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黒の執行者-Black Executer-(旧版)  作者: 黒陽 光
第五章:過去からの刺客!? 凶悪逃亡犯の名は戦部 戒斗
42/110

渦巻く陰謀!? 失墜する執行者

 太陽が地平線の彼方に没し、僅かに残った光の残滓が黒い空をほんの少し照らす、午後六時半とちょっと過ぎ。電気の点けられておらず薄暗い自室にて、戒斗は机に置いた愛銃、ミネベア・シグをショルダーホルスターに収めた。弾倉を確認した後、キャリコM950A機関拳銃マシン・ピストルも背中のSOBホルスターへと納める。携帯性に優れた折り畳み式のナイフ、スーパーカランビットをジーンズのポケットに突っ込んでから、戒斗はワインのように深い赤色で染められた薄手の上着を羽織る。

 ふぅ、と口から軽く息を吐き、戒斗は閉め切られたドアを開け、白色蛍光灯で照らされたリビングに出る。点けっぱなしにされたテレビの音声に混ざって、微かだが廊下の方から水音が絶え間なく聞こえてくる。琴音が風呂にでも入っているのだろう。これからの行動にとって、ある意味好都合だった。戒斗は少しだが安堵する。

 後ろ手に自室のドアを閉め、キッチンの冷蔵庫からペットボトルを一本取り出し中身を喉に流し込む。キャップを閉めてから、合板の天板が張られたキッチンカウンターに置かれていた適当な紙にボールペンで走り書きをし、ペットボトルを重石代わりにしてダイニングテーブルの上に置いた。

 玄関でブーツナイフを仕込みっぱなしになっているブーツを履き、重苦しいドアを開けて戒斗は外へと出た。

 鍵を差して施錠しようとしたところで、ふと、雨音に気づく。視線を階段の向こうへと向けてみると、いつの間にか雲で満たされた暗い空から雨粒が絶え間なく降り注いでいた。

「夕立、にしては遅すぎるか……」

 ひとりごち、戒斗は再度ドアを開けて玄関の傘立てから一本、安物のビニール傘を抜き、今度こそ玄関ドアを施錠した。階段を使って一階まで降り、ビニール傘を広げて戒斗は独り、曇天の下を歩き出す。





「あぁ~さっぱりしたぁ」

 風呂から上がり、髪を乾かし部屋着に着替えた琴音は脱衣所の扉を開けた。リビングのエアコンから目の前の廊下へと流れてくる微かな冷房のひんやりとした冷気が、風呂上がりで火照った身体に心地良い。

 冷蔵庫からキンキンに冷えた缶コーラを取り出し、プルタブを開けながらソファにドカッと腰掛ける。夕方のニュースをぼうっと眺めながらコーラを煽っていると、そういえばいつもこの時間にニュース番組をソファで眺めている戒斗の姿がないことに琴音は気付いた。なんとなく不自然に思い、彼の自室を覗いてみるが、暗い室内に人の気配はない。

「あれ? 戒斗ー、いないのー?」

 呼びかけてみるが、返事は帰ってこない。一応武器庫の方にも行ってみるが、ドアには鍵がかかっていた。

「コンビニにでも行ったのかなぁ」

 ぶつぶつと呟きリビングに戻ると、ダイニングテーブルに置かれた飲みかけのペットボトルの下に紙が一枚下敷きにされているのに気付く。案の定、戒斗の残した書き置きだった。

「えーと、なんて書いてあるのかしら……」

 ボールペンで走り書きされた、正直に言って読みづらい文字を琴音は解読していく。そこにはこう書かれていた。

『軽い仕事で少し外に出てくる。飯時までに帰ってくるように努力はするが、もし間に合わなかったら自分で頼む』

「この時間に仕事、ねぇ……」

 一言ぐらい、声を掛けてくれても良かったのに。そう思いつつも、大人しく彼の帰りを待つことにした琴音は再度ソファに戻り、テレビのリモコンを手に取った。





 エミリアに指定された待機場所は、自宅からそう遠くない位置にある。わざわざ車を出す必要も無いと考えた戒斗は雨の降る中、透明のビニール傘を差して人気のない川沿いの道を歩いていた。所々に立つ街灯の光を降り注ぐ雨粒が反射し、その雨量を視覚的に分からせていた。

「少し、早すぎたか」

 戒斗は左手首に巻いた防水、耐衝撃の腕時計を見て呟く。指定された時間は午後七時。それに対し現在の時刻は午後六時四十分。潜伏するように言われていた橋までの時間的距離は残り数分といったところだ。

 ゴム底のブーツで濡れたアスファルトを踏みしめ歩いていると、少し遠くからスパンッ、と小さな、破裂音にも似た音が聞こえてきた。例えるなら風船の破裂、いや爆竹にも似ている。もっと具体的に言えば、6mmのプラスチック球、BB弾をガスの力で発射する遊戯銃であるブローバック・ガスガンの動作音に近い音だ。そして、この不審な音に最も近いモノといえば――

「まさか……減音器サプレッサーかッ」

 戒斗は最悪の可能性を思い付き、舌打ちとし、雨の中を走り出す。

 こんな住宅地で、減音器サプレッサーを装着した銃による殺害が起こり得るとは考えにくい。が、あり得ない話ではない。なんせこの近くには、数日前に傭兵を殺した犯人が潜伏しているのだから。

 走る間にも、破裂音は断続して聞こえてくる。その音は次第に近くなり、そして、丁度待機場所である橋の近くまで来た頃にはハッキリと判別できた。間違いない。これは爆竹やガスガンなんかじゃあなく、紛れもない実包の音だ。

 音の出所は、おそらく橋の下。河川敷だろう。戒斗は青い芝生の生えた河川敷を駆け下りる。

 そこそこ幅の広い川に架けられた、コンクリート製の橋。橋げたに描かれたスプレーによる幾つもの落書きが目立つそこに、人影が二つ、あった。一つは仰向けに倒れている者。もう一つは、体格の細い、手に小さな自動拳銃を持った者。

 体格の細い方は振り向くと戒斗に気づき、自動拳銃をその場に捨てて全速力で走って逃走していく。暗くて顔はよく見えなかった。

「待ちやがれッ!」

 傘を投げ捨て、抜いたミネベア・シグの銃口を向け叫ぶ戒斗を気に留める素振りもなく、その影はどこかへと走り去ってしまった。後を追うことも考えたが、今は撃たれたであろう、仰向けに倒れている方を優先する。

「おい、アンタ大丈夫か!」

 近くに駆け寄り声を掛けるが、反応はない。黒いスーツを身に纏った男の息を確かめるため、戒斗はしゃがみ込む。そして、驚愕した。

「嘘だろオイ、アンタ……」

 絶句。今まで暗くてよく見えなったが、眉間に小さな穴を穿たれているその男の顔には、見覚えがあった。名前は確か、桐生といったか。昨日一日、それも少しの間接しただけの関係ではあったが、彼が優秀な刑事だというのは戒斗も理解できていた。その刑事が、今、芝生を血に汚して横たわっている。

 心をなんとか冷静に保ち、戒斗は桐生の状態を確認する。首に手を当てるが、脈は無し。顔と、スーツに点々と染みた血から察するに、胸に二発、腹に三発。トドメに眉間に一発、小口径弾が撃ち込まれている。間違いなく、彼は死んでいた。

 立ち上がると、戒斗のブーツの裏に何か固いモノを踏んだ感触。拾い上げると、それは見慣れた小型自動拳銃――ワルサーPPKだった。

「オイオイオイ冗談止してくれよな。ふざけんなッ!」

 悪態を吐くしかなかった。銃口に細長い減音器サプレッサーの装着されたPPKは、紛れも無く戒斗の所有物だった。一体、いつの間に盗まれた? そもそも侵入された形跡も無かったはず……と必死に戒斗は思考を巡らせる。

「どういうことだ……!? なんだって俺の銃が……ッ」

 遠くから、けたましいサイレンの音が近づいて来る。無謀にも河川敷へと突っ込んできたソレは、黒と白のボディカラーで、天井に赤色灯を乗せた緊急車両、パトカー。強力なヘッドライトに照らされ、一瞬目が眩む。

「動くなッ。両手を上げろ!」

 三台のパトカーからそれぞれ出てくる、制服姿の警官は怒声を発し、紛失防止のランヤード・リングで制服と繋がれた回転式拳銃リボルバー、M37エアウェイトの銃口を、あろうことか戒斗に向けていた。

「待て! 殺ったのは俺じゃない!」

 取り落したPPKを気にも留めず、戒斗は叫ぶ。

「往生際が悪いぞ! 通報があったんだ。桐生刑事をお前が殺している現場を目撃したって証人も居るッ」

「なわけねぇだろッ!!」

「――残念だわ、戒斗。貴方が桐生刑事を殺すだなんて」

 拳銃を構える制服警官達の間を割って出てきた、スーツを着る見知った女刑事――エミリアが言う。

「そうだエミリア! お前なら俺の無実を――」

「戒斗……いいえ、戦部容疑者。大人しくしなさい。刑事として、貴方を見過ごす訳にはいかないわ」

 畜生、訳が分からねえッ!

 戒斗は混乱する頭で、必死に状況を考える。まず戒斗は、エミリアに呼ばれてここに来た。指定された時間より結構早く着いてしまったら、その指定場所で発砲事件が起きた。そして真犯人は既にどこかに逃走。まず、戒斗の所有物であったワルサーPPKを犯行に使った時点で何かがおかしい。それに、通報があったとはいえ、パトカーが来るまであまりにも早すぎる。未だに理解は出来ていないが、これらの状況から察するに――

「畜生……こりゃあ、ハメられたってことかッ!」

 悪態を吐き捨て、戒斗は止む無くショルダーホルスターからミネベア・シグを抜く。このままじゃ、ハメた奴の思う壺だ。ここで、捕まるわけにはいかない。

「銃を降ろせ!」

 制服警官の内、一人が戒斗に叫ぶ。微かだが、撃鉄ハンマーを倒した音がした。

「耳の穴かっぽじってよく聞けッ。俺はこの刑事を殺しちゃいねえ!」

「何を世迷言を……!」

「本当だ! 畜生エミリア、ハメやがったな……!!」

 戒斗は、確信していた。信じたくはないが、今戒斗に対し、冤罪を仕掛けられることが可能な人物はただ一人――目の前に立つ女刑事、エミリア・マクガイヤーしか存在し得ない。

「何を言っているの貴方は。大人しく投降して頂戴。私は貴方を、撃ちたくない」

 エミリアもホルスターからカスタム・ガバメントを抜き、その銃口を戒斗へと向けてきた。

「どの口が言いやがる! 必ず証拠を掴んで、無実を証明してやるッ」

「ええい構わん、撃てッ! 動けなくしてやれッ」

 エミリア以外で一番階級が高いであろう、四十代ぐらいの制服警官が命令を下す。しかし、警官達が引き金トリガーを引くよりも早く、戒斗はミネベア・シグを連射。放ったフルメタル・ジャケット弾は正確にパトカーのヘッドライトを全て射抜き、戒斗の身体を照らしていた目障りな光を遮断した。

「見えない!」

「何をしている、撃て!」

「ですが、奴を殺したりしたら……」

 警官達の混乱に乗じて、戒斗は振り返り、全速力で逃走する。

「待ちなさい、戒斗ッ!!」

背後から聞こえる、エミリアの叫び声。戒斗はそれを振り切って走る。

(エミリア……! 必ず掴んでやる、テメェの尻尾をな!)





 何十分、いや何時間の間、走り続けただろうか。

 緊急配備された警察官の目を掻い潜り、戒斗は雨の中、傘も差さずにひたすら走り続けた。住宅街を抜け、人気の無くなった商店街を疾走し、工場の立ち並ぶ一角に入った。息が上がる。肺が握り締められているような、不快極まりない感覚。背中を伝う液体が、汗なのか、それとも雨粒なのかすら曖昧になってくる。いつもは頼もしく感じている筈だったホルスターの重みが、今はとても煩わしい。雨水を吸ったジーンズの重みが、鬱陶しかった。

 それでもなお、戒斗は走り続ける。こんなところで、捕まる訳にはいかない。

 ふと、視界内にビルらしき建造物を見つけた。ビル、といっても三階建ての小さいモノだが。テナントが入っていたであろう一階は荒れ放題の状況で、人が居るとは到底思えない。戒斗は一か八か、そのビルへと飛び込んだ。テナント跡の横にある階段を駆け上り、一気に三階へ。簡単な扉はあったが、幸いにも鍵は壊されていた。その中へと戒斗は足を踏み入れる。

 中は一階同様、荒れ放題だった。ブースで区切られた会議室のような箇所や、多くの事務デスク、ブラウン管ディスプレイの旧型パソコンが幾つもあることから、何かの事業所が入っていたらしい。少なくとも放棄されてから五年以上は経過しているだろう。埃まみれでかなり汚かったが、今の戒斗にとってはこれ以上ない潜伏場所だった。

 戒斗は元、会議室だったブースへと入る。幾つもの椅子が並べられた中央の長机が目を引く。戒斗は窓際の壁にもたれ掛かると、そのまま床に座り込んでしまった。一時期にでも休息を得られる安堵からか、今までアドレナリンで押さえつけられていた疲労感が一気に押し寄せてくる。濡れた服が寒いが、贅沢を言っていられる状況ではない。

 これからのことを考えると、頭が痛くなってくる。確実に手が伸びているであろう自宅には戻れない。探知の恐れがあるスマートフォンの電源は、真っ先に切った。が、同時に情報収集は不可能になる。確実に警察に張られているであろう自宅マンションに居る琴音には連絡が取れない。香華は大丈夫であろうが、どこかしらに必ず奴らは目を張っているはずだ。頼れるリサはタイミング悪くロスに帰っているし、遥とは連絡がつかない。唯一安全そうなのは瑠梨だが、生憎彼女の住所や連絡先一切知らない。手詰まりに、近かった。

 とりあえずは、休息を取ろう――そう考えた瞬間、戒斗の瞼は落ち、その意識も深淵へと落下していった。





「……遅いなぁ」

 琴音は一人、ソファに腰掛けたまま呟く。遅くなる可能性があるとは書き置きに書いてあったが、それにしても遅すぎる。既に日付が変わる時刻だ。結局、夕飯も自分で作って食べてしまった。

 このまま起きていても仕方ないし、眠ろう――琴音が寝室に向かおうとした時、インターホンが鳴る。

 こんな時間に来るなんて、非常識な来客も居たものだ。辟易する琴音は、インターホンの受話器を取って、モニタの向こうに居るスーツ姿の男に対応する。

「はい、戦部ですが……?」

「夜分遅くに申し訳ありません。警察です」

 ……は?

 何故、警察がこんな時間に?

 訳が分からなかった。しかし、男がインターホンのカメラに向かって警察手帳を見せてきているあたり、真実なのだろう。

「は、はあ……警察が、何の御用ですか?」

「そちらにお住まいの傭兵、戦部 戒斗さんのことなのですが」

「ええ。戒斗がどうかしましたか」

「――彼には、刑事を殺害した容疑がかかっています」





 戒斗は、窓から差し込む太陽の光で目を覚ました。どうやらいつの間にか眠ってしまって、夜を越したらしい。服も気づけば乾いている。立ち上がり、身体の助教を確認――目立った怪我は無し。全て正常に動く。武器類は全て正常。問題ない。

 視線を上げると、見知らぬ空間。どうやら昨日の一連の出来事は、悪夢の類ではなかったらしい。はぁ、と溜息を吐く。悪夢であってくれたなら、どれだけ救われたか。戒斗は再度、壁にもたれて座る。

 腹が鳴る。空腹を覚えていた。しかし、今頃警察は街中走り回り血眼になって戒斗のことを探しているのだろう。変装する手段も無い以上、日中に出歩くのは危険すぎた。食料は夜まで耐える他ない。時計を見れば、現在時刻は午前十時。

「こんなことなら、カロリーメイトの一つでも持ってくるんだったぜ」

 自嘲気味にひとりごちる。しかし実際に食料は何一つ持ってなどおらず、空腹が満たされることも無い。

 改めて、状況を整理する。戒斗は今、桐生刑事を殺した容疑を掛けられている。冤罪を被せてきたのは一連のことを考えると、エミリア以外に可能性はない。知り合いとの連絡はほぼ不可能。日中には出歩けない。戦闘状態に陥った場合、弾薬の補給や怪我の処置も不可能――絶望的だった。しかし、証拠を掴んで身の潔白を晴らさなければならない。こんな時リサが居れば……と切実に思うが、所詮は無いものねだりだ。彼女は既にロサンゼルスに帰ってしまっている。たった一人で解決する他、選択肢はない。

 思考に耽っていると、誰かが階段をゆっくりと登る足音が聞こえてきた。

(サツか……!? いや、足音は一人分……誰だ?)

 警戒し、戒斗は背中のSOBホルスターからキャリコM950A機関拳銃マシン・ピストルを抜く。

 コツ、コツと響く足音は三階へと登り、ドアを潜って真っ直ぐ戒斗の潜む区画へと近づいて来る。間違いなく、追っ手だ。

 戒斗は意を決し、会議室のブースから飛び出し、招かれざる来訪者の姿を視界内に捉える。

「――やぁやぁ、どうも初めまして。”黒の執行者”さん?」

 入り口付近に立っていた笑顔を浮かべる来訪者は、夏場には些か場違いな黒のロングコートを羽織った、戒斗と同じ、いやそれより下に見えるような黒髪ショートカットの少年だった。彼はふざけているのかと疑いたくなるほど軽く、そしてねっとりとした声色だった。

「誰だ」

 初弾を装填したキャリコの銃口を向ける戒斗。

「やだなぁもう。つれないねぇ」

 しかし、少年は銃口を向けられているにも関わらず、その笑顔を崩さない。

「どこの差し金だと聞いているッ」

「――”浅倉 悟史”」

「ッ!?」

 思わず言葉が詰まる。まさか、この少年は……!

「”機械化兵士計画”、”飛騨山脈奥地の研究施設”。後は……そうそう、これを言ってしまうのが一番手っ取り早かったですね」

「テメェ、まさか」

「”方舟”」

「やはりかッ!」

 戒斗は片手で持ったキャリコの引き金トリガーに人差し指を掛ける。

「あーあー血の気の多いこと」

 しかし、少年はそれに動じることなく、ヘラヘラと笑い続ける。その笑顔は、どこか狂気を孕んでいるようにも思えた。

「今ここで死ぬか、洗いざらい吐くか、選べッ」

「随分短期なお人だこと。一応僕、貴方を殺しに派遣された刺客なんですよぉ?」

「なんだと?」

「これを見ても、まだ続けられますかねぇ。その減らず口」

 少年はロングコートを脱ぎ捨て、下に着た黒のタンクトップ一枚になる。

「――解放」

 一言、少年が呟く。そして、その両腕の皮膚が”爆ぜた”。

 爆ぜた皮膚の下から現れたのは、金属光沢のある暗灰色。砲金色(つつがねいろ)、もしくはガンメタリックと呼ばれる光沢を放つ腕――いや、義手。よく見れば彼の両眼は普通ではなかった。虹彩を模ったカバーが開かれ、小型のカメラのようなモノが露出している。確実に、義眼だ。それも戦闘用に特化した高性能なモノだろう。

「テメェ……機械化兵士マンマシン・ソルジャーかッ!?」

「うーん、残念。ちょっと違いますね。正確には機械化兵士マンマシン・ソルジャーの技術を応用した、サイバネティクス兵士。昔事故に逢って、死にかけてた時に助けて貰ったんですよ。”方舟”にね」

少年は、その義手を見せつけるように拳を突き出し握り締め、ギチギチと音を鳴らす。

「改めて名乗らせて頂きましょう――サイバネティクス兵士実験個体第百七十二号、麻生あそう 隆二りゅうじ。”黒の執行者”さん、大変申し訳ありませんが、お命頂戴します」


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