一般人です。あしからず
護国の人々は皆大なり小なり竜の血を引いている。だから見た目は人でも特殊能力を持っている人がちらほらいる。とんでもない怪力だったり、念力で物を動かすなどなどその能力は様々で、紅の国だと口から火を吹く人まで居るらしい。けれど当然異世界人で一般人の私にそんな能力あるわけが無い。
そんな私にハロルドさんが『カノンなら分かるだろう』と言ったのは、私が街の人皆を知っている程顔が広いとかそんな意味ではない。なんとご近所さん達は私のことを“動物と意思疎通ができる人間”だと認識しているのである。
私は結構動物好きだ。その為動物とのコミュニケーションが得意。ペットを飼っている人なら分かっていただけると思うけど、猫が足に擦り寄ってきたら「エサが欲しいんだな」とか、犬がしっぽフリフリ飛びついてきたら「散歩に連れて行って欲しいんだな」とか。私が分かるのはあくまでその程度。決して特殊能力ではない。ただ馬屋で雇ってもらう為に、ご主人との面接でその特技をちょびっと大袈裟に脚色して話をしてしまったかもしれない……
まあ、どっちにしたって迷子は私の管轄外なのだけれど。
「ハロルドさん。私別に子供は……」
「いやぁ、身なりからすると多分ご貴族の子息だと思うんだけどねぇ」
「え?」
私の言葉も聞かずに話しを続けるハロルドさん。おい!と思ったけど、彼の言葉につられて改めて迷子を見下ろす。
(うわぁ、綺麗な子だなぁ……)
新芽のような緑色の短髪にぱっちりとしたエメラルドグリーンの瞳。小麦色とまではいかないが、日に焼けた健康的な肌。目鼻立ちのはっきりとした顔立ちで、成長したらきっとイケメンになるだろう。深緑色の上着の襟元には銀色の糸で細かな刺繍が施されていて、ハロルドさんが言った通り上等な服のようだ。黒の革靴も丁寧に手入れされていて傷一つ無い。これは確かに貴族のおぼっちゃんだろうなぁ。
「連れも護衛もなしにトボトボ一人で歩いてたんだ。声をかけても何もしゃべってくれなくてね。どうしたもんかと困ってたんだよ」
頼むよ、と手を合わせられれば少年の前で無碍に断ることも出来ない。
私は彼の前に膝を付いて目線を合わせた。実はこれ、動物とコミュニケーションをとる時の常套手段だったりする。動物は自身よりも体の大きい生き物を警戒するので、目線を合わせて敵意がない事を示すのは結構大切なことなのだ。(『目を合わせる=喧嘩を売られている』と判断する動物もいるので全てに通用する技ではないのでご注意を!)なので穿いているスカートや膝が地面について汚れても気にしない。
さてさて、この少年にはどうだろう? 私は笑顔で名乗りを上げた。
「はじめまして。私は風音。ヘルケさんの馬屋で働いているから皆“馬屋のカノン”って呼ぶよ。あなたのお名前は?」
「…………リアス」
どうやら子供にもこの手は有効だったみたいだ。