ソレ
綺麗だ、私の掌で踊る赤い液体が瞳に映る。
私はあの時日課である散歩をしていた。暖かい日の光が、まるで母の温もりを演じているかのようだった。緑揺らめく公園の草花達が美しいコーラスを奏でている。水道から捻られ出て来る透明度の低い水が、私の喉を潤してくれた。
目の前を通り過ぎた者はソレだった。見窄らしいボサボサな毛を、濁った瞳と共に震わせていたのだ。私は哀れみの目でそいつを見守った。飼ってください、僕は何も悪くないんです。とでも言いたげな顔で近寄ってくるのだ。巫山戯るな、お前みたいな弱者を受け入れても何の得にもなりはしない。でもまあ、私の愉しみを増やすことは出来るか。私はソレを鷲掴んで帰路へと向かった。
扉を開ける。悶てしまいそうな血腥い臭いが私の鼻を悦ばせた。今夜のショーを楽しみにしながら私はソレを風呂へと持って行き洗うことにした。この行為は所謂儀式に近い物だ。身体の隅から隅まで綺麗にしなければならない。次に行うのは晩餐だ。高額な肉や魚、野菜をこれでもかとソレに与える。貪り喰う野蛮なソレは私に尻尾を振っていた……開幕だ。
嘲笑を向けながら先ずは拘束する。ソレの甲高い喚きが私に快感を齎してくれる。台所から銀光する刃物を手に取りソレに近づく。足から行こう、軋む骨に当たる音が響き渡る。少しづつ私の心が赤く染まる。黒丸を潰す、か弱い口を裂いてやろう。綺麗だ、綺麗だよ!内蔵を生きたまま刳り、引き摺り出すのだ!鮮血は私の栄養源だ!生き地獄を目に焼き付けた後死んで逝け!
閉幕だ……首を斬る。