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臆病故に、その手を離す

 私は元々4人家族だった。お父さん、お母さん、双子の姉、そして私。


 双子と言っても二卵性。体格は同じでも顔も性格も似ていない。お互いに特別美人って訳じゃなかったけど、姉は文武両道でリーダータイプ。私はその他大勢に埋もれている方が安心する平凡人間。当然両親の期待は姉に向き、私はおまけみたいな存在だった。

 だからと言って姉と仲が悪かった訳じゃない。姉が高校から生徒会に入ってバリバリ活躍する一方、その影に隠れるようにして私はひたすら趣味に打ち込んでも両親は何も言わず、存分に大好きなファンタジーの世界に浸ることが出来たから。


 私と姉は互いのことには口出しせず、それぞれ好きにやってきたと思う。私からすれば関係は良好。でも、それって親から見たらどうだったのだろう。優秀な姉と地味で落ちこぼれの妹。そんな風に見ていたのかもしれない。姉とは違い、両親が学校や進路のことで私に何か言ってくることはなかったから。今となってはその真意は分からないけれど。


 私がこの世界に来て、自暴自棄にならずに済んだ理由の一つがそんな家族関係だった。私が居なくてもうちの家族は大丈夫。姉がいれば大丈夫。そんな風に割り切ることが出来たのだ。

 そしてふと思う。“だから”私がこの世界に来たんじゃないかって。元の世界で必要な存在じゃなかったから、居ても居なくても変わらないような人間だったからこちらの世界に来たんじゃないかって。

 そう思うと余計に分からない。こんな私を、家族にも世界にも必要とされなかった私を、どうしてリーリアス王子は求めてくれるのだろう。


「カノン……?」


 幾度と無く重ねられた唇は恋愛経験の浅い私にまず混乱と羞恥を呼んだ。けれど王子の体温に触れる内に冷静になり、思考が働くようになってようやく私は先程の疑問に思い当たったのだ。

 リーリアス王子が私を抱きしめたまま不安げに唇を離して名前を呼ぶ。姉じゃない。私の名前を。


「カノン、どうした? そんなに……嫌だったのか?」

「え……?」


 そう言われて、そして王子の指が私の頬に触れてようやく気がついた。私、いつの間に泣いていたんだろう。

 それに、


(リーリアス王子の手、震えてる)


 目の前の事でいっぱいいっぱいで気付けなかった。余裕がないのは、不安なのは彼も同じなんだ。

 さっき私は嫌だった? いや、違う。そうじゃない。そうじゃなくって、私……。

 私ね、怖いんだ。私がどんな人間かを知って、そして君が私を必要としなくなるのが。今私に触れている温かいその手が離れていくのが。


 期待されて期待して、そして最後に期待外れだと言われるのが怖いのだ。


「私、は、……君に必要としてもらえるような、そんな人間じゃないよ」


 ねぇ、リーリアス王子。この先君が私の手を離すならばどうか、最初から触れないでいて。そうすることでしか自分で自分を守れない、そんな臆病な人間なんだ。


 気づけばポツリポツリとリーリアス王子に胸の内を吐露していた。王子は情けない私の話にじっと耳を傾けてくれた。

 

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