Inter Mission
「命中確認。流石の奴らでも死んだでしょう」
銀色の雪に覆われた飛騨山脈と、夜の闇に支配された空を背景にホバリングしている攻撃ヘリコプター、Mi-24//35 Mk.Ⅲスーパーハインド。その直列のタンデム型に配置されたコクピットの前方側に座る砲手のパイロットは、ついさっき放ったロケット弾で木端微塵になったピックアップ・トラックの残骸を見て呟いた。
≪死体が確認されていない以上、油断は出来ん≫
ヘルメット内臓のヘッドセットから聞こえてくる壮年の男の声は、砲手の後方に位置するコクピットに座る操縦手の声。
「って言っても、こんだけロケット突っ込んだら死体なんて残らないんじゃないですか」
≪それでも確認するのが俺達の仕事だ≫
「はぁ……そんなもんすかね」
≪そろそろ燃料も危ない。一旦帰投して補給だ。それと捜索の兵員も積み込む≫
「了解」
これで自分の仕事は終わりか。砲手の男はそう思うと、安堵と同時にどこか物足りなさを感じた。
スーパーハインドは操縦手の手により、ホバリング状態から一気に方向反転。自らの飛び立った基地へと戻って行った。
「……行ったか」
雪の上に膝を立て、背を向け遠ざかっていくスーパーハインドの機影を双眼鏡越しに眺めるリサが言う。その隣には琴音と、すぐ近くには89式小銃を構え辺りを警戒する佐藤の姿があった。
「周囲に敵影無し。とりあえずはなんとかなったみたいですね」
琴音が安堵の声色で呟く。
「そう安心もしてられねえな……さっきからずっと呼びかけてるが、アイツら反応がねえ」
戻ってきた佐藤は言うと、89式を雪の壁に立てかけて、その隣に座る。今彼ら三人が居るのは、雪を掘って作った浅い塹壕のような場所だった。待機の間暇を持て余した佐藤が、万が一の為にと掘っていたものが役に立っていたのであった。
「反応が無いって……それじゃあ戒斗はッ」
「落ち着け助手の嬢ちゃん。アイツはそう簡単に死ぬタマじゃねえよ。大方無線機を落としたか、ぶっ壊したんだろ。心配要らねえさ」
狼狽する琴音を佐藤は諭すが、彼自身も、今後のことを考えると頭が痛くなる。ハインドが出現したと報告を受けた段階で、救援中止の旨をヘリには無線で知らせておいた。敵のハインドが、恐らくは燃料切れで一旦撤退した今こそが脱出の最大のチャンスではあったが、戒斗達の安否が確認できていない現状で安易に自分達だけ脱出することも出来ない。しかし、じきにあのハインドは戻ってくる。それに、敵の捜索隊だって来るだろう。最悪戒斗達が駄目なら、自分達だけでも下山しなければならない。それも、徒歩で。それはあまりにも非現実的なプランだった。かといって、今彼らが攻撃ヘリの随伴する敵部隊を撃滅する装備を持っているわけでもないのが現実だ。文字通り、絶体絶命の状況だった。
――万が一俺に何かあったら、琴音を頼む。
作戦前に戒斗からこっそりと告げられた言葉を、佐藤は反芻する。考えたくはなかったが、やはり最悪の状況を想定して動くべきだろう、と佐藤は思った。正直なところ、あの状況を見ている限り、彼らが生存している可能性は極端に少ない。
佐藤は一度深く息を吸い込むと、無線機の周波数をゆっくりと合わせた。
「……クソッ、無線がイカれちまった」
戒斗は悪態を吐いて、左肩から壁際にもたれかかる。どうやら先程飛び込んだ時の衝撃で、無線機の通話機能がお釈迦になってしまったようだ。投げ捨てようかとも思ったが、なんとか受信機能だけは生きているのでそれはやめておいた。つまり、今現在戒斗は一方的に相手の声だけが聞こえる状況、というわけだ。
洞穴の中を遥に探索させると、意外に早く電源が見つかった。白熱電球の灯された洞穴は、薄暗かったものの、先程に比べたらかなりマシな状況だった。これは灯りが点いてから分かったことだが、この洞穴は奥が深いように見えてそうでもない。奥行きは大体二十m~三十mというところ。本当に備蓄にのみ特化した場所のようだった。
「遥、ちょっと来てくれ」
戒斗は、積み上げられていたコンテナ類の中身を検めていた遥を手招きして呼び寄せる。彼は今、装備と野戦服を脱ぎ捨てて上半身を晒していた。その背中にはックの破片らしき黒い鉄片が突き刺さっており、そこから濃い紅色の血液がゆっくりと滴っている。
「……なんですか、突然」
「悪いが、傷の処置と縫合を頼みたい。やり方は分かるな?」
その言葉を聞いた遥は、苦虫を噛み締める様な表情を浮かべる。
「……ええ、一応は」
「なら頼んだ。メディカルキットはチェストリグの背中のポーチに一式入ってるはずだ」
言って戒斗は、気だるそうにその場にうつ伏せに伏せる。遥は指示通り、脱ぎ捨てられた戒斗のチェストリグのポーチから医療キット一式を取り出す。内容は消毒液に包帯、ガーゼと簡易的な局部麻酔の注射器セットに、縫合用の針と糸、後は抗生物質などの錠剤や、軟膏のような薬品類だった。それらを持って遥は、うつ伏せになった戒斗へと近づき、そのすぐ傍で腰をおろした。
「傷の具合はどうだ」
戒斗に問われた遥は、改めて破片の刺さった傷を見る。少々深いが、別段出血が多いわけでもなければ、腱など致命傷の部位でもない。適切な処置をすれば、問題なく回復する位置だった。
「問題なさそうです」
「なら良かった。それじゃあ始めてくれ」
はい、と言って遥は、戒斗の背中に刺さった破片に手をかける。籠手越しにも分かるほど鋭い鉄片だ。
「……それでは、抜きます」
「ああ、やってくれ」
歯を食いしばる戒斗。遥は意を決し、一気に破片を引き抜く。戒斗の短い、くぐもった苦悶の声が聞こえた。抜き去った、一部が血に濡れた鉄片を放り棄てて傷口を見ると、刺さった物体を抜いた影響からか先ほどよりも多くの濃い血液が溢れ出てきていた。
「大丈夫、ですか?」
「ッ……やっぱ慣れねぇわ、これだけは」
自嘲気味に言う戒斗。その傷は見た目よりも深く、楕円形に開かれた傷口からは紅く染まった筋肉や脂肪が容易に見て取れる。意外にも深い傷ではあったが、これなら命に別条はなさそうだ。
「クソッ、失血で目が眩んできやがった……遥、早めに頼むわ」
「御意」
遥は言うと、ガーゼを一枚傷口に当てがって強く抑えて止血を試みる。空いた片手で局部麻酔キットを手繰り寄せる。
当たり所が良かったのか、遥の圧迫止血によって十数分後にはとりあえず出血は止まった。遥はガーゼを一度取り、麻酔キットから注射器を一本取り出す。麻酔薬の充填されたシリンダーの先から伸びている針に被せられたカバーを取り外し、その針の先を傷口に当てる。
「……麻酔、やります」
「おう、やってくれ」
慎重に注射器を差し込み、シリンダーを親指で抑え麻酔薬を送り込む。溢れ出てくる血液を適度にガーゼで抑えつつ、空になった注射器を投げ捨て、次の一本を取り出す。針のカバーを噛んで強引に開け、二本目を突き刺し注入。そうして、三本、四本、五本と麻酔を差した。
「……この辺、感覚は」
遥は傷口の周りを空の注射器の針で軽く刺しながら言う。
「いや、全く」
「じゃあ、この辺」
「触られてるとしか感じねえな」
どうやら麻酔は上手いこと効いたようだ。遥は注射器を放り捨て、消毒液の入ったキャンティーンの蓋を開け、中身を傷口へとかける。消毒が済むと、キャンティーンを元の場所に戻してから遥は縫合セットを使って、傷口を縫い合わせ始めた。
「ここまで感覚がねえと、逆に気持ち悪いな」
ふと、戒斗が呟く。
「なんですか、藪から棒に」
「いや、麻酔あるってのはありがたいんだけどよ。痛み一つないってのはやっぱ気持ち悪くてな」
「そんなもんなんですか」
会話をしつつも、遥は手を休めない。シュッ、シュッと、傷口を貫いて糸を通し、肉と肉を結び合わせていく。
「まあな。俺の場合、何故だか麻酔なしでやらざるを得なかったことが多かったってのもあるが」
「麻酔なし、ですか……」
「想像しない方がいいと思うぞ」
奇妙な内容の会話を交わしている内に、縫合が終了した。余った糸を切り離し、化膿止めの軟膏を縫合した傷口に軽く塗ってから新しいガーゼを当てがい、サージカルテープで固定した後、それを保護するように上から包帯を巻きつけてやる。遥はついでに、脇腹の傷の包帯も巻き替えてやった。
「あぁ……悪かったな。助かった」
戒斗は起き上がり、遥に礼を言う。
「いえ、私は別に」
「あ、すまん。そこに入ってる抗生剤取ってくれ」
言われて遥はメディカルキットから抗生物質の錠剤を取り出し、戒斗に手渡す。戒斗はそれを口に含み、水筒の水で喉に流し込む。切創の傷口からの感染症を防ぐためだった。
「ふぅ……まぁ、こんな雪山だったら感染症よりか凍傷を気にするべきだがな」
寒い寒い、と言って戒斗は慌てて野戦服の上着を羽織る。
「さて、お宝を漁りますかね」
立ち上がり、戒斗は積み上げられたコンテナの中身を検め始めた。
「今縫合したばっかりなのに、大丈夫なんですか」
「逆だ。今やったからこそ、早めに行動しとかにゃならん。麻酔が切れたら痛みが襲ってくるからな」
ああ、と遥は納得した。いささか無茶ではあるが、ある意味合理的な判断だ。
「お、これはこれは……」
積み上げられたコンテナの中でも一際長いモノを開いた戒斗は、思わず感嘆の声をあげてしまう。
コンテナの中に、油紙に包まれて納められていたのは、アメリカ製地対空ミサイルランチャー、FIM-92スティンガー。冷戦期にはアフガンゲリラに供与され、ソ連のハインド相手に猛威を振るったミサイルだった。敵がスーパーハインドなら、まさにうってつけの装備ともいえる。
他にも、指向性対人地雷クレイモアが数個、AK-74突撃銃や、使い捨てロケット・ランチャーM72が十数本。発煙手榴弾が幾つかに加え、大量の水と食料に加え寝袋まで調達出来た。一応ケネディジープも調べてみたが、動くには動きそうだ。しかし肝心の燃料が無かった。
「とりあえずは、こんなところか」
「そうですね……」
二人は地面に作った焚き火の周りに座り、確保した食料であるレーションを頬張っていた。味気ないが、今はこれがありがたい。
「とりあえず、この残骸をどかさないとな……遥、一応聞くが、アレ斬れるか?」
「流石に、厳しいですね。出来ないことはなさそうですが、あのレベルとなると後々の戦闘に支障をきたしそうです」
「だよなあ……」
戒斗は思案を巡らせるが、背中と脇腹の鈍痛がそれを邪魔する。
「とりあえずやることもないし、一旦身体を休めた方がいい」
言って戒斗は、ホラ、と先程調達した寝袋を遥に投げ渡す。
「そうですね、そうしましょう」
「ああそうだ。それじゃあ俺は寝る。おやすみ」
戒斗は待ってましたと言わんばかりに素早く寝袋を展開。その中に潜り込んで目を閉じた。
「……幾らなんでも行動早すぎじゃないですか」
「仕方ねえだろ。傷が痛むんだからよ」
遥も寝袋を展開、その中に潜り込んで横になる。
「……遥」
静寂を破り、戒斗が口を開く。
「はい」
「必ず生きて帰るぞ。俺と、お前の復讐を果たす為に」
それだけ言って、戒斗は眠りに堕ちた。遥は寝返りを打ち、一度目を開いて戒斗の後姿を見る。
「……ええ。私と、貴方の為に」
静かにそう呟き、遥も眠りに堕ちていった。
≪よし、兵員降下ッ≫
先程戦闘が繰り広げられた付近に着陸したスーパーハインドから、フル装備の兵士が続々と降り立つ。遠くからは数台のジープより放たれるヘッドライトの明かりが近付いてきていた。兵員総数は、今降ろした分を含め約二十名。たかだか傭兵相手の山狩りにしては過剰すぎると、砲手の男は思った。
兵士を全員降ろしたスーパーハインドは、再び離陸する。
≪周辺警戒を怠るなよ……傭兵相手だからって油断してると痛い目みるぞ≫
「流石に傭兵風情にこれはやりすぎなんじゃいですかね?」
≪……なぁお前、”黒の執行者”って知ってるか?≫
砲手は記憶を探るが、どこにもそんな妙な名前に覚えはない。
「いえ」
≪今相手にしてる傭兵の異名らしい。ホラ、クライアントの連れに浅倉ってヤバそうな奴居たろ? ソイツの右腕をふっ飛ばし、一度は殺したのが”黒の執行者”ってわけさ≫
スーパーハインドを操る二人は、金で雇われた契約兵士だった。雇い主は”方舟”という名のよく分からない組織。そのトップらしき男に連れられていた浅倉という名の男の眼が、恐ろしいまでに飢えていたのを砲手は覚えていた。
「一度は殺した……?」
≪気になって調べてみたんだが、あの浅倉って奴、表の記録じゃ既に死人だ≫
「死人……」
思わず呟いてしまう。
≪どうも”方舟”ってのは随分とキナ臭い組織みてえだな≫
「だったら――」
≪それはそれ、これはこれ、だ。俺達は与えられた仕事を果たして、労働対価の金を得る。それでいいだろ? 俺達が気にかけたところでどうこうなる問題じゃない≫
それ以上、二人の間に会話はなかった。降ろした兵士達が、少し前に吹っ飛ばしたトラックの残骸が出入り口を塞ぐ、彼らが倉庫だと主張する洞穴の入り口へと向けて集結している姿が、ガンカメラのサーマルカメラ越しに映った。
≪――斗! 戒斗! 応答して!≫
洞穴内に響く声で、戒斗は目を覚ました。どうやらイヤホンを外し、スピーカー状態にした無線機が喋っているらしい。声の主は瑠梨だった。
≪おい嬢ちゃん。どうやらアイツの無線機、死んでるみてえだぜ。本人が死んでるかどうかは知らんがな≫
次に聞こえてきたのは、佐藤の声。
≪あーもう! まあいいわ。いい? 聞こえてるならよく聞いて! 今奴らの追っ手が、私が逃げ込めって指示した洞穴のすぐ近くに迫ってる。さっきのハインドも一緒に、ね。もしまだ生きていて、そこに居るなら今すぐ逃げるか何かしなさい!≫
その言葉を聞き、戒斗は起き上がる。傷が痛むが、気にしていられない。遥は既に起きていたようだ。見ると、既に焚き火の火は消されている。寝袋を素早く畳んで空いたポーチに突っ込み、チェストリグをもう一度装着する。調達したAK-74突撃銃に弾倉を叩き込み、斜め掛けに背中に回して背負う。スティンガーを洞穴の奥へと運び込み、チェストリグに無理矢理M72ロケット・ランチャーを二本括り付ける。コンパウンド・ボウを片手に。もう片方にはクレイモア指向性対人地雷を持ち、戒斗は立ち上がった。
侵入した傭兵の排除の任を帯びた討伐部隊長の兵士は部下に指示を下し、ピックアップ・トラックの残骸を部下達のジープで引っ張らせ退かせた。続けて指示を下し、彼らは薄暗い洞穴の中へと侵入していく。
各々の手に持つSG552突撃銃のビカティニー・レールに取り付けられたフラッシュ・ライトから幾多の光の線が伸び、洞穴の中を照らす。電灯こそ消されていたが、まだ新しい焚き火の跡があった。ついさっきまで人が居た痕跡だった。
「突入!」
部隊長の男が支持を下すと、部下達は警戒した足取りで洞穴内を進んでいく。
部隊長含め、彼らは皆、正式な”方舟”のメンバーだった。通常末端は雇われ兵士で構成されているこの組織だが、彼らは違った。何故か、といえば、傭兵に侵入された施設が”方舟”にとって重要な実験施設だったからだ。そこを護る為に配備された人間は、末端の兵士や整備員に至るまで全員が”方舟”の正式メンバーで構成されている。彼らにとってそれは誇りだった。自分達の手によって、”方舟”は護られているのだという自覚。それこそが彼らが彼らたる存在意義だった。
室内に敵の影はない。おかしい――そう思って探索していると、幾つかの備蓄コンテナが開封されているのが目に止まった。
「止まれッ! これは罠だッ!!」
敵の思惑に気づいた部隊長は叫んだ。が、時は既に遅く、先頭を歩いていた隊員の一人の足に、何かワイヤーのようなモノが引っ掛かっていた。
連鎖して起こる、小規模な爆発。左右の壁に設置されていた幾つもの指向性対人地雷クレイモアから放たれた数百個、いや数千個のボールベアリング弾が殺到する。先頭を歩いていた兵士は勿論、比較的中央に居た兵士までもがボールベアリングの直撃を受け、肉体を引き裂かれ断末魔の叫びをあげて絶命していく。地獄のような光景だった。
断末魔の叫びが洞穴中に木霊する中、どこからかヒュンッ、と、風を切る音が部隊長の耳には聞こえた気がした。そう思った直後に、隣に立っていた副官の男は胸に矢を受け、その命を落としていた。
「敵だッ、敵が居たぞおおおおおお!!!」
一瞬で部隊の半数以上が虐殺された現場を目の当たりにした部隊長の男は、半ば狂乱気味にそう叫びながら、手に持ったSG552突撃銃を狙いも付けずに腰だめに連射で乱射する。しかし、闇の中に潜む狩人はそれに目もくれず、まだ正気を保っていた隊員を一人、また一人と音もなく弓矢で屠っていく。
「あああああああああッッッ!!!」
延々と引き金を引き絞るが、これ以上弾は放たれなかった。シースルー仕様の弾倉に、残弾は見えない。弾切れだった。気づけば、部隊長以外の全員が、殺されていた。
そんな彼が最後に見たのは、洞穴の奥に広がる闇から躍り出る、小さな影。彼はすぐに、その影が持つ小柄な刀に首を両断され、その命を無為に落とした。
「全員排除か。よし、行こうッ」
言って戒斗は手に持ったコンパウンド・ボウを置き、コンテナに立てかけておいたM72ロケット・ランチャーを三本、パラシュート降下等に用いられる軍用の頑丈な縄――パラコードで縛る。たった今敵の指揮官らしき男を叩き斬った遥は刀身を軽く拭った後鞘に戻し、洞穴の奥からスティンガー地対空ミサイルを担いで出てきた。
コンテナの陰から入口の様子を伺うと、数人の敵兵が怒号を上げ、こちらに突撃銃の銃口を向けてゆっくりと洞穴内へと足を踏み入れてくる様子が、戒斗達の居る薄暗い洞穴の最深部からもよく分かった。見ただけでも五人。外にはそれ以上の数に加え、攻撃ヘリコプター、スーパーハインドまで居る。予想していたよりもかなり多い敵の数だった。もう地雷も無い。ここからは自分達の手で直接、奴らを仕留めなければならなかった。
「……戒斗、何か策は」
長いスティンガーの発射筒を担いだ遥が、戒斗の真後ろにしゃがみ込み小声で話しかける。
「あるっちゃあるが、無いっちゃ無い」
「と、いうと」
その言葉を聞いた戒斗は、浅い溜息を吐き、チェストリグに括りつけてあった発煙手榴弾を一つ掴み、遥の目の前で軽く振る。
「どうやらもう一回賭けをしなきゃならんらしい。俺達が生きるも死ぬも、遥、お前の機動力にかかってる」
戒斗の言わんとすることが分かったのか、遥は静かに首を縦に振る。
「よし、頼んだぞ。スティンガーは一旦置いていけ」
「御意」
遥がスティンガーの発射筒を置き、腰の鞘から抜刀したのを確認した戒斗はニッと笑って、発煙手榴弾の安全ピンを抜き、入口に向かって力いっぱい放り投げた。
「さぁ行けッ! 遥ァッ!!」
「――!」
戒斗が投げた発煙手榴弾が合図となり、遥は片手に超振動刀を携え、地を蹴った。




