第2話 信じるしかねえんなら
「……………は?」
「ファンタジー世界、と言った方が分かりやすいのかしら。詳しくは聞いていないけれど、この世界みたいに魔法があったり亜人がいたりする世界を、貴方たちはそう呼ぶのでしょう?」
はいどうぞ、と少女は呆然とする王化にハンカチを握らせる。
「え、ちょ、待て。俺の聞き間違いか? 異世界? 魔法? 亜人?」
「そうよ。この説明が一番分かりやすいと聞いたのだけど、伝わらないかしら?」
「あー、いや、伝わってはいるんだが……あれか、あんたらコスプレイヤーって奴か」
キャラになりきるとか、そういう。
王化も今時の日本の若者だ、そういった文化には人並みに慣れ親しんでいる。実際に見たことは無いが、漫画やアニメのキャラクターに身も心もなりきって楽しむ人々がいることも知っている。
(なんだこの状況、俺はそういう会場に迷い込んじまったのか……? そういえば夏になると大きなイベントがあるんだったか……)
しとねの奴が行ってみたいと言ってたような、とそんなことを思いながら頭を抱える王化。そしてそんな様子を見て、今まで沈黙を守っていた東洋人の男が、不意に笑い声を上げる。
「ぅ、くくっ、あははっ! まあそうだよねえ、あはははは!」
「……なんだ、あんた」
「ああ、ごめんごめん、反応があんまりにも僕のときとそっくりでさあ。僕は足立洋平、ここじゃあ君の先輩になるのかな」
「先輩?」
戸惑う王化に、足立洋平と名乗った中年の男は無遠慮に歩み寄る。
「ちょっと借りるよ」
「あ、おい」
そして、足立は王化の手から先程渡されたガラス塊をひょいと取り上げる。
「姫様、なんでも良いんでなにか喋ってもらえます?」
「×××? ××××××、××××」
「どうも、もう結構です。――とまあ、この通り、僕は君と同じ日本人だ。これ無しでも通じるでしょ?」
名前で分かると思うけどね、と足立は笑い、ガラス塊を王化の手に返す。
たしかに、顔立ちからして足立が日本人なのは確かだろう。そしてその服装、立ち居振る舞いを見れば、他二人とは明らかに異質な存在であることも分かる。
「……少なくとも、あんたが一番話が通じそうなのは分かった。で、どういうことなんだ」
「んー、端的に言っちゃうと、そこのお姫様が言ったことは真実なんだよね。信じられないかもしれないけど、っていうか普通信じられないと思うけど、ここはどうやら僕らのいた世界とは違う場所なんだ」
「魔法があって亜人がいて、と?」
「そ。――こんな風にね」
そう言って、足立は右手の人差し指を天に立てる。
そして――ぼ、と。
その指先に、いきなりテニスボールほどの赤い炎が現れる。マッチもライターも無く、ガソリンやなにかの匂いすらさせずに、いきなり中空に火球を出して見せたのだ。
「なっ……」
「種も仕掛けもございません、ってね。言語妖精とか解析とかより、こういう分かりやすいものを見せたほうが信じやすいでしょ? まあ、これは実は魔法じゃなくて加護って奴らしいけど」
ぱちん、と指鳴らしを一つ。足立はその炎を消し去って言う。
彼の服装は半袖のTシャツにジーンズ、発火装置を隠すような場所はどこにもなく、周囲にもそのようなものは見当たらない。足立の見せたそれは、間違いなく王化の知る物理法則に反した現象だった。
睨むように足立の顔を見て、考え込むこと少々。王化はようやく口を開く。
「――俺の頭の中に、今三つ仮説がある」
「ふうん? 言ってみてよ」
「一つ目、これが夢である説。最有力候補だな」
「あはは、まあそりゃもっともだ。夢ならなんでもありだもんねえ」
「二つ目、俺の気が触れた説。これが二番手、全部妄想だとすれば、これもなんでもありだ」
「それもごもっとも」
「そして、三つ目――あんたらの言うことが、全て真実である説。これは三番手、とことん荒唐無稽だしまるで信じられねえが、俺はこの説を採用するしかない」
王化ははっきりとそう宣言する。
「しかない、ねえ。なんでまた?」
「行動指針に足るのがそれしかねえからだ。一つ目と二つ目を基準として行動すると、三つ目だった場合なんのプラスにもならねえ。むしろマイナスになるだろうよ。
だが、三つ目を基準にして行動すれば、仮にこれが夢や妄想だった場合でも、少なくともマイナスにはならねえ。ゼロで済む」
「……君は、僕より遥かに賢い人間のようだね」
王化の言葉を聞き終えると、足立は心底驚いた様子でそう言った。
「そうなんだよ。僕もここに来てもう三週間ぐらいになるけど、正直完全に信じきれてはいない。だけど、そうだとしても、結局は『これが真実である』って前提で生きるのが最善なんだ。僕はそれを悟るのに一週間近くかかったって言うのに……
君はあれかい、お寺か神社の家の子なのかな? だからそんなに落ち着いてられるのかな」
甚平に草履という服装もあってそう思ったのだろう、王化は流石に苦笑を浮かべる。
「いんや、こう見えてやくざの息子でな、肝は座ってるのさ。ゆくゆくは王様になる男だしな」
「そ、そういう家系か……だがまあ、なるほど。どうりで妙に凄味があるわけだ」
そういえば小指がどうとか言ってたね、と若干笑みを引き攣らせる足立。
ともあれ、これで説明役としての役目を終えた足立は、最初のように一歩下がり、場を少女に譲る。元々彼のここでの仕事はそれだけだったのだろう。
「とりあえず、信じてくれたようでなによりだわ。そうじゃないと話が進まないから」
「信じるしかねえからな。だが、話を進める前に、することがあるだろうよ」
「? すること?」
「自己紹介だよ。お互い名前も知らねえんじゃやりづらいだろうに。
――俺は冷泉院王化。普通の学生だ、呼び方は普通に王化で良いぜ。あんたは?」
「そうね、最初に名乗っておくべきだったわ。
私はソルファ・ディア・オリアボス。呼び方はソルファで構わないわ。
身分は、このオリアボスの第一王女よ」
少女――ソルファはそう宣言して、王化に手を差し出す。王化は迷い無くその手を握り返すのだった。
(しっかし、王女ねえ……)
握手のまま引き起こされながら、王化はソルファをまじまじと見る。立ち上がってみると、彼女の背丈は王化より頭一つ小さいぐらい。年は王化と変わらないぐらいだろうが、凹凸に富んだ女性的な体つきだ。そしてなにより――
「……異世界人が珍しいのは分かるわ。でも、そこまで見つめられると、流石に恥ずかしいのだけれど」
「ん、ああ、悪い悪い。いやなに、えらく姿勢が良いと思ってな」
「姿勢?」
予想外の言葉に、ソルファは思わず聞き返す。
「ああ、流石は王女を自称するだけある。王になる者は堂々としてなくちゃな」
「自称って、本当に王女なんだけど……まあいいわ、本題に戻りましょう。私が貴方を呼びだした理由は――」
「王様の治療のため、だろ」
「ッ!?」
ソルファの反応が、それが正解であることを物語っていた。彼女は足立に目をやるが、足立はぶんぶん首を横に振る。彼はそんなこと一言も話していない。
戸惑うソルファに、ガイアスが声をかける。
「姫。知恵を持つ存在を呼び出す召喚魔法では、稀に召喚対象が召喚者の記憶を一部引き継いでいることがあると聞きます。召喚者と召喚対象の相性がよほど良くなければ起こり得ない現象ですが、おそらくその者はなにかを見たのでは」
「夢で見たんだよ。ソルファ、お前が横たわる髭の老人の手を握っているところを。こうして見りゃ分かる、目元のあたりがよく似てる。お前が王女なら、ありゃ王様だろうなっつう察しはつくさ」
自慢げでもなく王化は言う。
一国の姫が自ら、という時点でその重要さは明白。そして直前に見た映像と照らしあわせて考えれば、その結論に至るのはそう難しいことではない。王化の特筆すべき点は、頭脳よりむしろこの状況下でも冷静に頭を使える、その胆力にあった。
「夢で見た……貴方、他になにか見たの?」
「ん? ああ、そういやお前がなにか描いてるところも見たな。これだろ」
王化はそう言って、石畳の床をつま先でつつく。そこには、夢で見たものと同じ模様がびっしりと描き込まれ、連なり円形をなしていた。
こりゃ魔法陣って奴か、と感心する王化に、ソルファは恥じらいながら更に問う。
「ほ、本当にそれだけでしょうね? その、私の着替えとか、沐浴とか、見てないでしょうね!?」
「……なに言ってんだこのむっつり姫」
「ア、アダチィ! この無礼者を火炙りにしなさい! 今すぐ! 最高火力で!」
灰も残すな! と顔を真っ赤にして暴れるソルファを、ガイアスと足立が必死に宥める。
どうにか姫が落ち着いたのを見計らい、「ここはわたしが」とガイアスが説明をかって出る。賢明な判断である。
「えと、オーカ殿、まず姫をおちょくるのはやめていただきたい。この通り、その――純真なお人なので」
「純真ねえ。かはは、そりゃ悪かった。ここまで面白い反応してくれるとは思わなくてな」
軽いジョークだったのに、と王化。反省はしていない様子である。
「全く……話を戻しましょう。まずお察しの通り、姫が召喚魔法『神隠し』で貴方を呼び出したのは、現王ゼカール・ディア・オリアボスの治療のため。貴方が夢でご覧になったとおり、美髯王とも呼ばれるお方です」
「まずそれが分からねえ。治療のためなのに、なんで専門知識も無い学生を呼び出す? 医者でも呼べばいいだろうが」
「それはできないのです。我々から見ても、貴方方の住む世界は遙か遠い未知の世界――異世界召喚は分かりやすく言うと、目を瞑って手を伸ばし、指先に触れたものを引っ張りあげるようなものなのです」
「えらく適当なやり方なんだな……なんだ、まさか運良く医療関係者を引き当てるまで、それを続ける気なのか?」
あまりに非効率的な方法に、王化は驚きを隠せない。
「半分正解、というところです。そちらの世界の知識・技術の他にもう一つ、遠き地の者――つまり、貴方たち異世界人には我々に無いものがある。
それが加護、召喚の際に付与される固有能力です」
「加護……足立さんがさっき使った奴も、その加護とやらなんだっけ?」
「そうそう。ちなみに僕の加護は『燃焼』、残念ながら燃やすしか能が無い」
足立はそう笑ってまた指先に火を灯してみせる。先輩と自称するだけあって、彼は既に加護を使いこなしている様子だった。
実演を見たところで、ガイアスは説明を続ける。
「召喚では本来、召喚者には『対価』が、召喚対象には『霊格』が必要とされます。普通の召喚ですと、召喚対象はピクシーだろうとドラゴンだろうと、程度の差こそあれ『霊格』を持ち合わせているものですが、遠き地の者は普通の人間ですから、それが無い。それを補うため――つまり、霊格を一段上げるために、召喚の際自動的に『加護』として特殊能力が与えられるのです」
「ふうん、要は無理矢理箔を付けるってことか……んで、それが治療系であれば万々歳だと。それも完全なランダムなのか?」
「いいえ、こちらは僅かですが召喚者の意志に左右されます。正直に申し上げまして、『方向性が決まる』程度のものですが。アダチ殿の場合はかなり見当違いの能力でしたし」
「ってことは、結局ギャンブルには変わりねえのか。
そして――俺も、ご期待には添えなかったようだな」
王化がそう言うと、ソルファは心苦しげに顔を歪める。
彼女にとって、望みのものが手に入らなかったこと以上に、王化に対しての後ろめたさの方が辛かった。
「……ごめんなさい、こちらの勝手で呼び出しておいて、挙げ句にこんな扱いで。でも安心して、少し時間は掛かるけど、元の世界に戻すことも可能だから」
「そういうもんかい。ならま、無駄足ついでに観光でもさせてもらうさ」
対して、当の王化は暢気なものである。思わぬ『旅行』となったが、帰れるのならばこれはこれで、という考えらしい。
と。ここで遮るようにガイアスが口を開く。
「――いえ、無駄足ではないかもしれません、姫。オーカ殿の加護である『増幅』は、少々特殊なものでして」
「? どういうことだ、そりゃ」
そう言えば、『増幅』とやらがどのようなものなのか、王化はまだ一切聞かされていないことに気付く。
足立の『燃焼』は名の通りという能力だった。しかし『増幅』を名の通りに考えると、一体なにを増幅させるのか。
王化の視線を受け、ガイアスは説明する。
「オーカ殿、貴方の加護の効果は『あらゆる魔法効果を増幅させる』というもののようです」
「魔法効果を、増幅?」
「ええ。そうですね、実演した方が良いでしょう。アダチ殿、少しお手伝い願えますか」
「勿論。なにをすれば?」
「オーカ殿と手を繋いでください」
そう言われ、目を見合わせる王化と足立。案の定、二人とも気乗りしない渋い顔である。
男同士で手を繋いで喜ぶ方が考えものではあるが。
しかしお互い必要なことと割り切り、大人しく言われたとおり手を繋ぐ。
「その状態で、先ほどと同じように加護を使ってください」
「? 俺はどうすればいい?」
「オーカ殿はそのままで大丈夫です。おそらく、自動で発動する類のものですから」
「そうかい。んじゃ、任せたよ足立さん」
「はいはい。よし、いくよ」
そう気軽く言って、足立が加護を発動させる――その瞬間、だった。
――かちり、と。
王化の身体の中で、小気味良い音と共に歯車が噛み合う――そんな感覚が鋭く走る。そして同時に胸の奥で心臓を焼くような熱が迸った。
なんだ今のは、と思う間も無く目の前に炎が現れる。足立の加護の能力だ。
――しかしそれは、先ほどとはまるで違う。
先ほど足立が出して見せたのは、赤く燃えるテニスボールほどの火球だったが、今度のそれは青く輝くバスケットボールほどの炎球だったのである。
「――ッ!? ぅわっちっ! 熱ッ!」
「だ、大丈夫か足立さん」
そんなものを自分の顔の目の前に出したものだから、足立は大慌てでのたうち回る。幸い前髪を僅かに焦がした程度で済んだらしいが、一歩間違えば大惨事である。
恨めしげに睨む足立などには気付きもしない様子で、ガイアスはしきりに感心する。
「なんと、これほどのものとは……大きさも火力も桁違いだ……」
「ちょ、ガイアスさん、こういうの先に言ってくださいよぉ! 危うく僕の顔面丸焦げですよ!?」
「あ、すみません、こんなにも増幅されるとは思っていなかったもので。
とにかく、これでお分かりでしょう。貴方はこのように他人の魔法を何倍にも強化することができる。貴方の加護を使えば――」
「――治療魔法の効果も、何倍にもなる……!」
声をあげて言葉を継いだのは、顔にぱぁっと喜色をたぎらせたソルファだ。彼女は王化の手をぎゅっと握ると、そのままいきなり走り出す。地下室の扉を打ち破らんばかりの勢いで開き、王化への気遣いも忘れて階段を駆け上がり、一直線に父王の寝室へと急ぐ。
彼女の頭に浮かぶのは、元気だった頃の父親の姿。
その姿が戻ると思うと、駆け出さずにはいられないのだ。
「あ、あだだだ! 落ち着け馬鹿姫! あぶなっ、転ぶ転ぶっ!」
「転んだら引きずるわよ! 早く、早くお父様を元気にするの!」
「お前、その優しさを少しでも俺に――って、痛ェ! いっつぅ、ほら転んだ――っててめえ本気で引きずるんじゃねえ!? どっからそんな馬鹿力が――ぬあ熱っ! 摩擦熱で尻が焼ける! 待て待て待てこら馬鹿姫こら待てこら熱い熱い尻が尻がァアアああッ!」
ソルファは胸躍らせてひた走る。
――こうして平穏な城の中に、王化の間抜けで悲痛な叫びが響きわたるのであった。
□
――城の中に何本かある尖塔の、その一つ。本来ならば城下町の火事や諸々の騒動をいち早く見つけるため、と用意されたその見張り部屋に、似つかわしくない人影が二つ。
一つは少年。柔和そうな糸目が特徴的な、白髪の少年だ。線が細く、どこか中性的でもあるその少年は、薄い笑みを浮かべて窓枠に頬杖を突く。
一つは中年。否、壮年と表現した方が似合う小太りの男だ。少し薄くなった頭と腹に付いた脂肪、そしてそれらとは裏腹に鋭い眼光が輝く双眸。壮年の男は少年の後ろに直立する。
二人とも、そのマントまで羽織った豪勢な衣服からして、明らかに見張り兵の類では無い。そんなものはこの二人がとうに追い払ってある。
少年の視線の先にあるのは、奇妙な服を着た男を引きずる、この国の姫の姿だ。
「――ねー、なんか姉さん超楽しそうなんだけど」
「なんでしょうな。あのご様子、如何にお転婆なソルファ姫とはいえ、ただごとでは無いでしょうが」
のんびりとした口調の少年に、固い調子で応じる壮年の男。
「あれじゃない、父さんを治せる遠き地の者を見つけたとか」
「まさか。この国有数の占い師も、そのようなことはあり得ないと断言したのですぞ。あの占い師は――」
「国で何番とか意味無いよ。当たるか当たらないか、それだけでしょ。当たらないかもしれない、って余地がある時点で占いなんか頼りにならないじゃん」
暢気な口調はそのままに、少年はぴしゃりと言い放つ。
「し、しかし……現実問題、ソルファ姫のやり方で当たりを引けるとは思えませんが」
「ま、そりゃね。ってかそもそも、僕から見たって父さんはもうどうにもならなそうだし。むしろなんで生きてるか不思議だよね。なにがあの人をこの世に引き留めてるのかなー」
「それは、ソルファ姫の献身の賜物でしょう」
「やっぱそう思う? はは、姉さんってばホント健気だよねえ」
にっこりと微笑む少年。
「今度も、残念ながら失敗でしょう。寿命というのはどうにもならないものですので」
「あは、やけに断定的に言うじゃん。ま、そうじゃないと、僕らも困るしねえ。でも、姉さん時々有り得ないぐらい運が良いからさ。あれかなあ、王族はやっぱ選ばれた者って奴なのかなあ」
「それを仰るなら、ご自分もそうなのでは?」
「ははっ――ねえ、それ、本気でそう思う?」
薄い笑みのまま、少年は壮年の男に振り向く。
――ぞわり、と。
喉の奥深くを優しく撫でられたような寒気が、壮年の男を襲った。
老獪な壮年の男ですら冷や汗が背筋を伝う、そんな威圧感――しかしそれも一瞬。窓の向こうから響く間抜けで悲痛な叫びに、少年はそちらへ視線を戻す。
「――あっは、なにあれ。姉さんどんだけはしゃいでんのさ。痛そー」
「は、はは、そうですな」
「次言ったら、あれと同じことしてあげるよ。馬に引かせて、城下町一周。終わる頃には大分体重軽くなるんじゃない?」
「……肝に銘じておきましょう」
少年は笑い、壮年の男は口を結ぶ。
――間抜けで悲痛な叫びだけが、まだ続くのであった。