ちっちゃな暴君
私が白の国での生活に区切りをつけ、翠の国へ行く為の準備期間には双方の見解に(ずいぶんと)違いがあって、互いに譲らないまま一時間が経過。話し合い(?)の末、先に折れたのはリアスくんだった。
「……分った。半月だぞ。それ以上は待たないからな」
泣きそうな顔で言う彼の表情に思わず笑みが零れる。あぁ、やっぱり可愛いや。でも可愛いなんて言ったら怒るに決まっているから黙っておこう。
「笑うな!」
「ごめん。でもありがとう」
「別にいい。でも手紙は書けよ」
「うん。分った」
「毎日だぞ」
「いや、それはいくらなんでも……」
無茶だよ。そう言おうとしたが、言えなかった。何故かって、可愛い婚約者殿が今にも泣きそうな顔で眉間に皺を寄せたからだ。ちょっとちょっと! これじゃ、私がいじめてるみたいじゃない!!
「分った毎日書くから!!」
いい加減横からきつく抱きしめられすぎて、体が痺れてきたよ。けれどリアスくんの要求はまだまだ続く。
「俺と離れている間、他の男とは口を利くな」
「……普通に考えてそれは無理だよ」
「ダメだ」
「人口の半分は男性だよ? しゃべらなかったら生活できないよ」
「いいから!! 必要最低限以外のことはしゃべるな!!」
「分ったよ~~」
さては亭主関白か!! こんな可愛い顔して亭主関白なのか!?
「……カノン」
「はいはい。なんですか」
ここまできたら何でも聞いてやろうじゃないの。
「キスしたい」
「はいは……えぇ!!?」
何言ってるの!! この部屋にはメイドさん達がいるのに!!
慌てて部屋の中を見渡せば、給仕をしてくれているメイドさん達が……あれ、いない。いつの間に姿を消しやがったぁぁぁあ!! 優秀なメイドさんは空気を読むのもお得意なんですか!!
動揺している間に温かい両手が私の頬に触れる。気づけばリアスくんがソファの上で膝立ちになっていた。
「カノン。愛してる」
笑顔と共に上から唇が降ってくる。
それは寿命を延ばす為ではない。優しく相手に触れる為のキスだった。




