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エピローグ

住人のいなくなった監獄に、今は日の光が注ぎこんでいる。

それが意味する事は、あまりにも多すぎるので、語る事は出来ない。しかし、今日は、その監獄、いや、元・監獄は、簡単なインタビューの撮影の場になっているようだ。

「この監獄の名前を知っていますか?」

「えぇ、確か、アリスの監獄と」

「そうです。可愛らしい少女の幽霊が出ると言う事で、有名だった、監獄です」

「……」

「くしくも、この監獄の最後の住人となったのが、わが国では、知らない者はいない、あのサイモン・キングです」

インタビュアーの言葉に、ぴりっと緊張した空気が流れる。

「あなたは、キング上官を愚弄するつもりは、ないんでしたよね?」

相手が怒りを覚えている事を感じ取り、インタビュアーは慌てたように、手をぶんぶんと振り、「めっそうもない。偉大な人物だと思っています」と叫んだ。

慌てた様子のインタビュアーに冷たい視線を向けながらも、男は、感慨深げに監獄を見渡す。

ここに来るまで、如何にもらしい軍人の顔しか見せなかった男の、人間らしい表情を見て、インタビュアーは尋ねる。

「キング上官と呼ばれているんですね?」

「キング上官…え?あぁ、確かに今は、自分の方が、階級が上になってはしまいましたが、自分にとって、サイモン・キングは、永遠に上官だと思っていますので、今でも、こう呼ばせていただいています」

「……キング上官がなさった事に関してどのように思われますか?」

怒らせてしまうかもしれないと思いながらも、インタビュアーがうかがうような声で質問すると、男は、思った通り、怒りの空気をまとったが、インタビュアーを責めるような事はせず、必死に、本当に、大事な人を守るように言葉を紡いだ。

「確かに、…キング上官は、未だ多くの人間から、国を混乱させた極悪人のように勘違いされています。しかし、自分たち軍の人間は、とりわけ、キング上官の指導を受けた人間は、そうは思っていません。

自分にとっても、キング上官は、偉大な人物です。

自分が、部下であった期間は、決して長くはありませんが、彼は素晴らしい人格をもった人間です。

自分は、あれほど高潔な人間を知りません。自分に厳しく、他人にも厳しい。

しかし、他人への厳しさが、優しさゆえだと、いつの間にかにじみ出てしまう、キング上官は、そのような人物なのです」

こんなに饒舌に話してもらえるとは思っておらず、インタビュアーの気持ちは高ぶった。

そして、そのままの勢いで、一部分だけ、布の掛けられた壁に近づくと、早口で言葉を紡ぐ。

「この監獄に現れるといわれていたアリスと言う幽霊とサイモンキングが交流をもっていたといったらどうですか?」

「……」

「学者の中には、アリスと言うのは、囚人の作りだした幻覚で、自分の中に眠る、異性の姿、男性の場合は、女性で、アニマと呼ばれるものを、誰とも交流できない極限状態が長く続いたせいで、見ているだけなのだという説もあります」

「キング上官は、そのような弱い精神を持ってはいません。」

「そうなんです。それに、まったく交流のないはずの囚人同士なのに、アリスに関する容姿などの情報はあまりにも一致している。だから、私は、アリスと言う幽霊は存在していたと考えています。

これを見てください。」

インタビュアーが勢いよく布を取り去った。

布の下に現れたのは、伝言のような、手紙のような、お願いのような、感謝だった。



「愛しい…アリス、君に…私の誇りを…預けよう。ありがとう。…サイモン・キング」


最初は驚いた顔をした男は、しかし、刻まれた言葉を口にするうちに、実に、実に優しくほほ笑んだ。

そのリアクションは、まったく想定していなかったインタビュアーは、驚いたように尋ねた。

「驚かないのですか?」

と。

その言葉に、男は、ついに満面の笑みを浮かべて、答えた。

「もし、アリスという幽霊がいたなら、キング上官と交流をもたない方がおかしいんですよ。キング上官は、私が知る誰よりも、他人の感情に敏感な、感受性の高い方なのですから」


                                           おわり



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