』だろう……しかし、この量。琴音は勿論、遥でさえ目が点になって唖然とした表情でそれを眺めていた。
「全部揃ってるか?」
「えーと、ちょっと待っておれ……読み上げるぞい。HK69擲弾発射器と40mmグレネードの通常弾、スモーク弾が五発ずつ。短機関銃のシグ・ザウエルMPXに突撃銃のSG552と、いつも通りの自動拳銃、シグ・ザウエルP226-E2。後はそれぞれの弾倉三つずつと弾薬――のう戒斗、今更じゃがお主、ホントにSIG好きじゃな」
「鉄火場で最後に自分を預けられるのは、SIGを置いて他に無い……どれどれ、確かめさせて貰おうか」
唖然とする琴音と遥、呆れたように眺めるレニアスを気にも留めず、HK69の銃身を開いて確かめ始める戒斗。
「ちょ、ちょっと戒斗……何なのよこの量」
やっと口を開いたかと思えば、琴音は若干震えた声でそう言う。確実に引いていた。「車載用だよ、車載用」と戒斗。
「車載用……?」
疑問に思ったのか、遥はふと呟く。
「ああ。車載用。職業柄、何処で何が起こるか分からんからな。例え大災害に遭ったとして、数日間は生きて戦い抜けるように食料とサバイバル・キット、武器弾薬は積むように心がけてる――親父からの教えさ。ホントならもうちょい早く乗せる予定だったんだが、この間のゴタゴタでそんな暇無かったからな。一応、Zにも色々乗っけてるぜ?」
なるほど、と納得したように頷くと、遥はそれきり何も喋らなかった。彼女とて、思うところがあるのだろう。
「ところで、今回はどんな配置にするんじゃ? 顧客にお主と同じようなことをやっとるのも居るもんで、参考までに聞かせて貰いたいのじゃが」
レニアスが問いかけると、数瞬悩んだ後に戒斗は答える。
「そうだな……HK69とグレネードは助手席のダッシュボードに。SG552はサバイバル・キットと一緒にガンケースに突っ込んでトランク。MPXは運転席のシート裏に、左腕が届く位置でホルスター取り付けて突っ込んでおく。P226は……どうしようか。注文しといてアレだが、考えてなかった」
「助手席のシート裏はどうじゃ? 折角後部座席があるのなら、後ろに乗った奴がすぐに取れる位置が良いと思うのじゃが」
「採用だ。その方向でいく」
そして戒斗は再びレニアスにキャッシュカードを渡し、会計。サインを済ませた後、それらを抱えて店の外へと出て行く。「ちょ、ちょっと戒斗!?」と困惑する琴音。
「とりあえず車に乗せる。装備は家に帰ってからだ。手伝ってくれ」
「あー、まあ別に良いけどさ……ホントなんなのよこの量……」
未だに困惑しつつも、とりあえず手伝うことにした琴音はSG552の入ったガンケースを運ぶ。それに続いて、遥も手伝うことに。
WRXのキャビンの容積が相当に大きかったお陰で、予想よりもかなり早く作業は終わった。再び店に戻ってきた彼ら三人を、レニアスは怪訝そうな目で見つめる。
「お? 帰ったんじゃのうてか?」
「その予定だったんだがね。折角だし、琴音に新しい奴を見繕ってやろうと思ってな。何か良いの入荷してるか、レニアス?」
「ふむ……具体的な要望はあるかの?」
「琴音に関しては長距離狙撃に問題はない……強いて言うなら、近距離戦闘か」
「と、いうとやはりナイフか?」
その問いに、戒斗は首を横に振って否定する。
「いや、既にニムラバスを渡してある。携帯出来て、なおかつフルオートでバラ撒ける、火力の高い銃か」
「お主のキャリコみたいなもんかの?」
「そうそう。まさにそんな感じだ。かといって片手で反動を受け切れるかと言えばアレだしな……何か無いか?」
「ふむ。これなんてどうじゃ?」
そう言ってレニアスがカウンターの下から取り出したのは、取っ手の付いた四角い箱だった。
「え、何これ?」
流石に疑問に思った琴音がそう言うと、戒斗は無言のままその箱の取っ手を掴み、軽く振り下ろして『展開』した。驚く琴音の反応も納得だ。なにせ一瞬の動作で、『箱』が開いて『銃』になったのだから。「FNG-9か」戒斗が呟く。
「携帯性を考えると、やっぱりそれになるかと思うてな。中身はグロックそのままじゃが」
自信満々にレニアスは言うが、当の戒斗は微妙な表情を浮かべたままだった。
「これを、常時身に纏えと?」
「う、ううむ……確かにそうじゃな」
ボツとなったFNG-9をカウンターに置き、適当に物色を始める戒斗と、それに倣って自身も見始める琴音。
「あ、戒斗。アレなんてどうかな?」
ショーケースに飾られた小型の短機関銃、MP5Kを指差し琴音は言う。しかし戒斗は「デカすぎるな……マグの出っ張りが邪魔だろ」と、あまりいい反応では無かった。
「うーん……なら、アレはどう?」
「お、PP-2000か」
これには戒斗も結構な好感触を示していた。新製品ばかり並べられたカウンター前のショーケースに飾られた小型のロシア製新型機関拳銃、PP-2000。確かにこの小ささなら、携行も容易だろう。
「それなら戒斗、こっちもどうじゃ?」
「そっちは……スコーピオンか」
やっと戻ってきたレニアスが提案したのは、旧チェコ・スロバキア製の短機関銃、スコーピオン。恐らくは9mmルガー弾仕様のVz.68だろう。どちらも小型で、携行にはもってこいだ。
「悩みどころだな……レニアス、奥の射撃場借りても良いか?」
「ん、ああ。構わんぞい」
「なら琴音、撃ち比べてお前が決めろ。使うのは他でもない、お前自身だ」
「うん、分かった」
PP-2000とVz.68の二挺を持って、琴音は射撃場へと向かう。暇だからと戒斗も古風なレバー・アクション式の散弾銃、ウィンチェスターM1887をレニアスから借り受けた。とある映画でも使われていた、銃身を切り詰め、銃床を切り飛ばしたソードオフ・モデルだ。
琴音は入って一番目の前にあるブース、戒斗はその隣のブースに立つ。十五発程を各弾倉に込め、まずはPP-2000から。
「言い忘れてたが、琴音」
「ん、どうした戒斗?」
「今回は片手で、連射にして撃ってみろ。緊急時はその場合が多い。ソレを想定して撃て」
言われた通り、片手で構える琴音。引き金を引き絞り、発砲。
「うわわっ!?」
今までと違い、片腕へとダイレクトに伝わる反動に慄く琴音だが、なんとか保持。多少バラけたが、ある程度の集弾を示した。次はVz.68。こちらも発砲。
レートリデューサーが効いているからか、どちらかといえばPP-2000よりはマイルドな感触だった。両方撃ち終わったことに気付き、戒斗は問う。「どうだ?」
「うーん、どっちもいい感じだけど……強いて言うなら、こっちかな」
PP-2000を持ち、琴音は言う。
「ちなみに、理由を聞いても良いか?」
「そうね……こっちの、ええと、スコーピオンだっけ? こっちは確かに御しやすいんだけど、どうにも弾倉が邪魔じゃない。容量も少ないし。だったら多少アレでもコンパクトで、弾数も多いこっちのがいいかなぁと」
彼女の回答は、概ね戒斗と同意見だった。確かにスコーピオンVz.68はいい銃だ。しかし、背中に差しての携行にはどうにも向かないような気がしていたのだ。最初から至近距離戦闘のみを想定して造られたと思われるPP-2000の構造は、とにかく片腕での戦闘に適している。キャリコのように重くも無く、琴音にはぴったりの銃だろう。
「ところで、戒斗は何やってんのソレ」
「ん、ああ。ちょっと見てな」
12ゲージ散弾を装填し終わった戒斗は琴音を後ろへ下がらせつつ、片腕でウィンチェスターM1887を構え、そして発砲。
「――ぐっ!」
散弾の強烈な反動がモロに襲い来る。しかし戒斗の経験と腕が反動をねじ伏せる。そして、手の中で、まるでガンスピンさせるかの如くレバーを回転させ、次弾を装填した。
「えっ!?」
プラスチック製の赤い空薬莢が転がる中、戒斗の取った謎の行動に驚く琴音。気にせず戒斗は次を発砲。そして回転。発砲――回転。弾が尽きる頃には、ターゲットペーパーは穴だらけで、下半分が散弾によって千切れ飛んでいた。
「こんな感じだ。中々面白えだろ?」
「ひょえー。これを車に積んだ方が良いんじゃないの?」
「馬鹿言え。こんなモン振り回しながら運転出来るような人間じゃねえよ、俺は。そんなの出来るつったら、どこぞの鉄骨州知事の顔した戦闘用アンドロイドぐらいなもんさ」
「ぷっ、何言ってんの戒斗」
そして店内まで戻り、ささっとレニアスに会計を済ませ、戒斗達は車へと戻る。
「……お帰りなさい」
どうやら先に戻って車中で待機していたらしい遥が、そう言って出迎える。「悪い、待たせたな」と戒斗。
「いえ、お気になさらず。それより、ショッピングですよね。行きましょう」
「はいはい。意外にせっかちなんだな、遥」
「せっか……!」
途端に顔を真っ赤にする遥。あら、どうやら自覚症状は無かったらしい。せっかちな忍者ってなんなんだろうと思いつつ、戒斗はそんな遥の新たな一面をバックミラー越しに眺めながらエンジンをスタートさせた。
それから数時間後。『ショッピング』と称し、琴音と遥という凄まじい二人にあちこち連れ回され、(疲労的な意味で)満身創痍と化した戒斗は、最後に喫茶店へと連れて来られていた。疲れ切った目で紅茶を啜る戒斗の隣に遥、対面に琴音という位置状況だった。
「――そういえばさ、戒斗。結局生徒会の件、どうすんの?」
唐突に琴音が話題を切り出す。確かに、そういえば早苗――神代学園の学園長から、明日の放課後に生徒会室へ顔を出すようにとの通達が来ていたのだった。戒斗自身、すっかり忘れ去っていたのだが。
「そうだな……正直面倒極まりないが、行かにゃならんだろう。学園長直々に言われちまったんだからな」
「……やはり、何か処罰が下るのでしょうか」
心配そうに戒斗を見つめながら、同じく紅茶のティーカップに口を付けた遥が呟いた。「いや、それは無いだろうよ」と戒斗。
「何故、そう断言出来てしまう」
「簡単な話さ。この間のアレで処罰が出るなら、とっくに学園長にシバき倒されてる」
「……ああ、なるほど」
遥が納得したようなので、再び戒斗は紅茶を口に含む。アッサムをストレートで注文したが、中々に口通りがいい。ガラス製の透明なティーポットの下に、これまたガラス製の台を置いて、その中に入れた固形燃料で保温している。ティーカップが事前に温まっているのも、戒斗的には好印象だ。
「とりあえず明日は、生徒会の一件を片付けるとするか。仕事を受けるのはその後だ」
「そうね……ゴタゴタが全部片付くまでは、休業中にしておいた方が何かと都合がいいしね」
琴音も頷く。戒斗の営む『戦部傭兵事務所』は、この間のゴタゴタ――戒斗が逃亡犯に仕立て上げられて以降、休業中という形を今現在まで取っている。本来なら今日から復帰する予定だったのだが、まだ色々と面倒なことがこの先待ち構えていそうな気配を感じ、戒斗はそれを取りやめていた。事実、こうして『生徒会への出頭』という、あからさまに面倒な案件が舞い込んでいるのだから、やはり第六感、つまり勘というモノは馬鹿に出来ない。
「ま、今日はとにかくのんびりしようや。俺の奢りだ」
そう告げて、戒斗は紅茶を啜る。初めからこの調子なら、やはりこの二学期、波乱の展開となるのは必然であろう――戒斗は心のどこかで、そう感じていた。
ここでお知らせ。第六章開始に伴い、徐々にですが、既に投稿済みの第一章~第五章までの一部修正作業を行っていく予定です。基本的には、日本語のおかしいところや、文章の一部修正、矛盾の解消程度の予定ですが、大幅に変わる描写が一点だけありますので、それをお知らせ。
(旧)サンセットオレンジのスポーツカー
→(新)日産・フェアレディZ・Z33前期型Version ST
(旧)真紅のスポーツセダン
→(新)ライトニングレッドのスバル・WRX S4 2.0GT-Sアイサイト
この二点になります。余談になりますが、WRX-S4に関しては、当方が納車予定の車そのまんまになります。2.0L水平四気筒のボクサー・エンジンの吹け上がりのいい軽快なエグゾースト・ノートに、直噴DITターボの強力なパワー、スポーツ・リニアトロニックのCVT8速ATトランスミッションから、スバルのお家芸であるシンメトリカル・AWDシステムを用い四輪全てに伝わる動力。そして揺るぎのないハンドリング性能と、最高の車であることは間違いなしです。完全に余談でしたね。
それでは、また次話でお会いしましょう。




