第4話 折れた
戻って、王化ら一行。
彼らはもうとっくに西の離宮に着いて、その中の案内をして――という頃合いのはずだったのだが。
「――おお? なんだこれは、電灯じゃねえようだが」
「それは簡単な発光魔法装置よ。周囲の明度が低くなると自動で発動する仕組みなの」
「じゃあこの花はなんて奴だ? 随分香りが強いが」
「それはプーハっていう名前の花よ。この少し奥に行くと馬小屋があるから、その臭い消しも兼ねてここに植えられてるの」
「なるほど。それじゃあこの庭園自体はなんていう様式だ?」
「これはコロロ様式っていって、竜暦四○○年頃から続くこの国の伝統的な庭園様式よ。草木の高さを中央から階段状にすることで、波紋が広がっていく様を表現――」
「お二人とも! 寄り道も好い加減にしてください!」
上機嫌に語るソルファの言葉を、焦れたガイアスが強引に遮る。
夢中で話していた二人は不満げな視線を彼に向けるが、ガイアスはやれやれとばかりに額を押さえる。
「もう日が暮れてしまったではありませんか。夕食のお時間もまもなくですし、第一オーカ殿、貴方ふらふらなんじゃないんですか」
「ふらふらだろうと好奇心は変わんねえよ。道すがらに見事な庭園があれば、そりゃ寄るだろうが」
「客人が国の文化に興味を持ってくれたら、それは答えるでしょう」
「時と場合というものを弁えてください! 全く、なんでわざわざ目的地と目と鼻の先で寄り道しますか。一度荷物を置いてからでもいいでしょうに……」
庭園が逃げるわけでもなし、とガイアスは溜息混じりに言う。
実際、三人がいる庭園から僅か数十メートルのところに、王化にあてがわれた西の離宮という建物は見えている。城とは渡り廊下で繋がれた円筒型の二階建てで、規模こそ小さいながら王族クラスの待遇というのも頷ける立派な建築物である。
そもそもこの庭園自体、西の離宮に泊まる客人をもてなすために作られた、という意味合いもある。ソルファが張り切って解説したがるのも無理からぬことだった。
「荷物を置くっつっても、俺の荷物なんざこの鉄扇ぐらいしかねえぞ?」
「っ! 鉄製の扇!? なによそれ、初めて見るものだわ!」
「お、そうか? これはだな、骨に頑丈な鉄を使うことで扇としての機能と同時に、護身具としても使えるようにした代物でな――」
「お二人とも! 管理人のベネアルさんも待ってるんですよ!」
「そうだったの? なによ、そういうことは早く言いなさいよ」
そういうことなら仕方ない、とばかりに早々と切り替えるソルファ。ベネアルという名前が彼女をそうさせたらしい。
もう少し、と名残惜しげな王化を「後で付き合ってあげるから」とソルファが説得し、一行はようやく西の離宮に到着する。
ソルファがノックと共に呼びかけると、中から一人の少女が出てきた。
褐色の肌を持つ、まだ少し幼さを残す少女である。年は王化やソルファより一回り下、日本では中学生ぐらいだろうか。小柄ながらも引き締まった身体、ポニーテールに結い上げた黒髪がよく似合う人懐っこそうなそばかす顔、総じて健康的な魅力を持つ少女だった。
「はいはい、ようやくお出でかい姫様。あたい待ちくたびれちまって二回も三回もベッドメイクしちまったじゃないか」
「ごめんごめん、そこの庭で話し込んじゃって」
一国の姫を相手取るにしては、蓮っ葉でなれなれしすぎる口調だが、ソルファは気にした様子もなく笑顔で答える。王化に対してもそうだが、彼女は多少の無礼非礼には目くじらを立てない寛容さがあった。
少々度が過ぎるきらいもあるようだが。
「なんだい、そういうことなら仕方無いねえ。ウィンの奴がいつも丹誠込めて手入れしてんだ、気に入ってくれたなら嬉しいじゃないか。
ん? あれ、あんたが客人かい。随分若いじゃないか」
少女はようやく王化に気付いたらしく、まじまじと彼を見つめながら「ほへー」だの「おんやー」だのと感心しきりだ。
「若いって……お前、俺より年下だろう」
「いやね、前に来た遠き地の者がおっさんだったから、今回もそうだと思い込んでたのさ。
はは、なんだい、前は小デブで今度はひょろすけか。まー、若い分あたいとしちゃあ今回の方がマシさね。中年の男は臭くて嫌んなるからねえ」
「……こんなガキ、よく雇う気になったな」
あんまりにも歯に衣着せぬ物言いに、流石の王化もたじたじである。
(なんかこいつ、見た目ガキのくせに、組の中堅組の嫁軍団と同じ雰囲気だぞ……)
つまり、若いのにおばさん臭いのだ。
「こんなガキとはご挨拶だね。あたいにゃベネアルっつう立派な名前があるんだよ」
「そうかい、そりゃ失礼。俺は冷泉院王化、王化でいいぞ」
「オーカね。はいはい、ここに住む間と馬関係じゃ世話してやるさ」
王化の差し出した手を、ベネアルは無遠慮に握り締めてぶんぶん振る。握手なんて気取ったものは滅多にやらない、という様子である。
「馬関係? 厩番でもやってるのか?」
「ああ、あたいは馬の亜人だからねえ」
「亜人? お前が?」
あっさりと告げられた事実に、王化は目を丸くする。そして今度は王化が少女――ベネアルをまじまじと見つめる番だった。
前から見て、横から見て、後ろに回って見て――しかし、馬の尻尾やら耳やら、そういったものは見あたらない。馬との共通点は、せいぜいポニーテールという名前だけである。
「……普通の人間と変わらんのだな」
「そりゃそうさ、あたいは完全変態できるタイプの亜人だからね。動物状態と人間状態が完全に分けられるのさ。
っと、入り口でいつまでもくっちゃべってるのもなんじゃないか、さっさと中にお入りよ。遠慮なんてすんじゃないよ? ここがしばらくあんたの寝床になるんだからね」
王化が室内に引っ張られていく様を見届け、ソルファとガイアスは逆に一歩退く。
「それじゃあ、私たちは行くわね。食事の後また来るわ」
「? 食事は別なのか?」
「すみません……こちらにも色々と事情がありまして。オーカ殿のお食事は、ベネアルさんに運んでもらいますのでご安心を」
「そうか。んじゃ、またな」
一時の別れを告げ、二人は城の方へと戻っていく。
それじゃあ案内をと向き直ると、ベネアルは先ほどより幾分真面目な表情で王化を見つめていた。
なにか、言っておきたいことがあるのか――そんなことを考えていると、案の定ベネアルは口を開く。
「――あんた、今日ここに来たばかりだろう? さっきガイアスの旦那が言った事情の意味、分かってるかい?」
「? 食事のマナーだとか、そういう話じゃないのか」
「違うよ。そもそもこの国の人間、特にお偉いさん方は、あんたら遠き地の者のことをよく思ってないのさ」
「そうなのか?」
王化は今日会った、この国の人間について思い出す。しかし、露骨に厭われたような覚えは無い。
それをベネアルに言うと。彼女は「そりゃそうさ」と苦笑する。
「あんた、ほとんど姫様と一緒にいたんだろ? あの人はそういう差別が嫌いだから、姫様の前じゃ誰も露骨な態度なんかとりゃしないよ。
そもそもね、この国の人間は遠き地の者だけじゃなく、純粋な人間以外全般を見下す考え方があるんだ。特に、あたいみたいな亜人とかね」
「ふうん……じゃあ、なんでお前はここにいる? さっきの話じゃないが、そんな国の中央に亜人がいるなんて、おかしいことじゃないのか?」
「いんや、あんたの認識であってるよ。あたいが働かせてもらってるのは、ひとえに姫様のおかげさ。さっきも言ったけど、あの人は亜人や遠き地の者に対する差別が嫌いでね、亜人のあたいに周りの反対を押し切ってまで仕事と衣食住を与えてくれた。普段はちょいとお転婆が過ぎるけど、本当に女神みたいな人さ。
ああ、話が逸れたね。とにかく、あたいが言っておきたいのは、自分の立場を勘違いするなってことさ。こんな良い扱いを受けられるのは、姫様のご厚意のお陰なんだからね。前の遠き地の者はそれをはき違えて、ちょいと痛い目に遭ってたから、早いうちに教えておこうと思ったのさ」
ずいずいと王化を指さしながら、ベネアルは何度も念を押す。
(つまり、俺は差別される部類になってるってわけか……)
王化はベネアルの言葉をよく反芻した後、彼女の頭にぽんと手を置く。
「分かったぜ、ベネ子。よく教えてくれた、誉めてつかわす」
「ふにゃ!? な、撫でるんじゃないよこの馬鹿! ベネ子ってなんだい!」
嫌がるベネアルを無視し、王化は彼女の頭をぐりぐりと撫でる。乱暴で傲慢ながら、これが王化なりの誉め方だった。
「かはは、照れるな照れるな。俺を心配して言ってくれたんだろう?」
「ち、違うし! あたいはただ、あんたに何かあったら姫様が悲しむから教えてやったんだ! 勘違いすんじゃないよ!」
「おお、テンプレ通りのツンデレ。しとねの小芝居以外で初めて見たぞ」
「な、なにを意味の分かんないことを……! 好い加減離せ馬鹿! もう、さっさと案内しちまうからついてきな!」
ベネアルは力ずくで王化の腕を払うと、ずんずん大股で中に進んでいく。
なんだ、年相応に可愛いところあるじゃねえか――そんなことを思いつつ、王化はその後に続くのであった。
■
西の離宮の案内が一通り終えると、ガイアスが言っていた通りベネアルの給仕による夕食となる。
厨房の足立がうまく気を利かせたのだろう、出てくる料理はどれも見慣れないながらも問題無く食べられる物であった。案内の最中にからかい過ぎたためか、時折給仕のベネアルに「これはあんたにゃ勿体無いよ」とつまみ食いされたりもしたが、王化はそれを笑って許す。むしろこれも食えあれも食えと餌付けするぐらいだった。
食後ベネアルと話しながら時間をつぶしていると、しばらくして足立を引き連れたソルファが訪れる。
「来たわよ、オーカ。夕食はどうだった?」
「ああ、中々美味かったよ。魚料理とかはどことなく日本風だったし」
「あ、分かった? あれ僕が作ったんだ。口に合ったようなら何よりだよ」
醤油が無くて大変だよー、と足立は笑う。彼はもう完全に料理人として生活しているようだった。
ソルファは足立とベネアルになにやら指示を出し、王化を連れて外に出る。中断になった庭園見学の続きである。
「足立さんたちは何しに行ったんだ? それに、ガイアスは?」
「ちょっとしたサービスよ、貴方にね。ガイアスは今大臣とお話し中、たまには離れてもいいでしょ」
「姫が護衛も付けずにこんなことしてていいのかよ」
「はは、この城の中は平和なものよ。正門の警備も厳重だし、高い城壁と深い堀もあって曲者なんて入れっこないわ」
「いや、そうじゃなくて、俺に対して警戒してないのか、ってことさ」
王化がそう言うと、ソルファはしばらくぽかんとした後、堪えきれなくなったように笑い出す。
「あはははは! なに、貴方が私をどうにかするっていうの? 無理よ、無理。私こう見えてかなり強いんだから」
「む。俺だって大の男だぞ。それに、家柄それなりに喧嘩慣れはしてる」
「そういう問題じゃないわよ。私だって護身術は身に着けてるし――なにより、魔法が使える。そう高位なものは無理だけど、多少でも魔法が使える時点で、喧嘩慣れしてる程度の男には負けないわよ」
あーおかしい、と腹を抱えるソルファ。その態度に少しむっとするものの、王化はそういうものなのだろうと受け入れた。
そんなこんなで二人は庭園に。目に入った植物や置物小物について王化が質問し、ソルファがそれに答えるということをしばし繰り返す。時たま王化が日本のことについて話すこともあり、その際はソルファのほうが目を輝かせていた。
そのようにして進んでいくうちに、二人は庭園中央に辿り着く。そこには、それまでとは少々趣の違う意匠の物が置いてあった。
――大きく仰け反り胸を晒した竜の石像と、その胸に刺さる一振りの長大な直剣。
刀身から放たれる刃物特有の冷やかな輝きからして、刺さった剣は間違いなく本物であろう。石像の台座から引き抜けば、今すぐにでも本来の役目を果たせそうなほどである。
「なんだありゃ。妙に浮いたデザインだな」
「ああ、あれ? あれは『選定の剣』って呼ばれるものでね、うちの王家に伝わる伝説の一つよ」
「王家に伝わる伝説、ねえ。胸が熱くなる話じゃねえの、聞かせてみろよ」
「っていっても、ほとんどただの与太話よ? 詳しく話すと長くなるんだけど、ざっくり言っちゃうと『真に王たる資格を持つ者だけが、この剣を折ることができる』っていう内容。だけど実際のところは、少なくともここ十代ぐらいのオリアボス王でこれを折った者はいないわ。それより前の史料は記録っていうより物語だから当てにならないしね」
「折るのか? 抜くじゃなくて?」
「うん、ぼっきりと。私も子供の頃から色々試してみたのだけれど、なにやっても傷一つつかないのよ」
大袈裟に肩を竦めて見せるソルファ。王の治療のためとなれば異世界から人を呼ぶ彼女のことだ、「色々」というのは本当に「色々」なのであろう。
(しっかし、これ、エクスカリバーの伝説とほとんど同じだよなあ……)
偶然の一致なのか、あるいはかつてここに訪れた王化と同じ世界の人間が伝えたのか。仮に後者だとすれば、少なくとも十代以上前から異世界人の召喚は行われていたことになる。
考えても詮無いことか、と顔を上げてみると、何やら横でソルファが奇妙な構えをとっている。
「……何やってんだ、お前」
「え? 話してたら久々に挑戦してみたくなっちゃって」
「挑戦って、その構えで何する気だ……?」
王化は不審げな表情を隠そうともしない。
――右足を前、左足を後ろに大股を開き、重心は気持ち前傾で低めに保つ。右腕は前に真っ直ぐ突き出し、掌を目一杯に開く。そして左腕は右腕の肘をがっしりと握り固定する――右腕という銃身を、その他の全身で支える、という感じの構えだ。
「貴方、少し離れてちょうだい。……もっと、もっと後ろがいい。そう、そのぐらい。それじゃ、いくわよ」
「いくわよって……」
戸惑う王化を無視して、ソルファは深呼吸を一つ。そして瞬きを一つ。
再び目を開けた時、彼女の表情は張りつめたピアノ線のような緊張感に満ちていた。
「――全壊術式、起動」
ソルファが魔法を発動させると、まずきぃんという高い音と共に、彼女の右手の前に赤く光る小さな球体が現れる。赤の球体は内部で高速回転を繰り返し、周囲に暴風を撒き散らしながら肥大化して、そして最終的には直径一メートルほどの球体が出来上がる。
(――弾丸だ)
魔法に関してはまるで無知な王化だが、何故かそれだけは確信できた。
彼女の右腕が銃身ならば、あの赤い球体は巨大な弾丸なのだ――と。
そして。
球体が臨界点に達したとき――ソルファは、呪文を唱える。
「――薙ぎ払え、『穿つ一投』!」
巨大な弾丸が光る。
ソルファの手から離れた赤い球体は、一直線に石像に刺さった剣へ向かい衝突する。その瞬間赤い球体は跡形も無く霧散し、庭園の中央から全方向へ凄まじい突風が巻き起こった。
草木の葉が舞い、土を削り取り、礫をはらませた風が、王化たちの視界を奪う。
しかし、それも一瞬。風が去り、恐る恐る目を開けてみると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……どうなってんだ、おい」
「ふん、やっぱり駄目ね」
――無傷、である。
衝撃波だけで周囲を滅茶苦茶にするほどの威力の魔法を受けて、それでもなお剣も台座も傷一つ付いていないのだ。
「台座と剣に、かなり強力な魔法障壁が何重にも掛かってるらしいのよ。今の私の魔法、ちょっとした建物の壁くらいなら余裕でぶち抜く威力はあるんだけど、この程度じゃ足らないみたい」
「い、いやお前、この程度って……どうすんだ、庭園ボロボロだぞ」
辺りを見回せば、文化の粋を集めた庭園が土煙にまみれて見る影もない。
「ああ、それは大丈夫よ。ここに植えてあるのは生命力の強い植物ばっかりだし、このぐらいすぐに直せるわ――庭師が」
「……お前、やっぱりお姫様なんだな」
下々の苦労が分かっていない。
この惨状からの復元をさせられる庭師に心中で同情しつつ、王化は改めて『選定の剣』とやらを見つめる。
(真に王たる資格を持つ者だけ、か……胸が熱くなるじゃねえの)
そう言われて黙っていられる王化ではない。
あれだけの威力の魔法で傷一つつかなかったのだ、自分の腕力でどうにかなるなんて思ってはいない。しかしそれでも、試さずにはいられなかった。
「ソルファ、俺も試して良いか? 良いよな? 試すぞ」
「返事聞いてないじゃない……いいわよ、どうせ無理だから。もし折れたらなんでも言うこと聞いて上げるわ」
「かはは、その言葉忘れんじゃねえぞ」
心底愉快そうに笑いながら、王化は竜の胸を指す直剣へ歩み寄る。
間近に見れば、なるほど威容を誇る剣である。王化は深く長く息を吐くと、台座の竜の手に足を掛け、ぐいと剣の柄へと手を伸ばす。
そして、その柄を確かに掴んだ――その瞬間、だった。
かちり――と。
王化の身体の中で、歯車が噛み合う音が響いた。
戸惑いの声を上げる間も無く、胸の奥でマグマが吹き出したような熱が迸る。その暴力的なまでの熱さに焼かれ、王化はふらり仰向けに倒れていく。
ああ、落ちる――そうは思うものの、身体に力が入らない。
とん、と。しかし着地の衝撃は予想より遙かに弱く、暖かかった。
「ん、ぁ……?」
「――カ! オーカ! だ、大丈夫!? しっかりして!」
「……また、受け止めて、くれたのか」
薄らいだ王化の意識が戻ってくる。目の前には泣き出さんばかりのソルファの顔がある。どうやら階段の時のように、駆け寄ったソルファに抱きとめられたらしかった。
全く、これじゃあどっちが姫か分からんな――なんて苦笑しつつ、身を起こそうと身体に力を込める。
が。
しかしその前に、王化の身体は中空に投げ出され、勢いよく地面に落下する。ソルファがいきなり支えていた腕を解いたのだ。
「あだっ! いっつつつ……て、てめえ、なにしやがる!」
「あ、貴方、その、手……!」
王化は抗議するが、ソルファの方は愕然とした表情で王化の右手を見つめるばかり。
(はぁ? 手がなんだって、いうん、――)
つられて自分の右手を見て、王化は同じく絶句する。
――柄である。
根本に刃を五センチほど残してぼっきりと折れた柄が、王化の手に握られていたのである。
二人して恐る恐る台座の方へ目を向けると、案の定残っているのは刺さっている刃だけ。
つまり。
「「お、折れたァァァあああああああああああああッ!?」」