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求む! 馬屋の新人

 大きな歓声が街中に起こり、私は人々と共に空を見上げた。真っ青な空には沢山の竜の姿。赤や青、黒、そして翠色の鱗が美しい。神秘的でいて力強いその姿はこの国で暮らす民達の心を惹きつけ、鼓舞し、またそれぞれの生活への活力になるのだろう。

 その中に周囲の竜よりも一回り小さな姿を見つけてそっと手を振った。この距離から私が見えているのかは分からないけど、別に見えていなくても構わない。そんなことで一々不安になったりする必要は無いのだ。私はもう唯の馬屋のカノンではなく、リーリアス第三王子の婚約者だから。


 出会って3日で婚約者という位置づけになってしまった事は結構な驚きだったけど、そもそも護国の王族が“お付き合い”という期間を設けること自体稀らしい。竜の殆どは一目ぼれが当たり前で、一度相手を決めたら変える事はない。王族にありがちだと思っていた側室という制度もないそうで、なんだか色々イメージと違う。竜は人と違って元々子が出来にくい生物らしく、子が授からないからといって別の女性を娶るなんて考え方はないそうだ。

 翠の国は三人、黒や紅の国は二人の王子や王女をパレードで見かけたので、子が授かりにくいなんて事無いのでは?と思ったけど、その答えはすぐに分かった。要は竜の夫婦はと―――っても仲が良いのである。


(まさかあんなにダンディな陛下が……)


 国王陛下達とお茶を共にしたあの時、一通り婚約についての話が終わると途端にリバイロ陛下は隣に座る王妃と……そりゃあもう、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいイチャイチャし始めたのだ。まさか陛下が王妃に『あーん』をねだるとは思ってもみなかった。竜の求愛行動とは言え、王子達がこの姿を見て育ったのなら、リアスくんのあの要求も致し方ないのかもしれない。


 各国へ帰っていく竜達の姿を見送り、私は左腕を見下ろした。そこには華奢な作りの腕輪がある。一見するとただの銀色の腕輪だが、裏側には名前と翠色の文様が彫られている。名前は勿論私とリアスくんの。そして緩やかな曲線を描く翠色の文様はリアスくんの竜の鱗を使って作られたもので、風を現しているらしい。護国では婚約や結婚の際に指輪を贈る習慣が無い。その代わりにこうして腕輪を作るのだという。つまり私の腕輪に嵌っているのは婚約腕輪、という訳だ。

 紅竜は火を、蒼竜は海を、白竜は光を、黒竜は大地を、そして翠竜は風を愛する一族だと言われている。翠の国では王族の象徴として風のモチーフがよく使われるのだ。


――カノン。俺の風。


 翠竜にとってその言葉がどれだけ深い愛情を示しているのか、この腕輪を貰った時にやっと分かった。

 もし私の名前が元の世界の言葉で『風の音』という意味なのだと言ったら、リアスくんはどんな反応をするのだろう。そう考えただけで自然と口元が緩む。


 段々と普段の生活に戻っていく人々の中、私は街の掲示板の前で背伸びした。そして持っていた紙を貼り付ける。それは手書きで作られた一枚のチラシ。


“求人 馬の世話、馬屋の雑事。動物が好きな人材求む。馬屋のヘルケ”

 

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