任務完了の筈、なんですが
「リーリアス様!!」
私達が城門前に着くと、それを見つけた騎士達がぎょっとした顔で駆けてきた。
そうかリアスくんの本名はリーリアスというのか。しかし騎士に様付けで呼ばれるなんて、やっぱりお偉いさんの子息だったんだなぁ。
二人の騎士が私達の前にきて頭を垂れる。一人は頬骨が出た渋い中年のおじさん。もう一人は二十代前半くらいの背が高いお兄さんだ。
「お探ししました。よくぞご無事で」
中年騎士がそう言うと、何故かリアスくんは表情を固くした。
あれ、飴を一緒に食べてからは上機嫌だったんだけどなぁ。迷子になったことを怒られるとでも思って構えているのだろうか。
「おい、お前は報告に行ってこい」
「承知しました」
中年騎士は若い騎士に指示を出すと私に向き直った。あらら。その表情には困惑が滲み出ている。私みたいな平民といいトコのおぼっちゃんが一緒に居たらそんな顔にもなるだろう。どうやら彼らは迷子になったリアスくんを探していたようだし。それなりの騒ぎになっていたらしい。けれど私は靴屋さんが保護した迷子を此処まで案内しただけですよ。そう説明すると彼は益々微妙な顔をした。
「迷子ですか……」
ちらりと彼はリアスくんに目線を落とす。けれど当の本人は涼しい顔だ。
さて。無事に迷子を届けたことだし、私はお使いに戻らなきゃ。
「じゃあ、私は仕事があるので行きますね」
「あぁ。はい。ご協力ありがとうございました」
「いえいえ。じゃあね、リアスくん」
そう笑顔で挨拶をして私はその場を離れ―――られなかった。
「? リアスくん??」
彼の手ががっちりと私の手を握ったままなのだ。
エメラルドグリーンの瞳がこちらを真っ直ぐに捉える。ほんのちょっとの触れ合いだったけれど、寂しいと思ってくれているのだろうか。だったら嬉しい。けれど王城へリアスくんを案内しようと待機している騎士のおじさんをいつまでも待たせておく訳にはいかないよね。
どう説得しようか迷っていると、私達が立っている場所が一瞬陰る。上を見ればそこには本日二度目の竜の姿があった。
深紅の鱗を持った竜が王城へ降り立つ為に高度を下げる。蒼竜様を見たときよりもずっとずっと近い距離。わーっ! やっぱり大きいなぁ!
地面との衝突をさける為に紅竜が力強く羽ばたくと、局地的に強い風が巻き起こる。私は思わず目元を手で覆った。
あれれ。ちょっと待って。いくらなんでも着地点が近すぎやしませんか?