どえらい美人がいたもんだ
突風が止み、目を開けるとそこにはもう竜の姿はなかった。その代わりにこちらに向かって歩いてくるのは深紅を基調とした礼服に身を包んだ男性―――だよね? 良く見たらとんでもない美人さんなんですけど!!
黒のパンツを穿いているから男性の筈だけれど、女性と言っても差し支えない程の美しい面立ちをしている。小麦色の肌に映えるルビーのような瞳。腰まで長さがある見事な赤毛は高い位置でポニーテールにされている。顎は細く、鼻筋が通っていて背は170cmくらいだろうか。っていうかまつげ! ちょー長い! ボリュームもたっぷりでばっさばさだよ。これはつけまつげなんて要らないわ。いや、この世界にはないんだけどね。つけまつげ。
「レビエント様!!」
ワーッと周囲から歓声が起きる。騎士達は整列し、美女顔の男性をお出迎え。歓声は城門の周りにいる野次馬からだ。まるでアイドルが来日した空港のよう。当然レビエントと呼ばれたお兄さんは王族だからアイドルなんて目じゃないけど。
しかし流石に私、此処に居たらまずいよね。そう思って一歩下がろうとしてもリアスくんが手を離してくれません!! もう! どうしたらいいの!!
すると必死になっている私を他所に、レビエント様がこちらを向いた。そして優雅に微笑む。笑顔が眩しいです、はい。
「やぁ。リーリアス、久しぶり」
「……お久しぶりです。レビエント殿下」
「ふふっ。随分可愛らしいお連れ様だね」
そうして前に立ったレビエント様が私に向かって微笑みかける。
っていうか今殿下って言った? 言ったよね? この美女はやっぱり男性で王子様ですか? うわーん!! 帰りたい!! いつまでも此処にいたらどんな粗相をするか分からないよ私! そしてリアスくん! 君ちゃんとしゃべれたんだね!
「あ、あああの。私は…この辺で……」
「おや。せっかくお会いできたのにつれないね」
「す、すいません。私ただの街人ですから。仕事もありますので」
「そうかい? 仕事なら仕方が無い。次の機会があれば是非、ゆっくりとお話したいね」
そう言ってレビエント様は籠をかけていた私の手を取ると、ちゅっと……えぇぇぇ!!! ちゅーだよちゅー!! 手のひらにちゅー!! 美女顔だけどやっぱ王子様だわこの人。
「レビエント殿下……」
咎めるような不機嫌な低い声。あれ、今言ったのはリアスくん?
隣を見ればぎゅっと眉間に皺を寄せる少年。相対するは楽しそうにルビーの瞳を細める王子様。
「彼女が困っているだろう。いい加減に離してあげたらどうだい。リーリアス」
「……困ってない」
いや、困っているのだよ。リアスくん。