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痴漢。ダメ。絶対

 季節の変わり目に吹く風が好きだ。「夏の匂いがするなぁ」とか「あ、涼しい。秋っぽくなってきた」とか感じると嬉しくて勝手に頬が緩む。

 うっかり客室のどでかいベッドの上で寝ていた私の頬をそんな心地よい風が撫でた気がして、ぼんやりと眠りから意識を浮上させた。その風に懐かしさを感じたのだ。緑の芽吹きを予感させる初春のような爽やかな――


「…………」


 窓が開けっ放しだったのかな、と思い寝ぼけ眼で体を起こす。そしてフリーズした。寝起きに見るには衝撃的過ぎる、とんでもない光景が広がっていたのだ。


(ド、ドラゴン……だよね?)


 私の目の前で巨大な竜が客室の床に寝そべっている。大きな体を精一杯丸めて窮屈そうに。あまりの驚きに固まっていたが、次第にじわじわと私の胸を締めたのは歓喜だった。なんてったってファンタジーLOVEですから!!!


(すごいすごい!! ドラゴンだ! リアルドラゴンだよ!! こんな近くで初めて見た〜!!)


 瞼を閉じ、寝息も聞こえてくるから就寝中なのだろう。完全に眠気が吹っ飛んだ私は竜を起こさないようにそっとベッドから足を下ろし、裸足のまま竜に近付く。

 最初は暗くて分からなかったけど、近くで良く見ればカーテンの隙間から注ぐ月光を浴びてキラキラ光る鱗は翠色。外で見た紅竜と比べると体の大きさは三分の一ぐらい。子供の竜なのだろうか。それでも1トントラックぐらいの大きさはあるから私から見ると遥かに大きいのだけれど。

 これはもしかして――


「リアスくん……?」


 新緑のような鮮やかで柔らかい翠色の鱗は彼の髪の色とよく似ている。私は無意識にそっと竜の体に手を伸ばしていたことに気づいてはっと息を呑んだ。


(う〜〜〜触りたい。つるつるの鱗を撫でてみたい! けど……)


 もしも自分が眠っている間に撫でくり回されたらどうだろう。まるで痴漢みたいじゃないか。考えるだけで鳥肌モノだ。


 仕方なく撫でるのは諦めてソファの上にあったクッションを竜の傍に置き、その上に座ってじっくりと翠竜の姿を堪能する。頭の上には二本の太い角。鼻先は長く、ワニのような鼻の穴。ヒクヒクと動いているそこからは実にゆっくりとしたリズムで息を吸ったり吐いたり。尻尾も太いなぁ。先っちょまで鱗がびっしり。体の割りには小さい両腕の先に鋭い爪。あ、爪は白いんだ。今閉じられている瞼が開けばエメラルドグリーンの綺麗な瞳が覗くのかも。起こすには忍びないが、正直ちょっと見てみたい。


(あ、いい匂いがする……)


 暖かな春を運んでくる草原に吹く風のような香り。もしや、私が感じたあの風の正体はこの竜の寝息だったりして……。ま、いっか。人間だったらどん引きだけど、竜なら許せる気がするよ。それにしても竜ってどれだけ見ても見飽きないなぁ。一晩中見ていられるかも。カッコイイし綺麗だし神秘的。この竜が空を飛ぶの……も見てみた…………ぐー。


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