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求め願うは君の心

 

「ん……」


 すぐ傍で聞こえた小さな声。慌てて首をひねり下を見れば、そこには自分にもたれかかって眠っている愛しい娘の姿があった。


(カノン……?)


 真っ直ぐで艶やかな黒髪が自分の前足にかかっている。それを見ただけで胸の中には溢れる程の愛しい感情が沸き起こる。俺は竜姿にも怯えずに傍にいてくれる彼女が愛おしくて、彼女を起こさぬようそっと頬を摺り寄せた。


 彼女しかいないと思った。だから新節祭のパレードでカノンが他の男と二人並んでいる姿を見て焦った。俺じゃない男と笑いあう彼女。笑顔が眩しくて、そんな姿を見たくないのに目が彼女の一挙一動を追ってしまう。誰にも取られたくない。その思いが俺を暴走させた。

 白の国の騎士に無理を言って彼女を此処まで連れて来てもらい、一分一秒も惜しくて求婚した。思った通り、彼女の表情にあるのは困惑。そこに俺からの求婚に対する喜びの感情が見えなくて泣きそうになった。更に俺を王族だと知り、名前を呼んでくれなくなって焦りが増した。早急に馬屋のヘルケ使いを出し、そして此処に閉じ込める。タイムリミットは新節祭の3日間。たった3日しかない。


 俺は体を竜から人の姿に変化させ、クッションの上で眠っている彼女を抱き上げた。カノンの方が体は大きいので持ちにくいが軽い。ベッドまで運ぶのはそう難しいことじゃない。

 彼女をベッドにのせ、シーツを掛けてその横に滑り込む。今度はうっかり竜にならぬよう気をつけなければ。彼女を押しつぶすようなことがあっては大変だ。

 彼女が目覚めぬのを良いことに俺は細い腰を抱き、柔らかい胸に頬を寄せた。


(温かい……)


 カノンは知らないだろう。俺はあの日慣例に従い竜の姿で飛行し、白の国の王城を目指していた。そして風に乗って届いた歌に惹かれて街に下りた。歌の主を探してフラフラ歩いていたら靴屋の主人に声を掛けられたのだ。そしてカノン、お前が俺の前に現れた。

 城門に向かって歩いている時、カノンが唄った鼻歌を聴いて「あぁ、これだ」と思った。俺が惹かれた風にのって届いた音はカノンの歌声だったんだ。


 カノン。黒い髪の愛しい少女。どうか、俺を受け入れて。もう一度昨日のようにカノンが笑ってくれたら、俺の名前を呼んでくれたら、それだけで俺は救われる。人から離され孤独に泣いていた俺の心は温かく溶けていくだろう。

 泣きたい時には傍にいて。カノンが泣きたい時は俺だけを呼んで。人とか竜とかそんなのは関係ない。俺はカノンを求めている。同じように俺を求めて。

 そして、


(俺が欲しいと言ってくれ)

 


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